ツーリング日和18(第27話)大げさすぎた作戦

 この後はテンヤワンヤの大騒ぎになったんだ。そりゃ、ユリア侯爵が特命全権大使の肩書で日本政府に厳重な抗議を申し込んだからね。こういう問題はデリケートな話になるんだよ。まず日本国は設置された大使館の安寧を守る義務がある。

 その大使館に悪意ある不法入国者が侵入したら、それを許した日本政府の失態になる理屈なんだって。それも大使自ら剣を揮って撃退した格好になるから、不法入国だけじゃなく大使であり侯爵であるユリさんに危険が迫ったことにされてしまっている。

 ユリさんはエッセンドルフ公国で現代のジャンヌ・ダルクとされるほど尊敬され人気もあるから、国民は抗議デモを行い、これを受けたエッセンドルフ公国議会は非難決議を行っただけでなく犯人の速やかなる引き渡しまで要求してる。これを受けて元首であるハインリッヒ公爵も公式の抗議声明まで出してるんだもの。

 あの勢いは引き渡しなんてしようものなら、市中引き回しのうえ磔獄門にされそうだ。いやこれは冗談じゃなく首ぐらいは間違いなく刎ねられる。良くて銃殺とか縛り首だ。ちなみにギロチンはないそうだ。

 そこまでになってしまうは、あの場所がエッデンドルフ公国領であることに尽きる。あの時にユリさんはユリア侯爵としてエッセンドルフ国内で侮辱を受けた事になる。そこでユリさんはユリア侯爵としてその侮辱を晴らし名誉を守るためにクソ親を成敗すると宣告してることになっちゃうんだよ。

 これもあの国の法になるのだけど、最上位貴族には江戸時代みたいに切り捨て御免が出来るんだ。もしその場を逃げてもその宣告は公国として果たすべき使命となるんだよ。あのクソ親どもは切り捨て御免宣告を受けながら海外逃亡をしてるようなものと考えたら良いと思う。

 さすがにこれはエッセンドルフ公国内しか適用されないから、ハインリッヒ公爵は犯人の引き渡しを要求してるけど、引き渡されたら確実にあのクソ親どもの首と胴体は泣き別れにされてしまうはず。


 どんだけ古臭い国かみたいな話だけど、そういう法と権威がエッセンドルフ公国の最上位貴族にあるのはウソじゃないし、今だって通用はする。だけど今ではそう書いてあるだけの状態でユリア侯爵によると、

『百年どころか三百年ぐらい前が最後って聞いてるよ』

 小国だけど現代国家だものね。それと不法入国だってしょっちゅうあるんだよ。だって上の階や下の階の子どもが鬼ごっことかで入って来るもの。それだけじゃなく、遊んでいる子どもにユリさんがお菓子をあげたり、一緒に遊んだりもするんだもの。

 そうなんだよ。あのフロアだって普段はマンションの住民なら誰でも入れるし、ユリさんだって上の階や下の階の住民とも親しくて、ご近所付き合いみたいなこともやってるぐらい。この辺はユリさんも子ども好きで、アリスもそんな子どものお誕生日会を開くからって呼ばれたものね。


 そこにトコトン角を立てたのが今回の作戦。あそこまで角が立つとまさに国際問題だ。外務省が事態の収拾に走り回ってるみたいだけど、大使館だけでなく本国まで巻き込んじゃってるから一筋縄で解決にならないよね。

 クソ親どもがやった行為自体はマンションの出入りのルールを破って入り込んだこと。これだけでも不法侵入に該当するそうだけど、これだけで逮捕されたり罪に問われることは少ないそう。この辺は侵入したのが健一の親だって事情も当然にように斟酌されるぐらいで良いと思う。

 ついでに言えば初犯だから、せいぜい警察で注意されるぐらいで終わっても不思議じゃないと思うんだ。別に窃盗目的とかで侵入した訳じゃないし、侵入したと言っても部屋のじゃなくフロアまでだもの。

 その程度なのに死刑なんて日本政府だってさせたくないじゃない。だけど既にゴメンナサイで済む問題じゃなくなってる。国際問題、外交問題になってるから、国の面子を立てながらの落としどころが求められるってやつ。

 だからだと思うけどクソ親どもは逮捕されちゃっただけじゃなく起訴されちゃったのよ。もっともエッセンドルフ公国への不法入国じゃなくて、単なる住居への不法侵入だけどね。ここもなんだけど国際慣行みたいなものみたいで、こういう場合は日本の国内法が適用されるらしい。今回で言えば告訴したのはユリア侯爵になる。

 これだって逮捕起訴はやりすぎで、もっと悪質なものでも当事者同士の示談で終わるのが普通らしいけど、とにかく相手が悪かったとしか言いようがない。実際に示談をもちかけれたのだけどユリア侯爵は、

『事は国の威信と名誉にかかわる事であり、公国議会の非難決議の撤回と、抗議声明を出された元首であるハインリッヒ公爵の了承を得られるのなら考えます』

 クソ親の弁護士も頭抱えていたみたい。エッセンドルフ公国なんかどこにあるからレベルだものね。だから示談も出来ずに起訴されたってこと。日本の司法は行政とは独立してるのだけど、やっぱり何か圧力みたいなものはあったと思う。判決は、

