口蹄疫問題・番外編

口蹄疫問題の本筋はとにかく感染を封じ込め終息させる事につきます。残念ながら本筋に対しては知識も能力も不足しています。そこで本筋ではなく、本質的にどうでも良い事を息抜きの小話程度の番外編として御提供します。

5/10の赤松大臣と知事の会見には地元選出の国会議員も同席したようです。同席したのは自民党古川禎久衆院議員(宮崎3区)と同党の松下新平参院議員(宮崎選挙区)のようです。どうもですが民主党国会議員は同席されなかったようです。知事との会見の終盤部に事件は起こります。5/11付朝日新聞より、

 会談の終盤、古川氏が発言を求めた。

 「(自民党は)これまで政府に再三対策を申し入れていた。1例目発生から3週間にあたる」

 これに対し、赤松農水相は「自民党の同席は構わないが、『おれの意見も聴いてくれ』とやり出すと、与党も野党も(発言し合うこと)となる」と遮った。

 すると、古川氏は、声を荒らげ、「じゃあ、何しに来たんですか!」と発言。

 見かねた知事は「冷静に」「冷静に」――。

 この流れの中で赤松農水相は「参院選前だからみんな色々言いたいことはあるんだろうけど、それぞれの(国会の)委員会で」と発言した。

 会談は知事の「もう時間がない」との仕切りで終了したが、席から立ち上がったところで、今度は松下氏が声を荒らげ「僕は(夏の参院選の)対象者。(赤松農水相は)『選挙目当て』と言ったが失礼なことを言わないで欲しい」と訂正を求めた。が、赤松農水相は「訂正はしない」と応じなかった。

自民党議員が同席したのは目的として選挙が目当ての側面があるのは否定できません。そもそも政治は何を行なっても見ようによっては選挙目当てに見られてしまう側面はあります。ただなんですが、今回の場合は地元選出国会議員として地元の危機に貢献したいの思いも当然あるはずです。選挙目当てと口蹄疫対策は分離できるものではなく、表裏一体の関係を為しているとしても良いでしょう。

ここは問題の深刻さからして、選挙目当てに口蹄疫問題に口出ししていると言うよりも、地元議員として口蹄疫問題に真剣に取り組む事が自然に選挙対策につながっているとしても良いかと思います。逆になんにもしなかったら選挙のときに確実に響くのももちろんあります。

この辺は微妙な感覚があると思います。少なくともここまで深刻化している口蹄疫対策で、与野党の党利党略による対立を表面化させるのは好ましいものとは言えません。赤松大臣は国会議員でもあり、民主党内閣の大臣ではありますが、一方で行政府である農林水産省の最高責任者でもあるのです。知事との会談の赤松大臣の顔は行政府としての農林水産大臣であると私は思います。

そうであれば、もう少し丸めようがあるように思います。それなりに自民党議員にも発言させて、具体的な対策の検討は国会で行なうぐらいの対応があってもよさそうな気がします。それがまるで政治屋のような発言が行なわれています。

    参院選前だからみんな色々言いたいことはあるんだろうけど
知事との会見の場の発言にしては相応しくないように思います。せめて知事との会見後の記者会見なりで行なうべき発言じゃないかと感じます。それでも発言内容には問題は残りそうな気がします。さらに
    松下氏が声を荒らげ「僕は(夏の参院選の)対象者。(赤松農水相は)『選挙目当て』と言ったが失礼なことを言わないで欲しい」と訂正を求めた。が、赤松農水相は「訂正はしない」と応じなかった。
赤松大臣がどれほど自覚されているかわかりませんが、この発言は赤松大臣が口蹄疫問題を「選挙目当て」にしていると発言しているのと同じ事を意味します。ソースがマスコミなので本当はどうであったかのリテラリシーは必要でしょうが、「」付きの引用ですから、前後の文脈はともかくそういう発言をされたのだけは確認できます。

さて朝日記事にある赤松大臣のご発言である、

    それぞれの(国会の)委員会で
これも天漢日乗様が文字起こしされている衆議院農林水産委員会にも御発言が出ています。まずは江藤委員の質問の終盤部です。

 そして、4月28日には、県の畜産試験場で、発生していた豚への感染が、一番恐れていた豚への感染、一般養豚農家への感染が確認され、帰国されました8日にはですね、30日の12例目でありましたけれども、帰ってきたときには、56例目という爆発的な蔓延になってしまいました。その時にトップがいなかったんですよ。この日本に。これは非常にみなさん心細い思いをされました。

