麻吹先生も交えて、ちょっとした作戦会議。
「校内予選の方式は?」
「これから詳細を詰めますが、去年は写真甲子園の初戦審査会に準じたものでした」
「三人でチームを組んで八枚の組み写真だな」
去年の校内予選を知ってるのは野川君だけ。藤堂君も一年の終り頃に野川君を助けるために入ってるものね。
「野川君。前から気になってのだけど、去年は三年の先輩が校内予選を戦ったんだよね」
「そうだよ」
「でも写真甲子園のエントリーは翌年の二月末ぐらいからで、先輩たちは卒業するから出場できないじゃない。どうするつもりだったの」
野川君が言うには去年は写真部と宗像君グループの代表権争いの形式になって、もし写真部が勝っていたら、野川君が新入部員を率いて初戦審査会に出る予定だったみたい。
「そんなムチャな」
「だから二年の猶予を先輩たちはもらってたんだよ。本当は二年計画で、なんとか部員をかき集めて、今年の写真甲子園が勝負だったんだ」
なんちゅう綱渡りな。現実は校内予選で宗像君グループに敗れ、今年も出て来るのは確実だから写真部の人気はさらに低迷って感じかな。それでも野川君は一人になっても頑張って部員を集めてたんだ。
「野川、どういう戦術を取る」
「テーマを決めるかどうかです」
写真甲子園の初戦審査会でのテーマは自由だけど、校内予選でもそうするかどうかみたい。どっちが有利なんだろう。ここで野川君が、
「そこなんですが・・・」
一蹴されたとされる去年の結果だけど、野川君が見るには圧倒的って程じゃなかったみたい。
「もちろん、トータルとしては宗像君たちの方が上だったのは認めますが・・・」
これは卒業された先輩たちが言ってたそう。去年はテーマを決めてのものだったんだけど、どうもそのテーマが宗像君たちに事前に漏れてた気配があるんだって。それだけじゃなく、そのテーマ自体が宗像君にかなり有利じゃなかったかとしてる。
「審査員は小豆田先生と写真教室から二名出たのですが・・・」
「豆狸がそんな姑息なことを」
「してないよ。むしろ小豆田先生は、審査に疑問があると相当頑張ってくれたんだよ。先輩たちの話も小豆田先生経由の話が多いんだ」
豆狸は写真そのものに疑惑を抱いたみたいなんだ。そう、テーマを事前に知っていて、予め練習してたんじゃないかって、
「それってインチキじゃない」
「でも小豆田先生では証拠が見つけられなかったんだよ」
へぇ、豆狸もやるじゃない。
「小豆田先生だけど、授業は好きじゃないみたいだけど、写真になると真剣だよ」
「じゃあ、どうして写真部の部長先生にならなかったの」
「生徒に嫌われてるからさ」
よく自分を御存じで。ここで麻吹先生が、
「他の審査員も怪しいな」
「そこもあまり疑いたくないのですが・・・」
野川君も通っていた写真教室は川中写真教室っていうらしいけど、ここの教室からB1級まで合格して赤坂迎賓館スタジオまで進んだ者はいないそう。ここも感覚がわかりにくいところがあるのだけど、写真教室を開いて赤坂迎賓館スタジオに弟子を送り込んだ実績はかなり大きいんだって。もっとも麻吹先生に言わせると、
「赤迎に入ったぐらいで、そんなに価値があるとも思えんが」
それはともかく、写真教室では宗像君の応援に懸命みたいなところがあるで良さそう。
「これもあんまり言いたくないのですが・・・」
宗像君の家は中堅のデベロッパー。エクア開発で有名かな。つまりはお金持ち。宗像君は三男だそうで、親もカメラマンになるのを後押ししてるとか。川中写真教室にもかなり寄付しているらしいって。麻吹先生は、
「あははは、田舎者らしいな。川中写真教室とは川中満男がやってるものか」
「そうです」
「そっちの対策は考えておく。お前たちは技量だけ磨くのを考えていればよい」
そこからは組み写真の話になり、
「肝心なのは、まずテーマからのストーリーを思いつくことだ。つまり八枚の写真で一つの物語を紡ぎあげることだ。そのためにはチームワークと役割分担が必要になる」
「役割分担って?」
「お前たちの技量では得手不得手がどうしても出る。物語のパートのどの部分を誰が撮るかの役割分担だ。組み写真は一人で作り上げるのではなく、三人で作り上げるところに写真甲子園の妙味がある」
