眉剃り女子中生と教育的見地

いつも読ませてもらっているS.Y's Blogさんのエントリーからです。直接コメントしようかと思いましたが、長くなるので自分のところにエントリーで書きます。いきなりの長い引用ですが我慢してください。ちなみに大元はAsahi.comです。

「眉毛をそってるから」負け 鹿児島の中学総体

 鹿児島県中学校総合体育大会バドミントン競技女子団体戦の準々決勝で、眉毛をそっていたことを理由に、試合に勝った生徒を負けたことにしていたことが28日、わかった。その結果、団体戦の勝敗も覆ったという。教育関係者からは「スポーツと生活指導を一緒にしている」と疑問の声があがっている。

 同県中学校体育連盟によると、25日に開かれた大会の女子団体戦準々決勝で、鹿児島市内の伊敷台中と伊敷中が対戦した。

 団体戦はダブルス、シングルス、ダブルスの計3回対戦し、先に2勝した方が勝ち進む。伊敷中が2―0で勝ったが、試合後、伊敷台中の選手が「眉毛をそっている生徒がいる」と県中体連側に訴えたという。

 県中体連は大会前に、髪を染めたり、眉をそったりするなど「周りに不快感を与える服装」をした場合は、出場を認めない場合もあると、各校に知らせていた。

 生徒指導を担当する「専門部」が協議し、眉をそっていた最初のダブルス戦の選手を「負け」とし、1―1としたうえで、3試合目をさせることにしたという。その結果、伊敷台中が勝ち、準決勝に進んだ。

 県中体連の吉ケ島隆良会長(59)は「眉をそった生徒には、守るべきものがあるということを確認してほしかった。本人も認めており、人権侵害ではない」と話した。

ネットで話題になっているのは眉剃り女子中生の処分の是非でしたし、私も後で少し触れようと思うのですが、その前に規則違反で失格選手が出た後の大会運営が気になりました。この大会は県の中学総体という格式の高いものです。当然ですが、この大会を勝ち抜けば九州大会に出場しますし、中学なのであるかないか分かりませんが、九州大会を勝ち抜けば全国大会につながる大会です。言ってみれば、中学バドミントンの甲子園の県予選という事になります。当然と言えば当然ですが、失格選手の発生により他の学校に不利にならないように十分な配慮が必要です。いわゆる教育的見地です。

なんと言っても情報が少ないので、ある程度推測による前提が必要です。これから続ける話の前提として、

  1. まず準々決勝と言うからには、それまでに1回以上戦っている可能性がある。
  2. シングルス2試合、ダブルス1試合の団体戦であるが、眉剃り女子中生はおそらく準決勝以前から出場していたはずである。
つまり記事では眉剃り女子中生を発見した準決勝の対戦チームである伊敷中のみが救済処置を受けていますが、それ以前の対戦相手への配慮はどうなっているかです。この辺は教育的見地からして重要なことでしょう。眉剃り女子中生を発見したチームにのみ救済処置を施したのであるなら不公平であろうという事です。

鹿児島の中学生のバドミントンの大会の記録なんてあるかと思っていましたが、さすがはネット時代、ちゃんと大会の記録が残っていました。第23回鹿児島県中学校体育連盟バドミントン競技結果
が原文ですが、女子の団体の記録を抜粋します。

1回戦


山田2-1甲南  坂元2-1吉野東  田崎2-1鹿大附属  桜丘2-1西陵  
谷山2-1市来  鹿屋東2-1榕城  牧園3-0南指宿  根占3-0谷山北  吉野2-1武  和田3-0南


2回戦


皇徳寺3-0山田  坂元2-1田崎  伊敷3-0桜丘  伊敷台3-0谷山  
緑丘2-0鹿屋東  第一鹿屋2-1牧園  根占2-0吉野  城西2-1和田


準々決勝


皇徳寺2-0坂元  伊敷台0-2伊敷  第一鹿屋2-1緑丘  根占2-0城西


準決勝


皇徳寺2-0伊敷  根占2-1第一鹿屋


決勝


皇徳寺2-0根占


第2代表決定戦


伊敷台2-1根占

良く見ると不思議な大会運営が行なわれています。団体は上述したとおり3試合づつの勝ち抜き戦です。1回戦の成績を見るとどうも先に2試合連取しても3試合目を行なっているようです。2回戦も2段に分かれて書かれている上段のほうでは3試合目まで行なわれているようですが、下段の方になると2試合連取の時点で勝敗を決める方式に変更されているようです。最初は県大会出場の初戦のチームは3試合戦い、2戦目以降は時間短縮のため2試合連取での時間短縮を行なったのかなと思いましたが、どう見てもそうではありません。

