ツーリング日和24(第31話)ライダーの聖地みたいだ

 その先は農村の中を下って行く道だけど、同じ農村風景でもここは大阪府の能勢の農村だ。気の物だけだけどなんか違う気がする。それでも気持ちが良い道だよ。走って行くと高架の道があるけど、こんなところに高速なんてあったっけ、

「あれは国道一七三号や。あれに乗るねんけど」

 と言いながら潜ってるじゃない。さらに走ると回り込むような感じなって信号があり国道一七三号に入ってくれた。もっとも高速並の四車線なんだと思ったのは束の間で、すぐに二車線になった。

「あそこのファミマで一服しょ」

 賛成。バイクを停めたら、

「千草はアイスでエエか」

 う~ん、カフェラテが飲みたいな。

「はなら待っといて。遅刻した反則金払うわ」

 こらぁ、千草を五分も待たせた大罪をカフェラテで済ますつもりか。店の前にベンチがあったから腰掛けて飲ませてもらった。見てるとバイクが多いよ。ファミマにも五台ぐらいいるし、それより通り過ぎるバイクがやたらと目に付くもの。

「北摂のツーリングコースになってるんやろな」

 みたいだね。ここまでの道は四車線ありそうだし、クルマもそんなに多くなさそうだもの。田舎道だし大阪のライダーのツーリングコースになっていても不思議ないよ。ところでこの辺ってどのあたり、

「どこもなにも能勢やけど、そやな、るり渓に近いかな」

 ああ、あの辺か。そりゃ、遠いよ。ところであんだけバイクが走ってるけど、どこ目指してるの。まさかのるり渓だとか。

「るり渓に行くのもおるやろうけど、この道を走って行ったら福住に出るねん」

 福住って・・・なるほどそう繋がってるのか。そこから篠山に回って帰る予定なのか。だったら福住からこっちに来ても大阪府に入れたはずだよね。

「こっちのルートを走りたかってん」

 あははは、いかにも野越え、山越えで大阪府にたどり着いた感じがしたものね。さて行こうか。とは言ったもの目の前には大きな山があるじゃないの。まさかだけど、

「頑張ってや」

 やっぱり。これは今日最大の峠道だ。ぐいぐい高度が上がってるよ。ちらっと見える下界の景色はなかなかだけど、そんなものに見惚れてたら死ぬな。それでもワインディングはそこまでじゃなさそう。基本は二車線だけど登坂車線もちゃんとあるから助かるな。ここまでの峠道になると、

「軽にも抜かされそうや」

 それは平地を走ってもそうなんだけど、峠道ならより痛感する。あいつら速いな。大型バイクかな。

「あんなんと競争しようとも思わん」

 峠道ではとくにパワーが絶対過ぎる。それでもモンキーなりに快調に登って行くと、なんだなんだ、はらがたわトンネルって妙な名前だ。トンネル名は漢字がおおいはずだけど、

「今走ってるのはバイパスみたいなもんで、かつてははらがたわ峠とか、すねこすり峠を越えてたらしいで」

 すねこすり峠ってバイク族が跋扈していたとか、

「ちゃうみたいや」

 さらにトンネルを二本通ったら下りになったのだけど、うわぁ、すっごい勢いでバイクが登って来るじゃない。それも一台や二台じゃないもの。モンキーだったらご遠慮したいけど、大型バイクなら楽しい峠道になるのだろうな。

「下りやったらまだ勝負できるかもや。秋名のハチロクも下りやったら無敵やったやろ」

 なんの話なんだよ。こんなところで事故ったら死ぬじゃないの。無事に下りて来られたのだけど、あれっ、この道ってここに出るのか。

「そっか、そっか、そうやったんか・・・」

 千草もそう思った。そこにはローソンがあるのだけど、場所的には福住の西からの入り口みたいなとこなんだよね。千草も福住に来た時に通ったのだけど、妙にバイクが多いと思ってたんだ。

 あん時は福住観光のバイクだと思っていたけど、よく考えると不自然じゃない。だってそんな事をすればお店の迷惑にしかならないもの。あれは福住観光のためのバイクじゃなくて、

「岩谷峠やったら衝原湖の休憩所みたいなとこやろ」

 さっきの峠を往復して楽しむバイクの休憩基地みたいなものだったんだ。そうだな、大阪から来て休んで、あのローソンから戻って行くみたいな感じ。あの峠道もツーリングの聖地みたいなところなんだ。

「ツーリング言うより走り屋のライダーの聖地みたいなもんやろ」

 それはそうと、そのまま国道一七三号を走って行くバイクとか、あっちから来るバイクもいるけど、この道ってどこに行けるの?

「この道やけど・・・」

 おっ、考え込んでるな。しっかりしてよね、人間ナビのコータロー。

「とりあえずは綾部に行く」

 綾部って福知山の東隣だけど綾部になにかあるの。わかった梅林があるんだ。

「それは綾部山梅林で龍野や」

 そうだった、そうだった。

「綾部はよう知らんけど、西に行ったら福知山やから、もうちょっと足を伸ばしたら天橋立や舞鶴に行けるで」

 とくに天橋立に行くのだったら、綾部に行くまでに京都縦貫道に乗れるらしいから大阪からでも日帰りツーリング圏内かも。

「東に行ったら小浜までは遠すぎるとして美山に行けるで」

 美山ってどこなのよ。

「茅葺屋根の家が集落ごと動態保存さてるところや」

 動態保存ってSLかと思ったけど、そうじゃなくて今も住んでいて暮らしているって意味か。それってスケールはかなり違うけど、

「白川郷みたいなとこやな」

 それは行って見たいけど日帰りじゃ無理があり過ぎるよ。

「そんなことあらへん。既に千草とはお泊りツーリングの一線を越えてるやんか」

 そうだけど、誰かに聞かれたら誤解を招きそうな表現はやめてよね。女と男で一線を越えてる関係になってるって誤解されるじゃないの。

「迷惑か」

 迷惑よ。だって、だって本当に一線を越えてしまったら・・・