必要医師数実態調査からの小さなミステリー

平成22年9月29日付「病院等における必要医師数実態調査の概要」からなんですが、調査対象と回答状況を再掲します。

分類 調査対象数 回答数 回答率
病院 8683 7687 88.5%
分娩取扱い診療所 1579 1011 64.0%


注目して欲しいのは「分娩取扱い診療所」の調査対象数です。「分娩取扱い診療所」が意味するものは素直に考えて、産科医が分娩を行っている診療所です。その数が、


1579ヶ所


だから何だとも言われそうですが、分娩を行う診療所の推移は前にまとめた事があります。その時に作った表を再掲すると、


分娩施設数及び出生数
年度 総施設数 病院数 診療所数 出生数
1996 3991 1720 2271 1206555
1999 3697 1625 2072 1177669
2002 3306 1503 1803 1153855
2005 2933 1321 1612 1114643


ソース元は厚労省の「都道府県別にみた分娩を実施した施設の状況・新生児特定集中治療室病床数」からです。これを見ると2005年の分娩取扱い診療所数は1612ヶ所となっています。そうなると2005年から5年間で33ヶ所の減少となるのですが、正直なところ少なすぎます。別にもっともっと減って欲しいというわけではありませんが、2005年から今までの産科医療を巡る状況を考えると違和感を感じます。

この分娩を取り扱う診療所の数は3年ごとに調査されているようです。そうなると2008年版があるはずなので探してみるとありました。平成20年「医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」の中にあったので見つけにくかったのですが、

病院:1126ヶ所 診療所:1441ヶ所

ちょっとだけ驚きました。手前味噌の自慢話みたいになるの気が引けるのですが、2007.10.9に分娩施設減少予想として2008年の予想を行っています。




これはほぼ予想通りとしても良さそうです。まあ、そんな事はどうでも良いのですが、2008年で1441ヶ所であるのは確認できます。そうなると「分娩取扱い診療所」の数は次ぎのように変化したことになります。

分娩取扱い診療所数
1996 2271
1999 2072
2002 1803
2005 1612
2008 1441
2010 1579


これをグラフにしてみると、
増えているじゃありませんか。それも2年間でなんと138ヶ所も増えています。これは産科医療にとって久々の朗報と思うのですが、その事について誰も触れないのが非常に不思議です。私も「減ってる、減ってる」と余りにも長い間聞かされ続けたもので、てっきり減りつづけていると思っていたら「V字回復」は大げさとしても、確実な回復基調ぐらいは十分言えると思います。

ただ引っかかるのは「分娩取扱い診療所」の調査回答率の低さです。病院が88.5%に較べて診療所は64.0%の1011ヶ所に留まっています。病院と診療所の違いと言えばそれまでなんですが、ひょっとしたら厚労省が「分娩取扱い診療所」とみなした診療所が、実は「もう分娩はやめているから回答しない」であった可能性を頭に思い浮かべています。

調査に回答した1011ヶ所は分娩を取り扱っているとして、本当の「分娩取扱い診療所」の回答率が病院より低い8割と仮定します。であれば1264ヶ所となり、妙に説得力のある数字が出てきます。どれぐらい説得力があるかはグラフにすると良くわかります。

それと、よくよく考えると不思議なのは厚労省が「分娩取扱い診療所」の調査対象とした根拠です。どこから1579ヶ所が分娩を取り扱っているの確報を得たのでしょうか。ちょっとしたミステリーですが、小ネタぐらいの価値はあるので上げておきます。それにしてもどっちが正しいのでしょうか、産科医療のために厚労省と信じたいところなんですが・・・この辺の調査情報をお持ちの方は宜しくお願いします。