東京医大茨城医療センターが処分される

処分の理由は「故意による不正請求」ですが具体的には、

  1. 入院時医学管理加算
  2. 医師事務作業補助体制加算
  3. 画像診断管理加算2
この3つが中心だったようです。いずれも町医者には縁遠い加算なので、具体的にどんなものだったのか確認してみます。


入院時医学管理加算

基本点数は1日に付き120点です。適用は、

入院時医学管理加算は、急性期医療を提供する体制及び病院勤務医の負担の軽減に対する体制等を評価した加算であり、入院した日から起算して14日を限度として算定できる。なお、ここでいう入院した日とは、第2部通則5に規定する起算日のことをいい、入院期間が通算される入院の初日のことをいう。

読んでも判り難い人が多いと思いますが、保険診療報酬とはこういう書き方がされているものです。これに「注」があり、

急性期医療を提供する体制、病院勤務医の負担の軽減に対する体制その他の事項につき別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方社会保険事務局長に届け出た保険医療機関に入院している患者(第1節の入院基本料(特別入院基本料を除く。)のうち、入院時医学管理加算を算定できるものを現に算定している患者に限る。)について、入院した日から起算して14日を限度として所定点数に加算する。

こちらの方がまだしも判りやすいかもしれません。ごく簡単に解釈すると、

  1. 施設基準を届け出て認定を貰う
  2. 入院から14日間は1日に付き120点の加算が付く
具体的な施設基準は平成20年度診療報酬改訂の概要と解説をお読み下さい。規定を読む限り結構機械的な加算なんですが、こんなもののどこに不正請求の余地が生じるかですが、9/22付CBには、

「入院時医学管理加算」については、「治癒傾向」の患者の定義の拡大解釈、患者数の水増しをしていた。

「???」規定以外に通達とか事務連絡とかがよくありますが、治癒傾向でない患者には加算してはいけないとかがあるのでしょうか。ここで「水増し」と書いてあるのは、適用外の患者に加算したぐらいの意味と受け取りますが、具体的にどういう事が想定されるのか御存知の方は情報下さい。


医師事務作業補助体制加算

これが複雑なんですが、基本の点数は、

分類 点数
15対1補助体制加算 810点
20対1補助体制加算 610点
25対1補助体制加算 490点
50対1補助体制加算 255点
75対1補助体制加算 180点
100対1補助体制加算 138点


でもって加算されるのは入院初日に1回だけとなっています。ここで「15対1」とか「20対1」と書かれているのは病床あたりの「医師の事務作業を補助する専従者(医師事務作業補助者)の配置数のことです。母数となる病床については

一般病床の届出病床数に当該届出を行おうとする精神病床の届出病床数を加えた合計とする

東京医大茨城医療センターは一般病床461床となっており、たしか7人の医師事務作業補助者を配置していると届け出たはずですから、75対1の補助加算を取っていた事になります。これにもウジャウジャと施設条件がテンコモリあるのですが、どういう不正請求であったかですが、

「医師事務作業補助体制加算」では、作業補助専従の職員が必要だったにもかかわらず、専従の職員を設置しないまま、職員の名前を記入して申請して診療報酬を受給していた。

要は架空の専従職員で保険請求を行っていたとの事です。ここの専従規定は、

当該医師事務作業補助者は、雇用形態を問わない(派遣職員を含むが、指揮命令権が当該保険医療機関にない請負方式などを除く。)が、当該保険医療機関の常勤職員(週4日以上常態として勤務し、かつ所定労働時間が週32時間以上である者)と同じ勤務時間数以上の勤務を行う職員であること。なお、当該職員は、医師事務作業補助に専従する職員の常勤換算による場合であっても差し支えない。

この病院はおおよそ9000人の新入院患者がいます。そうなると加算は1620万円ぐらいになります。1620万円では7人は雇えませんから、ひょっとすると医師事務作業補助体制加算を請求しているところは狙い撃ちされていくかもしれません。まともにやれば病院の持ち出しにしかならないからです。簡単な対照表を作っておくと、

体制 15:1 20:1 25:1 50:1 75:1 100:1
点数 810 610 490 255 180 138
病床数 461
事務員数 31 24 19 10 7 5
新規入院 9000
収入 7290万 5490万 4410万 2295万 1620万 1242万
事務員1人当 235.2万 228.8万 232.1万 229.5万 231.4万 248.4万