さらに良く分からないのは第2代表決定戦の経緯です。どうもこの県総体から九州大会に出場できるのは2校のようです。優勝した皇徳寺は無条件に代表決定でなんの不思議もありません。第2代表も準優勝の根占でも良さそうなものですが、ここでは第2代表決定戦を行なうようですから、根占が代表決定戦に出るのも分かります。こういう場合であれば通常は、準決勝敗退の2チームが戦い勝者が根占と争うパターンが常識的ですが、この記録を見る限り、第2代表出場決定戦的なものをやった形跡はありません。となるとこの大会の慣例は準決勝で優勝チームに負けたチームが第2代表決定戦の出場資格を得る形式のようです。

ちょっと寄り道しましたが、問題の眉剃り女子中生がいた伊敷の戦績となります。1回戦は不戦勝だったようで出場無し。2回戦は3試合制の方だったらしく3-0で谷山に快勝。問題の準々決勝は記事にあるとおり2連勝の時点で伊敷台に快勝しています。準決勝は優勝した皇徳寺に0-2で完敗です。

ただこの記録を読む限り、伊敷台に準々決勝で勝った後、準決勝まで戦っています。この事から伊敷台-伊敷の再試合は準決勝終了後、第2代表決定戦までに問題が表面化した事がわかります。記事の印象では準々決勝終了後、伊敷台の抗議により続いて再試合を行なったようにも読めましたが、そうではなくて最短でも準決勝終了後に事態は動いたと考えられます。

でもって記録をよく読むと伊敷の初戦である2回戦は3-0で記録されています。眉剃り女子中生は出場していなかったのでしょうか。もし出場していたら当然この記録も訂正されて2-1にしなければならないはずですが、まあ失格選手の扱いがその試合だけの敗戦処置とするようですから、伊敷の勝利は変わりません。

続いて準々決勝は記事の事件どおりですし、準決勝は0-2負けですからこれも失格選手の有無は変わりありません。となると準々決勝の勝敗が優勝および代表決定戦にどれほどの影響を及ぼし、どれだけの教育的見地からの救済処置が取られたかという事です。伊敷台が伊敷に勝っていたらという仮定になります。そうなると準決勝の組み合わせは伊敷台-皇徳寺に変わります。あくまでも仮定ですが、伊敷台に勝った伊敷は皇徳寺に負けましたが、勝負は時の運、伊敷台ならひょっとして皇徳寺に勝つかもしれません。仮定仮定で申し訳ありませんが、決勝が伊敷台-根占に変われば根占が勝ったかもしれません。つまり戦っていないから分からないということです。

どうも実力的にこの県では皇徳寺がダントツらしく、そういう番狂わせの余地は少ないようですが、中学生の大会であり、何があるか分からないとも言えます。準々決勝の勝者が変われば代表の決定に微妙な変化が出る可能性は否定できず、そこまで配慮して教育的見地から配慮するのが当然かと思います。

そうなれば最小限の実力確認として、準決勝を皇徳寺-伊敷台で再戦させ、皇徳寺がやはり勝つことを証明すべきでしょう。万が一伊敷台が勝てば決勝を伊敷台-根占に変更してやり直した上で、第2代表決定戦を行えば十分な救済処置といえます。それが時間の関係で難しいのなら、これは団体戦ですから失格選手を出場させた伊敷自体を失格処分にし、第2代表決定戦は準優勝の根占と準決勝敗退の第一鹿屋で争わせた方がまだしも公平そうです。おそらく大会の時間の関係で最短の救済法を選択したようですが、印象としてそんなに公平であるという感じはしない処置のような気がします。

ところで問題の眉剃り女子中生ですが、当然開会式から2回戦、準々決勝、準決勝と戦っていると思います。その間、役員、審判、大会関係者、相手チームとたくさんの目で見ているはずですが、記事を信用すればこの女子中生が眉剃りであるのを気づいたのは伊敷台のみであったようです。とい言う事は眉剃り行為自体で「周りに不快感を与える服装」と感じた人間はほとんどいなかったということです。大会規定で謳うぐらいの禁止行為ですから、誰が見ても一目でわかるものであるはずなのに、殆んど誰も気にしていない事の不思議さを感じます。

分からなかったのか見てみぬ振りをしていたのか、禁止規定に上げてはいたが実際は適用する気が薄かったのかは分かりませんが、出場禁止にするほどの大きな違反行為にしては、見つけるのに大きな努力が必要な「周りに不快感を与える服装」の規定であるのが私にはやや不可解なものです。