謎のレポート(第27話)トイレット・トレーニング

 シノブがわかりにくかったのはトイレの話。マゾ奴隷だから何をさせたって良いようなものだけど、あれって変態の極致じゃない。なにが正しい女の排泄よ。そんなはずないじゃないの。女をなんだと思ってるのよ。

 だけど熊倉レポートではあれだけの分量を割いて、そりゃ、もう事細かに書いてるんだよ。たく、オシッコと、ウンコと、オナラを分けてする調教になんの意味があるのよまったく。

「まったく無意味やない。サディストも色々で、マゾ的な面も持ってる時もあるそうや。基本はサドやけど、たまにマゾ的な気分を楽しむぐらいや」
「SMのバイみたいなものですか。それとトイレの調教となんの関係が」

 そこで一息ついたコトリ社長が、

「まあ実際に使う機会があるかどうかわからんけど、あの手の世界で聖水と黄金ってされてるやつや」

 具体的な内容の説明は聞きたくない。でも聞かされそう。

「マゾと言ってもピンキリや。軽いマゾ気分を売りにしてるホテトルもある」

 コトリ社長はホテトルなんか行ったことないやろ。とも言えないか、なんか男性ホストみたいなものを呼べる女性が使うホテトルがあるとか。それでも、そんなもの使わなくてもコトリ社長は男を引っかけて男遊びしてるじゃないの。

 それは置いとく。軽いマゾ気分って、あくまでも気分だけだから、痛烈な痛みを伴う、たとえばムチなんて使わないそう。ロープで縛ることもあるそうだけど、完全拘束で身動き出来なくするのではなく、

「縛られてる気分だけ味わう感じや。シノブちゃんも亀甲縛りを知ってるやろ」

 知ってるわけないと言いたいけど、悔しいけど知ってる。これは調査部の調査で知ってるだけだからね。個人情報の中には性癖もあって、SMを密かにやってる連中もいるんだよ。

 亀甲縛りにもバリエーションがたくさんあるらしいけど、あれは拘束が主目的と言うより、縛られた縄目の美しさが目的だそうなんだ。とくに軽いマゾ気分を味わう時はとくにそう。エロビデオに多用されるのはずばり見栄え重視。ロープで縛られて何が嬉しいのかとしか思えないけど、そういう趣味だからしょうがない。

「その一つに聖水がある」

 あれも動画で見せられたけど、浴室で女からオシッコを頭から浴びせられるんだよ。そんなに女のオシッコが好きなら、便所の掃除員にでもなったら良いのにとしか思わなかった。

「まあそうやねんけど趣味やからな。そん時にオナラが出ん方が良いらしい」

 オシッコが嬉しいなら、オナラの臭いだって興奮しそうだけど、

「だから趣味だって」

 マゾ男の基本は女にイジメられて喜ぶだけど、その変形で女性崇拝も強くなるとか。いわゆる女王様の世界だよね。女王様の世界まで行くとレベルが上がるそうだけど、崇拝する女性からオシッコをかけてもらって興奮するのが聖水プレイらしい。だから聖なる水って呼ばれるぐらい。

 知ってるのが悔しいけど、裏でやってるのが少なくないんだよ。それも表向きは強面のもいるから笑っちゃうもの。誤解しないでね、あくまでも本業の情報収集の一環として知ってるだけ。

「そやけど熊倉が使う機会があるかどうかはわからん。ある種のオプション機能ぐらいや」

 どんなオプションだよ。

「だがマリの本当の狙いは違うで・・・」

 やっとまともな・・・とは言えないけど、マリは人間の生理現象に制限をかける事によって熊倉の被虐心を刺激したのだろうって。さらに催したら行くのがトイレだけど、それを熊倉から奪うことによってマリへの服従心を高めたのもあるはずだって。

「これは簡単やないから、最初に釘さしてる」

 部屋でオナラをした時か。マリのムチは毎日反省の時間に炸裂してるけど、それ以外の時間にムチを揮ったのはこの時だけかもしんない。それも超弩級の量としか思えないぐらい。それもまだ調教初期の頃だから、許可の無いオナラ禁止をムチで叩き込んだことになってそう。結果的に熊倉はマリの許可が出た時のみに排泄が許されるようになっていったけど、

「これで聖水は自由自在や」

 それはもうイイ。

「マゾの喜びってなんやになる。色んな言い方があるやろけど、耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、その先に訪れる一瞬のカタルシスに酔うぐらいや」

