選挙の怖さ

小泉自民党は歴史的大勝を記録し、岡田民主党は地すべり的大敗を喫して選挙は終わりました。公明党をあわせた与党は衆議院の2/3以上となり、今後は議案を参議院で否決されても衆議院で再可決することが可能な体制となりました。

また自民党内の反小泉勢力は急先鋒の連中はすでに党から追い出され、残っている者も息を潜めて首相の意向を伺わざるを得ない状態におちいっています。自民党の総裁任期からすると末期の首相として異例と言っても良い政治状況が出来上がりました。

郵政問題は100%原案通り、一字一句の修正なく可決されるのは間違いありませんし、後も何をするにも首相が「これで完璧な法案だ」と確信した瞬間すべて可決される政治状況です。首相が足をすくわれる可能性のある弱点は、靖国問題がらみの外交だけで、参拝を自重したら完璧ですし、強行してまた騒ぎに火をつけても与党で面と向かって文句を言える人はいなくなっています。

そもそも首相にとって外交は得意とする分野ではないらしく、首相の考えは「アメリカと仲良ければそれ以上は望まない」で終始しているようです。盟友ブッシュ大統領の任期も3年間しっかり残っていますから、靖国で少々また近隣諸国ともめても首相にとっては小さな事だと判断しているようですし、それに注文をつける政治勢力も弱体化しましたので、それほどの弱点にはならないかもしれません。

それにしても小選挙区制は怖い。比例救済があるとはいえ、ひとつの選挙区で1票でも多く取ったら勝ってしまうのです。従来の中選挙区制でも自民党は大勝していたでしょうが、ここまで圧勝したかどうかは疑問です。

小選挙区制への移行には多くの議論がありました。そのときの識者の多くは「死票は増えるデメリットはあるが、二大政党制が確立され、政権交代への道筋が作られるのでメリットが大きい。また派閥もこれにより解体され、党が主役の政策中心の選挙戦になる。」と支持した人が多かったと記憶しています。識者の予言どおり、曲がりなりにも二大政党制が出現し、自民党の派閥は弱体化しています。派閥が弱体化したメリットは多々あるかもしれませんが、巨大な自民党が首相の下で一枚岩の政党になってしまう恐ろしさをどれだけの人間が予想していた事でしょう。

小泉首相のことを織田信長にたとえる人がいます。一方で東条英機にたとえる人もいます。もちろん信長にたとえるのは肯定イメージでですし、東条に例えるのはマイナスイメージです。でも私は信長に例えてもあまり好印象としません。信長は日本史の中の巨人であり、天才であり、類を見ない改革者です。一方で同時代人には魔王と恐れられるほどの破壊者であり、部下だけではなく同盟者に対しても徹底的な忠誠と120%の勤勉を強要し、わずかな反逆や怠慢にも徹底した報復をもって統制しています。

歴史的背景や置かれた状況、残された確固とした業績があるので肯定的なイメージが強いですが、それもこれも後一歩で天下統一という段階で本能寺の変に倒れてしまい、統一後の政権運営に無限の可能性を抱かせるためです。最近の歴史解釈の流れとして善の改革者として評価する動きがさかんで、信長が生きながらえていたら「良い意味」で日本はもっと良い方向に変わっていたのではないかと盛んに推測されています。

私は必ずしもそうは思いません。私が想定するのはヒトラーです。ヒトラーがもしベルリン五輪直後ぐらいに暗殺され、その後継者が第二次大戦を引き起こしていたらヒトラーの評価はどうだったでしょうか。当時のドイツは第一次大戦に敗れ、巨額の賠償金を課せられ、その上世界恐慌に見舞われるどん底の状態でした。政権を掌握したヒトラーは短期間のうちに疲弊したドイツ経済を立て直し、英仏に匹敵もしくはしのぐ国家に仕立てています。

もちろんその後は第二次大戦の破滅を引き起こしていますし、ユダヤ人の大量虐殺など負の面が明白となり、ヒトラーの事を良く言う人間はいませんが、途中で暗殺されていたら、「もしヒトラーが生きていたらドイツは違っていただろう」の解釈が出てきても不思議ありません。そのあたりに信長とヒトラーの共通項を見てしまうのですがどんなものでしょうか。

話が横道にそれてしまいましたが、民主政治とは多数決が原則ですが、少数派の意見も巧みに取り入れるところも重要と考えます。決して多数派の長の意見のみで物事を決める体制ではありません。あんまり与党の政治が一枚岩の意見になってしまうと、民主政治の名を借りた独裁と同様になってしまい、首相が決めた事がすべて一方的に可決成立してしまいます。そんな政治がやってきそうで怖い気がします。

とりあえず選挙後の談話で「諮問会議にもっと民間の有識者を採用してチェック機構の役割を増やす」と言っているそうですが、あんなものは首相の茶坊主が首相の気に入る意見を作るところで、チェック機構の様な立派な働きを期待できるところではないのはこれまでの経過から明らかです。

まあ文句は言っても選挙の審判は下り、任期を目一杯やれば4年間はこんな状況が続くのですから、静かに見守るしか手がありません。ブッシュを選んだアメリカ人も後悔し始めているようですが、あちらもまだ3年あり、日本も同様にそれぐらいは確実にありますから、結果がどうなるかもこれから身をもって経験しましょう。

それにしても自民党は勝ちすぎた・・・。