事故調第三次試案パブコメ募集始まる

「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案−第三次試案−」に対する意見募集についてとして4/4からパブコメ募集が始まりました。その「おわりに」の部分に、

本制度の確実かつ円滑な実施には、医療関係者の主体的かつ積極的な関与が不可欠となる。今後とも広く関係者はもとより国民的な議論を望むものである。

そうまで言ってもらっているわけですし、政府の意図として「これで決まりで法案提出」との情報もマスコミから漏れ出ていますから医師としても腹を括って対応する必要があります。おそらくですが事故調設立も政府の「医療危機への対策」の成果として、次期総選挙のアピール点に持ち去れるのは必至ですから、不本意な事故調を「医師救済の切り札」みたいな事を言わせない抵抗の実績を作らなければならないと考えています。

そのためにネット医師ができる事は一つでも多くのパブコメを送ることです。「どうせ無視される」と考えてられる方も多いでしょうし、実際もそうかもしれませんが、漏れ聞くところで判断する限り、無視できない影響をパブコメは与えているようです。またパブコメは内容はもちろんの事ですが、数も大事です。一人でも多くの協力者が出る事を祈りながらエントリーを書きます。

第三次案もツッコミどころがテンコモリというか、ツッコミどころでないところを探すのが難しいぐらいですが、ここで総花式に列挙しても参考にならないのであえて一点に絞ります。「医療安全調査委員会以外での対応(医療事故が発生した際のその他の諸手続)について」にこう書かれています。

医療死亡事故が発生した場合の民事手続、行政処分、刑事手続については、委員会とは別に行われるものである。なお、捜査機関との関係については、別紙3参照。

私は別紙3の「捜査機関との関係について」のみに焦点を絞ります。

まず冒頭部です。

  • これまで医療関係者を中心に、医療安全調査委員会(以下「委員会」という。)と捜査機関との関係について明確化を求める意見が多く寄せられている。
  • 今回の制度は、委員会からの通知を踏まえ、捜査機関が対応するという、委員会の専門的な調査を尊重する仕組みを構築しようとするものである。そのためには、委員会は適時適切に調査及び通知を実施する必要がある。今回提案しているこのような仕組みが構築されれば、以下のようになる。

「以下のようになる」と言うからには読ませていただきましょう。この別紙3はQ&A形式で3つの質問に答える形式になっています。どこからこの問が考案されたかは不明ですが、三次試案の提案に際し必要にして十分と考えたのであろう事は間違いありません。まず問1からです。

問1

 捜査機関は、捜査及び処分に当たっては、委員会の通知の有無を十分に踏まえるのか。また、故意や重大な過失のある事例その他悪質な事例に対象を限定するなど、謙抑的に対応すべきではないか。

ここで事故調試案で頻用される「謙抑」ですが、意味としては、

    へりくだって控え目にすること。
ここでの問いの趣旨は捜査機関(警察)が刑事捜査に乗り出すに当たり、事故調の権威に対して「へりくだって控え目」な態度をした方が良いかの質問です。よく読むと変な日本語なのと、誰が主語なのか真剣に悩むところですが、答えを見ていきます。答えも3つに分かれています。

  1. 今回提案している仕組みにおいては、委員会の専門的な調査により、医療事故の原因究明を迅速かつ適切に行い、また、故意や重大な過失のある事例その他悪質な事例に限定して捜査機関への通知を行うこととしている。また、委員会の調査結果等に基づき適切な行政処分を実施することとしている。

    なお、委員会からの通知は、犯罪事実を申告し犯人の処罰を求める意思表示としての「告発」ではない。


  2. 医療事故についてこうした対応が適切に行われることになれば、刑事手続については、委員会の専門的な判断を尊重し、委員会からの通知の有無や行政処分の実施状況等を踏まえつつ、対応することになる。