なるほど。三人がバラバラの写真を撮ってたら物語にならないものね。
「宗像たちの個々の技量は高校生にしたらマシだと思うが、去年の作品はまとまりが悪い。ブロック審査会の敗因はそこだと見て良いだろう」
「でも、今年は」
「こればっかりは蓋を開けてみないとわからないが、心配するな。誰がお前たちを鍛えてると思ってる」
なんちゅう自信。
「野川、予選審査会のエントリー受付は来年の三月だろう。校内予選は冬休みまで延ばさせろ。二学期は三人の組み写真のトレーニングに専念する」
「テーマは?」
「好きにさせれば良い。それぐらいハンデをあげないと勝負にもならん」
野川君が交渉しにいったのだけど、結構もめたらしい。宗像君も写真部の非常勤顧問に麻吹先生が付いたのに驚いたって。そりゃ、驚くよね。だから早期の校内予選会の開催を要求されたそうだけど、野川君も粘りに粘ってくれた。
この辺は出場チームを一つに絞る必要があり、校内予選の開催に写真部が同意してくれない限り、両方とも出場できなくなる危険性があるぐらいかな、というかそういう話に野川君が持ちこんじゃったらしい。野川君って、そこまで出来るんだと感心したもの。
「いや、小豆田先生が後押ししてくれたのもあるんだ」
校内予選の責任者は豆狸なんだけど、
『エントリーの募集開始は来年の二月末だ。冬休みに校内予選を行っても、なんの不都合もない。写真部も降格が懸っているから、出来る限りの準備をしたいと考えるのは当然だ』
宗像君も不承不承だったみたいだけど、去年と同じでテーマを決めて競うことになったので同意したそう。
「ボクの気のせいかもしれないけど、ニヤッと笑ったのが気になる」
「またインチキする気とか」
「なんかね」
一方で写真部の方は組み写真のトレーニングに明け暮れてる。テーマから物語を考えて、それを八枚の写真にどう割り振るか。序破急で考えたり、起承転結で考えたり、テーマによっては総花式もあるのよね。何回もやってると、どうもストーリーを考えるのはエミが一番得意みたい。なんか閃くというか、思い浮かんじゃうの。
「では小林君がストーリーを考えて、ボクが担当を割り振りすることにする」
写真の担当もいわゆる序破急の『破』の部分とか、起承転結の『転』の部分がエミに割り当てられることが多くなってる。麻吹先生に言わせると、
「アカネの言った通りだな。小林の写真に一番合ってると思う」
ストーリーの方も工夫を重ねて、
「ほほう、よく考えたな。本番はどうしたって緊張するから・・・」
麻吹先生があれこれ策を授けてくれたんだ。二学期はひたすら組み写真に没頭してたんだけど、ある日に藤堂副部長から、
「やはり麻吹先生は凄いな。ここまで小林君の才能を見抜いていたとはな。選手に選ばれへんかった時、見栄張ってあんなこと言うたけど、内心に不満があったのは白状しとく。でも今は心底から認めるわ。オレじゃ絶対無理」
そうそう部員も増えてきた。というか、写真部が降格を懸けて宗像君グループと対決する話が校内で盛り上がって来てるのよ。この辺は写真部の顧問に麻吹先生が付いたことで火が着いたで良さそう。
世界のビッグ・ネームが肩入れする写真部か、去年の覇者の宗像君グループかって感じかな。そしたら藤堂君が、
「話だけやったら大きくなってるで。日本の写真界は西川流の勢力が大きいんやけど、西川流の目の上のタンコブがオフィス加納。川中写真教室は西川流やから、オフィス加納と西川流の代理戦争みたいにも言われてる」
そんなに! どうもだけど、西川流の方もマジになってる気配があるらしくて、
「噂やで。写真部も夏休みに強化合宿やったけど、宗像たちも東京でトレーニングしとったらしいで」
「東京って・・・まさか赤坂迎賓館スタジオとか。まさかね」
「いいや、シンエー・スタジオって話や」
シンエー・スタジオって、あの西川流のトップ・エリートの養成場。
「ホンマの可能性はあるで。考えてみいな。こっちかて、オフィス加納が総がかりになって鍛えてもらってるようなものやんか。西川流かって、それぐらいしてもおかしないやろ」
なんかエライ話になってきた。