朝の日記

外来風景

昨日の外来は神経だけは使いましたが平穏でした。広報がかなり行き届いているみたいで、軽症患者が少なく、外来業務量としては少なめでした。ただうちの診療所は普段マスクはしていませんから、私も含めて慣れておらず「息苦しい」のは本音です。小児科もしゃべる量は医師もスタッフも多いですからね。ただマスク風景以外は実質ふだんの「ヒマ」な外来と変わらないと言う感じです。

「念のため」はもちろんおられました。それでも昨日に限って言えば純粋の念のためは1人か2人で、後は「会社に証明書が必要」が目に付く程度です。まあ、発熱相談センターから回された発熱患者は調べざるを得ないと言うところです。発熱相談センターへの電話接続はやはり良くないらしく、つながらない患者は診察していました。ちなみに昨日は全員インフルエンザ陰性でした。

焦点のFluA(+)患者が発見されていませんから、昨日の時点で行政がどういう対応をしたのかは不明ですが、今日でも出れば「今日の対応」がわかるかもしれません。発見されればレポートします。昨日、今日でも情勢は大きく変わってきてますからね。


企業の動き

外来で「会社に証明書が必要」が目に付くとしましたが、知人の会社員の経験談もそれを裏付けるものです。週末から微熱を伴う風邪気味で相談があったのですが、会社に相談したところ「休め」であったとのことです。ただし「ちゃんと検査してもらえ」が厳重に指示され、発熱相談センターに電話し、近医受診したとの事です。検査は陰性だったのですが「証明書をもって完全に治ってから出勤せよ」だそうです。

こういう企業の対応を過剰と批判したり、企業姿勢のアピールのパフォーマンスだの声も一部にあるようですが、企業防衛上からは理解できます。微妙な時期ですから、社員からうつったみたいな風評が立ったり、運悪くうつったと推測される客が重症化したら、企業の健康管理と言うか危機管理を袋叩きにする報道機関があると確実視されます。これぐらいはせざるを得ないかと感じてしまいます。

企業の動きの見出しは大袈裟すぎますが、信頼できる経験談です。


感染症指定医療機関の内情

ちょっとソースが現時点では明らかに出来ないのですが、人工島にある市立病院の最前線レポートです。現在の入院患者は全員軽症だそうです。また発熱外来で来たFluA(+)患者は、ほぼ全員新型であるそうです。さらに確認患者のうち約半数はFluA(-)・B(-)であったとの事です。こんな状態で封じ込めはどう考えても不可能であろうとの現時点での実感リポートです。

これを聞いて思い出したのですが、今年のインフルエンザは混合型で、A香港型、Aソ連型、B型が混在して流行しました。ただ3月後半から4月の流行末期に主体だったのはB型です。チトあやふやな記憶ですが、ここのところシーズン末期はB型が最後っ屁のように流行するパターンが多かったように思います。ところが4月末になってから絶対数は少ないですが、執念深くA型が増えてきたような話がありました。

あくまでも大雑把な観測ですが、最後の最後に増え始めたA型が新型ではなかったかと考えています。この推測が当たっているかどうかは疫学調査が待たれるところです。


症例定義

H.19.3.26に決められた新型インフルエンザ専門家会議の医療体制に関するガイドラインにある、

なお、新型インフルエンザの診断・治療は、実際にヒトーヒト感染が発生した段階で新たに症例定義(「要観察例」「疑似症患者」「患者(確定例)」)を設け、診断方法を示し

この症例定義がどんなものか疑問だったのですが、遅まきながらようやく確認できました。H.21.5.14付の症例定義及び届出基準の変更についてにちゃんと書いてありました。たぶんこれです。

  1. インフルエンザ特有の症状の有無
  2. 疫学的関連の有無
    • 7日以内に、インフルエンザ様症状を呈しているものとの接触
    • 新型インフルエンザの蔓延している国又は地域への渡航歴や滞在歴の再確認
  3. 他の疾患の有無等確認(A群溶連菌咽頭炎など細菌性感染の除外など)

昨日の外来ではこれに「高校生と接触したか」の疫学的関連も神戸では付け加えられたようです。この疫学的関連は地域によっては非常に重視されているようで、これは昨日頂いた「お産はやめました」様からのコメントです。

うちは北関東なんですが、3日前に横浜のコンサートに行ったという5才の子が 発熱 呼吸器症状を呈して来院、キットでA型陽性。

直ちに保健所に連絡したところ、「え?海外渡航歴はないの?アメリカ、メキシコ、カナダから帰ってきたんじゃなければ関係ない」との対応。

うおー、うちの県は目をつぶる気だ!目をつぶっていれば確かに見ることはない。。。

感染地の実感ですが「見ない」方が現実としては良策のように感じます。見てしまえば感染地になり、たちまち神戸・大阪のように続々と掘り起こされて騒動になると考えられます。ガイドライン対策実行による社会実験は神戸・大阪だけでもう十分かとも個人的には思います。ただ奈良がこれから大騒ぎになりそうな気配があるのですが、どうなる事やら。