 その状況は、外遊されてましてもですね、当然、農林水産省のキャリアを通じて、逐次報告がなされていたでしょう。大臣は、それをお聞きになってですね、これはまずいと、予定をキャンセルしてでも、途中で帰国しようと、そういう気持になったことはありませんか。おたずねします。

その他の部分はリンク先を御確認下さい。これに対する赤松大臣の答弁ですが、これは全文引用します。

 え〜、4月の30日から、議会のご承認をいただきまして、自民党公明党その他の野党のみなさん方の全体のご了解の元に、予定通り行かしていただいた、ということでございます。

 ただ、私は、口蹄疫の対策について、え〜、軽々しく考えていたわけでもありませんし、まあ、それについては4月の発生以来、え〜、その、夜中に、発生が確認されたんですけれども、その朝、ただちに対策本部を立ち上げて、そしてやるべき措置をし、知事とも、その2日後でしたかね、え〜、議会の議長さん、関係のみなさんと、一緒にお見えになって、え〜、知事ともいろいろ相談もし、いろんな対策も考慮し、え〜、正式には4月の23日の日に、第一の対策を発表し、そしてあわせて、え〜、30日に、ん〜、この第二次の、また、追加対策を行わさせていただいた、ということでございまして、また、こういう時代ですから、え〜、リアルタイムで、え〜、仮にメキシコに行っておりましても、連絡は取れますので、随時連絡を取りながら、まあ、先ほども少し申し上げましたけれども、一定の範囲の中で、え〜、何とか封じ込めることが、いま、できていると。しかし、その中で、数は残念ながら、特に6日7日からは、ま、増えだしたと、いう事実はございます。

 しかし、こういう場合にはこういう形で行こう、と、え〜、あるいは山田副大臣には、現地でその前に、私は、まあ、いるときですけれども、行って貰おう、あるいは、あ〜、対策本部がこうなったときにはこういう形でやってほしい、え〜、あるいは、え〜、昨日出た、これは黒だった、これは白だったということは随時連絡取りながらやっておりまして、まあ、そのことについて、え〜、私が一人いなかったからと言って、え〜、いささかも支障があった、そういう風には理解をしておりません。

答弁は何故外遊を行い、また途中帰国しなかったかの理由の説明に費やされています。委員会で当然出てくると予想される質問ですから、答弁は事前に準備されていたはずですが、とりあえず4/30から外遊したのは、

    4月の30日から、議会のご承認をいただきまして、自民党公明党その他の野党のみなさん方の全体のご了解の元
国会の慣例を存じ上げませんが、首相なり国務大臣が外遊を希望した時に「否決」と言う選択枝は常用されるものなのでしょうか。根拠はありませんが、慣例的に形式的同意を得るだけのように考えています。未だかつて外遊で与野党が対立し、紛糾したなんて話は聞いたことがありません。まあ、赤松大臣が国会での同意を根拠に持ち出すのなら、これからは徹底審議を行なってから外遊の許可を行なうべきでしょう。

それよりも野党も賛成したから問題ないと強弁為されるなら、とりあえず野党としては反対の投票を行なっておいた方が良いかもしれません。後に尾を引きそうな弁明に聞こえます。

それと江藤委員の質問と合わせると面白い構図が浮かび上がります。

日付 事柄
4月20日 口蹄疫発生公式確認
4月21日 緊急対策会議
4月23日 第一次対策発表
4月28日 豚への感染確認
4月30日 ・第二次対策発表
・12例目確認
・赤松大臣外遊に出発
5月8日 ・56例目確認
・赤松大臣帰国


4/28の豚へ感染(豚は牛より1000倍の感染力があるとされます)はなかなか重要な情報と思うのですが、それでも4/30に外遊に出られております。外遊中に帰国の判断をなされなかった理由として、
    数は残念ながら、特に6日7日からは、ま、増えだしたと、いう事実はございます
なるほどですが農林水産省「口蹄疫に関する情報」から赤松大臣外遊中の発生報告をまとめて見ます。

