純情ラプソディ:第58話 女同士の盛り上がるお話

 今日は忘年会。いつもの通り達也が手配した店で、

「カンパ~イ」

 今日は中華だよ。ヒロコは大学に入るまで中華と言えば、焼飯とか、餃子とか、天津飯ぐらいだと思い込んでたのよね。後は御馳走として酢豚とか。言ってみれば餃子の王将の世界。豚まんもあるか、ラーメンは中華料理になるのかな。

 ところが神戸は日本の中華料理の中心地のひとつ。そりゃ三大中華街の一つがあるものね。達也に教えてもらったけど、横浜は広東料理がメインで、神戸は北京料理が中心だって言うけど違いは良くわからない。要するに餃子の王将とは違う中華があるぐらい。

 今日の店はハンター坂にあるけど、一階からずらっと並んでいるお店。一階は飲茶みたいだけど、ヒロコたちは二階に。いかにも中華風って感じの飾りつけと調度が見るからに本格的なお店。


 梅園先輩の今年を総括する挨拶があって、後は歓談と言うか雑談。さすが達也が選んだ店。盛り付けもオシャレで綺麗だし、なにより美味しい。話はやはり今年の振り返りになって、

「ヒナも強くなったよ」

 これも忘れちゃいけない。雛野先輩も完全に一皮剥けた気がする。

「そりゃ、剥けるでしょ。毎晩必ず剥かれてるし」
「もう剥かれまくりで大変」

 まったく、どこの皮を剥く話をしてるんだよ。

「あれ、ヒロコは剥かれないの?」
「早瀬君の怠慢じゃない」
「ボクはちゃんと剥いてます」

 達也も何をムキになってるのだか。そんなものエビチリの皮を剥きながらする話じゃないでしょうが。剥かれる話はともかく、雛野先輩も実力者だけど、なぜか男性選手に弱いところがあったんだよね。思わぬところで格下に取りこぼすことが多かったもの。原因は札幌杯の時にわかったけど、

「今のヒナは男に乗ったって平気だよ。むしろ好きじゃないかな」
「そっちよりバックの方がイイ」
「ヒロコもそうみたいで・・・」

 達也は余計な口を挟まない。先輩たちの話にウカウカ乗ってたら、アレの実況中継までやらされるんだから。すぐに話が脱線するから困るんだけど、男性恐怖症と言うか、男に対する引け目、負い目が無くなったからで良いと思ってる。

「ヒロコが強くなったのは」
「札幌で女になったから」

 どうしてそっちに原因を求めるのよ。

「相性はどう?」

 アレって二人の相性が重要らしいのよね。それぐらい繊細なところがあるのも最近分かってきた気がする。でもって、達也との相性は良さそうな気がする。他と較べようがないけど、最近は確実に感じてるもの。最初はアレって感じだったけど、それが段々と強くなって、ついに、ついに、

『うっ』

 あの時は本当に全身に電流が走った。いわゆる子宮から赤い矢が脳天を突き破る感じって、こうだと思ったもの。でも初体験の時並みに恥ずかしたった。どう考えたって、物凄い姿を達也に見られちゃったんだもの。

「そんなことないよ。それを男は大喜びするの」

 その通りだった。達也はヒロコがそうなるのを見て余計に興奮したものね。それでも、あの瞬間を迎える時は今でも恥しいのが残ってるかな。あの瞬間を達也に悟られないように必死になっちゃうもの。

「そんなものバレるに決まってるじゃない」
「どんな状態になってると思ってるのよ」

 たしかに。あれ以上の密着状態はやりたくてもやれないものね。

「でもどっちでも男は喜ぶよ」
「だよね。豪快に絶叫しようが、耐え抜いてこらえきれずにビクンとなるのも、喜んでくれるものね」

 そうなのか。でもホントはどっちが良いのかな。

「どっちがじゃなくて、そうなるの。ヒロコはまだ感じ方が足りないから、どっちがなんて余裕があるだけ」
「そうだよ。頭が真っ白になるほど感じたら、自分がどうなってるかなんて覚えていないよ」

 そんなに! ヒロコもそこまで行くのかな。でもヒロコだって変わって来てるんだよ。前は一回ああなったら、これ以上は無いとしか思えなかったけど、次の波が押し寄せてきて、ウソッと思ってたら信じられなかった。

「最初より次の方が良かったでしょ」
「あれがドンドン積み重なって行くのよ」

 たしかに。ちょっと前に三回目になった時にヒロコも半狂乱になりそうだったもの。あれのまだ先があるとか、

「あるに決まってるじゃない」
「女はエンドレスよ」
「ヒロコも楽しみにしています」

 そこに片岡君が、

「倉科さんも変わりましたね、梅園先輩やヒナと一歩も引けを取らなくなりました」

 しまった、乗せられた。あの二人が悪い。でもね、そういう片岡君はどうなのよ。雛野先輩と同棲してるじゃない。知ってるんだぞ。

「ヒナを誰にも渡さず守り抜くためです」
「ヒナのすべては岳のもの」

 岳って片岡君の名前だよ。誰にも渡さないためって片岡君が言うともっともらしいけど、本当の目的はもっと頑張るつもりでしょうが。知ってるんだぞ。毎晩頑張ってる片岡君のところには及びませんよ~だ。

「毎晩じゃないよ」
「ヒナは優しいから休養日も作ってくれてるもの」

 なにが休養日だ、それは単なる生理だ。それも聞いてるんだから。まったくどんだけやってることやら。でもヒロコも達也と同棲したいよな。そうすればヒロコの体だって、もっと、もっと、達也を喜ばせるように変われるはず。

