続々々問題の根っこ

仕事が忙しいか暇かは、仕事量と担当人数の関係で決まると考えます。とくに医療は機械化、IT化があまり及んでない分野であり、基本的に純手作業の逐次処理を余儀なくされる業種であるため相関関係が強いと思います。

どの程度かの物指しに労働基準法があります。一定水準以上の能力を持つ担当者が普通に業務に従事しても、受け持った仕事が労働基準法の枠内でこなせないのは忙しいと定義できます。現実にはそれでは甘いという考えはありますが、労働基準法とはもともとそういう趣旨で作られたものです。ただそれだけでは確かに現実とは乖離しすぎています。業種にもよりますが、閑散期と繁忙期があります。繁忙期はともかく、閑散期に於ても労働基準法の枠を遥かに超える仕事量があるときは、これは忙しいと定義すれば実情に沿うと考えます。

医者の勤務状況はそういう状況になっています。「本当にそうか」の疑問の声も時に上がりますが、この貧弱なブログを読んでくださっている方からだけでも、幾らでも実例をコメントとして寄せていただく事は可能なぐらいに証拠はあります。

医療以外の業種であればそういう時にどうするかです。話を単純化するために、例を散髪屋に取ります。やや無理がある例えですが、猛烈に散髪屋が繁盛して、昼飯も食べずに、夜も9時、10時までかかるのが連日続く状態が訪れたとします。その時の対応は次の二つが考えられます。

  1. 理容師を増やす。
  2. 単価を上げ客の数を制限する。

a.の方法は人手設備を増やして仕事量を制限する対応です。b.の方法は客単価をあげて仕事量を制限する対応です。

a.の方法を取る時には、販売量の増加に比例して収益が増え、増えた収益が人員増を大きく凌ぐという前提が必要です。ところが医療費は抑制削減路線のために仕事量が増えた分だけの収益が出てきません。それどころか治療にもよりますが、一般に高度の医療をすればするほどかえって赤字が出るものが多数あります。

b.の方法も医療費は公定価格のために値上げする事は不可能です。また診療制限もまず不可能に近く、単価を上げずに診療数が減れば経営に響くほどの減収となりかねません。

つまり日本の医療は、現状の医者の数で労働基準法とは月世界の話であるぐらい働いて、辛うじて経営が成り立つ状態です。そのため仕事量の緩和の方法である人員を増やすとか、単価を上げて収益を確保しながら仕事量を制限する手法はできないという事です。

さらに医療に課せられているのはさらに単価を落とす事と、客を減らす事です。そのために政府上げて知恵を絞っています。さらに言えば不採算部門への投資の強要もあります。もっと言えば人員増加もしたくても出来ないように、人為的に医者の数の制限も行なっています。

これらのしわ寄せはほとんどが医師個人に圧し掛かります。これまでもかなりの期間耐えてきたと思います。今だってほとんどの医者が耐えています。でも限界はあります。限界は既に超えていると思います。越えた状態で耐えてきた医者が音も無く崩れようとしています。長年耐え忍び過ぎたが故に反発さえ起こりませんし、崩れる事から招く結果にも、過労から神経が麻痺しすぎて顧慮する事さえありません。顧慮する事で耐え忍んでいたのですから、顧慮が出来なくなればなんの未練も心配もなくなります。

どこにも逃げ道のない崩壊構図になっているのを誰も気がつきません。気がつきつつある人もごく少数いますが、明日からある地域の医療がドミノ倒しのように崩れ去り、一地域の崩れが周辺地域の崩壊に波及し、広い地域が総崩れになる懸念があることまでは思いが至りません。ましてや自分の地域がそうなるとは対岸の火事以下の話です。またそうなってもすぐに自治体なり国が素早く処置を行なうと多寡を括っています。

私だけの杞憂であれば良いのですが。