医学生よ大志を抱け

7/28付日経カデットより、

寄稿した医学生の方は憤懣やる方ないようですが、あなたの上の世代も、そのまた上の世代も、そのまたずっと上の世代も言われ続けてきた事だけと思っています。当然私の世代も言われました。つうか、歴史上で前の世代より文句無しに勤勉であったなんて称賛される事は、稀有な例だと思います。よほどの社会的大混乱が起こった時ならともかく、そこそこ平和な時代が続いていれば必ずそうなると考えています。

よく持ち出される喩えに古代エジプトの記録にも「今どきの若者は・・・」があったとされるぐらいです。そういう点では若者の特権とは逆のものとしても良いかもしれません。とりあえず私から言えるのは、

    気にするな、今を生きよ
ま、あなたがそれなりの年齢になれば「今どきの若者は・・・」は口にできますし、そういう順送りになっているのがこの世の中と考えています。せめて私は一生懸命自戒しています。


ただ話を医療に絞れば、若い世代には大きな期待を寄せています。医療は幸か不幸か激動期に入っています。先人達が築き上げてきた日本の医療体制は素晴らしい点も多々ありますが、一方で制度的弱点・疲労が限界に達しています。日本の医療制度の功績の多くの部分は、医師が鉄人になる事でのみ支えられるものでした。私の世代も疑いもなく鉄人医師こそ普通の医師だの価値観で働いてきました。

しかし鉄人は誰でもなれるものではありません。誰でもなれるわけのない鉄人に無理やりなってきた事に、今深い反省をしているところです。鉄人でないと支えられない医療は根本的に無理があり、持続的に発展する職種ととても言えないからです。

私のような古い世代の医師は、医師養成システムとはイコールで鉄人医師養成システムであり、他に選ぶべき道も無く、疑問を口にする事は愚か、心に思う事さえ恥とされていたのです。医師になりたての頃は疑問を持っても、朱に交われば赤くなるであり、それ以外に選ぶ道がなかったので擬似鉄人で働く事を無理やり医師の誇りとしてきました。


この事については、現在強い批判を受けています。「お前らが無茶したから、現在こんなに困っている」です。心に痛い言葉で、せめてもの罪滅ぼしで細々とこんなブログで贖罪をやっているわけです。

時代は激動期としましたが、私の世代を縛り上げてきた鉄人医師養成システムは弱体化しました。現在の実態を実感として知りませんが、かなり様変わりしたのだけは間違いありません。そういう過渡期に新しい医師像を作るシステムを期待しています。医師が無謀に働くのが基準の医療体制を改革してくれる原動力になって欲しいと切に願っています。

もちろん、そういう姿勢を頭ごなしに批判する先達医師はまだまだ多いでしょうが、本音では支持している医師が確実かつ非常に増えています。声の大きい人がどうしても目立ちますし、直接の指導に当たっていたりもしますが、古い世代の負の遺産はこの機会に清算する事を大きく期待しています。


私の時代は迷うにも考えるにもレールは1本しかありませんでしたが、今は自分でレールを選び、さらに新たに敷ける時代と思っています。とは言うものの現実は厳しく、医療現場もまた厳しいものです。とにもかくにもまず医師になって下さい。どんなワークバランスを取ろうとも、医師は医師であり、医師に求められるのは技量である事だけは普遍の真理だと思っています。