安倍総理の100億円

予算委員会シリーズの3回目です。もうネタは各所で出尽くしているのですがもう一回です。今日は小池議員が「医師の業務は過酷でないか」、「医師は足りていないのではないか」の質問に対し、安倍総理が「とにかく100億円の対策費を組んである」の強弁を行なった100億円です。

100億円と言えば結構な額です。たとえば地方僻地の医師不足解消のために医師一人当たり1000万円の給与補助を行なえば1000人分ですし、500万なら2000人分です。その上に従来の給与を重ねればかなりの高給で医師を招聘する事が可能となります。条件の悪い地方僻地の医師招聘は金だけで成功するわけではありませんが、金が無いと話も始まりません。1000人なり2000人の医師の招聘のために使われれば医師不足による地方僻地医療の崩壊は幾分なりとも緩和される可能性が出て来ます。

そんな事を100億円から考えていたのですが、使い道はもう決まっているようです。昨日も書きましたが、ただの通行人様からおそらく安倍総理が力説した100億円であろうという政策が示されています。全文は昨日のエントリーを御参照ください。使い方の名目は「医師確保対策の推進」となっています。「医師確保」の語感の悪さは既に指摘されていますが、もう日常語と化してきているようです。

予算のかけ方の多い順に見直してみます。筆頭は、

  • 小児救急病院における医師等の休日夜間配置の充実
これには24億円となっています。充実だけでは漠然としているので、この項目への説明は、
    小児の二次救急医療を担う小児救急支援事業及び小児救急拠点病院の休日夜間における診療体制の充実を図る。
皆様わかりましたか。文章が簡潔すぎるのですが、おそらく小児二次救急を行なう病院への補助金事業のようです。あからさまに言えば、小児二次救急を引き受けるたびに補助金が病院へ給付されると考えれば良いと思います。そうすれば補助金欲しさに病院が争って小児二次救急を行うだろうの政策かと私は考えます。

少しだけ試算してみます。全国には約360ヶ所の小児二次救急圏があり、365日の当番日があります。救急圏によっては複数の病院が当番になっているかもしれませんが、単純化するために1ヶ所とします。また休日と夜間も単純化して1日と計算します。そうなれば1日あたりの支給額は24億(円)÷360÷365≒18000(円)となります。18000円!さぞ全国の病院が歓喜の涙を流して二次救急に力瘤を入れるのが瞼の裏にアリアリと見えてきそうです。少なくとも答弁した安倍総理の脳裡には感謝の声が溢れるのが聞こえているかと思います。

次に多いのが

これが22億円です。この事業には新規と銘打たれており、安倍総理が医師確保の対策費を2倍にしたと豪語したうちの約半分を占めますから、おそらく目玉中の目玉対策ではないかと考えます。この項目に対する解説は、
    へき地・離島の診療所における地域保健・医療の研修、小児科・産婦人科医師不足地域の病院における宿日直研修に対する支援の実施等により、地域の医療提供体制の確保を図る。
これは解説を読んでも何をするかすぐには分かり難いものです。ちょっと解説を解体して読み直すと三つの事柄に支援すると書いてあると解釈します。
  1. へき地・離島の診療所における地域保健・医療の研修の支援
  2. 小児科・産婦人科の宿日直研修に対する支援
  3. 医師不足地域の病院における宿日直研修に対する支援
ここで支援されるのは「臨床研修」となっていますから、これは素直に研修医に対する支援すなわち補助金と解釈するべきかと考えます。そうなれば具体的には
  1. 僻地や離島で研修すれば補助金がもらえる
  2. 小児科、産科のローテ中に宿日直をすれば補助金がもらえる
  3. 医師不足地域の病院で宿日直すれば補助金がもらえる
ちょっと試算が難しいのですが、小児二次救急の試算から考えると10000円は難しいかなという感じです。あくまでもこれは計算でなく推測ですが、5000円も出れば御の字のような気がします。きっとそれだけもらえれば研修医は僻地、離島に殺到し、医師不足病院での研修を鵜の目鷹の目で探し出す事になると考えているかとおもいます。少なくともあれだけ自信を持って100億円を力説した安倍総理ですし、今年の医師確保事業の最大の目玉ですからね。