国の動き

5/18付け時事通信(Yahoo !版)より、

週内にも対策切り替え=「季節性と変わらず」−新型インフルエンザ・舛添厚労相

 新型インフルエンザの感染者が急増した18日、舛添要一厚生労働相は同省内で記者会見し、政府の専門家諮問委員会から新型インフルエンザは季節性と大きく変わらないとの報告を受けたとして、週内にも対策を切り替える方針を示した。軽症患者の自宅療養などを検討する。

 舛添厚労相は、致死率の高い鳥インフルエンザを前提とした政府の行動計画は実態に合わないとし、「軽めの症状に合わせた形の対応に変えたい」と述べた。

 行動計画は現在の「国内発生早期」段階では、軽症者も含めて患者全員の入院を定めているが、今後は軽症者の自宅療養を認める方向。また、感染の疑いのある人が発熱外来だけでなく通常の病院を受診できるようにすることや、感染者と接した人にタミフルを予防投与する原則の見直しも検討する。

批判も一部にあるようですが、舛添大臣頑張っているんじゃないですか。症例定義の疫学条項で感染「発見」の拡大を防ごうとしても、神戸・大阪で発覚してしまいましたから、高い確率で他の都道府県でも発見される可能性が高くなっています。今のところ発見されれば神戸・大阪の先例に従った騒ぎが起こります。現時点での新型インフルエンザの評価はあくまでも「どうやら」ですが、

  1. 感染力は強そう
  2. 毒性は弱そう(程度は諸説あり)
ただ第二段階の対策をやれば、医療機関が即座にパンクすると同時に休校措置による問題、感染地の風評被害などが新型インフルンザの毒性に比べて大きくなる事が分かっています。政治的には、これの判断が重要なところではないかと考えています。次の感染「発見」による経済被害の軽減のためには

致死率の高い鳥インフルエンザを前提とした政府の行動計画は実態に合わないとし、「軽めの症状に合わせた形の対応に変えたい」と述べた。

これによる明確な方針変換を宣言する必要が出てきます。東京で新型インフルエンザ騒ぎが起これば大変な経済被害が予想されますから、それまでに食い止める必要があると考えてもおかしくありません。ただ新型インフルエンザへの評価、とくに日本人への評価はまだ固まっていません。その情報がある程度得られるまでの期間を1週間としているように考えます。

1週間と言う情報収集期間が十分かどうかは判断の難しいところですが、感染発見の火の手はいつどこで広がるかは予測不能ですから、ギリギリの判断ではないでしょうか。もちろん結果論による責任問題が常につきまといますから、重大な判断が舛添大臣の肩に圧し掛かっているとは言えます。懸念するのは現時点では弱毒性の評価とは言え、基礎疾患などを有する患者に感染すれば季節性インフルエンザと同様に死亡例の出現はありえます。

軽症対応の移行宣言より前に死亡例の報告があったときに社会が冷静に対応できるかになります。宣言後でも同様の懸念がありますが、宣言前なら影響はさらに大きなものがあります。死亡例の報告場所もいきなり東京などであれば再び騒動はヒートアップする事も計算しておかないとなりません。もちろん今後の推移により「実は日本人にはそれなりに強毒であった」みたいな事もないとは言い切れません。大変な判断と責任を舛添大臣は背負っていると見ています。

昼の日記

5/19 13:23着信、神戸市医師会新型インフルエンザ対策本部よりの「新型インフルエンザ関連情報(第13報)」です。

  • 新型インフルエンザ対策本部緊急全体会議報告(5月17日(日)PM8:00〜)


       感染拡大が急速に拡がっており、第3段階「感染まん延期」直前、もしくはすでに突入しているいうのが共通の認識。そうなれば一般医療機関でもガイドラインに従い、対応可能なすべての医療機関で診療することになる。いつ宣言が出されるかが喫緊の関心事であり、十分な事前の備えがなければ市民も一般医療機関、薬局も大混乱になることは明らか。

       そこでどのような要件が整えば「まん延期」の宣言が出されても対応できるかという点を中心に非常に熱い議論が11時30分まで交わされた。


  • 上記で討議された留意項目について神戸市行政からの正式回答(5月18日 夜)


    1. Q:「まん延期」宣言された後、以前より最大の懸念材料だったタミフル等抗インフルエンザ薬の迅速・円滑な流通は保証できるのか?

      A:タミフルの流通(土日等の急配もふまえた各機関への対応について)

