流星セレナーデ:母星の神との対決

    「まさか生き残っているとは驚いた。記録にはあったが、こうやって実際に会えるとは奇跡だな」
    「大変だったわよ。まあ、そんな話は今度でも出来るから、目的はなんだったの」
    「新天地への移住だ」
 フィルの話では、母星の状態はある種の末期状態としています。ユダが見た独裁政府は続いていたのは続いていたみたいです。しかし独裁政府内での権力争いが起り、ユダが見た独裁者は殺されただけではなく、その後継者も何度も殺されたみたいです。そうやってトップの権力争いが激化すると支配力が落ちてきます。

 母星は一星一政府体制だったのですが、独裁政府の支配力が落ちてくると反旗を翻す独立政府が出来て行ったようです。ただ独立政府も独裁政府を倒すほどの力にはならず、さらに独立政府自体も争う戦国時代の様相になって行ったようです。

 問題はテクノロジーが進み過ぎていること。一星一政府時代は途中から独裁政府になったというものの、戦争は無い時代になっており、大量破壊兵器は破棄され、その製造技術も封じられてしまったようです。しかし、戦争となると過去の技術の復活に躍起になります。とくに劣勢の政府がそうなり、

    「禁断の扉を開いてしまったのだよ」

 大量破壊兵器同士の応酬は人口を急減させ、文明を破壊し、環境を汚染させます。その結果として政府自体も存在が事実上なくなり、各地になんとか生き残った者が細々と暮らす状態にまで追い込まれたようです。

    「私たちのグループは山中の地下に隠された研究工場を見つけたのだ」

 どこかの政府の秘密研究所だったみただけど、残っていた理由は不明としてる。技術拠点としてあえて残していたのか、撤退する時に破壊する余裕もなかったのか、それとも自爆装置の作動不良があったのかのどれかだろうとフィルはしてた。

    「そこで見つけんだよ。神話に伝えられる大宇宙航海時代が実際に存在し、さらには我らが母星と非常に良く似た惑星を発見し、そこに植民活動まで行っていたことを」

 フィルのグループは研究所に残された資料を必死になって研究し、宇宙船の製造と地球への航海法の確立を試みたみたいです。

    「我らが母星のテクノロジーは地球とは比べ物にならないほど高いのだが、我らの知識や技術も等しく高い訳じゃない。何度も失敗を繰り返すことになった」

 三世代かかって、ようやく地球への航路を見つけ、宇宙船もそれなりのものを作れるようになったそうです。

    「後は運を天に任せて飛び立った。技術的に十分じゃない点も多々あったが食糧も、宇宙船を作る資材も、動力源も限界に達しており、すでにテストする余裕も我々には残されてなかった」

 飛び立ったのは三隻だったとしており、積み込まれた肉体は十体ずつの三十体、意識の方は一万人弱ぐらいとしています。

    「意識分離技術はどうだったんだ」
 これは宇宙船製造技術に含まれるものとしてあったそうで、母星の宇宙旅行では肉体はコールドスリープ、意識は分離してカプセルに収容され、操縦はコンピューターによる完全自動操縦であったと見て良さそうです。つまり、目的の惑星に到着するとコールドスリープされた肉体が呼び覚まされ、そこに意識が移り、母星に帰る時に再び意識を分離したぐらいのようです。

 なぜにそんな手間をかけていたかについては、はっきりしない部分があるそうですが、フィルは長期のコールドスリープ技術に限界があったらしいとしています。そのあたりの経緯については研究所の資料でもはっきり書かれたものはなかったそうです。

    「それでは、意識の分離と宿主への移動は機械がやっていたのか」
    「そうだ」
    「では、地球に来た時にどうやってフィルの体に宿ったのだ」
 これも苦心惨憺したものだったらしい。宇宙船の意識分離装置は同じ人の意識を切り離し、元に戻すものですが、それでは宇宙船で母星を脱出できる人数が限られます。そんな人数では誰が乗るかで争いが起きますし、地球にたどりついても人数が少なすぎて大変です。

 そこで自分の体ではなく他人の体に移す改造が行われたそうです。しかし、この技術は独裁政府の機密技術で、研究所にも資料は残されてなかったようです。

    「しかしやらざるを得なかった。可能な限りの人間の意識を地球に運び、そこに我々のはるか先祖の末裔が多くいることに賭けたんだ」
    「出来たのか、その技術は」
    「やはり不完全だった」
 地球への航海は甘くなかったようです。完全自動操縦技術に不安を抱えていたため、肉体の人を定期的に呼び覚まし、ポイントになると考える個所の監視にあたらせたようです。やはり最大の難所は時空トンネルだったようで、ここを潜り抜ける時、二隻は脱落し、フィルが乗っていた宇宙船もダメージを受けたようです。

