医療従事者機能評価事業はいかが

moto様の意見には秀逸なものが少なくないのですが、10/9エントリーに対するコメントです。

「真・病院評価機構」女医版も作ってくといい。
ていうか、こっち(女医版)のほうが、アピール力ありそう。
なんでかっていうと、病院がどこで評価されるべきかっていう視点が、弱者に対してどの程度配慮されてるかであって、その視点が、患者と女医、それぞれ弱者的なイメージがあるから重なりやすいので。
そーだなー、女医版っていうより、女医の働きやすさこそが、男医を含めての基準になるべきでしょーねー。
託児所とか、当直シャワー室とか。

この意見の前提として日本医療機能評価機構による病院機能評価は、病院経営者と言うか、厚労官僚から見た評価であって、未だかつて認定を受ける事によって、病院で働いている医療関係者の業務効率が向上、くだけて言うと働きやすくなったとの評価を寡聞にして存じ上げない事によります。病院機能評価の膨大なチェック項目の中に含まれてはいても、死文に等しいと言う事です。

お蔭で医師の勤務する病院の評価として病院機能評価の認定はマイナス要素であると認識され、医師不足で悩む地方僻地の病院が起死回生のために認定を受ける話が出れば「死亡フラグ」と揶揄される始末です。こういう状態を改善するには現在の病院機能評価を改善するのが手っ取り早そうなんですが、よくよく考えると病院機能評価の評価項目や評価方法の設定はブラックボックスです。私の知る限り、オープンに意見を受け入れれて改善するようなメカニズムは存在しないように思われます。

病院機能評価事業の改善が難しいなら、作ってしまえの意見です。実務上の作成の具体的な手順の困難さは置いとくとして、意見としては秀逸です。moto様は「真・病院評価機構」とネーミングされていますが、個人的に

    医療従事者機能評価事業
こう呼びたいと思います。これのココロは医療従事者の機能を評価するものではなく、医療従事者が病院の働きやすさを評価するものです。

さらにmoto様の意見の秀逸なところは、評価の重点を女性医師の働きやすさに置こうとする点です。かつての医師の世界は男社会でした。女性医師と言うだけで、診療科によっては非常に嫌がられる時代があったのもそんな昔の話ではありません。しかし時代は確実に変っています。女性医師の比率の増加は前にやりましたが、30歳未満の女性医師の比率の推移を再掲します。

年度 総数 男性医師 女性医師 女性医師
の比率
1994 25803 19482 6321 24.5%
1996 26906 19753 7156 26.6%
1998 26487 18992 7495 28.3%
2000 25285 17488 7797 30.8%
2002 25846 17339 8507 32.9%
2004 25605 16576 9029 35.3%
2006 25695 16506 9189 35.8%
2008 25738 16441 9297 36.1%


既に1/3以上は女性医師であり、この比率は間違い無く増える傾向を示しています。10年も経たずに40%を超えてもさして不思議とは思えません。これは統計的に約束されている将来ですから、増え行く女性医師を活用しないと医療現場は麻痺するのは確実です。「女性医師の活用」は口先では現在でも唱えられていますが、現実には単に雇用するレベルで留まっています。

男社会時代の女性医師は、それこそ女性であっても完全に男性と同等の働きを要求されていました。そのため現場で生き残っている女性医師はそれこそ「男顔負け」の傑物である事が要求されていました。つうかそういう女性医師しか現場に残っていなかったと言えば良いでしょうか。それ以外の傑物になれなかった女性医師は現場から静かに消え去っていたとも言えます。

そういう贅沢な使い方が出来たのは女性医師の比率が低かったため、残りが零れ落ちても大勢に影響しないと言うのもあったと考えています。しかしこれからの時代はそんな贅沢な使い方は許されません。傑物でない普通の女性医師でも無理なく働ける労働環境が絶対に必要です。

女性医師が働きやすい環境と言えばすぐに出てくる意見としては、女性医師の厚遇による男性医師への負担の増加です。この意見も現実からすれば短期的に間違っていないと思いますが、短期的視点で女性医師を扱うと、一番痛い目に会うのは男性医師ではないかと思います。

ここでなんですが、女性医師が働きやすい職場とはどんなものかのイメージが必要だと思います。女性医師が働きやすくなるために、男性医師が女性医師の仕事を過重に負う状態では話になりません。一般的な能力・感覚の今の女性医師が働きやすい職場は、同等の働きやすさを男性医師にも与えられる職場である必要があります。重点をジェンダーによるハンデのある女性医師に置くことにより、男性医師も働きやすくなる職場にならなければなりません。つまり、

    女医の働きやすさこそが、男医を含めての基準になるべきでしょーねー
私も同意見です。



さてなんですが、こういう視点の医療従事者機能評価機構ですが、普及のためにはメリットが必要です。まずこれは必須とまでは言えないはずですが、現実には欲しいものがあります。事業の箔付けと言うか権威の裏付けです。認定に参加するにも、どこの馬の骨かわからない団体であれば、なかなか参加してくれないと思います。厚労省日本医療機能評価機構にあんだけ肩入れしていますから、新たにもう一つは喜ぶか、喜ばないかは微妙です。

それならば内閣府男女共同参画局はどうでしょうか。実は全然知らないところなんですが、名前からして協力してくれそうな部局です。それと厚労省でないところもある意味良いかもしれません。今日の時点で箔付けまで考えるのは早いでしょうから、とりあえずこれぐらいにしておきます。


次は認定そのもののメリットです。診療報酬とか補助金との連動になれば良いのですが、これも先の話として置いておきます。認定病院である事のメリットそのものがあるかどうかです。これはあると思います。ダイレクトに医師求人のメリットにつながると考えられます。ごく素直に医師なり他の医療従事者の勤務環境に対して客観的な評価基準になりうると考えます。

この情報化時代になっても勤務を希望する病院の勤務内容についての情報は不十分です。募集条件に書いてある事や、さらに募集担当者に直接確認しても、さらに言えば労働契約をキチンと確認しても内実はわからないところがあります。それこそ勤務してみないとわからない状態と言って良いでしょう。そういうところに認定があれば、勤務先の選択に影響は確実にあると考えられます。

認定機構側も認定時だけではなく、認定後も新たな情報が寄せられたら、いつでも実地調査の上、場合によっては認定を取り消すぐらいのマメさがある方が認定の価値が高まります。そういう追跡調査であるなら医療従事者も積極的に協力してくれそうな気がします。


なかなか考えるだけなら面白そうなお話なんですが、どういう認定基準を設定するにしろ、最大の問題はこれをクリアできるところがどれほどあるかです。少なくとも合格不合格のシロクロ認定にはできないでしょうね。出来たとしてもレベル単位(レベル1、レベル2・・・レベル10みたいな)の合格基準が精一杯のような気がしないでもありません。

いっそミシュランの様に覆面調査で☆を付けるのもありですが、ミシュランに較べてガイドブックを買う人間が少ないですから、商売としてなら難しそうです。それでもうまく仕立てれば、それなりのビジネスモデルになりそうな気がしないでもありません。もっとも私の片手間程度では到底無理ですねぇ・・・もうちょっと具体的な評価項目も考えてみたかったのですが、これは皆様にお願いしたいと思います。