第3者評価機関モデル事業1号

記事がなんとも短いので評価し難いのですが、4月8日付の読売新聞より結論部分の抜粋です。

今回の事例は、肝内胆管がんの疑いで肝臓の切除手術を受けた60歳代の男性患者が、手術中の大量出血でショック状態に陥り、翌日死亡したというもの。報告書は

  1. 手術時間が長く出血量も多いため、執刀医は肝臓切除手術の経験が不足していたとみられる。
  2. 十分な輸血、輸液と積極的な昇圧剤の使用などで救命できた可能性が高い。
などと病院の診療行為に問題があったと結論づけている。

もう少し詳しい情報が欲しいところです。これ以上の情報が乏しいのですが共同通信によると日本内科学会が厚生労働省から補助金を受けて行なうとなっていることはわかります。なんと言っても第1号ですから、今後のモデルになる点であるとか、逆に問題点になる可能性がある点を考えたいと思います。

まずやはりメンバー構成です。とくに医療側の委員の人選がどうなっているかが問題です。医師が間違っても一枚岩でないのは医師が一番良く知っています。トンデモ理論を肩書きからは信じられない内容で滔々と力説する医者も数多くいます。また世間ではトンデモ派の医者が妙に支持される傾向もあります。さらにこういう事を審議するには経験が豊富である事が必須の条件なんですが、経験が長すぎて既に第一線を退き、「ワシの若い頃は」式の懐旧談で周囲を辟易させる手合も数多くいます。

それとこれも関連する事柄ですが、世間の医者不信も強いですが、医者のこの手の機関に対する不信も極度に高いことを熟知した運営をしたかということです。密室で結論ありきのような審議運営が行なわれるなら、医療側も今後情報提供は極度に渋る事は間違いありません。アラさがしの審議なら百害あって一理なしで、こんな機関で時間を費やすよりも、どうせしなければならない訴訟対策に専念するからです。

諸般の事情で公表できない情報が多々あるんでしょうが、結論として報道されている、術者の力量不足であるとか、輸液輸血管理の不適切さの説明があまりにも乏しいと感じます。術者の肝臓切除術の経験がどれほどであり、その経験と力量から上級医の監督が必要であったかどうかの説明が乏しすぎます。経験と力量が乏しいのに強行したのか、それとも適切な上級医のサポート体制を得られない事情があったかの説明も無いのでよくわかりません。

また外科は基本的に門外漢なのでそんなに詳しいとはお世辞にも言えませんが、肝臓切除術自体は決して易しい手術ではなく、ベテランが執刀したとしてもしばしば不測の大出血を起す事があると聞いたことがあります。手術だけではなく医療全体に不測の事態は突発的に起こりえます。とくに難度が高いものほどそれが命取りになります。手術を行なった患者の病巣の広がりであるとか、患者自身の術前の状態などに対しどれほどの考察を払ったかもこの結論だけではなんともわかりません。

輸液輸血管理にしても、不測の事態が発生したときにどれほどの対応をして、どの部分が不適切であったかについて医者を納得させる報告書がないと、結論として力量不足、管理不適切の2行だけでは今後の医療事故対策になんの意味もありません。

第3者機関の役割については人により考えが違うかもしれませんが、私はシロかクロかだけを決める機関であってはならないと考えています。結論としてのシロかクロかをだす過程が重要な機関であり、過程での審議内容を今後の医療事故防止に役立てることが求められると考えます。そこを怠るとシロなら患者サイドの不信を煽り、クロなら医療サイドの不信を増幅するだけですぐに機能麻痺に陥るのではないかと思います。

1号事業ですから最初から完璧とはいかないのは理解しないといけませんが、今回のように誰か分からないメンバーが密室審議をして、断定的な結論チョンがこの事業の雛形であるなら、私は先行きが暗いと感じてしまいます。今後にもう少し詳しい情報が入手できる事を期待します。