 ダメージを抱えたままの地球の大気圏突入はコンピュターの判断では無理だったらしいですが、今さら戻れるところもなく強引に突っ込んで行ったそうです。突っ込む判断をした時点ですべての乗組員は意識のカプセルに入ったそうです。これは推測としていましたが、宇宙船のダメージ・コントロール技術はかなり働いてくれたのではないかとしていました。その証拠として意識のカプセルは非常脱出プログラムに従って放出され、カプセルは地球人によって回収されています。

    「何人移れたのだ」
    「私一人だ」
    「他は?」
    「失敗した」

 これもフィルは推測としていましたが、他人に意識を移す技術の未完成さと、やはり地表に衝突した時のダメージがあったのではないかと考えているようでした。フィルが一番だったようですが、次の人の時からあきらかに異常作動している様子が見え、さらに止まってしまったとのことです。

    「社長、聞いても良いか」
    「なんだ」
    「地球でどうやってあの装置を作り維持してきたのだ」
    「地球では装置は使わない。自分の意志だけで乗り移る。だから今でも生き残っておる」
    「そんなことは不可能のはずだ・・・」

 この時にミサキの頭に閃いたものがあります。地球の神はやはり突然変異したのだって。これがユダの放射線防護シールドの欠陥のためかは不明ですが、地球には十万人の流刑囚が送られ、その中で宿主に乗り移れる能力を得たのが一割程度の一万人だったのでないかと。同時に様々な能力も獲得し乗り移れる神となったんだと。

    「フィル、これからどうするつもりだ」
    「それがわからないのだ。私はフィルと呼ばれる人の中で生きている。お蔭で現在の地球の様子や言葉を多く知ることが出来た。しかし私はフィルが死ねばそれで終わりだ。ところで地球にはどれぐらい生き残っているのだ」
    「ここに四人いる」
    「では万単位で生き残っているのか」
    「いや、知る限り後二人だ」
    「たった、六人・・・」

 ユッキー社長は厳しい顔をしながら最後の質問に移りました。

    「フィル。一万年前に送られたわたしたちについての記録はどれぐらい知っておる」
    「かなり残されていた。おそらく最後の長距離宇宙旅行ではないかと考えられる」
    「目的は」
    「クーデターによる星流しとなっていた。当時の技術はよほど優れていたようで、ほんの小さなカプセルに十万人の意識が収容できたとなっていた」

 このあたりはユダの話と一致するけど、

    「それで」
    「これも信じられないのだが、星流しにしたものの意識移動装置は付いていなかったとなっている」
    「この四人は流刑囚の生き残りだ。わかるかフィル。地球に流された流刑囚は神と呼ばれるようになったが、神同士は出会えば殺し合うものなのだ。それ以外の神は知らない。わたしが知りたいのはフィルが、いや母星の神が同様か否かだ」
    「同様であれば?」
    「この場で殺す」

 フィルは驚いたように、

    「私が神かどうかは知らないが、あなた方を殺そうなんて思ったこともない」
    「フィル。地球では神は神の言葉を信じない」
    「でも、あなた方は殺し合わずに共存している」

 ユッキー社長は含み笑いをしながら、

    「何事にも例外はある。例外が起ったから生き残っているとも言える」
    「殺すのか」
    「いや、気が変わった。執行猶予にしておく。コトリ、出来た?」
    「こんなもので十分やと思う。殺し合いもエエ加減あきあきしてるし、母星の話も聞きたいし」

 フィルは動揺しながら、

    「何をした」
    「教えておく。地球の神は相手の神が見える。見えるだけでなく、その力も見える。フィル程度の力であれば、殺すのもたやすいし、呪縛をかけることも容易だ。そして、その呪縛はフィルではふり解けない。悪く思うな、生き残るのは大変なのだ」

 ここでコトリ副社長が、

    「ユッキー、もうその怖い目で睨むのやめたりいな。フィル、あらためてよろしくコトリです。仲良くやろうね。この呪縛だって、フィルに殺意がないって確認出来たらすぐに外してあげるから。そうそう、かかっていたって痛くも痒くもないはずよ」

 ユッキー社長もニッコリ笑って、

    「やだ、またやっちゃった。マジになると氷姫が出ちゃうのよね。気を付けてるんだけど、ちょっと失敗。フィルも色々聞きたいことがあると思うけど、ミサキちゃんにでも聞いといて。ところでフィルは和食がお好き」
    「好きですけど」
    「こんな雰囲気じゃ、味もしないと思うけど、ここの料理は美味しいのよ。とりあえず一万年ぶりに増えた神に乾杯しましょ。フィルも辛い思いをしてここまで生き延びたんだから、楽しんでね」