 ヒロコが感じるのを達也がどれだけ喜んでくれるかはわかったもの。だったらもっと感じて達也を喜ばせたい。ヒロコも感じて嬉しいものね。二人とも嬉しいなら、もっともっと感じるべきだし、そのためにはもっと経験を増やすのが一番のはず。

 それにしても同棲したらどれだけやってるんだろう。平日は授業があるから夜だけだろうけど、休みの日には朝からとか。やるよね、やらなきゃおかしいじゃない。でもさぁ、でもさぁ、そんなに実際にやれるのかなぁ。

「そうね、男には限界があるかも。出しちゃうと、次までインターバルが必要よ」
「インターバルがあっても無限じゃないものね」
「でも、一回目より二回目の時の方が長くない?」
「あるある、だから・・・」

 先輩のところもそんな感じなのか。じゃあ、女は無限だとか。

「体力の続く限りと言いたいけど、さすがに痛くなる」
「そこはさぁ、最初の時が肝心で・・・」
「そうは言うけど一刻も早く欲しいじゃない」

 前戯も嫌いじゃないけど、入ってから感じるのを覚えちゃうと、やっぱりそうなるのか。

「ピルは考えた」
「考えてる、考えてる。やっぱりゴム無しの方がダイレクトじゃない。生理休暇もなくなるし」

 その手もあるのか。でもおカネかかるよね。ここは二人のために達也にねだってみようか。達也もきっと賛成してくれるはず。それにピルだったら、ダイレクトにヒロコの中に来てくれるのも魅力的だ。

「ヒロコもそう思うよね」
「でも産婦人科に行くのに抵抗あるのがネックだよね」

 あっ、そこもあるのか。薬局で買えたらイイのにな。そしたら突然梅園先輩が真面目腐った顔になり、

「はいはい、ちょっと真面目な話にします。すぐ猥談に走るのがカルタ会の数少ない欠点です」

 そしたら全員で梅園先輩に向かって、

「お前が言うな!」

純情ラプソディ:第57話 快進撃

 今年は港都大カルタ会の快進撃の年として良いと思うよ。札幌杯でも優勝したけど、西日本王冠戦も一部優勝。一月の末には東西王冠戦に出場するんだもの。これに勝てば、

「ビール一年分がまたもらえる」

 札幌杯と合わせて二年分になるから闘志が湧いてくる。団体戦躍進のキッカケになったのが片岡君の復活。これがとにかく大きかった。梅園先輩なんて、

「片岡大明神の復活だ!」

 団体戦は五人の内で三人勝てば良いのだけど、当たり前だけど五人に強弱はある。この強弱なんだけど、カルタの場合は段位が違えば絶対ぐらいの差になり、ビギナーズ・ラックは起こらない程のものになるんだよね。

 とくに大学カルタではそう。みんな現役バリバリだから、一段差ならまだ番狂わせの可能性があっても二段差を覆すのはまず不可能ぐらいとして良い。これも補足しておくけど社会人になると話は別。

 カルタは級位も段位も下がらないけど、社会人では年齢と練習量の差が大きくなり、A級選手がB級や下手するとC級にも負ける事は珍しくないのよね。職域学生大会も去年はD級だったけど、B級の達也でもA級五段に勝っちゃったぐらい。もっとも相手はかなりのお爺さんだったけど。


 梅園先輩は団体戦を勝ち上がるにはポイント・ゲッターが三枚は必要と言ってた。ポイント・ゲッターも梅園先輩の言い方だけど普段は、

『PG』

 こう呼んでる。普通にポイント・ゲッターて呼べば良い気もするけど、

「なに言ってるのよ。卵かけご飯はTKGでしょうが」

 それはともかく、PGとはA級五段以上と見たら良いと思うよ。A級五段であれば、A級四段に高確率で勝つし、B級三段以下なら余裕で蹴散らしてしまうもの。

 PG三枚の意味はシンプルで、三枚で三勝したら団体戦は勝つってこと。下位相手だったらこれで必勝チームを作れるんだよ。そりゃ、PG五枚そろえれば強力だろうけど、実際のところ三枚そろえるのも容易じゃない。どこも苦労してるもの。

 ただ上位進出となると相手もPGが三枚いると言うか、三枚いるチームが勝ち上がって来てるんだよね。そこで起こるのがPG同士の星の潰し合い。ここも、

 ・PG同士が一試合
 ・PG同士が二試合
 ・PG同士が三試合

 こうなるのだけど、たとえばPG同士が三試合で一勝二敗なら、残りのその他同士の二試合で二勝すれば勝てる可能性が残るはずだけど、うちはこの時点でジ・エンド。必ず負けるその他が一枚いるんだよね。

「誰だそいつ」
「お前だ!」

 これはうちの全自動一勝献上機から見た方がわかりやすいかもしれない。

「ボクじゃないよな」
「お前しかいない!」

 PGに勝てないのは織り込み済みだし捨て試合と勘定するから影響ないのだけど、その他にも絶対勝てない影響はかなり深刻。たとえば席割で、

 ・全自動一勝献上機 VS 相手のその他戦

 これがあるとここで確実に一敗。残るのはPG三枚とその他一枚。これは相手も同じ。残る組み合わせは、PG三試合の時はもう説明したから、

 ・PG同士二試合
 ・PG VS その他二試合

 ここもPGにその他は勝てないから互いに一勝一敗になり計一勝二敗。そうなるとPG同士戦を絶対に負けられなくなるし、これが席割を見た瞬間にわかる事になる。この辺が札幌杯のリーグ戦で苦戦した原因の一つ。

