労基署の見解では、当直とは夜間の見回り程度の宿直業務であり、原則として睡眠時間が確保される状態のもの。しかし、周産期医療現場では夜を徹して分娩などの医療行為に当たることが常態であると言える。この点について労基署は、当該業務は事実上、宿直ではなく夜間勤務であるとし、それに伴う時間外勤務への賃金を支払うよう求めた。
これは平成14年3月19日付基発第0319007号「医療機関における休日及び夜間勤務の適正化について」および平成14年3月19日付基発第0319007号の2「医療機関における休日及び夜間勤務の適正化について(要請)」の宿日直の勤務の態様に書かれている、
常態としてほとんど労働する必要がない勤務のみを認めるものであり、病室の定時巡回、少数の要注意患者の検脈、検温等の特殊な措置を要しない軽度の、又は短時間の業務を行うことを目的とするものに限ること。したがって、原則として、通常の労働の継続は認められないが、救急医療等を行うことが稀にあっても、一般的にみて睡眠が充分とりうるものであれば差し支えないこと。 なお、救急医療等の通常の労働を行った場合、下記3.のとおり、法第37条に基づく割増賃金を支払う必要があること。
これに基づいての可能性があります。つまりと言う程の事はありませんが、
ですから3/26付朝日新聞に報じられていた、「労基署の勧告について誤解があるのではないか。当直中の睡眠時間などは時間外勤務に入れる必要はないはず。勧告の解釈を再検討すれば産科当直2人は可能」
この東京都のコメントは「手待ち時間」の観点からも、大星ビル訴訟の判例からも否定されます。東京都が都職員に同様の勤務時間のカウントを適用していたら、今度は東京都に労基署の監査が入る事になります。
次に3/26付朝日新聞より、
厚生労働省の担当者からは25日、労働基準法に関する告示で時間外勤務時間の上限と定められた年360時間について、「労使協定に特別条項を作れば、基準を超えて勤務させることができる」と説明されたという。
これは労基法36条に基づく労使協定に関する特別条項についてのものです。これについては法務業の末席様より教えて頂いた36協定の特別条項が改正されます(H16年4月1日)【日本人事総研のHP】が分かりやすくて参考になります。ちょっと長いのですが重要な情報なので全文引用します。
1. 時間外労働・休日労働を行うための要件
法定労働時間(原則週40時間1日8時間)を超えて、また法定休日(原則1週1日)に働く場合には、労働基準法第36条に規定する時間外労働時間数や休日労働の回数を取り決めた36協定を、所轄労働基準監督署長に届け出なければなりません。時間外労働による延長時間は、厚生労働大臣が限度基準を定めて告示し、原則として、この限度基準を超えた時間外労働は禁止されています。
2. 特別条項付協定とは何か
限度時間を超える一定の時間まで労働時間を延長することができる旨をあらかじめ協定によって定めるとともに、延長する場合の(1)特別な事情、(2)手続き、(3)特別に延長する時間を届け出れば、限度時間を超えて、その届出を行った時間まで時間外労働を行うことが可能となります。この協定を特別条項付き協定といいます。
3. 改定事項について
(1) 「特別な事情」は「臨時的なものに限る」と改定
「特別な事情」について、現行では、36協定で定めた「時間外労働をさせる必要がある特別な事情」とされ、「労使当事者が事業又は業務の態様等に即して自主的に協議し、可能な限り具体的に定める必要がある」(平11・1・29基発第45号)と示されています。しかし、どのような場合が「特別な事情」に該当するかの明確な基準が示されていないため、恒常的に特別条項付き協定に基づく時間外労働が行われていることが問題視されていました。このため、労働政策審議会労働条件分科会で検討が行われ、H15・10・22改正された告示が発表されました。
告示(平・15・10・22厚生労働省第355号)では、「特別な事情」は「臨時的なものに限る」と明示され、この「臨時的なもの」について、通達(平・15・10・22基発第1022003)では「一時的又は突発的に時間外労働を行わせる必要」があるものとしています。「業務の都合上必要な時」とか「業務上やむを得ないとき」などのような、恒常的な長時間労働を招く様なおそれがある場合には、「臨時的なもの」には該当しない、とされました。
(2) 延長することができる回数も協定「「特別な事情」を「臨時的なものに限る」との改定を徹底させる趣旨からも「一日を超え3カ月以内の一定期間について、特別となる延長時間を超え、特別延長時間まで労働時間を延長することができる回数を協定するもの」としています。
その上で、「限度時間を超えて労働を行う特定の労働者については特別条項付き協定の適用が一年のうち半分を超えないもの」としています。平成16年4月1日からは、計画的な時間外労働を行うことが必要となります。
(3) 平成16年4月1日以後の届出から適用
この特別条項付協定の適用期日は平成16年4月1日とされましたが、適用されるのは、同日以後に時間外労働協約を適用する場合、同日以前に適用された時間外労働協定を同日以後に更新する場合です。