日付 事柄
4月30日 12例目確認
5月1日 宮崎県における口蹄疫の疑い事例の13例目について
5月2日 宮崎県における口蹄疫の疑い事例の14例目、15例目について
5月3日 宮崎県における口蹄疫の疑い事例の16例目について
5月4日 宮崎県における口蹄疫の疑い事例の18例目及び19例目について
5月5日 宮崎県における口蹄疫の疑い事例の20例目〜23例目について
5月6日 宮崎県における口蹄疫の疑い事例の24例目〜35例目について
5月7日 宮崎県における口蹄疫の疑い事例の36例目〜43例目について
5月8日 宮崎県における口蹄疫の疑い事例の44例目〜49例目について


4/20からの分も含めてグラフにしてみます。
赤松大臣の答弁の通り、確かに5/6から増加ペースは上っています。ではそれ以前はどうだったかと言うと、4/30の外遊出発時に12例であったのが、5日後の5/5には23例に増えています。赤松答弁を素直に解釈すると12例から23例に増えたのは大した事ではなく、23例から35例に増えた時点でどうやら「おかしい」と初めて気がつれたようです。さらに5/7に35例に増えて「気になり始めた」事になります。

この赤松大臣が「おかしい」と感じた時期と外遊日程を比較すると

日付 事柄 発見例数
4月30日 ・外遊出発、メキシコシティ 12例
5月1日 ・メキシコ政府関係閣僚との会談
・遺伝子組換検査センター視察
13例
5月2日 メキシコシティ発、ハバナ 15例
5月3日 キューバ政府関係閣僚等との会談 17例
5月4日 キューバ政府関係閣僚等との会談
ハバナ発、ボゴタ
19例
5月5日 ・コロンビア政府関係閣僚との会談 23例
5月6日 ボゴタ 35例
5月7日 43例
5月8日 ・成田着 49例
5月9日 民主党議員後援会出席 56例
5月10日 ・宮崎入り 67例


なるほど、5/6になって口蹄疫感染の急増に憂慮され急遽帰国を決意されても、外遊日程上短縮できない事が弁明として成立します。ところでなんですが10年前の口蹄疫流行時の感染の広がりはぐらいはどうであったかですが、wikipediaからですが、

2000年3月25日から4月9日に宮崎県で3戸、5月11日に北海道で1戸の感染が確認、6月9日には終息。日本では約92年ぶりの発生となった。

何例出たかの詳しいソースを探してみると、動衛研研究報告第108号,39-54(平成14年3月)に、

全部で4例である事が判ります。増加ペースは1例目が発見されて8日目に2例目、14日目に3例目であることもわかります。今回の発見ペースと比較してみると、

経過日数 前回(2000年) 今回(2010年)
0 1 1
8 2 10
14 3 19


4/30に外遊に出発された日の発見数は12例で2000年の時の6倍の増加ペースになっているのが確認できます。また大臣が答弁で急増を感じた「特に6日7日からは、ま、増えだしたと」の前日である5/5には23例になっており、これは2000年の8倍のペースです。大臣が増加数を懸念し始めたのは5/6の35例ですが、これは2000年の12倍のペースになります。

そこまで増えるまでの赤松大臣の感覚は御自身が答弁にて表現されていますが、

    一定の範囲の中で、え〜、何とか封じ込めることが、いま、できていると
もっとも御自身の能力は非常に謙虚に御評価されていまして、
    私が一人いなかったからと言って、え〜、いささかも支障があった、そういう風には理解をしておりません。
なるほど、なるほど、赤松大臣が外遊せずに日本で陣頭指揮を取られても結果は同じであったと明言されています。つまり今回の口蹄疫問題はいかなる対応を行なったとしても赤松大臣では防げなかったと答弁されています。ちょっと感動的なセリフです。もっとも赤松大臣以外なら防げたかどうかまで言及されていませんから、あくまでも赤松大臣では防ぐ術は無かったと解釈するのが妥当かもしれません。

在任中、とくに口蹄疫問題の真っ最中の大臣更迭はかえって混乱を招くので好ましくないと考えられますが、大臣が陣頭指揮を取ろうが取らまいが、今回の口蹄疫感染の結果には「なんら変わりは無い」とまで断言為されるのなら、更迭による混乱のリスクより更迭によるメリットの方が高そうに思えてしまうのが「とっても」不思議です。