  3. その結果、刑事手続の対象は、故意や重大な過失のある事例その他悪質な事例に事実上限定されるなど、謙抑的な対応が行われることとなる。

まず1.です。これは三次試案本文にあるのですが、医師法21条を改正して「異状死」の届出は事故調に報告すればそれでよいとする案としています。そのうえで、悪質で警察の捜査が必要と判断されたものは「通知」するとなっています。この通知は「告発」でなくあくまでも「通知」であるとの内容です。

次の2.は刑事手続きに対し、

    委員会からの通知の有無や行政処分の実施状況等を踏まえつつ、対応することになる。
この捜査機関との関係については別紙3のみでしか説明はなく、「対応することになる」は法的背景に基づいたものではありません。医師法21条は改正すると明記されていたのに対し、捜査機関との関係はあくまでも紳士ルール程度に基づいた希望的観測であると書いてあります。

その次の3.は、

    事実上限定されるなど、謙抑的な対応が行われることとなる。
二次試案でも非難の的であった捜査機関との関係は、三次試案でもまったく改善されていない事を明らかにしています。ちなみに現在の捜査機関でも医療への操作は「謙抑的」とされています。謙抑のさじ加減はすべて捜査機関の裁量であり、事故調ができても捜査機関が「謙抑的」とさえ判断すればいつでも刑事的手続きは行われるという事です。


次に問2に移ります。

問2

遺族が警察に相談した場合や、遺族が告訴した場合に、捜査機関の対応はどうなるのか。

ここの問は二つのケースからなりたっています。つまり、

  1. 警察に相談した時
  2. 警察に告訴した時
それぞれに対しての答えが書かれています。

  1. 委員会の専門的な調査により、医療事故の原因究明が迅速かつ適切に行われることになれば、遺族から警察に対して直接相談等があった場合にも、遺族は委員会による調査を依頼することができることから、警察は、委員会による調査を勧めることとなる。


  2. また、遺族から告訴があった場合には、警察は捜査に着手することとなるが、告訴された事例について委員会による調査が行われる場合には、捜査に当たっては、委員会の専門的な判断を尊重し、委員会の調査の結果や委員会からの通知の有無を十分に踏まえて対応することが考えられる。

まず「相談」に関しては事故調を勧めるのは「ありえること」だとは思います。ただし勧める義務は警察にありません。あるともどこにも書いてありません。そういう制度にするとも書いてありません。あくまでも事故調が出来たら「そうなるだろう」の希望的観測に過ぎません。

「告訴」も同様です。「尊重」とかと書いてありますが、あくまでも

    対応することが考えられる
あくまでも問1にあった「謙抑的対応」を事故調側が期待するだけです。どこにも警察側の対応を具体的に抑制する法的根拠については言及されておりません。警察が法的根拠に基づき刑事手続きを行なえば無力であるという事です。


問3です。

問3

委員会の調査結果を受け、行政処分が刑事処分より前になされるようになった場合、検察の起訴や刑事処分の状況は変わるのか。

ちょっと分かり難いかもしれませんが、三次試案本文では行政処分の範囲がすごく広がっています。ここもツッコミどころなのですが、話が拡大して収拾が付かなくなるので今日はその点は置いておきます。ごく簡単に理解してもらえば、従来は刑事処分や民事で問題になった件に関して行政処分が行なわれていましたが、事故調成立後は調査結果だけでバンバン行政処分が出てくると思えば良いか思います。

そうなると刑事処分より先に行政処分が行われる事が増えるというか、捜査機関が「謙抑的」に動いた場合には普通はそうなると思えばよいかと考えます。えらく捻った問ですが、答えが書いてあります。

  1. 現在、医師法等に基づく処分の大部分は、刑事処分が確定した後に、刑事処分の量刑を参考に実施されているが、委員会の調査による速やかな原因究明により、医療事故については、医療の安全の向上を目的とし、刑事処分の有無や量刑にかかわらず、医療機関に対する医療安全に関する改善命令等が必要に応じて行われることとなる。