平成16年3月31日までに締結・届出を行えば現行の規定のとおり、時間外労働の限度基準を超えて働く回数は12カ月間となります。
36協定に特別条項が適用される条件は、
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「特別な事情」は「臨時的なものに限る」と明示され
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「一時的又は突発的に時間外労働を行わせる必要」があるもの
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「業務の都合上必要な時」とか「業務上やむを得ないとき」などのような、恒常的な長時間労働を招く様なおそれがある場合には、「臨時的なもの」には該当しない
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「限度時間を超えて労働を行う特定の労働者については特別条項付き協定の適用が一年のうち半分を超えないもの」
事実上5人の常勤医が当直を担っており、それらの医師の時間外勤務が法定の時間を超過していた
在籍者は15人だそうですが、実戦力は5人となっています。総合周産期センターの産婦人科の「当直」人数は平成八年五月一〇日付け児発第四八八号「周産期医療対策整備事業の実施について」によると医療従事者として、
二四時間体制で産科を担当する複数の医師が勤務していること。
複数つまり2人以上必要としています。4月をモデルとして1人当直としての夜間休日の時間外勤務時間数を計算すると、
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平日夜勤:15時間 × 21日 = 315時間
休日夜勤:15時間 × 9日 = 135時間
休日日勤:7時間 × 9日 = 63時間
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1026時間 − 225時間 = 801時間
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恒常的な長時間労働を招く様なおそれがある場合
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「一時的又は突発的に時間外労働を行わせる必要」があるもの
Q 愛育病院の件について受け止めを。
A これはわたしが厚生労働大臣で、両方、医師不足の問題と、労働者の権利を守ることをやっている。36協定というのがある。労働基準法に基づいて、休日や当直の協定があるので、やっぱり病院のほうも経営者というのはちゃんと管理者が知った上できちんと協定を結んで頂けば違法にならないことができる。
まずそこから始まって、これは医療の現場が不足しているから違反をやるということを続けていけば、決して良くならない。
やはり医師も生身の体でやっている。こんなに過酷ですよ、これは労基法に違反してますよ、従って是正してください。
一生懸命いろんな手を使って医師不足に対応してきた。まさに側面射撃。そういう面からもこういう問題を解決しないといけない。たまたま厚生大臣と労働大臣1人でやってるので、過酷な勤務医の状況を改善する。そこは医師不足だから、そんなこと言われてもじゃない。みんな困った状況で頑張っているんだから、医師不足にも対応する。しかし現場で医師をやめなければいけないくらい、疲弊している勤務医を助けないといけない。いい方向へ向かっている第一歩で、そこから先はそれぞれの病院と東京都が話をして、私たちもいろんな面でお支えするし、例えば弾力運用を考えてくれ、というのは、聞く耳も持たないわけではない。あらゆる企業にたいして36協定どうするか指導をしている。
いつもわたしが言っているように労働法制を社会に定着させる必要がある。36協定わかんないじゃだめ。働く人の権利を守ることを社会の礎にするような社会にしないといけない。そういうことを含めて全力をあげて勤務医の待遇をよくする、職場環境をよくする、医師不足に対応する。総合的にやるための一歩。前向きにとらえていただきたい。
大臣のコメント自体は基本的に好感が持てるものなのですが、一つだけ引っかかる点があります。
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例えば弾力運用を考えてくれ、というのは、聞く耳も持たないわけではない。
- 過労死ラインとされる1ヶ月80時間を余裕で越える200時間の時間外勤務を認める
- 半年しか適用できない特別条項を通年で続けることを認める
最後に労基法36条に基づく36協定は、あくまでも労使間の合意によるものです。病院側が厚労省の担当官にアドバイスを受け、厚労省が暗黙の了解を与えようとも労働者たる医師が合意しなければ36協定は成立しません。こんな条件を受け入れて合意するならば後は自己責任になるかと考えます。