『罰金三千円』

 はぁってな判決だ。不法侵入は最大でも三年以下の懲役又は十万円以下の罰金なんだよね。懲役は論外だから罰金になったのはわかるとしても三千円ってなんだと思ったもの。これだったら無罪にしてやれよ思ったぐらい。

 でもね、でもね、これが本当の狙いだったんだ。たとえ三千円でも実刑になったのは前科も付くからクソ親どもには大きいのだけど、あの不法入国が不法侵入として認められた点がもっと大きいってこと。

 どういう事かって。これでユリア侯爵にクソ親どもが危害を加えようとしてた証拠に一つになってしまうってこと。これを盾にユリア侯爵はクソ親どもの接近禁止命令を訴え出たんだ。これはいわゆるストーカー規制法になるのだけど、

『半径百キロにしておいた』

 そんなムチャクチャな要求が認められるものかと思ったけど、これもまた外務省どころか政府だって動いた気がする。そりゃ、これでゴタツキまくった国際問題、外交問題を手打ちに出来るからね。だから認めれちゃったんだよ。ユリア侯爵は悪戯っぽく笑いながら、

『神戸、所払いって感じかな』

 ここまで大がかりな作戦はいくら健一でも出来ない。そもそもユリア侯爵があそこまで全面協力なんてするはずもない。出来た理由はただ一つ、

「なかなかオモロかったやろ」
「ユリが剣を抜いた姿が見たかったよ」

 あのエレギオンの女神が協力してくれたから。これだって最初はもっと穏便で小さな作戦だったんだ。それをあの二人に相談したばっかりに、

『それやったら・・・』
『どうせだったら・・・』

 あれよあれよと言う間に。幹が天まで伸び葉が生い茂り大地を覆いつくすような大芝居になってしまったってこと。裁判で政府とかの圧力も考えたけど、最大の圧力はコイツらだった気がする。

「接近禁止命令の延長ぐらいナンボでも出来るで」
「あれも百キロなんてケチらずに千キロにすれば良かったのに」
「そこまで広げたら日本におられへんやろが」

 とにかくこいつらに任せといたら、どこまで好き放題するかわかったもんじゃない。それでも感謝してるんだよ。それにしてもどうしてここまで助けてくれたの?

「そやな一言にしたら女神のプライドや」
「アリスのところが、ああなったって聞いてビックリしたし、慌てたもの」

 こいつらでも慌てるなんてあるのか。

「なんぼでもあるわい」
「わたしたちを何だと思ってるのよ」

 そんなもの稀代の策士と氷の女帝でしょうが。

「ホンマ腹立つやっちゃな。それでもこれでばっちりアフターケアしといたたから死ぬまでベタベタのラブラブ夫婦や」
「あれだってドンドン良くなるよ。とにかく旦那が徳永君でしょ」
「馬並みどころか、馬十頭分ぐらいの馬力があるさかい期待しとき」

 あのね、馬十頭とやったら体がぶっ壊れるだけでしょうが。

「何言うてるねん。北白川先生から聞いたやろ。女はナンボでも相手できるし、ナンボでも感じれるし、ナンボでもイケるんや。馬の十頭や二十頭ぐらい余裕や」
「そうよそうよ。ところで徳永君のモノも馬並みなの」
「馬よりデカいやろ」

 健一をどんな化け物だと思ってるのよ。そりゃ、体に比例するぐらい大きいのは認めるけど、馬って五十センチとか七十センチぐらいあるんだよ。そんなものを入れられたら背中まで突き抜けちゃうじゃない。

「でもおったで」
「昔の見世物小屋の定番の一つだよ」

 そ、それは読んだことがある。でも先っぽの方だけとか、なにかトリックがあるはず。まともに入れられて壊れないはずがあるものか。

「で、どれぐらいなのよ」
「ポニー並みの三十センチぐらいか」

 あれは・・・そんなもの教えられるはずがないじゃない。健一のが立派なのは認めるし、その立派なのに感じて、初めてイクまで達したのも認める。もっと言えば初めて見た時にあんなものが入るのかとビビったのも認める。

 だけどね、あれはアリスのものなの。アリスだけが喜ばされ、アリスだけがイクことを許されてるものなの。もっと言えばアリスにだけ反応して、アリスだけがあの雄々しい姿を見れるのよ。言うまでも無いけどアリスの中だけしかイクことは許されない。

 健一を経験してアリスは変わった。干物女が瑞々しい女に変れたんだ。アリスがそうなれたのは健一の、

「熱いミルクしかないやろ」
「どれだけ出るの。コップに一杯ぐらい」

 そんなに出るわけないでしょうが。もっとも、中に出てるから正確な量はわからないけど、コップ一杯なんてあり得るか。それこそ馬ですら、

「そやな。コップ半分ぐらいやもんな」
「そんなもんなんだ」

 あのね、そんなに出てるわけないでしょうが。そんなに出されたらイカれるたびにアリスのとこがビシャビシャになるし、シーツだって、ベッドだって大変なことになっちゃうよ。

「そやな。そんなんが馬十頭分だけ出されるんやもんな」
「馬十頭分は1リットルだものね」

 健一は人だ、馬じゃない。