7/26付け読売新聞より、
救急患者のたらい回し防止策を強化へ、増田総務相が方針示す
【ジュネーブ=山田真也】スイスを訪問中の増田総務相は25日夕(日本時間26日未明)、同行記者団に対し、重症患者らが救急搬送されながら、病院への受け入れを断られる「たらい回し」を防ぎ、円滑に患者が受け入れられるようにするため対策強化に乗り出す方針を表明した。
消防法など関係法の改正案を2009年の通常国会に提出する方針だ。
消防法などを改正し、都道府県単位で医師、消防などが連携する協議会の設置を法的に位置づけて連絡の徹底をはかる。消防法には、消防機関が医療機関などと協議する役割を新たに書き込む考えだ。消防向け救急医療情報システムの医療機関情報を即時更新し、患者の症状に応じた迅速な病院選定を可能にすることなどを目指す。
救急医療情報システムは都道府県が運営しており、山形、島根、沖縄の3県を除く44都道府県が導入している。消防機関は同システムで、診療科ごとに、〈1〉手術ができるかどうか〈2〉診察ができるかどうか〈3〉男女別で空きベッドがあるかどうか――などの情報を知ることができる。
これらの情報の更新は現在は、「1日に数回などのケースが多い」(総務省)が、即時更新されるようになれば、消防側は適切に病院を選定できるようになる。
総務省消防庁によると、「たらい回し」は医師不足が深刻な地方圏よりも、大都市部で多く発生している。このため、消防庁は「大都市部で空きベッドなどの情報がすぐに分かるようになれば、『たらい回し』削減の大きな対策になる」としている。
消防庁内に近く、検討会を設置し、厚生労働省とも連携を図りながら、法案作成作業などを進める。
消防庁の実態調査では、昨年1年間に全国で救急搬送された重症患者のうち、3・9%にあたる1万4387人が、医療機関に3回以上受け入れを断られていたことが判明している。
まずって程の事はありませんが、あくまでも外遊中の総務大臣の談話であり、増田総務大臣が9月も総務大臣であるかどうかは、福田総理以外は誰も分からない状態である事を先に述べておきます。
まず増田総務大臣の提案の目的は、
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「たらい回し」を防ぎ
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消防法など関係法の改正
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消防向け救急医療情報システムの医療機関情報を即時更新
分類 | 3回まで | 4回以上 |
重症救急 | 96.1% | 3.9% |
産科救急 | 95.2% | 4.8% |
小児救急 | 97.3% | 2.7% |
救命救急 | 94.3% | 5.7% |
救急搬送の約95%が「たらい回し」3回以下で搬送されています。総務大臣は残り5%の発生が許せない所業と判断されたようです。もちろん「たらい回し」がさらに減少するもしくは撲滅すれば、それはそれで「より望ましい」ですが、この「このたらい回し」回数は都道府県でかなりの「偏在」があります。データをまとめた関係で「重症救急」で見ることにしますが、
都道府県 | 総件数 | 4回以上 | 6回以上 | 11回以上 |
東京都 | 42735 | 4769 | 2300 | 614 |
埼玉県 | 21376 | 1661 | 686 | 129 |
神奈川県 | 23700 | 1358 | 245 | 32 |
千葉県 | 15521 | 979 | 400 | 66 |
大阪府 | 9682 | 975 | 373 | 71 |
兵庫県 | 11254 | 641 | 205 | 28 |
奈良県 | 4134 | 527 | 229 | 41 |
宮城県 | 8235 | 509 | 192 | 26 |
茨城県 | 9040 | 459 | 151 | 14 |
栃木県 | 6397 | 281 | 77 | 11 |
近畿の御三家も入っていますが、首都圏が揃い踏みなのは笑います。ただ件数だけで言えば人口が多いところの方が多いのは当たり前ですから、データの見方を少し工夫して、搬送件数に対する比率で表した方が実感を示すと思います。全都道府県でやる時間が無いので頻度ベスト10の分だけ見直してもます。
都道府県 | 4回以上 | 6回以上 | 11回以上 |
奈良県 | 12.7% | 5.5% | 1.0% |
東京都 | 11.2% | 5.4% | 1.4% |
大阪府 | 10.1% | 3.9% | 0.7% |
埼玉県 | 7.8% | 3.2% | 0.6% |
千葉県 | 6.3% | 2.6% | 0.4% |
宮城県 | 6.2% | 2.3% | 0.3% |
兵庫県 | 5.7% | 1.8% | 0.2% |
神奈川県 | 5.7% | 1.0% | 0.1% |
茨城県 | 5.1% | 1.7% | 0.2% |
栃木県 | 4.4% | 1.2% | 0.2% |
全国平均 | 4.0% | 1.5% | 0.3% |
全国平均で言えば「たらい回し回数」が「5回以下」が98.2%になります。最悪の奈良でも93.5%です。マスコミの餌食になる二桁「たらい回し」は全国平均で0.3%です。さらに言えば全国平均は0.3%ですが、0.3%以上の都道府県は奈良、東京、大阪、埼玉、千葉、宮城の6都道府県だけです。データとしてはそれぐらいであるという事です。
それでも消防法を改正して全国一律で
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消防向け救急医療情報システムの医療機関情報を即時更新
〈1〉手術ができるかどうか〈2〉診察ができるかどうか〈3〉男女別で空きベッドがあるかどうか
この程度の情報だけで問答無用搬送などされてはかなわないのが一つですし、切実な問題として夜間や休日の人手が薄い時期に
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誰が即時更新をするんだ!
前提としてごく一部を除いて救急医療は経営的にペイしません。また大部分の「なんちゃって二次救急」に従事している医師にとって「余計な負担」の意識に濃厚に変ってきています。つまりそこまでされたら「救急から撤退しよう」の動きが加速する可能性が高くなると予測します。救急医療が病院のドル箱であれば「罰則付きの即時更新」を実現するために前向きに努力を重ねるかもしれませんが、そうでないところが殆んど全てですから、必然的に「や〜めた」になるかと思われます。
あ、そっかそっか、どどっと「なんちゃって二次救急」が整理淘汰されれば、残る救急医療機関は救急医療に情熱を燃やす医師が全身全霊を込めて医療に当るところだけになります。そういう医師は数千人単位では存在しますから、日本から救急医療は絶滅しませんが、救急医療機関自体は激減します。数が減れば「たらいの回し手」が殆んど居なくなりますから、「たらい回し回数」は自然に減る事になります。二桁の「たらい回し」が行なわれるには二桁の救急医療機関がなければ不可能ですから、これが1ヵ所とか2ヵ所に「集約」されれば、めでたく「たらい回し」は消え去ります。
そうなると次なる問題は救急医療機関での治療までの「待ち時間」になります。イギリスが何時間だったかな、アメリカも相当な待ち時間だったと思いますが、医療機関での「待ち時間」は「たらい回し回数」とは別次元のお話のようです。そうなると予想される「待ち時間」の社会問題化は、総務省の問題ではなく厚生労働省の問題になります。総務省が「待ち時間」を考慮する必要はないとすれば、総務省管轄の消防救急の問題としては解消と言う理屈なのかもしれません。
今日も暑そうですが一服の清涼剤ぐらいになったでしょうか。