「そうだったよね」

 この辺の組み合わせをすべて説明すると煩雑になるから省略するけど、とにかく全自動一勝献上機戦以外の結果が二勝二敗なら、その瞬間にジ・エンド。それはいかなる相手でも同じ。だから席割は非常に重要だったし、見た瞬間に絶望感に浸ったこともあるもの。

「そんなところに片岡大明神が復活してくれたからPG四枚の超強力体制になったんだよね」

 札幌杯の決勝がそうだった。京大は片岡君をその他の安全牌と見てたようだけど、突然PGになっただけではなく、京大のPGである朝比奈さんや波多野さんを撃破したものだから、

「そうだったよね。第三戦なんか玲香が早瀬君になっちゃって・・・」

 誰でも勝てる達也に城ケ崎クイーンだったものだから、

「誰でもって言い過ぎでしょう」
「うん、C級以下なら勝てる」

 片岡君が海老原君、雛野先輩が小山田君。この二人が負ける事は達也が勝つぐらいありえなくて、梅園先輩に波多野さんが勝てないのもほぼ間違いなかったから、

「さすがの玲香も席割を見てあきらめてたよ」

 ヒロコも朝比奈さんに勝ったから四勝一敗で優勝を決めちゃったものね。片岡君はその後も快進撃を続けて、向かうところ敵無し状態。四枚のPGがそろえば西日本王冠戦も全勝優勝だったものね。

「敵無しは言い過ぎで、城ケ崎クイーンには歯が立ちませんでした」
「そりゃ、片岡じゃクイーンに勝てるわけないからな」
「ほう、だったらクイーンに何枚取れたか言ってみろ」
「さ、三枚」
「そしてもらった送り札が十五枚。終わった時には三十七枚の札が自陣にビッシリ並んでいただろうが」

 城ケ崎クイーンは別格、まさに怪物。赤星名人でも勝てないぐらいだもの。ちょうど達也の裏返し見たいな絶対的な存在。

「裏返しって、いくらなんでもだろ」
「これ以上適切な表現は世界中探してもない」

 城ケ崎クイーン・クラスになるとPGを超えたエースになる。エースの存在は大きくて、

「エースを複数そろえるとPGをその他に変えてしまうほどの破壊力となる」

 東大がそうだった。赤星名人と今岡君の破壊力は半端なかったもの。あの時も席割次第でどっちが勝ってもおかしくなかったものね。それはともかく、うちにもエースがいる。言うまでもなく梅園先輩。

 札幌杯でもリーグ戦からプレイオフ、さらに決勝に至るまで全勝だったもの。関西王冠戦でも同様。まさに当たるところ敵なしぐらいの絶対のエース。そこに準エースと呼べる雛野先輩と片岡君がいるんだよ。

「ヒロコも準エースだよ」

 準エースは妙な言い方だけど、並みのPGなら高確率で勝ってしまうような存在で良いと思う。西日本王冠戦のヤマは立命館戦で、さすがに強かったけど、

「あそこは穴が無かったけどエースがいなかったものね」

 立命館はA級五段を五枚並べる強力チームだったけど、エース一枚に準エース三枚のうちに勝つのは難しかったってこと。とにかくエース級が入るとチーム構成はさらに変わり、うちなら、

 エース >> 準エース > ポイント・ゲッター > 数合わせ

 こんな感じになって、

「大学カルタに数合わせはないから、その他だろう」
「うちには不動のレギュラーとして居座ってる」

 いちいちウルサイ、黙っとれ。立命館はPG五枚と言えなくないけど、梅園先輩、雛野先輩、片岡君、さらにヒロコも加わった四枚から三勝を挙げるのは容易じゃなかったぐらいかな。ヒロコが負けたのはちょっと悔しかったけど。

「王冠決定戦の相手は慶応だね」

 札幌杯リーグ戦では負けてるのよね。

「あの時は片岡君は不調だったけど、今は違うよ。それに慶応も玲香のところに負けてるからね」

 慶応も立命館に似たチームかな。穴がない代わりに絶対的な切り札がいないものね。うちはブラックホールこそいるけど、

「ボクがブラックホールか」
「自覚があればよろしい」

 残りの四枚が強力だから十分に勝機があるはず。いや絶対に勝ってビール一年分持って帰ってやる。

「如月さんには驚いた」

 新星学園は絶対のエースと信じ込んでいたジャイアント斎藤が、赤子の様に捻らたものね、

「ムイムイもヒロコも新星学園の三羽烏に勝ったけど、あそこまで完勝とは驚いたもの」

 カスミンが出場したのは大学選手権の二試合だけだったけど、一枚も取られてないのは今でも信じられないぐらい。

「これにもしカスミンが加われば」
「史上最強かもしれない」

 カスミンは司法試験予備試験を合格しちゃったんだよね。それもだよブッチギリのトップだって。教授も驚くのを通り越して呆れてた。来年は九分九厘どころか余裕で司法試験も合格するものね。

「だったら如月さんをレギュラーにしたら」

 すねるな達也。すかさず梅園先輩は、

「大学選手権の時のような突発事態が起こらない限り、何があっても早瀬君は不動のレギュラーよ」
「やはりボクを頼りにしてたのですね」
「そらそうよ。いくら全自動一勝献上機でも、いなけりゃ団体戦は不戦敗になっちゃうじゃない」

