少し月日を遡った社長室。河原崎社長と小島総務部長と結崎情報調査部長が呼ばれ社長と密談中。
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「小島君は次の株主総会で波乱が起ると見ておるのか」
「はい、去年以上のものが」
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「しかし今年はラ・ボーテの挑戦を退け業績は回復しとる」
「お言葉の通りです」
「なにか不安要因があるのか」
「まずは我が社の株主構成を見てもらいたいのですが」
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「我が社の株主構成は自己株が十五%、銀行が五%、持ち合いが五%、投信が三十%、外国人が三十%。個人が十五%となっております」
「うむ、細かな変動はあるがおおよそこの状況で株主総会を迎えると思う」
「このうち安定株主と言えるのは自己株十五%、銀行五%、持ち合い五%の二十五%です」
「真のと言う意味ではそうなる」
「外国人のうち問題になるのはクライストチャーチ、レギオン、マサラブルと見られているのではないですか?」
「去年は叩かれたからな。それでも三社合わせて十%に達していないだろう」
「いえ、もう十%は超えております」
「それでも去年とそれほど変わらんと思うが」
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「胡蝶産業に問題が生じております。ここは株式持ち合いの比率を減らしていく中で残されたところですが、胡蝶産業の自体の大株主は三星物産です。三星物産の株主構成に注目して欲しいのですが・・・」
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「三星の経営陣が変われば胡蝶産業の姿勢が変わる懸念があります」
「では小島君は胡蝶産業の五%が敵対株主に回る懸念があると言うのかね」
「それだけではありません。情報調査部が調べたものですか・・・」
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「これも情報の精度として憶測の範囲を越えませんが投信の五%以上は確実に敵対株主に回る可能性があります。根拠は・・・」
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「最悪のケースとして三十%以上の敵対株主が出現する可能性があるというのか」
「それ以上にならないことを期待しております。現在のところ対策として、外国人株主のうち五%は我が社を支持してくれる内諾を得ております」
「それでも二十五%か・・・」
「これでは株主総会は蓋を開けてみないとどう転ぶかわからない状態になります」
「たしかに・・・」
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「対策は」
「相手方は数年前から準備を進めていたと見て良く、現在の状況は結果に過ぎません。外国人や投信への対策は限界があり、株主総会までの積み上げは大きく期待しにくいところです。ただ・・・」
「ただ、なんだね」
「これは相手方も同様と見なして良い気がします。決戦は総会上にもつれこむと見て良さそうです」
「いわゆる浮動層がどう動くかだな」
「それについて、相手方に出来ない対抗策を取りたいと思います。準備は進めておりますが総務だけでは限界があります」
「うむ、その点については近々重役会議で、あらゆるものに優先する最優先事項に指定して対応としよう」
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「重役会議なのですが、これについても情報があり、対策を求めたいと存じます」
「なんだね」
「これについては結崎情報調査部長から報告します」
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「一昨年のラ・ボーテの攻勢の時に産業スパイの噂が流れました」
「うむ、その点についても調べてもらったが、はっきりしなかったのではないのかね」
「その通りですが、ここに来て有力人物が浮上しております。」
「誰かね」
「社外取締役の黒川氏です」
「証拠は?」
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「これらからマザラブルとのつながりがあるのは確実と見て良いと判断できます」
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「う〜ん、ここまでの証拠がそろっているとは・・・調査課の能力は興信所以上だね。社外取締役から機密情報が漏れているとは私も迂闊だった」
「ここを対応しておかないと小島総務部長の作戦も効果が半減すると想定されます」
「わかった。まず取締役会で黒川君を解任しよう」
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「昨年の商戦で勝ててなかったら手の施しようがなかったな」
「綾瀬副社長の功績と存じます」
「綾瀬君が頑張ったのは知っておるが、小島君と香坂君が鉄人コンビで支えたのも見ておる。これはクレイエールの勝利だ。この勝利を株主総会で無にしないための決戦だ。よろしく頼む」
株主総会後にクライストチャーチ・レギオン・マザラブル連合はクレイエール株を売却。これでラ・ボーテ旋風から続いていた一連の騒ぎは終息したはずです。やっと平穏な日々がクレイエールに訪れるはずです。