この病院では配置するだけ赤字のにしかなりませんが、モデル計算と言うのもあって、

200床の急性期病院で平均在院日数15日ですと、1月あたり400人程度の新規入院があります。
最も配置が少ない100対1だと2人のメディカルクラークが必要です。
収入的には105点×400人=42万円になりますが、これはメディカルクラーク2人弱の人件費に相当する金額ではないでしょうか。

月間42万円を2人で分ければ1人当り21万円で、年間では252万円。「弱」と書いてありますから280万〜300万円ぐらいを考えておられるようです。それでも黒字になるような加算ではそもそもないのだけはわかります。事務員の数を増やすだけ確実に赤字が増えると言う事です。だから職員を実態の無いものにして良いわけではもちろんありません。

赤字を出しても勤務医の負担軽減のためにあえて行うか、経営を考えて加算をつけないかのレベルの問題です。


画像診断管理加算2

これがまた難解なんですが、

区分番号E102及びE203に掲げる画像診断については、別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関において、画像診断を専ら担当する常勤の医師が画像診断を行い、その結果を文書により報告した場合は、画像診断管理加算2として、区分番号E102に掲げる画像診断及び区分番号E203に掲げる画像診断のそれぞれについて月1回に限り所定点数に180点を加算する。

区分番号E102及びE203とはなんぞやですが、

    E102・・・核医学診断
    E203・・・コンピューター断層診断
これについては具体的にどういう事が行われたか不明です。


3つのうちどれが大きいか

年間の新規入院患者数を9000人としたのは、臨床指標 2011年4月〜2012年3月からです。一方で不正請求の監査対象期間は、CBによると、

2008年4月から約1年の間に、約8200万円

概算してみようと思いましたが、新規患者9000人に入院時医学管理加算を14日間つけるだけで1億5000万円ぐらいになり計算不能です。これは入院時医学管理加算を行ったものがすべて不正請求であるわけが無い部分と、全員が14日間入院しているわけでもないからだと考えます。ただ医師事務作業補助体制加算は全額不正であったして良さそうなので、6600万円ぐらいが入院時医学管理加算と画像診断管理加算2であるぐらいは言えます。

ここについては、これ以上は分析不可能です。


教訓

開業医にとっても厚生局の監査はまさに恐怖の大王の存在です。不正請求は論外としても、患者当たりの請求単価が高いだけでも、怖い怖い指導の対象になります。言ったら悪いですが、加算にも表と裏があって、自動的に付く加算(たとえば乳幼児加算)と条件付の加算があります。条件とは○○指導料の類に多いのですが、大抵は「要点を詳しくカルテに記載する」なんて感じです。この「詳しく」の基準が曖昧模糊としていまして、いざ監査とか指導になると重箱を追及されます。経験談はテンコモリあります。

こういう処分は厳格化路線を突っ走っています。不正は宜しくないのは大原則としても、「これだけ」って事で保険医停止処分なんて事例はドンドン増えています。聞かされる方は背筋が寒くなるです。でもって、東京医大茨城医療センターみたいな地域の中核病院でもこれだけの処分を喰らうです。ましてや中小病院、開業医なんてって事です。怖い時代です。


落差

不正に対する処分が厳しいのはある程度仕方が無いとは思います。とくにわかってやっている故意犯に厳しい処分が下されるのは、怖いと思う反面、身から出た錆と思わざるを得ません。その点については納得するとしても、同じ厚生労働省が管理監督している労働基準法違反との落差を嫌でも感じます。

労基法の罰則の適用は、これまで泥縄式に学習してきた範囲で言えば、安易に法を適用して事業主体そのものを潰してしまわない事に大きな配慮があるとされています。労基法違反による指導例は少なからず出ています。覚えているところでは、滋賀県立成人病センターもありましたし、愛育病院、東京の日赤も話題になりました。佐賀の好生館もありましたし、奈良の産科医時間外請求訴訟もあります。

誤解無い様にして欲しいのですが、労基法違反に対する指導に保険報酬請求違反を合わせて欲しいのではなく、保険報酬請求違反に労基法を合わせて欲しいと思うところです。まあ、厚労省の内部では「別の部署、別の話」で話が終わりなのは考えるまでもありませんけどね。