 みんな達也と一緒に戦いたいし、それをカバーするために精進した結果が今だもの。達也がいなければ、今の港都大カルタ会はなかったのは誰もが認めてるんだから。

「そうだ早瀬君。今年の忘年会の手配は」
「もちろんバッチリです」
「期待してる。誰にだって取り柄があるものよ」

 思いっきり達也が凹んだから、後で慰めてやらなくっちゃ。

純情ラプソディ:第56話 ポチの真相

 札幌杯後はヒロコと達也、雛野先輩と片岡君がラブラブ・カップルになったのだけど、心配なのはポチやってた藤原君と柳瀬君。まず藤原君の方は、

「恋は実る時も実らない事もあります。愛する人が立ち直れるのに手を貸せただけで満足しています」
「それでイイの?」
「雛野先輩が片岡を好きなのが、わかってしまいましたからね」

 いつからだって聞いたら、部屋を片付けた時だって。そこで見つけた一冊のノートに片岡君への想いを切々と書き連ねてあったんだって。それはもう乙女の純情剥き出しの強烈すぎるものだったらしいけど、

「だからボクは断ったのです」
「えっ、なにを」
「片岡のところに行くべきだって」

 えっ、えっ、雛野先輩が藤原君を誘ってったって! 好みじゃないから断ったのはウソだったの。それもだよシャワー浴びて、ベッドまで行って待ってたなんて。もうウエルカム状態じゃないの。そこまで迫られたのにどうして、

「でも雛野先輩は好きだったのでしょう」

 藤原君は朗らかに笑って、

「当然です。雛野先輩には心に深い傷を負われています。それを癒すために梅園先輩に選ばれたのです。でもわかってしまったのです。雛野先輩が再び男を迎え入れる意味をです。誰を迎え入れるかで雛野先輩は変わってしまいます」

 でもだよ、雛野先輩がレイプの過去を乗り越えて、再び男を迎え入れても良いところまで持ち込めたのは全部藤原君の献身の賜物じゃない。いくら片岡君への想いを知ってしまったにしても、そこまで迫られたら普通はやるよ。

 言い方は悪いけど、やったら良い方に転ぶ可能性も十分にあるじゃない。片岡君じゃなく藤原君でも雛野先輩を癒せた可能性はあるじゃない。そんなものやってみなければわからないじない。

 それにだよダメだったらやり捨てでもイイじゃないの。女としてやり捨てにされるのは嫌だけど、誘っているのは女だから、そこは男なら気にする必要はないはず。

「可能性ですか? あったかもしれませんね」

 だったら、どうして、

「片岡なら一〇〇%、ボクなら九十%ぐらいだったかもしれません」

 九十%なら行くべきよ、

「残りの一割が問題です。そちらになれば雛野先輩は二度と立ち直れません。だから片岡が雛野先輩を抱かなければならなかったのです。ボクには十%になるリスクを許すことが出来なかったのです」

 藤原君の推測がどれぐらい正しいのかはヒロコにはわからない。でも藤原君は十%のリスクを重く見ただけでなく、据え膳状態の雛野先輩に誘われても、自分の信じるところを貫き通したぐらいは言えるよ。

 でも抱きたかったろうな。そのためにポチとして尽くし上げてたのに。結果論で言えば雛野先輩と片岡君のカップルはラブラブも良いところで文句なしだけど、その時に藤原君が抱いていたらの思いは今でもあるはず。

「雛野先輩は素晴らしい女性です。あそこまで迫ってもらっただけで出来過ぎで満足しています。また新しい相手を探しますよ」

 この経験は無駄じゃないはず。これを活かして藤原君ならきっと素晴らしい相手をゲットすると思う。雛野先輩も悪い人じゃないけど、もっと藤原君に相応しい女はいくらでもいるはずよ。せめて前途にエールを贈ってあげよう。


 もう一人のポチの柳瀬君だけど、こっちの方が複雑かもしれない。だってだよ、ポチを作った目的はすべてが雛野先輩のため。梅園先輩のポチは単なるお付き合いみたいなものじゃない。

「ええそうでした。最初に相談された時にはビックリしましたよ。それでも藤原は大乗り気でしたから断りにくくて」

 じゃあ、やっぱり形だけ、

「そのつもりだったのですが・・・」

 ポチが出来てからも雛野先輩はやはり及び腰だったで良さそう。

「だから見せなきゃいけないから、協力してくれと言われまして」

 部屋にポチを引き込んだのも梅園先輩が先で、なかば強引に雛野先輩にもそうさせたんだって。でも壮絶な部屋の片づけやったんでしょ、

「ええ、一緒に」
「洗濯は?」

 やったのはやったそうだけど、洗ったと言っても梅園先輩が買ってきた新品だって。一度でも肌に通したものは、見せもしてくれなかったそう。

「じゃあ食事は?」
「梅園先輩が作るって言ってくれたのですが、ご存じの通りのもので」

 下手なんだよね。雛野先輩が食べたら悶絶したって言ってたもの。雛野先輩もかなりのメシマズで、二人ともホントにセンスが先天的に欠乏してるとしか言いようがない。メシマズの人は仕上がりも良くないけど、なぜか味見もしないのよね。

 とにかくメシマズの自意識があるのにレシピを守らない。分量は適当も良いところだし、調味料も信じられないものを平然と代用をする。ケチャップが切れてるから、同じ赤色だからタバスコ入れるなんて信じられないもの。

 さらに思い付きで余計なものを平気で加えるし、必要なところに限って狙ったように手抜きする。だから生焼け、生煮え当たり前の様に発生するんだよね。トドメはそれを自分では不味いと感じながら他人に平気で出す。でもメシマズは梅園先輩との関係に微妙な変化を及ぼしたみたいで。

