ツーリング日和14(第5話)ユリの就活秘話

 亜美さんだけど、素直だし、まだ高校生だけど可愛いと思う。モテるだろうな。そうだな学年一の美少女クラスじゃないかな。だから目を付けられたのがわかってしまうぐらいだ。普通は目を付けてもここまでするのはいないけどね。

 それはとりあえず置いとくけど亜美さんはユリの持っていないものを全部持ってるような子だ。とにかく羨ましいのが外国人と間違われない。生粋の日本人だから当たり前だけど、いくら慣れたとはいえ、初対面の人から英語で話しかけられたり、

『日本語はわかりますか?』

 こう聞かれるのは今でもウンザリするものね。ついでに言ったら、

『日本語がお上手ですね』

 当たり前じゃ、ユリはコチコチのネイティブじゃ。それと小柄なのも羨ましい。小柄と言ってもユリと較べたらだけど、たぶん百六十センチぐらいだとおもう。一方のユリは公称で百六十九・八センチ。本当は・・・言いたくない。

 女だって身長はある方が良いけど、高すぎると既製サイズのゾーンを越えそうになるのよね。ユリだって着れるのはあるけど、品ぞろえ的には手薄ゾーンになってしまうぐらいかな。これに対して亜美さんならど真ん中のストライクだ・

 それもこれもおかあちゃんがヤリチン種馬親父と脳が溶けるぐらいやりまくって、避妊し損ねたお陰だ。それも、ここまで白人よりにならなくったってイイじゃない。ハーフだってもっとなりようがあるもの。ここで亜美さんが、

「ユリさんは大学を卒業されましたよね」

 これを聞いた後に『しまった』って顔になってたけど、別に隠す必要もないからイイよ、ユリはちゃんと大学を卒業した。卒業するから当たり前だけど就職を目指していた、

「就活って大変なんですよね」

 ああ大変だった、ユリの場合は散々だったとして良いと思う。

「だからこうやって家に」

 そう話を丸く収めたいだろうけど、どうせ時間はあるから聞いてもらうか。就活のために履歴書を出すのだけど、ここからネックが出てくる。言っとくけど、片親だとか、私生児だとかは関係ない。そんなことは書く必要がないからだ。

「まさかハーフ・・・」

 写真もあるからバレるけど、その点で不利になっていないと信じたい。なっていたとしても少数派のはず。そんなことより大問題が存在する。それは副業問題。これがユリの就活の大障壁になってしまった。

「副業・・・ですか」

 そうだよ、あれは副業以外に言い様がない。会社だって副業を認めるところも多くなってるけど、それでも大原則がある、本業を圧迫しない範囲でってやつだ。これも変な規定ではない。正社員として雇うと言うのに、副業に熱中されて本業を疎かにされたら、それこその本末転倒になるものね。

 だから認めているところも許可制になっている。この辺は労務管理の問題もあるそうなんだ、副業は本業の上にやるものじゃない。それが長時間労働になったり過重労働にならないようにするもの会社の管理責任になるとか、ならないとか。この辺もウルサクなってるらしいけど、一方でブラック企業が横行するのは長くなるから置いておく。

 この辺の会社側の本音だけど副業はして欲しくないで良いと思う。すでに雇ってしまった人ならやむを得ないぐらいになるかもしれないけど、今から雇う人、とくに新卒ならなおさらで良いと思う。

 そこはユリだってわかる。ユリが雇う方の立場だったら副業をしてるというだけで、マイナス点を付けそうだもの。少なくともプラスは付けにくい。とくに新卒なら、

『仕事を舐めとるのか』

 ここまで言われてもおかしいとは思わない。学生が学業とバイトを両立させているのとは話が違うもの。よほど人手に困っていればともかく、他に候補がいればそちらを選べば済む話だもの。そんなややこしそうなのを誰が選ぶかって話になる。

「どんな副業なのですか」

 説明が難しいのだけどユリにはヤリチン種馬親父のせいで祟りのような副業がある。これだって辞められないことはないけど、辞めようとしただけでウンザリするぐらいの大騒動が起こるのが必至なんだよね。あれを押し切るのが無理なことはユリも学習させられた。だから続けざるを得ないのよ。