  2. この場合、検察の起訴や刑事処分は、行政処分の実施状況等を踏まえつつ行われることになる。したがって、現状と比べ大きな違いが生ずることとなる。

これはごく簡単に行政処分を参考に刑事処分を考える事になるので、行政処分が出た時点で確実にアウトで、なおかつ従来より厳罰になる可能性がありえると解釈できます。そういう点に関しての表現は妙にマイルドで、

    現状と比べ大きな違いが生ずることとなる。
最悪と言うか普通に考えればそうなるのですが、行政処分に応じた刑事処分の基準が検察内で作られるかと思います。この程度なら刑事処分相応とか、この程度なら求刑はこれぐらいだとかです。検察だけではなく裁判官もそうで、この程度の行政処分なら刑はこの程度みたいな相場です。穿って考えると、この点が一番捜査機関を「謙抑的」にさせる部分かと思います。医療訴訟は捜査が厄介なので、事故調からの行政処分を待って刑事手続きに入るという手順の成立です。そうすれば証拠はすべて事故調がお膳立てしてくれますし、刑の程度も行政処分という明快な目安ができます。民事も同様かもしれません。


はっきり言って捜査機関との関係については何ら具体的な制度は設計していないと言えます。制度ができれば「そうなる、そうなる」としか書いておらず、「そうなる」ための具体的背景については記載無しです。一部報道で検察と話をしたなんて曖昧な話が流布されていましたが、言っては悪いですが単なる口約束です。口約束は双方の了解事項について玉虫色の解釈を十二分に持たせる余地が生じます。条文に明記されてさえ解釈は多々に分かれるというのに、誰も実際の内容を知らない口約束なんかを「確約」とか「了解」とか言われても困ります。

「謙抑的」が大好きな事故調ですが、「謙抑的」の担保を口約束しか取らず、それで「安心せい」の言い分はこれだけの制度を作るに当たり、極めて不十分な姿勢であると私は考えます。医師法21条改正まで言及しているのですから、捜査機関との関係の明瞭な法的整備を行うことが事故調成立の必須の条件です。


皆様におかれましては、三次試案についてパブコメ応募を是非お願いしたいと思います。今日のエントリーはわりと分かりやすくて書きやすく、なおかつ事故調のキモに当る部分と考え取り上げました。もちろんこの部分以外についてもパブコメしてもらって構いませんし、捜査機関との関係には触れずに他の部分にパブコメして頂いてもかまいません。一通でも多くパブコメが送られるように御協力お願いします。


もうひとつ、これもアピールを頼まれているので書いておきます。

これもある筋の情報からですが、一番頑張って欲しい日本産婦人科学会が三次試案に転びそうの話が伝わってきています。三次試案本文の字句で譲歩が見られたから「妥協しよう」との意見が幹部で有力とのことです。日本産婦人科学会が転んだら日和見の学会が雪崩を打つ可能性は大です。反対意見の幹部からの悲鳴リークとしてよいかと思っています。事故調巡る状況は日医だけではなく、医学界幹部が妥協に走り始めている危機的状況です。

パブコメを送っても「結論ありき」の御用会議への効果は限界があります。法案として提出された時に最後の頼みの綱は政治家になります。烏合の衆の評価も有りますが、医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員同盟なるものがあります。呉越同舟超党派集団ですが、この集団は政治家にとって重要な共通の利害を共有しています。医療崩壊による「痛み」が選挙に向けられた時に非常に役に立つカードなんです。そういう意味で烏合の衆かもしれませんが、最低限の期待はできるかと考えています。つうか、使えそうなものはなんでも利用したいというのが本音です。

この政治家集団のシンポジウムがあり、4/11までの期限付きですがご意見募集しています。こちらの方にも余力があれば投稿してくださるとありがたいです。「溺れる者は藁をもつかむ」と言いますが、こんな藁でもつかまないと事故調は成立してしまいます。

どうかお願いします。