続々産科集約化の算数

あんまり受けの良いシリーズでは無いのですが、ここまできたらもう1回やります。

集約化を行なう上で基礎的な情報として施設あたりの分娩数、計算上必要な必要な産科医数および麻酔科医数(もちろん小児科医以下も)、さらに現在それぞれの医師が実数で何人いるかの情報が必要です。計算上は机上の事ですから幾らでもできますが、存在医師数を念頭に置かないともともと非現実的な話が、非常識な話になってしまいます。

まず産科医の実数ですが、去年の6月で7873人と言うのがあります。昨日までの計算はこのうち開業医が2500人ぐらいで勤務医が5000人ぐらいだろうで考えていました。ところが一勤務産婦人科医様から、

・・・(前略)・・・この人数は正確には分娩取り扱い施設で働いている産婦人科医の数です。すなわち、分娩を取り扱っている病院で主に婦人科や生殖医療(不妊治療)の診療に従事している産婦人科医がふくまれており、産科診療のみに従事している産科医の数ではありません。・・・(中略)・・・おそらくその多くは当施設と同様に婦人科・生殖医療に主に従事している産婦人科医が半数はいると思います。

そうなると実戦力の概算が困難になるのですが、半数が分娩に従事していないと言うのは多すぎとしても、病院産科勤務医は3000人程度と考えた方が現実的と思います。3000人程度で病院分娩が賄えるかと言えば、現在の日本の分娩数110万件のうち、約半数が病院ですから、産科医一人当たり180分娩であり不可能な数字ではありません。

もう一つこれもyouri様からのご指摘ですが、

日本麻酔科学会登録数なので、実際には、出産・育児・留学・研究などで休業中、育児や介護などの事情によるパートタイマー、個別契約のフリーター、ペインクリニック医、救急医、ご高齢医、教授や院長などの非実働部隊医も含まれているので、何とも言えませんが・・・。

    認定医(=標榜医)6589人
    • そのうち専門医5761人
    • そのうち指導医2833人
認定医(標榜医)でも非常に優秀な人もいますが、基本的には、1人でハイリスク妊産婦を管理できるのは専門医以上と考えます。なお、年間の麻酔科管理症例数は150万例ほどだったと記憶しております。

じつにシミジミした数字です。ここで実働部隊の数の概算だけでも雲をつかむような話なのですが、ここでは大雑把に3000人としておきます。そうなると日本の産科医療を支えている勤務医の実戦部隊が3000人、日本の麻酔を支えている麻酔科の実戦部隊が同じく3000人ぐらいと推測され、それを基に計算を立てる必要があります。

問題は集約化施設がどれほどの分娩を取り扱うかです。日本の分娩数は110万。現在は病院と開業診療所がほぼ半数づつです。今後開業医が撤退減少するのは確実なので、病院での分娩の比率が増えるのは間違いありません。どれだけになるかは難しいところなのですが、例えば7割になると産科医一人当たりの分娩数は270分娩となり、それだけでフラッグが立ちそうです。6割でも220分娩ですから、相当な分娩数です。どう考えても産科の明日は無さそうですが、無理やり話を進めます。

ここではまず7割を想定して考えてみます。7割といえば約80万分娩、昨日の算数では21人の産科医を集めれば、3交代勤務で常に3人の分娩専属チームと日勤平日に外来を3診立てれる計算でした。もちろん夜勤は64〜72時間に制限しての勤務形態です。これが産科集約施設の基本モデルですが、集約施設はどれだけの分娩を行なう必要があるのでしょうか。

昨日の案では50施設作り、産科医3000人のうち1000人が集約施設に集約させるので残りは2000人。2000人が2〜3人で他の分娩施設を支え、そこでの産科医一人当たりの分娩数を150分娩とすると30万件となります。集約施設は残り50万件を引き受ける事になります。しかしそれでは1施設1万件となり産科医一人あたり470万件の分娩数になります。これは幾らなんでも無謀ですから、非集約化施設の分娩数を産科医あたり200分娩(これも相当無理がありますが)とすれば40万件、集約施設あたり8000件、一人当たり380件になります。

病院分娩7割モデルはどう計算しても無理があるので、もっと近未来の6割負担で考えてみます。6割だと約70万分娩、非集約化施設が産科医当たり200分娩で40万分娩、集約化施設が30万分娩、集約化施設あたりの分娩数が6000件、産科医一人当たりで約290分娩。産科の先生から「ちっともラクじゃない」とお叱りの声が聞こえそうですが、これ以上はどうしようもありません。

