医学生の質のお話

モトネタは11/15付M3.com医療維新より、

全文引用するには長すぎるのでリンク先をまずお読み下さい。とりあえず問題としているのは見出しにある「医学部生の学力低下」の様です。具体的には、

 その根拠として、「授業中の態度(私語や教員の指示に従わないなど)」(80校中47校)、「進級試験の不合格者数の増加」(80校中42校)などが挙がり、その理由として最も多かったのが「ゆとり教育」(80校中65校)。以下、「医学部定員の増加」(80校中58校)、「若者全体のモチベーションの低下」(80校中44校)、「医学部教員の多忙」(80校中43校)などが続いた。

言っちゃ悪いですが、まるでかつてバラ色の時代があったかの様にされています。こういうものは私の時代にも「昔は良かった」は常に言われ続けていましたから、この記事に書いてある事の半分ぐらいは老人の愚痴として良いかと思われます。たとえば私語の問題は昨日今日の話ではないように思っています。まあ、この辺は最近の医学部事情を存じませんが、ヒョットして講義の出席率が異常に上ったのじゃないかと個人的に考えています。

大学により気風は違うので一概には言えませんが、私の頃には殆んど出席しない医学生は結構いました。ですから空いている講義はガラガラでした。それでも出席を重んじる教授の講義もあり、そこでは満員の盛況になるにはなるのですが、今度は私語でガヤガヤです。それ以前に満員なもので、席が狭苦しくて往生したのも記憶しています。私の世代でさえ、そんなに行儀の良い医学生ばかりではなかったと結構鮮やかに記憶しています。

それと、ここもお約束なんでしょうねぇ。

「地域枠」と学力低下、関連性は見いだせず

そりゃ、今の時点で見い出したら「大」が付く問題発言になりかねません。お茶をしっかり濁されています。



それでも医学生の質は低下しているだろうとは推測できます。これは現在の医学部生を見下しているのではなく、もっと単純な統計上の事実です。今も昔も医学部は人気学部です。理系志望の高校生の成績上位が志望します。上から順番にとまでは言いませんが、かなり上位の一定の割合が医学部に進学します。それぐらいの難度は医学部にはあります。

そこは大きな変化はないとして、少子化が進んでいます。医学部教育に適した優等生の比率は今も昔も一定と考えるのが妥当と考えます。教授が感じる学生の質も優等生の比率に比例しているんじゃなかろうかです。教える方にとっても優等生の比率が高いほどやりやすく、「おぉ、今年は質が高い」と漠然と感じやすくなるわけです。

「優等生は必ずしも優秀な医師になるとは限らない」としておいて、受験人口が減ればこれに連動して優等生も減ります。単純にに18歳人口で見ますが、2000年ぐらいには150万人いたのが、2014年には120万人を切っています。おおよそ2割減です。18歳人口が2割減れば優等生も2割減る事になります。これもあくまでも大雑把にですが、

    優等生 ≒ 成績上位者 ≒ 医学部志望者
かなりおおまかな「≒」ですが、ある程度こういう関係は今でも成立する部分があると考えます。そうなると医学部に進学する優等生は2割ないしそれ以上減少する事になります。減った分は2000年時点では入学できない位置にあったさらに下のランクから医学部に進学する事になります。ここも成績が下に向かうほど優等生の比率は減少すると考えます。

18歳人口の減少による優等生の減少が2割であるのは医学部定員が同じである時で、定員が増加すればさらに下のランクからの入学者が増えます。医学部定員は2000年頃に較べるとこれも約2割増加しています。ちょっとまとめると、

  1. 18歳人口が2割程度減少しているためおおよそ2割程度の優等生が減少し、その代わりに下位の者がこれを埋める
  2. 医学部定員が2割程度増加しており、これは18歳人口減少による優等生減少の穴埋めのさらに下位のものがこれを埋める
ここの関係をグラフにしてみます。参照データは、ここから引っ張り出した情報です。
2000年ごろまではおおよそ200人に1人が医学部に進学していたものが、2014年には132.5人に1人です。ここも仮に理系と文系の志望者を1:1(たぶん文系の方が多いはずですが・・・)とすると、理系志望者のうち2000年時点では100人に1人が医学部に進学していたのが、2012年には66人に1人、つまり競争率が2/3に減っている事になります。

18歳人口の減少と医学部定員増により広がった門戸は、優等生比率が高い上位層を減少させ、優等生比率が低い下位層を増やすのは当然あり、教授の実感として医学生の質が低下したとさせても不思議ないと見ます。さてなんですが、医学部も大学ごとにランクがわかれます。これも一般的に医学部を目指すものはより高いランクの大学を目指します。でもってここの部分ですが、

    「授業中の態度(私語や教員の指示に従わないなど)」(80校中47校)、「進級試験の不合格者数の増加」(80校中42校)
優等生比率の減少の影響が大きいのは下位ランク校とするのが妥当です。上位校から優等生が埋めていきますから、下位校の優等生比率の減少はより深刻であろうです。これもまた自然の流れです。ただそういう状況でも医学部教育関係者は踏ん張っていると思われます。

 その結果として、2008年度の医学部定員増以降、特に1年生、2年生を中心に留年者数や休学生が増加する傾向も見られた。53大学の留年者数は、1年生は、以前は130人台だったが、最近は200人を超え、学生に対する比率も2.5%強から3.5%台に増加。2年生の留年者も以前の320人前後から最近は440人に増えている。ただし、3年次以降の留年者数にはあまり変化はない。休学者数は、50大学のデータでは、1年生の場合、以前の30人から60人台に増加。

抜き出しておくと、

  1. 1年生の留年者が130人台から200人超えに
  2. 1年生の留年者の比率が2.5%強から3.5%台に
  3. 2年生の留年者が320人前後から440人に
たったこれだけしか影響が出ていないのですから、これはむしろ褒めるべき事ではないかと私は思います。医学部の教育に当たっている者はもちろんでしょうが、医学生だって頑張っておられるです。だって
    3年次以降の留年者数にはあまり変化はない
質を保ちたいのなら、もっとも手っ取り早いのは定員の削減です。それが出来ないのが現在の状況ですから、誰もそこは触れるのを避けられているぐらいに理解しています。そういう中ではむしろ健闘していると私は評価したいぐらいです。昔より覚えなければならない事は格段に増えてもいるからです。基本的に質の低下が避けられない現状で、高い時の状況を望むのはやはり無理があると存じます。