怪鳥騒動記:メキシコ軍壊滅

 アカネさんの写真はさすがだわ。でもこんなものが神戸まで飛んできたらホントに大変。

    「メキシコ軍も頑張ってるみたいやけど」

 それこそ全軍挙げての状態みたいだけど、あんなに大きいのにレーダーにも捕えられないし、サーモグラフィーで探しても見つからないのがまずネック、

    「あの羽毛やけど、体温を上手い具合に冷却する効果もあるんちゃうかって、ディスカルは言うとった」

 だから牧場とかに軍隊を広く展開して守りに入ってるんだけど、

    「小銃ぐらいじゃ通用せえへんみたいや」

 軍隊が待ち受けているとこにも襲ってきて、小銃を乱射して応戦したそうだけど、それこそ痛い顔一つしなかったとか。悠々と食事を済ませて飛んでいったみたい。

    「だから待ち伏せ作戦やってんやろうけど」

 ある牧場に牛をわざと集め、その代わりにビッシリって感じで軍隊を配備したそうなのよ。ところが、待てど暮らせど鳥はその牧場を襲わずに、他のところを襲い続けたみたい。

    「そんなところを夜襲されたんよね」

 鳥はそれまで昼間しか襲ってこなかったし、鳥だから鳥目だろうと油断している部分はあったみたいなの。

    「凄かったみたいやで」

 鳥はそれこそ音もなく舞い降り、いきなり戦車部隊を襲ったみたい。

    「あれは襲ったというより、他に投げつけるためぐらいと見て良さそうや」

 鳥は戦車を鷲掴みにして舞い上がると、これをメキシコ軍に投げつけていったみたい。投げつけられた戦車も壊れるけど、戦車が当たったところもえらいことになるのよ。

    「それでも当たったんでしょ」
    「まあな、それだけの数を配備しとったみたいやから」

 鳥は強力と言っても一羽だから、瞬時にメキシコ軍を全滅に出来るわけじゃなく、生き残っていた自走砲部隊だとか、重砲部隊が反撃してる。ミサイル部隊も撃ってるんだよ。

    「通用せんかったでエエやろ」
    「そんなに頑丈なんですか」

 ディスカルもいたから教えてくれたんだけど、鳥の羽毛はムチャクチャ丈夫だそうで、

    「地球で近いものになるとグラフェンぐらいになりますが、あれより数百倍丈夫で、不燃性です」

 グラフェンはラップ一枚でも、これを突き破ろうとする鉛筆の先に象が乗るぐらいの力が必要なんだけど、

    「その分厚い羽毛が、何層にも重なっています」

 さらにって話で、

    「衝撃吸収性も抜群です」

 あのねぇ、

    「メキシコ軍の重砲程度では難しいかと。ましてやあのサイズになってますし」

 とにかくメキシコ軍がその夜の戦闘で壊滅状態になったのは事実。鳥はメキシコ軍を叩き潰した後に、悠々と食事を済ませて飛んでいったみたい。

    「そうだ、そうだ。エラン船のレーザー銃なら撃ち落とせるよね」
    「それも・・・」

 対レーザー兵器対策や対誘導兵器対策もエランでは極度に進んでいて、鳥にもその機能を付与してるはずだって。

    「あの手のエネルギー派の干渉作用もあの羽毛にはあったはずです。だから、アラ時代の鳥対策にも使われていなかったで良いかと考えられます」

 あのねぇ、そんな化物をどうして作っちゃったのよ、

    「もうしわけありません」

 アラ時代の対空砲の威力は、さすがにディスカルは詳しかった。エランの兵器発達は地球と途中まで同じなんだけど、誘導兵器対策が進みすぎちゃって、レーダーとかそれを利用したミサイルは使えなくなっちゃったみたい。

    「戦闘機とかはどうしてたの。あれもコンピューターの塊みたいなものじゃない」

 とにかく電子制御の兵器は、相手に妨害されたり、逆に乗っ取られてコントロールされる危険性が高くて使えなくなったで良さそう。

    「人が手で操縦してました」

 電子制御が使えないから、すべて機械仕掛けのものだったんだって。

    「ほんじゃ、手計算で飛んでたとか」
    「ですから、パイロットはエリートでした」

 ミサイルが使えないからロケットになるけど、これじゃ製造単価が高い割に使い勝手が悪いとされて、

    「速射砲が主流でした」
    「どれぐらいの速射砲」

 ディスカルの話は専門的だったけど、最初は大型化したんだって、

    「威力は強くなりますが、機動性に問題が生じまして」

 大きくなれば重くなり、動くのがカメ以下になるのはエランも同じだったみたい。砲身とかの軽量化の研究も進んだみたいだけど、やはり限界があって、

    「爆薬と爆発効果の開発に傾いたのです」

 とにかくやり出せばすぐに煮詰まるぐらいの先進文明だから、

    「そうですね、地球で似ている兵器なら三五ミリのガトリング砲ぐらいが最大です」

 これ以上大型化しなかったのは、この砲の乱射に耐えうる防御兵器を作るのが困難だったで良さそう。威力はどれぐらいかだけど、

    「イメージしてもらうなら、戦艦の主砲を機関銃にして撃つより強力ぐらいです」

 そりゃ強力だ。

    「ちょっと待ってよ、怪鳥退治に使われたアラ時代の対空砲って」
    「ええ、これによる集中砲撃と考えています」

 そりゃ、メキシコ軍の大砲がパラパラと当たったぐらいじゃ通用しないよ。

    「メキシコ軍の戦力を見る限りでしたら、戦車にピストルで立ち向かっているようなものかと」
    「でもディスカル。メキシコ軍は強力とは言えないかもしれないけど、アメリカだって、ロシアだって、そんな馬鹿強力な通常兵器なんて持ってないよ」
    「だから大いなる災いの鳥なのです」
 破滅の神みたいなものじゃないの。