ここで昨日の計算のネックになった麻酔科の必要数があります。この算数はできるだけ労働基準法の精神に則っての人員配置を考えようとしているのですが、麻酔科の勤務慣行、必要人数の計算法が皆目わからなかったのでyouri様からのコメントをベースに考えようと思います。

手術部における麻酔科医の最低必要人数は、定期手術の列数+2人です。+2は、麻酔に手が要る超ハイリスク患者、緊急手術、手術室や病棟での緊急事態、体調不良者など欠員が出た場合のための余剰要員ですが、余剰と言いつつ大抵フルで働くことになると思います。+1でも回らないことはありませんが、自科麻酔や自科での対応をお願いするケースが出てきます。夜間緊急帝切が日常的に行われるというのであれば、夜間帯は、院内2人で自宅待機1人が妥当な線でしょうか。

  • 平日昼 手術部5人、ICU 1人

    1. 定期枠3列で、定期帝切は6件/日
    2. 暮れ正月は休日の51週計算で、1530件/年)
    3. 4列なら8件/日(同じく、2040件/年))
  • 平日夜・休日 手術部2人、ICU 1人
で計算しますと、(6人×8時間×5日)+(3人×16時間×5日)+(3人×24時間×2日)=624人時間。624人時間/40時間=15.6人→16人

産科麻酔の数で一番わかりやすい帝王切開術の麻酔数で考えてみます。現在の帝王切開術は予定が9%、緊急が8%となっているそうで、あわせると17%。集約化施設が出来ると帝王切開術の産婦はかなり集まるかと考えます。非集約化施設でも予定のリスクの低い者は行なうでしょうが、集約化施設の25%ぐらいは帝王切開になるかと考えます。そうなると施設6000の分娩数のうち1500件程度になります。そうなればyouri様ご提案の麻酔科医数で賄える計算となります。麻酔科医が一施設16人なら50施設で800人。麻酔科の先生方には鼻で笑われそうですが。机上ではありますが現実的な数にやっとなりました。

小児科医の数は・・・これはできるだけ絞って考えます。NICUとGCU+α程度の病棟運営とします。外来も発育外来だけにします。一般外来に手を出した途端、人数は膨大なものに膨らむからです。3交代で2人づつの配置と、平日1診体制を考えます。そうなれば18人体制で可能です。そうなれば小児科医の数は900人です。これも机上では現実的な数になります。その他の診療科、外科、整形外科、脳外科等々は既存の小児病院に頼る事にします。外来機能を置く程度にして、手術、入院は既存の小児病院に任せなければどうしようもありません。

ところで施設ですが、既存施設の充実が現実的であるのご指摘がありました。それはそうなんですが、年間6000件が生まれる病院の規模を推定して見ます。分娩6000は凄い数で、1日平均16人以上出産します。経腟の平和な分娩でも平均5日間の入院とすると、ベビー室だけでも80人程度の収容能力が最低必要です。分娩には波があり、ピーク時には5割増とすると120人程度は収容できる能力が必要となります。

妊産婦の平均在院日数が鍵となるのですが、通常の平和な分娩でも通常5日です。帝王切開率の高さ、切迫流産などのハイリスク妊婦の比率の高さを考えると平均10日でも長すぎないと考えます。そうなるととりあえず6万日、約165床必要です。これも分娩の波を考えると220床程度は絶対必要です。さらにNICU、GCUですが、軽症も含めて入院必要人数は、5%として300人、これも平均10日間とすると8床、冗長性を考えると12床は欲しいところです。そうなるとハイリスク児の退院followも視野に入れて250床程度の規模は必要となります。既存施設の充実でも相当の追加投資が必要な気がします。

非現実的な算数を3日間やっていましたが、現在の分娩数が110万で、半数が開業医で生まれ、残りの半数を実働3000人程度の産科医で支えても、一人当たりの分娩数は180分娩です。今でもそれだけです。開業医の撤収が進み勤務医負担が6割になったら220分娩となり、7割にでもなろうものなら260分娩になります。開業医の高齢化は既に周知の事です。現役実働産科医の逃散が急速に進んでいるのもまた常識です。去年の6月が平均180分娩だったのが、今なら200分娩になっていても不思議ありません。

誰が考えても少子化による出生数の減少より産科医の減少速度の方が急激過ぎる事がわかりますし、正直なところ、今現在でも大きな破綻なく成り立っているのが不思議なぐらいです。ただし厚生労働省は除くですが・・・。