ツーリング日和24(第29話)近畿四府県制覇

 やれなかった事でコータローとの関係が少し気まずくなってるのはある。最悪の場合、これで終わりになってしまう予感さえあったのよ。言い様によってはコータローの面子を潰したようなものだもの。

 だからコータローから次のツーリングのお誘いがあったのは素直に嬉しかった。まだ千草との関係を続けてくれるって意思表示だ。もちろんOKしたけど、どこ行くの。

「モンキーでの日帰りってどうしても限界があるやんか」

 だから香川にお泊りツーリングに出かけたのだけど、またお泊りにするの?

「そうそう行けるか!」

 たしかに。行けばやるかやらないか問題に直面するから、少し間を置きたいな。あれこれ悩んだけど、次にいきなりはちょっとだ。次は求められたらの覚悟こそあるけど、それはそれで心の準備が必要だ。そうなると日帰りになるけど、

「千草とは京都府に行ったやんか」

 京都府って言い方が変な気がするけど、福知山まで行ったからあそこは京都府だ。

「大原宿も行ったやろ」

 大原宿も遠かった。だってだよ、まず佐用に行くのだけど、佐用って兵庫県の西の端みたいなところじゃない。そこから因幡街道を北上するのだけど、佐用の北隣が平福で、さらに北隣が大原宿になる。

 平福から大原宿まではそんなにないけど、コータローが平福まで来てるからどうしてもって言ったんだ。千草は帰りもあるから平福でも十分って言ったのだけど、ここまで来てるからって頑張ったんだよね。大原宿も行っただけの価値はあったぐらいに思ったけど、

「あそこは岡山県なんよ」

 そ、そうだった。走ってる時に岡山県って出て来てビックリしたもの。だってさ、佐用から北上する道って因幡街道って言うじゃない。因幡って因幡の白兎の因幡だから、鳥取県に行く道でしょ。だからあの道で行けるのは鳥取県だけって思ってたもの。

「因幡街道は鳥取市に繋がってるけど、途中で岡山県を挟むんよ」

 帰ってナビを確認したらそうなってた。なんか岡山県って西隣って感覚だったけど、ちょとだけ出っ張ってた。でももうちょっと北に行けば鳥取県・・・

「あれ以上は行けるか!」

 それはそうだ。神戸に着いた頃にはヘバってた。

「鳥取は戸倉峠の時に行ったやんか」

 あれも遠いなんてものじゃなかった。山崎からひたすら北上するのだけどラスボスが戸倉峠だもの。思ってたより走りやすかったけど、新戸倉トンネルを越えた瞬間に鳥取県だものね。

「若桜の道の駅でオートバイ神社にお参りもしたな」

 あった、あった。あれもコータローがあれはなんだと気になって見に行ったんだけど、国道二十九号に因んでか二十九番目のオートバイ神社ってなってたけど、あんなのが他に二十八か所もホントにあるの。

「あるらしいわ。兵庫県やったら淡路にもあって十二号らしいで。これもちなみにやが一号からやのうて零号から始まってるわ」

 そのうちどこかのモトブロガーが全国のオートバイ神社巡りをやらかしそうだ。どうやら企画ものみたいだけど、

「妙に定着したらライダーの巡礼者が出て来るかもな」

 もっとも全国に広く点在してるみたいだから、あれを全部回るのは無理が多すぎる。そうなると、

「そやな西国三十三か所とか、四国八十八か所みたいに集約されるんちゃうか」

 ああそれありそう。オートバイ神社の巡礼問題はともかく、既に京都府、岡山県、鳥取県に行ってるから、

「海を挟んだ香川も行ったとこや」

 そうだった、まだモンキーが轍を刻んでいないのは。

「徳島県と大阪府や」

 徳島県って思ったけど大鳴門橋の先が徳島県だものね。

「徳島県はモンキーで日帰りは不可能や。とにかく大鳴門橋を渡れんからな」

 コータローが行きたいところがわかったぞ。それは大阪府だ。大阪府だって電車なら簡単なんだよ。新快速なら二十分だもの。

「クルマや中型バイク以上やったら阪神高速ですぐや」

 渋滞がなければね。だけどモンキーで行くとなると話がまったく変わってくる。神戸からだって芦屋、西宮、尼崎の市街を走り抜け、

「神崎川を越えたら大阪府や」

 あのね、あんなところをツーリングしようって言うつもり。ツーリングの仇敵は市街地走行なのに、それだけしか無いツーリングじゃない。

「オレかってやりたないし、やるつもりもあらへんわ。そやけどな、行くのは大阪市やのうて大阪府やねん」

 わかったぞ、福知山とか、大原宿方式だ。目指してるのは大阪府であればどこでも良いと考えれば仇敵の市街地走行を回避できるかもだ。とは言うものの大阪府のどこを狙ってるんだろ。大阪の北部と言えば箕面ぐらいが思い浮かぶけど、

「箕面の滝で紅葉の天ぷらを食べたいんか」

 あれはパスだ。名物として有名だし、千草も食べたことはあるけど、あれは食べたことがあるのが重要で、あの味に魅かれてリピーターがいるかと言われたら疑問だ。それにだぞ箕面には猿だっているじゃないか。

 猿だってクルマに乗っていて出くわすのなら鬱陶しいだけだけど、バイクに乗ってて襲われたりしたら悲劇だ。

「そうは襲って来んはずやけど、道路に普通に屯してることもあるもんな」

 というかさ、箕面なんてどうやってバイクで神戸から行くんだよ。

「そやから箕面はパスや」

 どうやって大阪府に入るかの問題はコータローに丸投げするとしてだ。

「ちいとは考えろよな」

 そんなものは男であるコータローの仕事に決まってるだろうが。男はね、レディをエスコートするために存在してるのよ。

「いつから決まてるんよ」

 そんなもの神代の時代からだ。異論は許さん。でもコータローのプランは面白そうだ。徳島県はともかく兵庫県から地続きの府県は四つだ。そのうち京都府、岡山県、鳥取県には端っこであってもモンキーの轍を刻んでるのよね。

 バイク乗りでも千草のようなモンキーとかの小型バイクじゃなかったら、一番手軽そうな大阪府がまだなのは、ちょっと悔しい気がする。こんなものたいした自慢にならないけど近隣四府県制覇はしておいても良いと思う。

「ほな話は決まりやな」