続病院機能評価

自分でエントリーした責任上、日本医療機能評価機構のHPを泥縄式に読む羽目になって参りました。病院機能評価事業のver.5も斜め読みでしたが読ませて頂きました。医療関係者に悪評高い病院機能評価ですが、どこが根本的に評判が悪いと言うかおかしいを考えてみたいと思います。

まず高額の審査料が挙げられます。柳様から頂いた情報ですが、

病院種別・病床等区分評価料金

一般病院種別A200床未満 120万円
精神病院種別A長期療養病院種別200床未満 140万円
複合病院種別A現行一般病院種別A200床以上 180万円
一般病院種別B精神病院種別A400床以上、精神病院種別B長期療養病院種別200床以上、複合病院種別B新料金一般・複合100床未満 120万円
精神・長期療養200床未満一般・複合100床∼200床未満 150万円
精神・長期療養200床∼400床未満一般・複合200床∼500床未満 200万円
精神・長期療養400床以上一般・複合500床以上 250万円

これだけでも立派なお値段なんですが、審査の基準は530項目にもなるそうで、その各項目についての詳細は原則として知らされないようです。詳細については病院機能評価 統合版評価項目解説集 31,500円(本体価格30,000円)なるものが販売されており、いわゆるマニュアル本になるようですが、これが発売されたのは平成17年度事業計画に謳われたぐらいですから、それ以前は自己評価調査票で評価機構が望む体制設備の整備を類推しながら行なわなければならなかったようです。そのためコンサルト業もあるようで、規模にもよるでしょうが、500万なんて情報もどこかにありました。

何故そんなものが必要かと言えば、たとえば

4.1.5.2 主治医・担当医が明確になっており、診療の責任体制が確立している

  1. 院内で主治医資格が具体的に定められている
  2. グループ診療や担当医をおいている場合でも、責任者である主治医を明確にしている

と書かれていれば誰だって「主治医資格ってなんだ」の疑問が出てきます。なんと言っても「具体的に定める」必要がありますから、言われた方は正直悩みます。一応の回答例は経験者の774氏様から頂きましたが、

    「主治医資格とは、専門医資格を持っている医師、または5年以上の臨床経験を持つ医師と考えて下さいと言われたそうです。この辺は機構に電話で聞いたり、近隣病院と情報交換がかなり行なわれたそうです。」
一事が万事この調子で、曖昧な設定を提示し、それに対しての病院側の対応に注文をつけていくのが審査の実体のようです。ここで考えて欲しいのですが、注文をつけるには評価機構側に「正しい解答」がなければなりません。注文は機構側が作った「正しい解答」に遠ければ正しくなるようにする注文と考えれば良いかと思います。これが審査基準である530項目すべてにわたって繰り返されるのです。

機構側の「正しい解答」は審査を受ける病院側は基本的に知らないのです。知らないので自分なりに解答を作るのですが、それが「正しい解答」でなければ注文付でつき返されて再提出の試行錯誤を余儀なくされる構図です。これは絶対におかしいと思います。学生の勉強のためのレポートの訂正じゃあるまいに、そこまで無駄な労力を費やす必要はどこにあると言うのですか。

評価機構の設立趣旨なるものがあります。

国民が適切で質の高い医療を安心して享受できることは、医療を受ける立場からは無論のこと、医療を提供する立場からも等しく望まれているところです。

国民の医療に対する信頼を揺るぎないものとし、その質の一層の向上を図るために、病院を始めとする医療機関の機能を学術的観点から中立的な立場で評価し、その結果明らかとなった問題点の改善を支援する第三者機関として、財団法人日本医療機能評価機構は設立されました。

趣旨で謳われている「その結果明らかとなった問題点の改善を支援する第三者機関」ですが、この機構が調査分析した問題点を知るためには高額の審査料を払って審査を受け、機構側の審査基準の設定に対する解答を試行錯誤の末、見つけたものにのみにしか教えないと言う事です。それ以外の者には教えもしないという姿勢が根本的に間違っていると断言します。

もっともこの評価機構が医療団体なのか営利団体なのかでこの点は変わるかもしれません。営利団体であるなら、折角集めた問題点の情報や改善方法は高価な商品です。それを売って商売しているわけですから、その代価を取るのは当然ですし、代価を払わないものには教えないのも当然でしょう。ところが医療団体であるなら医療者の風上にもおけない行為です。

医療には秘密はありません。すべての医療情報は公開され、誰であっても基本的に無料で共有するのが原則です。情報を共有する事によって、常に医療全体のレベルを引き上げる事に努めるのが医療者の義務なんです。評価機構が行なっている事は病院全体の体制設備の改善向上を勧めるとなっています。評価機構が医療団体であるならば、それに必要な情報は出来る限り速やかに公開し、医療関係者すべてに伝えるのが医療者としての義務なのです。

古典的ですがヒポクラテスの誓いと言うものがあります。

医の神アポロンアスクレピオス、ヒギエイア(アスクレピオスの娘 “健康”の意)、パナケイア(やはりアスクレピオスの娘 “万物治癒”の意)、及び全ての神々よ。私自身の能力と判断に従って、この誓約を守る事を誓う。

  • この医術を教えてくれた師を実の親のように敬い、自らの財産を分け与えて、必要ある時には助ける。
  • 師の子孫を自身の兄弟のように見て、彼らが学ばんとすれば報酬なしにこの術を教える。
  • 著作や講義その他あらゆる方法で、医術の知識を師や自らの息子、又、医の規則に則って誓約で結ばれている弟子達に分かち与え、それ以外の誰にも与えない。
  • 自身の能力と判断に従って、患者に利すると思う治療法を選択し、害と知る治療法を決して選択しない。
  • 依頼されても人を殺す薬を与えない。
  • 同様に婦人を流産させる道具を与えない。
  • 生涯を純粋と神聖を貫き、医術を行う。
  • 膀胱結石に截石術を施行はせず、それを生業とする者に委せる。
  • どんな家を訪れる時もそこの自由人と奴隷の相違を問わず、女または男と情交を結ばない。
  • 医に関するか否かに関わらず、他人の生活についての秘密を遵守する。

この誓いを守り続ける限り、私は人生と医術とを享受し、全ての人から尊敬されるであろう!
しかし、万が一、この誓いを破る時、私はその反対の運命を賜るだろう。

もちろん時代が違いますからこのすべてを墨守しているわけではありませんが、一般的には「彼らが学ばんとすれば報酬なしにこの術を教える」の精神だけは医師全体に現在でも強く貫かれています。これに反する行為を堂々と行なっている評価機構は医療団体で無いのは明らかで、単なる医療情報を売買する営利団体に過ぎ無いと言う事です。

もちろん評価機構の審査基準の個々の問題点や、現実離れした要求項目なども問題でしょうが、この団体の基本的な性格が単なる営利団体である事がもっとも大きな問題であり、私が抱く最大の違和感の元です。

私は声を大にして要求したい。評価機構はすべての審査基準の評価機構が望む設備体制の「正しい解答」を即刻公表する事をです。抽象的な表現ではなく、具体的に例に応じて、事細やかに詳細に直ちに公表する事を要求します。それこそが医療の向上、改善に直結することです。それを進んで行なうのが医療者です。