「ホントに美味しそうに食べてくれるので、だったらって事になって・・・」

 柳瀬君が買い物して夕食を作るようになったそう。これもなんとなくわかる気がする。梅園先輩はメシマズだけど、美味しいものを食べた時の笑顔は素敵なんだよね。あの笑顔を見たら作りたくなるのはヒロコもわかるもの。

「一緒にいるとわかるのですが、よくまあ、今まで一人で暮らして来れたものかと思うほどでして」

 梅園先輩のプライベートはヒロコもちょっと知ってるけど、無頓着と言うか、雑と言うか、ムチャクチャと言うか。言ったら悪いけど、嫁にするには誰もが躊躇どころか、引くタイプ。ぶっちゃけ主婦失格どころか無能主婦そのもの。

「札幌杯の後に、雛野先輩と片岡が上手くいったので相談したのですが・・・」

 もうポチの仕事は終わりだものね。そこで梅園先輩に言われたそうだけど、

『柳瀬君、これまでご苦労様。ここまで協力してくれてホントに感謝してる。ヒナもあれで一人で生きて行けるはず。たいしたお礼は出来ないけど、そうだ副賞のビールでも持って帰る?』

 ビール一年分ぐらいの価値はありそうだものね。でも柳瀬君は、

『他でも良いですか?』
『イイよ、ムイムイに出来る事なら』

 ビールの代わりになにを。

「このまま続けさせて下さいって。だって、あのままじゃ元通りになってしまいます」

 ちょっと待ってよ。相手は梅園先輩だよ。そりゃ、黙っていれば知的美人だけど、あのガハハ笑いだし、メシマズの、片付け嫌いの、掃除嫌いだよ。

「だから必要だと思いませんか」
「そりゃ、柳瀬君がいればマシになるだろうけど」

 柳瀬君、ホントに惚れたんだ。梅園先輩は欠点も多いけど、美点もあるんだよね。とにかく本当の友達思い、仲間思い。自分の事をそっちのけにして人のために奔走するんだもの。それもやることがトンデモなのが玉に瑕、いやそうじゃない、あんなもの普通は出来ないよ。

 それこそ必要なら平気で恥をかくし、勉強してまでレズだってやっちゃう人。本質は尽くし型の究極の気がする。だからカルタ会はまとまってるし、梅園先輩にみんな感謝してるし尊敬してるもの。ヒロコだってどれだけお世話になった事か。

「でも大変だと思うよ」
「それも恋でしょう」

 かもね。好きになるのに理屈はいらないか。それより何より、柳瀬君は梅園先輩のすべてを見て、それでも惚れてるものね。水を差すのがおかしいよね。柳瀬君は尽くすことの出来るタイプみたいだし、梅園先輩の本質も尽くし型。

 尽くし尽くされて愛を深めていくお似合いのカップルになるかもしれない。二人の関係がどこまで続くか、どこまで深まるかは予想も出来ないけど、

「梅園先輩はどう答えたの?」
「どうかよろしくお願いしますって」

 二人の前途に幸多からんことを。柳瀬君も立派な男だよ。

純情ラプソディ:第55話 ピロー・トーク

 あれで良かったと思ってる。昨夜は、ああなる夜だったと思ってる。もう達也に決めたし、決めたからああなったんだ。ヒロコには後悔はない。来るべき時が来て、それを迎え入れたんだから。感動の朝を迎えた後だけど、

「達也、もう少し、このままでいたい」
「ボクもだ」

 そのまま連泊することにしたんだ。昨日でカルタ大会は終わったし、今日は御褒美タイムだもの。梅園先輩に連絡して了解だけもらったけど、

「飛行機のチケットはこっちにあるから、明日千歳で合流でイイよ。延長しても構わないけど、その時は自前で帰って来てね。ムイムイは如月さんとポチのお世話やっとくから」
「雛野先輩は?」
「あいつらも千歳で合流の予定」

 そうなるよね。札幌観光をどうしようかと思ったけど、大通公園に散歩がてらに出かけただけ。だって、だって、そんな時間より今はだもの。でもね、昨夜が初体験だから昼間だって違和感がずっと残ってたんだよね。なにか挟まってる感じがずっとあって変な感じだった。

 そうなるって聞いたことがあるけど、経験すると良く分かったかな。でも不思議と嫌じゃなかった。達也もヒロコが本当に初めてだとわかって、すっごく喜んでくれた。たぶんそうだろうと思っていたみたいだけど、はっきりわかって感動したぐらいかな。

 やっぱり女の初めてって男は嬉しいみたいだね。女にしたらひたすら耐え忍ぶ感じの方が強いとヒロコは思ったけど、あれだけ喜んでくれたら素直に嬉しいもの。達也はどうなんだと聞いたんだけど、

「もうヒロコ以外に考えられないよ」

 初体験を済めば二回目以降になるのだけど、ここから先は人によって話がかなり変わるらしいのよね。初体験の話は大同小異でひたすら我慢しているうちに終わったぐらいだけど、経験を重ねると差が大きい感じ。

 中には初体験で懲りて恐怖症になるのもいる。シチュエーションが特殊過ぎるけど雛野先輩なんかそうだよね。まあ初体験をレイプされて次が欲しくなるのはまずいないだろうけど、恋人相手でも、もうコリゴリ感覚の話は聞いたことがあるもの。

 次にいるのが、結ばれることの満足感はあるけど、それだけって人。望まれれば嬉しいし、もちろん応じるけど、どう言えば良いのだろう。行為自体はさして好きでないぐらいって言えば良いのかな。

 とにかく昨夜に初体験を済ませたばかりだからヒロコにはわからないけど、次に経験するのは『感じる』になりそう。これも誰しも感じるわけでないのが女だって言うのよね。感じるってどんなものかだけど、