       5月18日午前、兵庫県疾病対策室稲田主幹に対し、早急にタミフルの流通状況の確認を要請。そして「まん延期」医療体制をとる場合は、薬問屋が十分にタミフルを供給できるよう、必要に応じて備蓄分を事前に放出して欲しい旨を依頼し、了解を得た。


    2. Q:発熱相談センターにおいて医療機関を相談する際に、受診される場合は、必ず受診予定の医療機関に対して電話連絡していただきたい。

      A:徹底いたします。また受診する際には必ず、事前に本人から当該医療機関に電話連絡するように広報します。方法としてはホームページ、メディアへの資料提供などを実施する。その他、様々な情報をできるだけ多くのメディアを通じて提供する。


    3. Q:発熱相談センターになかなかつながらない。機能拡充の努力が足りないのでは?

      A:国内発生時点で24時間対応にするとともに増設(3 → 7回線)した電話回線を、5月18日15時さらに増設(7 → 10回線)した。


    4. Q:協力病院の発熱外来が十分機能していないのでは? 機能拡充をお願いしたい。

      A:5月18日現在、協力病院7病院のうち6病院において発熱外来が設置されている。残る1病院についても5月19日朝から開始される。(5月16日午前中に開設依頼を行い、5月18日に設置状況確認済み)


    5. Q:診療の参考に資するため個々の新型インフルエンザ症例に関するさらに詳細な情報を随時提供していただきたい。

      A:別途送付するようにいたします。


    6. Q:医療スタッフの感染防護策の指針を示していただければ?

      A:「まん延期」においては、医療機関のスタッフがサージカルマスクを着用するなど適切な防護策をとってください。

何が要となって議論されているか理解しにくい方もおられるでしょうから、解説を加えると、H.19.3.26付に作られた新型インフルエンザ専門家会議の医療体制に関するガイドラインが背景となっています。現在の公式体制は第二段階ですが、これが間もなく第三段階に移行するとの前提での議論です。まず第三段階の定義ですが、

第三段階:新型インフルエンザ患者が増加し、入院勧告措置が解除され、当該都道府県内の全ての入院医療機関において新型インフルエンザに使用可能な病床を動員して対応する段階

もう少し具体的には、

 都道府県等は、疫学調査により患者の感染経路が追跡できなくなり、入院勧告による感染拡大防止及び抑制する効果が得られなくなった場合、又は感染症指定医療機関等が満床となった場合、新型インフルエンザに使用可能な病床を勘案しながら、国と協議した上で感染症法第19条に基づく新型インフルエンザ患者の入院勧告を中止する。

 第三段階では、全ての入院医療機関において新型インフルエンザ患者が発生、又は受診する可能性があり、こうした医療機関は各々の診療体制に応じて新型インフルエンザ診療を担う。

現時点では少なくとも「感染症指定医療機関等が満床となった場合」には該当し、現場では措置入院を中止しています。実質的には既に第三段階と言っても良いとおもいます。議論であがっている発熱外来は第三段階においてどう機能するかも定められており、

発熱外来の対応

  • 発熱外来においては、新型インフルエンザ患者とそれ以外の患者を振り分け、感染拡大を防止するとともに、患者の症状の程度から入院治療の必要性を判断する(入院勧告の措置は解除されるので、医学的に入院が必要と判断される重症者のみが入院の対象となる)。
  • 発熱外来においては、患者に入院治療の必要性を認めなければ、必要に応じて投薬を行い、極力自宅での療養を勧める。
  • 発熱外来においては、患者に重度の肺炎や呼吸機能の低下を認める等、入院治療の必要性を認めた場合、保健所等の協力を得ながら、医療機関への入院を調整する。
  • 上記の目的のための発熱外来の形態は、先述のとおり各都道府県等がその特性に合わせ決めてよい。

第二段階の機能と似ていますが、第二段階においては根こそぎ措置入院であったものが、症状に応じて入院の適否を振り分ける様に変わります。このまま読めば一般医療機関の仕事はこれまでと変わらないようにも思えるのですが、

