事故調第三次試案のパブコメ補足

先週から今日もですが、第三次試案の内容検討の追われながら、全然関係ないプライベートの用事にも追いまくられて、パブコメも提言も十分練る時間が無い事を白状しておきます。土曜日は別紙3の解説をやりながら重大な事を落としていたことに気づき、取り急ぎ補足とさせて頂きます。別紙3はQ&A形式だったのですが、問は3つじゃなくて4つありました。最後の4つ目をページが変わった関係で見落としていたのです。追われながらする仕事にロクなものはありません。

では気を取り直して、

問4

 委員会から捜査機関に通知を行った場合において、委員会の調査報告書やヒアリング資料等の扱いはどうなるのか。

事故調の調査のためには多くの資料が提供されますし、そこには見解や結論まで書かれています。これが事故の原因究明や再発防止に使われるのは本来の趣旨であるから良いとして、他への利用はどうかは気になるところです。行政処分に活用されることは書かれていましたが、医師の重大関心事である訴訟関係にはどうかの質問です。

  1. 委員会の調査報告書については、公表されるものであるため、委員会から捜査機関に通知を行った事例において、捜査機関が調査報告書を使用することを妨げることはできない。
  2. 委員会による調査の目的にかんがみ、調査報告書の作成の過程で得られた資料については、刑事訴訟法に基づく裁判所の令状によるような場合を除いて、捜査機関に対して提出しない方針とする。

答えは簡単明瞭で捜査機関には報告書も資料もすべて活用されると言うことです。捜査手続きにおいて

これがどれほど入手しやすいか否かは分かりませんが、個人的な感触としてさほど困難とは思えず、事故調としては「任意」では出さないよ!ぐらいの意思表明だと理解します。それとも三次試案でもよく用いられている「謙抑的」が捜査機関にもあり、事故調が「任意提出」を拒めば令状による捜査も「謙抑的」に行なわれると考えればよいのでしょうか。さすがにこの件については「謙抑的」の言葉は使われていません。

ところでこの任意提出は行なわない方針ですが、遺族が事故調を途中で無視して民事訴訟を起した場合はどうなるのでしょうか。民事訴訟になれば通常と言うか当たり前のようにカルテを始めとする必要な資料の確保が行なわれます。遺族側弁護士の手によるものになるのですが、そういう行為に出られたら原本はすべて手渡す事にならないのでしょうか。

刑事手続きは「謙抑的」であったとしても民事手続きは自由ですし、遺族は必ずしも事故調調査を待つ必要がありません。遺族も様々ですし、遺族の依頼を引き受ける弁護士も様々です。遺族側及び弁護士サイドが事故調の報告を待つより訴訟に打って出る方が有利だと判断すれば、誰もこれを止める事は出来ません。それを食い止める手段はどこにもありません。

最悪、事故調と民事訴訟が並行して行なわれ、なおかつ全く違う判断が下される事もありえます。三次試案を読む限り、遺族は訴訟よりも事故調のほうが手間も経費も安く上がるので「必然的」に事故調を先に利用するはずだとしていますが、そうでない方も必ず出ると考えます。

事故調の目的はごく簡単には「医師が訴訟に怯えないようにする」です。そのために医療事故について中立の立場で調査を行い、その結果で別の機関が刑事、民事、行政の処分を行なう仕組みだと考えています。医療と言う専門性の高い分野の出来事の判断を裁判官のような医療の素人にいきなり任せないの考えです。

そのためには事故調の調査が終了するまで刑事も民事も訴訟は控える法的な枠組みが必要です。「口約束」や「念書」みたいな曖昧なものでは正当な法的手段の前では屁のツッパリにもなりません。そういう意味でYUNYUN様のコメントは極めて具体的です。

  1. 医療に関する(業務上)過失致死傷罪を親告罪とする。
  2. 医療安全委員会による「刑事手続き相当」意見を、刑事捜査着手および起訴の要件とする。
  3. 民事の医療紛争では、訴訟に調停(or認定ADR)を前置強制する。
基本的にはこのラインに私は賛成ですし、こういう法的整備が行なわれない事故調など張子の虎と考えます。調査体制や事故調全体の仕組みも不備な点がテンコモリですが、事故調のシステム以前に事故調が成立する法的整備条件を整える気すらない三次試案を最終試案と決してしてはならないと考えています。