『ネンネのヒロコにわかるように言えば・・・』

 ヒロコだって自分を慰めることはあるけど、あれよりずっと強く感じるだけでなく、

『子宮から赤い矢が脳天を貫いて、頭が真っ白になる感じ』

 なんだ、なんだ、そのやたらと文学的な表現は。

『そこまで行けば一人前よ』

 なにが一人前かは疑問だけど、誰しもそうなるものではなさそう。というか、女のモロの猥談でも、そこまで感じたのはある種の自慢話と言うか、武勇伝みたいな扱いなのよね。

『相手次第も大きいよね』
『前の彼氏は短小だったし、ウソみたいに早漏だったからサッパリだったもの』
『あるある、最初の彼氏は思いっきりヘタクソだったのよ。どれだけヘタクソか今の彼氏でよくわかったもの』

 達也はどうなんだろう。こんなもの比較がないからわかりようがないものね。だって、だって、恥しくてロクロク見れないし、母子家庭で一人娘だからお父さんとか兄弟のアレも見たこと無いから大きい小さいの違いもわからないよ。

 達也は普段と違ってひたすらリッチだった。そう早瀬の御曹司状態でヒロコをもてなしてくれた。だってさ、夜に遊びに行った後にホテルでしょ。着の身着のまま状態だから連泊するにもなにもないのよね。

 上から下まであつらえてくれて、まるでどこかのお嬢様みたいに化けてホテルのレストランでディナーをご馳走してくれた。部屋に戻ると望まれた。そりゃ、望むよね。望まれないのも問題だけど、やっぱり怖かった。しっかり違和感が残ったままだもの。

 でも受け入れた。他に選択肢なんかないじゃない。でも一度経験するだけで心に余裕が出来た。知識として知っているのと、実際に経験するのではそれぐらい違うって事。まだまだ、楽しむとかのレベルには遠いし痛かったけど、満足した達也を見て嬉しかったもの。一戦が終わった後にベッドで、

「達也が家を継いだらこんな暮らしなの?」
「そうでもあるし、そうでもない」

 どうしたって出張が多くなるから、出張先ではホテル住まいで夕食とかは接待が多いんだって。それはなんとなくイメージできそう。

「その反動って訳じゃないけど、家では案外質素だよ」

 質素と言っても執事までいるセレブだから桁が違うけど、食事内容に関しては驚くほど差はないみたい。これも理由はあって、外食が豪華と言うか、カロリーが高すぎるから、それのバランスで家の食事は質素ぐらいかな。

 でも本当のセレブ家ってあるんだね。なにしろ家事はやらないんだよ。家政婦さんというより女中みたいな人が何人もいるし、専属の運転手だっているんだもの。料理も栄養士が指示したものを専属の料理人が作るとか。

「家でのパーティもあるからね」

 なんとなくわかったのは、外面の多い生活で良さそう。早瀬グループ総帥の顔をしていないといけない時間が多いぐらいかな。

「トップは孤独なものだよ」

 上に立つのはどこでも大変と思うけど、あれほどの大企業となると人に任せる度量が常に問われるそう。そりゃ、任せて成功してくれれば良いけど、失敗する時もあるし、裏切られることもあるんだって。もちろんサボるのもいる。

 それと内外問わず取り入ろうとする人が後を絶たないと言うか、ウジャウジャ湧いてくるらしい。だから贔屓どころか、贔屓に見えるような行動や言動も絶対にタブーなんだそう。

「今から思えばだけど、オヤジは不幸だったよな」

 達也に言わせると唯一心を休ませ、憩えるのは家族じゃないかって。まあ、そんな人間不信になりそうな職場に入ればそうなりそうだけど、

「達也の本当のお母さんはどんな人だったの」
「良く知らないけど政略結婚だったって話だよ」

 ああ、そうなるのか。このクラスになると結婚すら勢力拡大の道具になっちゃうんだ。ただ短い結婚生活だったけど、夫婦仲は非常に良かったらしい。この辺は達也が中学から預かってもらった元執事から聞いた話らしいけど、

「結婚してみたら余程相性が良かったんだろうな。あのオヤジが家ではニコニコと話し詰めだったらしいからな」

 後妻を迎えた経緯は複雑そうだけど、こっちは結果的に失敗で、

「ボクには自由に好きな相手を選ばせたかったみたいだよ」

 う~ん、どこをどう聞いても達也との結婚生活は甘くなさそう。ヒロコが達也を懸命に支えるぐらいの図式が浮かんじゃう。かなり古風な嫁をやらなきゃ、務まりそうにない感じ。

「それはヒロコに申し訳ないと思ってるし、そうならないように出来るだけするつもりだ」

 セレブの家って言っても、遊んでいてもセレブ出来るわけでなく、セレブの家、セレブの生活を維持する仕事をやらなきゃいけないって事だろうな。そりゃ、持ち物とか、生活の一断面はリッチそのもので、貧乏人からしたら憧れどころか、嫉妬の対象にしかならないけど、

「ヒロコは賢いよ。そこを勘違いしている人が世の中多いんだよね。こんな言葉があってね、

『起きて半畳寝て一畳、天下取っても二合半』

オヤジがたまに呟いてたかな」

 出典は豊臣秀吉とも言われてるけどはっきりしないそう。どんなに権力を揮い、巨万の富を築き上げても、人の基本的な暮らしはそれで済んでしまうぐらい。今では贅沢を戒める言葉として使われているみたいだけど、

