介護業界に明日はあるのか

つくづく良質のコメンターに恵まれていると感謝しております。昨日も書いた通り、コムスンさえ聞いたことがなかった程度のエントリーを盛り立ててくださって本当に嬉しく思います。本音ではあまりにも知識不足の領域のお話なので、さっさと足を洗って他の話題に流れたいところですが、あれだけのコメントがあったので、門外漢が介護業界の事を勉強すると言うスタンスで今日は続編です。実態は昨日の頂いたコメントの整理で、知ってられる方には常識でしょうが、私も含めてよく知らない人のためのものとお考えください。

まずは元MSW・現ケアマネ様からのケアマネージャーの給与実態レポートです。

在宅で介護サービスを使おうとすると、ケアマネがケアプランを立てないといけないんですが、新人もベテランも1ヶ月39件以上(包括支援センターから委託された介護予防支援を含む)担当できません。特定事業所加算ってのもありますが、要件がめちゃくちゃ厳しく(要介護3以上が6割とか介護予防支援の委託受けちゃダメとか、まともに相談を受けてたらまず無理)、実際に取ってるところはほとんどないはずです。で、1件あたりの報酬は10,000円(要介護1〜2)・13,000円(要介護3〜5)で、介護予防支援だと包括支援センターとの契約にもよるけど4,000円ぐらいでしょうか。合計して40万円ちょっと超えるぐらいがケアプランを作成するケアマネの請求できる介護報酬上限として決められています。あと収入として考えられるのは、認定調査ぐらいですが1件3,000円ぐらいですかね。これで設備費とか家賃とか払ったら、給料どれぐらいになるかはわかりますでしょうか

ここから分かる事は、

  1. ケアマネージャーが立てられるケアプランの上限が1ヶ月で38件までである。
  2. ケアプラン1件でおおよそ1万円ぐらいの収入になる。
  3. したがってケアマネージャーの給与の上限は40万円程度となる。
月40万円と言えばそれなりの額に聞こえますが、仕事は1件あたりの賃仕事であり、ボーナスが無いので年収は40×12=480(万円)が上限となります。つまりケアマネージャーはどんなに敏腕であっても年収500万程度が上限になると言う事です。かなり夢の無い収入と言えます。

続いてばあば様から福祉現場のいわゆるヘルパーの給与実態レポートです。ばあば様は障害者福祉系にお勤めのようですが、介護現場全体を表していると考えても差し支えないと考えます。

うちの法人では、30才で手取り15万です。給料さがりました。そうでないとやっていけないからです。おばさんの私ですら手取り20万ですから、男性職員は「これじゃぁ(相手の親から)結婚許して貰えない」とぼやいています。うちの法人は労働基準法遵守のハズですが、すでに公休2日持ち越しです。24時間勤務(通称夜勤)が月4回から5〜6回に増えました。

これも厳しいお話ですが、勤務条件の悪化も気になりますが給与面から見ると、

    30歳でも15万、大ベテランでも20万程度。
年収はこれにボーナスが上乗せされる事になりますが、甘く考えて年間に4か月分のボーナスがあるとします。HNから大ベテランと考えられるばあば様の月給が20万ですから、20×16=320(万円)、30歳の職員なら15×16=240(万円)。これは相当の薄給であると考えます。ばあば様よりまだ超ベテランがいたとしても年収400万は夢の世界になります。やりがいはともかく、給与面では夢も希望も無い職種と言えます。そのうえで、
    給料さがりました
介護現場に人気が無いのが素直に理解できます。

ケアマネージャー、ヘルパーとも薄給ですが、薄給の上で成り立っている本体の経営がどうかです。今回問題となったコムスンですが、しらべてかく様から簡潔にコムスンの経営実態を要約してくれています。長くなるので要点だけピックアップしますが、

  1. ヘルパーが未熟で、サービスが荒っぽい
  2. 払えそうだと見ると余計なサービスや、高いサービスをふっかける
  3. ある利用者は架空請求された
  4. 敬遠される重度の要介護者もコムスンなら断らない
1.〜3.は収益増加になっている行為になります。一方で4.は他のコメントから推測すると収益低下になる行為のようです。差し引きがどの程度になるかが概算できませんが、おそらくプラスになると考えます。その上で報道されたような虚偽申請の数合わせを行なっているので、もし介護業界が真面目にやっていても堅実に収益が入る業種なら、濡れ手に粟の莫大な収益増になっているはずです。ついで言うとコムスンの経営自体は決して放漫経営でなかったと考えてよいからです。

コムスンの経営実態についてはmoto様を始めとして多数の情報を寄せて頂きましたが、会計士X様の分析がやはりプロのものとして核心を一番突いているかと考えます。

グッドウィルグループの介護事業の見通しについては、
http://www.goodwill.com/gwg/pdf/20070329171332.pdf
を見るのが良いでしょう。

「4. 特別損失の計上について」のところでコムスンに対する「のれん」について、減損損失235億円を計上しております。
これがどういうことかといいますと、まず「のれん」というのは企業がある事業を買収した時に、その事業に対して見込んだ超過収益力を示します。例えば、1億しか純資産の無い会社を2億円で買ったとすれば、金利等を考慮しても「少なくとも」将来1億円以上の利益が上がると見込んで買ったわけですね。
一方、「減損損失」というのは、企業がその事業より得られる将来の利益の合計が、その事業に対して行った投資を下回ることが確実となったとき、その下回る部分については回収不能なので、損失として計上するという会計処理です。
このことから読み取れることは、
1.グッドウィルグループは少なくとも将来に渡って数百億円の利益があげられると見込んで介護事業を買収した。
2.しかし当初の見込みと異なり、今年になって投資額のうち少なくとも235億円は回収不能と判断し、損失計上した。

ということです。まあ、一般の事業会社なら、該当事業の処分を検討するレベルの状況ですね。

会計用語が並んでいるので手強いですが、私なりに解釈してみます。

  • グッドウィルグループは介護事業に何百億円かの投資を行なった。
  • この投資は回収できると判断したから行なわれた。
  • ところがそのうち235億円は回収不能と判断された。
グッドウィルグループがどの程度の規模の企業かわかりませんが、何百億円は相当な巨額の投資と考えます。社運を賭けるまでいかないかもしれませんが、失敗すれば経営に響くレベルではあると思います。ですから投資の判断はかなり慎重に検討された上でなされたと考えるのが自然です。それにもかかわらず235億円の損を認めなければならない状態に至ったのは、会社経営にとって大きな失敗です。それも放漫経営で失敗したのではなく、逆に業界でも屈指の辛辣な経営を行なっての結果です。

この235億円の損失レベルを会計士X様はこう評価しています。

    まあ、一般の事業会社なら、該当事業の処分を検討するレベルの状況ですね。
情報が限定されていますが、これだけを読む限り介護業界に明日は無さそうな気がします。