今日は平和な話題にしたいと思いながら・・・

連日重い話題を書いていると疲れます。私のブログは決して毎日社会告発をするために書いているのではないのですが、これだけ重い話題が続くと自然に流れみたいなものが出来てしまい、他の軽い話題では浮いたような感じがしてしまうのです。でもこんな路線では泥沼状態だと思い、朝から「梅が咲いてる」とか「先週はうぐいすが鳴いていたから、梅にうぐいす」とかを必死で考えていたのですが、結局あきらめて重い路線で行きます。

医局人事制度の衰退したため医者の偏在が強くなった事は医療崩壊の序曲3で長々と書きました。偏在の是正のために厚生労働省はしきりに僻地勤務義務化案を検討しているようですが、さすがにそこまですると憲法への抵触が問題視され制定に至っていません。それはそうで、一般企業であっても一方的な転勤辞令の拒否がある程度正統視されつつある時代であるのに、勤務医だけその意向を無視して全国どこでも強制配属させるのはどこかで無理が生じます。

厚生労働省が手をこまねいている間にも地方医療の医師不足はどんどん逼迫しています。厚生労働省が有効な人事システムを打ち出すことが出来ないのであればということで、困っている地方はドクターバンクなるシステムを作っています。いくら医局に泣き込んでも、医局員の絶対数が目減りしているので、医局の協力はかつてほど期待出来ないのをようやく悟ったようです。

ドクターバンクはこの兵庫県でも作るようです。先日医師会からのファックスが届いていました。元のファックスを処分してしまったので、記憶だけですが、内容は

    医師の偏在化により地方意医療機関医師不足が深刻化している。とくに産科、小児科が著しいので、このバンクに赴任希望者を登録してもらい、医師が不足する医療機関とのマッチングを行い、医師の再配属を行なう云々
趣旨は理解します。ただしこの制度が機能するには二つの前提が必要です。
  • 小児科医、産科医が都市部で余っている。
  • 余っている小児科医、産科医が地方勤務を望んでいる。
私の知る限り都市部といえども余ってません。足りている地域はあるかもしれませんが、余っていません。さらに地方勤務は地元出身者であるとか、その地域で開業を考える医者以外には歓迎されません。これは医者だけではなくすべての職種にある程度共通するもので、都会と地方の2択で同等の条件で就職する場所があれば、多数の者が都会を選びます。そんなに不思議な現象ではないと考えます。

ようするに地方勤務は医者に限らず基本的にそれほど喜ばれないという事です。また兵庫県だけではなく他の都道府県でも同様のバンクを作っているところがありますが、私から見ると不思議な条件で募集しています。曰く「当県ではこれこれの診療科の医者が何人不足しています。応募してくれれば配属します」的なものがほとんどです。

どうも制度を作った役人の発想は「おらが町の立派な病院の医者がなぜか不足している。これは病院に欠員が足りない事を知ってないからだ。広告さえすればドカドカと喜んで医者が集まってくるはずだ」のような気がします。彼らには地方病院が勤務条件、待遇が劣悪で医者から敬遠されている事への自覚が足りないようです。

もうひとつこの制度の基本発想の不思議さがあります。とくに小児科、産科は性格的に24時間365日救急の性格をもっており、1人とか2人とかの広く薄い配置は勤務する医者の過重な負担を招くため、散らばっている医者を集約しセンター化することの必要性が唱えられています。センター化のメリット、デメリットはここではあまり論じませんが、志望者が先細りで労働資源が減少している小児科や産科ではやむをえない対策であるとは考えています。ところがこの制度では広く薄く路線を墨守しています。

さらにこれは当局者の自覚の問題ですが、地方は地方であるだけで都会に較べると決定的に勤務条件が悪いと言う事です。ようするに嫌われていると言う事です。条件が悪くて嫌われている職場に人を寄せるためには、待遇の向上が必要なはずです。これはすべての職種に共通する事です。ところがそういう事は全く触れていません。従来の勤務条件で、従来の報酬で来てくれと言うことです。

最後にこのシステムの致命的な欠陥ですが、この制度を利用して病院に就職したら永久就職の可能性が極めて大である事です。従来の医局人事システムなら地方や僻地勤務を行なっても定期的に変われる可能性がありました。いつかは変われる希望があったから、地方勤務や僻地勤務に赴いていたと言えます。これは医者だけではなくたの全国展開の企業の転勤でもその希望で命令に従っている部分は少なからずあります。

従来の労働条件、給与条件、さらに一旦放り込まれたら地方僻地への片道切符のドクターバンクがどこでもなかなか有効に作動しないのは当然かと思います。できるだけそんな制度に頼らずに都会で就職場所を医者は探すでしょうし、現在の需要関係は医者のほうが売り手ですから運用は難しいだろうと思いますし、現実も難しくなっています。

医者の偏在の問題を一銭の金もかけずに是正する方法ばかりを考えているようですが、今度はどんなトンデモナイ政策を打ち出すか笑ってみています。