「秀吉の言葉に相応しい気がしてるよ。秀吉は絵に描いたような成り上がりだろ。だからあれだけの贅沢もしたのだけど、ふと我に返った瞬間に思ったんじゃないのかな。これだけの権力と富をもっても人の生活ってこの程度ですんじゃうんだって」

 だったらと思うけど、築き上げた者は肉親に譲りたいと思うのも人情だとしてた。達也の家は桁外れだけど、たとえば医者が子どもを医者にさせたがるのもそうだろうって。あれは親なりに、子どもに少しでも楽をさせたいぐらいだって。

 達也の家もそういう部分はあるけど、あそこまでの家になると他にも背負ってるものが多すぎるとしてた。シンプルにはグループの家族の生活を背負ってるぐらいかな。

「人間って本来どう生きるべきかの命題を考えたこともあるけど、ボクが自由に生きれば、それですべて解決とも言いにくいのだよね。せめて次男以下に生まれていれば変わっただろうし、弟の出来が良ければ違ったろうけどね」

達也も相当悩んだ時期もあったみたいだけど、家を継ぐって決めたみたい。それが本当の正解かどうかは、

「人生が終わるころまでには出てるのじゃないかな。だけどね、ヒロコがいるだけで変わりそうな気がしてる。少なくともヒロコがいるだけでオヤジとは違うからな」

達也の肌の温もりを感じながらの話だったけど、ふと気が付いたんだ。これってもう恋人を越えてるよ。そりゃ、やったから関係がグンと深まったけど、そんなレベルじゃなく、気分は婚約者どころか、結婚秒読みみたいな感覚。でもそれが何故か嬉しい。
ますます達也しかいないって思えなくなってるもの。良い人に出会ったと思う。そりゃ、達也にも欠点はあるけど、満点の相手なんて世の中にいるはずない。お互いに足りないところを補い合うのがパートナーだよ。達也となら生きていける。

純情ラプソディ:第54話 札幌の夜

 試合場に雛野先輩と片岡君は来てくれた。上手くいったと顔見た瞬間に確信した。どこか翳があった片岡君の表情が吹っ切れてたし、雛野先輩のあんな嬉しそうな顔を見たことがないもの。

 京大との決戦は意外な展開になった。だって三連勝で勝っちゃったのよ。なんと片岡君が朝比奈さんにも波多野さんにも勝っちゃったんだよ。城ケ崎クイーンも、

「まさか真澄と瞳が負けるなんて・・・」

 ポイントゲッターとして計算してた二人が、安牌と踏んでいた片岡君に負けたら勝負はそこで決まったようなもの。三試合で終わったものだから、

「玲香、勝負はお預けね」
「御託はクイーン戦を勝ち上がれてから聞いてあげる」

 楽しみにしていたクイーンと梅園先輩の真剣勝負が見られなかったのは残念だったかな。夕方から表彰式があり副賞のビール一年分を無事ゲット。引き続いて優勝パーティみたいなものがあったけど、これまたモロの映画撮影。開会式の時の様に着飾ってエキストラ。ちなみに出席していたのはうちと京大だけ。これすら途中で、

『後は不要です』

 部屋に帰らされた。なんかお腹も中途半端と言うか全然足りないよ。そしたら梅園先輩が、

「せっかく札幌に来てるのよ。なのにずっとホテルに籠りっぱなしじゃない」

 たしかにそうだ。

「早瀬君、これから玲香たちと繰り出すから、店を手配しとて」

 札幌に来てまで達也に投げるな。でも、話に聞くすすき野は行きたいよね。

「達也お願い」
「お任せ下さい」

 まあ達也も行きたいはず。任せておけば心配ないけど、

「ヒナと片岡君は留守番ヨロシク。今日中には帰らないし、時間がもっと欲しかったら連絡してね」

 だったらヒロコと達也も、

「悪いけど早瀬君がいないとすすき野にたどり着ける自信が無いから我慢して。やりたないなら神戸に帰ってからにして」

 だからモロ過ぎるって。片岡君も雛野先輩も茹蛸のように真っ赤になってるじゃない。やがて城ケ崎クイーンたちも部屋に来て、

「いざ、すすき野の夜に」
「楽しむぞ」

 それにしても梅園先輩と城ケ崎クイーンはホントに仲がイイね。まずジンギスカン料理の店に行き、たらふく食べて大いに盛り上がり。次のカラオケでも、

「行くわよ玲香」
「任せてムイムイ」

 二人で歌って踊りまくってた。いつもの梅園先輩の暴走だけど、二人になると二倍じゃなくて二乗だよ。カラオケで歌いまくって、そろそろお開きかと思ったのだけど、

「まだ飲み足りないよ」
「そうだ、そうだ。朝まで飲むぞ。でもその前に札幌ラーメン」
「それイイね」

 飲んだ後にラーメンってよく聞くけど、そんな感じのお客さんが一杯いたのに驚いた。ラーメンを食べ終わって、

「ヒロコは早瀬君に送ってもらってね。ムイムイは玲香たちと盛り上がるから」

 アッと思う間もなく達也と二人にされちゃった。そこから達也と喫茶店に行ったんだけど。

「今ごろ、片岡君と雛野先輩は」
「かもですね」

 愛する男と女が二人っきりになって盛り上がらないはずがないものね。ましてや旅先だし。

「ヒロコ、あのぉ、そのぉ・・・」

 そういうことになるよね。ヒロコの心はとっくに決まってる。達也しか考えられないし、できれば達也だけにしたい。いやそうしてみせる。でもそうなるとラブホか。どこでやっても同じようなものだけど、一番最初がラブホなのはちょっと。