3番目が

  • 医師派遣についての都道府県の役割と機能の強化
これも新規事業で18億円。臨床研修の支援に並ぶ目玉と言ってよいでしょう。これも項目だけではわかったような分からないようなものなので、解説を見てみます。
    都道府県による地域医療の確保に向け、医療対策協議会の計画に基づく派遣に協力する病院やマグネットホスピタルを活用した研修等への助成を行うとともに、国に、公的医療団体等が参画する「地域医療支援中央会議」を設置し、関係団体等により実施されている好事例の収集・調査・紹介など改善方策の検討、都道府県からの要請に応じ、緊急時の医師派遣など地域の実情に応じた支援を行う。また、都道府県が地域医療の確保を図るため、独自に創意工夫を凝らした先駆的なモデル事業を実施するために必要な支援を行う。
少々長い解説ですし、冒頭に近いほうに「マグネットホスピタル」などと言う謎の言葉がでてくるやや難解な解説です。ちょっと分解して読み直します。
  1. 医療対策協議会の計画に基づく派遣に協力する病院やマグネットホスピタルを活用した研修等への助成を行なう
  2. 国に、公的医療団体等が参画する「地域医療支援中央会議」を設置する
  3. 地域医療支援中央会議は情報収集と緊急時の医師派遣など地域の実情に応じた支援を行なう
  4. 独自に創意工夫を凝らした先駆的なモデル事業を実施するために必要な支援を行う
これでも分かり難いのですが、どうやら地域医療支援中央会議なるものをまず作るようです。その中央会議が医師が足りない病院に緊急派遣業務を行なうと解釈できます。厚生労働省の不壊の建前である「医師は偏在」の大前提から、余っている地域の医師を不足している地域に再分配する調整会議と理解したら良さそうです。

それにしてもマグネットホスピタルって何ですか?誰か教えてください。私の頭の中には病棟ごとMRIになっている病院や、ピップエレキバンを体中に貼らなければ勤務できない病院が浮かぶのですが、そんな事は無いですよね。

4番目、これが最後の大型事業です。これ以外は10億円以下の事業となります。

  • 出産・育児等に対応した女性医師等の多様な就業の支援
これが14億円です。医師不足対策にこれも強く言われ続けている女性医師の活用策のようです。これも解説を読まないと何をするか分からないのですが、
    病院内保育所について、女性医師等に対する子育てと診療の両立のための支援が推進されるよう基準を緩和する.また、女性医師バンクを設立し、女性のライフステージに応じた就労を支援するとともに、離職医師の再就業を支援するために研修を実施する。
内容は2本立てのようです。
  1. 院内保育所に女性医師の子供でも預けられるようにする
  2. 女性医師バンクを作る
ここから分かる事はまず女性医師の子供は院内保育所に預けられないのが常識である事がわかります。また預けられるようにするには国が音頭を取って予算を配分する努力が必要な事もわかります。現実は厳しいですね。女性医師バンクについてはもうコメントしません。

5番目はあわせ技で準大型事業です。

  • 産科無過失補償制度への支援(新規)0.1億円
  • 医療事故に係る死因究明制度の検討等 1.3億円
  • 平成18年度補正予算案において、小児初期救急センターの整備等の助成及び産科無過失補償親度の創設に向け、調査・制度設計等のための支援を行う。(8億円)
この3事業は合わせて9.4億円。合わせ技と考えても良いかと思います。元になった報告の原文が長いので他に無過失保障や死因究明制度に向けられた予算があるかどうかわかりませんが、はたしてどんなものが出来上がるでしょうか。

残りは開業医の役割の強化5.7億円、これは開業医の小児救急駆り出し事業のようです。助産師の活用 1.6億円は、潜在助産師等の産科診療所での就業を促進と助産師養成所の開校を促進みたいです。潜在助産師の活用対策はともかく、助産師学校の開校にはやや手薄のように感じます。患者のアクセスの支援(新規)0.9億円は最近政府が御執心のヘリ事業の事で、9000万円で何回飛ぶのでしょうか。

以上駆け足でしたが、安倍総理の医師確保対策100億円でした。