 もっともその副業だけど、実質的な仕事は少ない。少ないと言うか滅多にないレベルだから、亜美さんから見れば平日でもユリが家にゴロゴロしてるプー太郎だとかニートに見えるはず。

「ニートだなんて・・・」

 イイよ。そうしか見えないのはわかるもの。だけどね滅多にない副業だけど、これが起こると半端じゃなくて下手すりゃ、週単位でフルタイムで働かないといけなくなる。フルタイムどころか二十四時間ガチガチの拘束状態にさせられてしまう。これが不定期というかいつ爆発するかは予測不可能なんだ。

 だけど頻度は少ないから、こうやって普段はニート状態で過ごす羽目になる。だから副業を隠して就活するのも考えるのは考えた。だけどね、履歴書にウソを書けば経歴詐欺になり私文書偽造罪に該当する事になってしまう。

 だから副業も泣く泣く書いたのだけど、あんな副業を見せられて採用したいなんて企業なんてあるもんか。殆どのところが書類選考段階で蹴られ、なんとか面接まで漕ぎつけても、

『どうして弊社への就職が必要なのですか』

 この質問で一刀両断にされてしまう。あの面接って採用を考えて呼び出したのではなく、こんな妙すぎる経歴と副業を持つ女の顔を見てみたいの興味本位の気がしてる。ユリだって逆の立場なら見てみたいもの。

「ではユリさんは副業の仕事はされてるんですよね。それって在宅ワークなのですか」

 在宅ワークの正確な定義はしらないけど、あれって出勤する会社が本来あって、その仕事をオンラインで家でやってるぐらいで間違ってないはず。この辺は請け負った仕事を家でやる人も在宅ワークに含まれるのだろうけど、その場合は家が仕事場みたいになると思うんだ。

 だけどユリの副業は在宅じゃない。なぜならこれでも毎日仕事場に出勤しているし、オンラインでするような仕事でもない。

「ではお母様と同じようなお仕事を?」

 お母ちゃんの仕事も見ようによっては在宅ワークだな。だけどあんなことはユリには出来ないよ。そういう才能は見事に受け継いでいないし、それ以前にあんな仕事はやりたくない。というか、やりたくても出来る人が極めて限られてしまう特殊過ぎる職業だ。

「フリーターみたいなものですか」

 全然違う。カチコチのフルタイムだし、これ以上はないぐらいの正社員だ。

「お給料が安いとか」

 給料もまた複雑怪奇なヌエみたいなものなんだよね。副業に限って考えれば、あれってボランティアと言えなくもない。

「NPO関係ですか?」

 まったく関係ない。だけど副業をやってもやらなくてもお手当は変わらないからボランティアみたいなものになってしまう。

「さっきから気になってるのですが、副業と言うからには本業があるのですか?」

 亜美さんも鋭いね。副業って本業に対して言うものじゃない。ユリは就活に失敗してるから今なら副業じゃなくて本業のはずだと思うよね。だけどこれは断じて副業なんだよ。じゃあ本業は何かになるけど、こんなもの説明しようがない。

 そうだな本業では日本で憲法が定める三大義務の一つである勤労を果たしているのか疑問だ。その代わりに副業では余裕で果たしている感じに見られてしまう。それでもそのヌエみたいな本業には給料が出るし、その給料のオマケみたいに副業が付いて来てるぐらいなんだよ

「えっ、そのお給料をもらっているお仕事が本業じゃないのですか?」

 亜美さんがそう考えたいのはわかるけど・・・そうだな、厄介事を無理やり引き受けさせられた代償のようなもの。なんかムカムカしてきた、あんなクソややこしい仕事を押し付けれた代償のはずなのに、その代償分でボランティアまでさせられて、そのせいで就活に失敗してるんだよ。

 呪ってやる、祟ってやる、どうしてユリはこんな不幸な星の下に産まれて来たんだよ。どこかでボタンを掛け違えてる。いやそれがどこで始まったのかもわかってる。ヤリチン種馬男とヤリマンビッチ女が出会ってしまい、恋なんかやらかしやがって、ユリが出来ちまったからだよ。

「ユリさん・・・」

 とにかくユリは世間様から見たらヌエみたいな商売をしていることになる。こんなもの簡単に説明できるものか! だからブラブラしてるけどフリーターでもニートでもない。わかるかな、わかんないだろうな。