「ヒロコおいで」

 喫茶店を出た達也はグイグイって感じでヒロコを連れて行くのよね。これは達也も心を決めてるよ。今夜は絶対にしてるはず。やがて見えてきたのは札幌駅。駅に入って左側に進んだけど、そこにはタワーホテルがあるはず。受付で達也はなにやらカードを見せて、

「一番良い部屋を」

 こんな時間にいきなりどうにかなるのかと思ったけど、

「承りました」

 達也はヒロコのために御曹司の力を使ったんだ。そこからエレベーターに乗り部屋に入ると、なんて広くてゴージャスな。きゃぁ、キングサイズのダブルベッドだ。こんなに大きなベッドが本当にあるんだ。

「夜景も綺麗だよ」

 達也は窓辺で夜景を眺めるヒロコの肩に手を置いて、

「愛してる」
「ヒロコも・・・」

 続きは言わせてくれなかった。だって唇が塞がっていたんだもの。なんて甘い、なんて気持ちイイの。なんだか体の力が抜けていく。これがヒロコのファースト・キス。そんなヒロコを達也は力強く抱き寄せて、

「誰にも渡さない」

 もうたまらなかったけど、

「お願いシャワーを・・・」

 達也が先に浴びたけどヒロコは震えてた。だって、だって、今からヒロコはこのベッドで達也と結ばれるんだよ。達也がバスローブで出てくると、一目散にバスルームに。服を脱ぐのにも恥しいぐらい手が震えてるのもわかったもの。最後の一枚に手を懸けた時なんか、もうブルブル。本当言うと怖い。何されるかわかっていても怖いものは怖いもの。

 シャワーが終わったヒロコはなんとかバスローブを羽織ったけど、部屋に戻るのが怖かった。嬉しい気分もあるけど、怖い方がどうしても勝ってる感じ。そんなヒロコを達也はしっかりと抱きしめてくれた。

 達也に抱かれると不思議に落ち着いてきた。口づけってそんな効果もあるのかも。達也の手がバスローブの紐にかかっているのがわかる。次に起こるのはバスローブが床に落ちるけど、その瞬間にヒロコの身を隠すものがすべてなくなるんだ。

 そしてベッドに抱き合ったまま倒れ込んだんだ。恥しかった、顔から火が出るほど恥しかった。逃げ出したい気持ちもあったけど、必死になってシーツをつかんでた。ここで逃げちゃダメ、ここまで来たんだって。

 達也の手が、達也の唇がヒロコを愛してる。ヒロコのすべてを愛そうとしてる。そして何度も何度もヒロコを落ち着かせるために口づけを与えてくれた。

「ああっ」

 そ、そこは・・・来るのは知識にあるし、必ずそうされるってわかっていても、実際にされると耐えるしかなかった。それも唇からだった。

 達也は丹念に丹念にヒロコの大事なところを愛してくれている。シーツを握る手に力が入る。こんなの耐えられないよ。でも、でも、これで終わらいないのはヒロコでも知ってる。今夜はそれを達也が望みヒロコが受け入れた日だもの。

「行くよ」
「うん」

 熱くて逞しいものがヒロコにあてがわれている。ヒロコはシーツを引き千切れるぐらいつかんでた。

「うっ」
「痛くないか」

 来る、達也が来る。ゆっくりと、でも確実にヒロコに入ってくる。ヒロコの全神経はそこに集まってる。こ、これが達也。

「痛い」
「ゴメン」

 口づけで慰めてくれたけど、終わってくれるはずもなく、

「うっ」

 また進んでくる。達也はヒロコの反応を見ながら、何度も何度も休みながら進んできた。もう限界と思った時に、

「ヒロコ、ちょっとだけ我慢してね」
「あっ」

 そこから一気だった。

「うぅぅぅ」

 達也のすべてを受け入れたってわかった。だって身動きできないよ。でもこれで終わりじゃない。ここから始まるぐらい知ってるけど、こんな状態からホントにあるの。こんなものどうやって耐えれば、

「ヒロコ、愛してる。もう離さないよ」
「達也、達也」

 この言葉が合図の様に達也は動き出した。男が動くとこうなるのを体で覚えさせられたよ。受け入れるってこういう事なんだって。なぜか涙が出るのをどうしようもなくなった。何分ぐらい経ったのだろう、すっごく長いような気もするし、短いような気もするけど、達也の動きが一段と早くなって。

「愛してる」
「あぁぁ」

 達也がヒロコから去って行くのがわかったけど、あれだけ大変な目に遭ったのに、なぜか去って行って欲しくないと思ったのが不思議だった。もう泣きじゃくり状態のヒロコを達也はずっとずっと慰めてくれたよ。


 気が付いたら朝だった。いつしか眠ってたみたいだけど朝の光が眩しい。これは二人の朝。もう昨日までの二人と違う。扉を開けて新しい世界を歩みだしてるって強く強く感じてた。

 あれはまさに扉だった気がする。ヒロコがずっと守っていた扉。そこに達也を迎え入れられたけど、やだシーツに、

「ヒロコ、頑張ったね」
「うん」
「痛かっただろ」

 痛かったけど、その何倍も嬉しい気分に満たされてる。そうだよ、もう離れないし離れられない気持ちしかなかったもの。隣で寝ている達也が最高に愛おしい。この世の幸せを一身に受けてる気がする。

「ヒロコは幸せ」
「ボクの方が百倍幸せだよ」
「だったらヒロコはその千倍」

 確信した。この世に赤い糸はあって、それが結びついてるのが達也だって。そんな達也を受け入れた自分が誇らしい気さえした。