 ら、らしいのは知識として知ってるけど、

「マリも言うとるやんか。オシッコを我慢するのは、それこそ耐え難きを耐え、忍び難きを忍ぶことになる」

 とにかく一滴でもこぼせば即座にムチの豪雨だものね。

「我慢に我慢を重ねた末に、ようやくオシッコするときは快感やろ」

 経験はないとは言えない。とくに女はSM趣味関係なしに起こる時はしばしばある。よくあるのは、催した時にトイレがないこと。男は最後に立ちションって手があるけど、女はそうはいかないもの。

 それとトイレがあっても行きたくないトイレはある。男だって汚いトイレは嫌だろうけど、女はもっと嫌だよ。そこで用を足すのも嫌だけど、服だって汚れちゃいそうだもの。そうやって我慢に我慢を重ねた後のオシッコが気持ちが良いのは認めるけど。

「それを日常化させてるだけや」

 嫌だ、嫌だ、絶対嫌だ。

「熊倉は尿意の放棄と理解しとったみたいやけど、そんなもん消えるかいな。だからひたすら我慢するしかない」

 それもだよ、オシッコに行きたい素振りさえしたらダメなんだよ。

「我慢の先には何がある。マリの許可や。そんなもん嬉しいに決まってるやんか。それに放尿の快感も加わる」

 理屈はそうだけど、

「理屈やない、体と心で覚えるんや。オシッコを我慢し始めたら、その先にあるのはマリの許可と待望の放尿や。その嬉しさが先に来るようになるんよ。それも我慢する時間が長い程、喜びも大きいやんか。やがてオシッコの我慢自体が喜びになる」

 なるか! と言いたいけど、これは普通の世界じゃなくて異常な世界。それもマゾでも究極のマゾ奴隷を目指す世界の話なんだ。でも、あんまり我慢したら膀胱炎になっちゃうじゃない。

「それは問題ない。マリにはすべてわかってる。我慢させる言うても、少しだけや。そうやな、行きたいけど十五分とか、長くても三十分ぐらい我慢させてるだけのはずや。そやな、オシッコしたくて、したくて、トイレに駆け込もうとしたら行列が出来てるぐらいの感じや」

 それアルアルなのよ。とくにイベントなんかでよくある。イベント中はイベントの方に熱中してるし、見逃したくないから休憩時間までオシッコを我慢するのよね。でも考えてることはみんな同じだから、トイレに行ったら絶望の行列があるって感じ。

 ゴールこそ見えてるけど、あの時間は必死になるもの。それと、いかにも我慢してますなんて姿を見せたくないじゃない。そこは女のプライドがあるもの。だからやっと個室には入れて、ドアを閉めて、パンツを下ろして、便器にかがんだ瞬間にホッとするもの。

 でもさぁ、でもさぁ、マリは熊倉に我慢する様子を見せる事を禁止にしてるじゃない。それをどうやって見抜いたのよ、

「あんなもんいくら禁止されたって顔や態度に出るわ。禁止してるのは女の嗜みを教えてるぐらいや。この辺はサドやから禁じて楽しんでいるとした方が正確かもな」

 なるほどね。マリは熊倉の状態を観察していて、そこで我慢の限界を見計らって許可を与えていたのか。でも凄い観察力かもしれない。外から見て熊倉がオシッコを我慢しているのか、ウンコを我慢しているのか見抜いちゃうんだもの。

 言われてみればだけど、ムチャクチャそうなトイレの調教だけど、無理な事はさせていないとも見れるのよね。たとえば、連続でウンコさせるとかだよ。オシッコもそうだけど、出たら次が溜まるまで出ないもの。

 あれは命令とか言いながら、熊倉の生理的欲求の限界を見切りながら許可してるはず。熊倉は制限こそ掛けられてるけど、結果として常にマリに満たされていることになる。

「その通りや、熊倉の受け取り様として、マリの許可のタイミングは絶妙やから受け入れられる。どう言うたらエエのかな、マリが要求するルールは守れる範囲のものやんか。だから守るようになるし、許可を与えてくれるマリに感謝と尊敬の念が高まり、ますますマリに服従心が高まるサイクルや」

 えらいサイクルだけど、辛うじて理解できる程度かな。じゃあ、じゃあ、あれだけ量や勢いにこだわっていたのは、

「そりゃ、聖水に使うから」

 やっぱり、それかよ。

「冗談や。それもあるやろけど、熊倉の健康のためや」

 はぁ? マゾ奴隷の健康をサドが心配するってか、

「マリは自分の判断が間違っていないか確認してたんよ。健康管理はサドマゾでも大事に決まっとる」

 でも不合格ならムチですけど、

「マリも内心は反省してたと思うけど、とにかく決まりを守れんのはサドマゾ関係やったら無条件にマゾが悪いのが絶対のルールや」

 やっぱり大変な世界だ。