医療機関の対応

  • 感染症指定医療機関等以外において、新型インフルエンザ患者が発生、又は受診した医療機関は、協力医療機関として都道府県等に届出を行う。
  • 医療機関新型インフルエンザ治療の病床確保のため、すでに入院中の新型インフルエンザ及びその他の患者について、自宅での治療が可能な患者であれば、病状を説明した上で退院を促し、自宅での療養を勧める。
  • 医療機関は、空いた病床を用いて、重度の肺炎や呼吸機能の低下等を認め、入院治療を必要とする新型インフルエンザ患者の入院を受け入れる。
  • 新型インフルエンザ患者の入院については、一時的に新型インフルエンザ患者専用の病棟を設定する等して、新型インフルエンザ患者と一般患者とを物理的に離し、感染対策に十分配慮する。なお、この段階では、新型インフルエンザの確定検査を全症例に実施することはできないと考えられるので、患者の重篤度で分類して部屋を分けるなどの現場での工夫が必要である。
  • 医療機関は、待機的入院、待機的手術を控える。患者には緊急以外の外来受診は避けるよう啓発する。
  • インフルエンザ以外の医療も可能な限り維持できるよう、各医療機関は診療体制を工夫する。特に小児医療サービスの維持に努める。
  • 病診連携、病病連携は、地域の自助・互助のために重要である(都道府県等は地域の自助・互助を支援するため、平時より新型インフルエンザを想定した病診連携、病病連携の構築を推進することが望ましい)。

今の現場との差を考えて見ます。まず、

感染症指定医療機関等以外において、新型インフルエンザ患者が発生、又は受診した医療機関

これは現在の神戸では死文かと考えます。第12報にもあったように一般医療機関からの検体受付はしないとしていますから、一般医療機関が出来うるのは簡易キットでFluA(+)を確認する段階に留まります。現在のインフルエンザを症状だけで臨床診断するのは不可能です。ただですが、

なお、この段階では、新型インフルエンザの確定検査を全症例に実施することはできないと考えられるので

こういう文章もあります。そうなれば新型でも季節性でも治療方法は変わらないので、私のような開業医でもFluA(+)の診断のみで治療が出来るという解釈も成立します。本当にそうして良いのなら考えようによっては気楽ですが、そこのところの具体的指示と言うか決定事項がないのが隔靴掻痒の感がします。今回のような状況では独断による手続きミスを注意しなければならないのですが、結局のところ続報待ちになりそうです。

それとタミフル流通についてはあれこれ配慮されていますが、新型インフルエンザ診断のための第一歩と言うか、一般医療機関における検査の全てと言ってよい簡易検査キットが不足しています。不足と言うよりいつ底をついてもおかしくない状況です。これは町医者レベルだけではなく、元大学医@神戸様のコメントにあるように、

    今のところ、一般病院である当院ではFlu検出されておりません。
    発熱センターから近医受診を勧められた患者は流れてきますが。
    大学でも軽症例はキット検査自体をしない方向になっているようです。
    で、軽症例は全例帰宅させる、と。
    限られた武器ではしょうがないかと。
    ウチももうキットが・・・

たしかに神戸では新型インフルエンザ確認患者は増えていますが、患者の絶対数は少なく、1人のFluA(+)患者を発見するのに少なくとも10倍以上の空振りが必要です。「念のために」で既にかなり消耗していますから、市中の医療機関の在庫はあと僅かになっています。本来、今の時期はインフルエンザが終息し、わずかな残党に対して、シーズンの使い残しのキットで対応するぐらいの時期ですから、ある規模以上の大量消費が行なわれればすぐに無くなります。

神戸と大阪で必然的に大量消費が行なわれていますが、神戸・大阪のニュースを聞いて、全国各地で「念のために」の検査が増えているのはまず間違いないかと考えます。つまり日本中の検査キットの在庫が空になるカウント・ダウンが高々と鳴っている状態かと感じています。キットの残りが少なくなれば発熱外来に集められるのは当然でしょうが、一般医療機関とくに無床の診療所では事実上対応できなくなる可能性を考えています。

採血検査でインフルエンザの確認を行なうにも、たしか1週間弱程度(もう少し早いかな)は必要ですし、もっと早くなっても麻疹騒動の二の舞で、検査会社の試薬がすぐに底が付くのも容易に予想されます。一般医療機関が他の検査で確認できる範囲となれば、インフルエンザも含むウイルス性の感染症らしいのか、それとも細菌感染症らしいのかを見極めるのが精一杯です。この方法でもしばしば起こりうる混合感染となればお手上げです。

タミフルの心配も大事ですが、検査キットの心配もして欲しかったところです。もっともタミフルと違い自治体等に備蓄があるわけではありませんから、行政に要求してもどうにかなるものでは無いと判断したのかもしれませんが、現場の切迫した危機感としては深刻です。でも問屋筋に聞いても本当に無いと言っていましたから、来週あたりは診察だけで診断治療しなければならないかもしれません。

それでも「なんとかせよ」と言われれば、なんとかは考えるのですが、タミフルなどのインフルエンザ治療薬は検査結果に基づいて投薬しなければ保険審査で査定されますから、零細医療機関としてはこれもまた頭の痛い問題です。