今日は特命課でミツルと一日過ごせるとルンルンで出勤したら、机の上に書置きが、
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『結崎課長。申し訳ありませんが、もう少し確認したいことがあり、今日も調査に出かけさせて頂きます。それと今日は帰れないかもしれませんから夕食は御一緒できませんので、悪しからず。』
それにしても先代天使の苗字は物々しいな。こんな苗字の家は日本で一軒かもしれない。見るからにお寺さんに関係してそうだけど、ミツルは何か知っていそうだった。まあこんな特徴的な苗字だから、社員名簿見たら一発で覚えちゃうだろうけど、それだけじゃない感じ。
まさか何か危険なことに関係してるとか、だから私を連れていかないとか。ミツルさんらしいけど、なんかよそ者扱いされてるみたいでちょっと悔しい。でもまあ、そろそろ中間報告というか、経過報告をしなくちゃならないから、その準備をやらなきゃいけないのも確かだからね。
京都の野田さんの話で妙に気になったのは、先代天使がユッキーとも呼ばれていたこと。そりゃ名前が由紀子だからユッキーでもおかしくもないのだけど、あのユッキーさんとたまたまだけど同じなんだよね。そのミツルだけど、翌日も、その翌日も特命課には顔を出さなかったの、もちろん連絡は入れてくれるのだけど、
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「もう少しだから待ってくれ、もう少しなんだ。帰ったらまとめて報告するから」
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「それまでに必ず間に合わせるから」
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「すっごく心配してたんだから・・・」
「ゴメン、でも面白い報告ができるよ。長いから今日は簡単にするけど」
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「・・・大聖歓喜天院家は蘆屋道満の末裔と言われてるんだ」
「でも、蘆屋道満は架空の人物って話じゃなかったっけ」
「さすがは歴女の会だね。現在は架空とされているけど、大聖歓喜天院家の家系伝説ではそうなってる。これについての真否は問題じゃなくて、大聖歓喜天院家には不思議な能力を持つ人物が現れるみたいなんだ」
「それって霊能力とか、超能力みたいなもの?」
「まあ、そんなところでも良いと思うけど、もうちょっと違う感じもしてる。その能力を持つのは大聖歓喜天院家でも女性に限られるそうで、それも一代に一人だそうなんだ」
「だから天使になれた」
「まあ、そうなんだけど・・・」
単純化すれば亡くなった教祖を観音様として引き続き信仰するグループと、次代の大聖歓喜天院家の能力のある女性を新たな観音様として信仰したいグループで争いが起こったそうです。スッタモンダは色々あったそうですが、最終的には分裂しています。
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「分裂してどうなったの?」
「教祖を観音様として信仰するグループは新たな教団を作って、今でもあるよ」
「どこ?」
「極楽教だよ」
「高校野球が強いところだね」
「まあ、そうだけど、大学を作ったり、附属高校を作るぐらいに繁栄している」
能力者重視の大聖歓喜天院家では、能力の有無がはっきりするまで、娘たちは暫定的に大聖歓喜天院の苗字を名乗り、能力がわかった時点で他の娘は大聖歓喜天院の苗字を外す慣例だったそうです。教祖の娘は三人いましたが、教祖が亡くなった時に能力の発現がまだなかったというか、ハッキリしなかったそうです。教団としては後継者を早く決めたいので、能力がありそうと判断した長女を二代目に選んでしまったのです。
ところが能力を受け継いでいたのは三女だったのです。この時に次女の家は大聖歓喜天院家の苗字を外しましたが、長女の家は教団教主家ですから、そのまま名乗りつづけています。それだけでなく、その後も教主家を真の大聖歓喜天院家とし、三女の大聖歓喜天院家とは絶縁状態になったそうです。
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「ミツル、えらい込み入った話だけど『恵みの教え』教団は今でもあるの」
「あるよ、極楽教よりはるかに小さいけどね」
「でも、大聖歓喜天院家の観音様は普通の人だよね」
「そうなるんだ。教祖の血筋こそ受け継いでいるけど、能力は受け継いでいないからね」
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「それでだけど、三女は能力重視の家督相続は時代に合わないと考えて、息子に家を継がせて、娘は嫁に出しちゃったんだ」
「ほんじゃ、能力者の血筋は?」
「ここを調べるのが大変だったんだけど、嫁に出していた娘が結婚後にうちの会社に就職してるんだ」
「当時としては珍しいケースじゃない」
「まあパートに毛が生えたような採用だったみたいだけど、これが時期的に考えて初代の天使と見て良さそうなんだ」
「なるほど」
「ところがね、その初代の天使は子供に恵まれなかったんだよ」
「じゃ、能力者の家系は途絶えちゃったの」
「そうならなかったんだ」
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「やっと話がつながった。教祖の三女の孫、というか息子の子が大聖歓喜天院由紀子さんね」
「そういうこと、ここまで調べるのは大変だった」
「そりゃ、そうでしょう。ミツル凄い」
「まだ続きがあるんだ」
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「由紀子さんを深く愛していた旦那さんは、妻の名前をとって娘に由紀恵と付けてるんだ。つまりは木村由紀恵さんになるのだが、明文館高校に進学してるんだ」
「明文館って、コトリ先輩や加納さんと同じじゃない」
「そうなんだ、それも同級生だ」
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「木村由紀恵さんも亡くなってるよね」
「そうなんだ、勤務していた病院に聞いたんだが・・・」
「やっぱりユッキーさんだ」
「そういうことになる」
時刻も遅くなったので、続きは会社ですることになって今夜は別れました。明日こそ特命課でミツルと一緒に過ごすんだ。