期待と憶測(週刊誌風)

週刊誌風としているのは情報源が今日は明示しにくく、マスコミの常套文句である「○○筋」とせざるを得ないので御了解下さい。まずなんですが、

詳しい内容はお手間ですがリンク先をお読み下さい。大雑把にだけ内容を説明しておくと、看護師の労働環境の改善を本格的に行うとの通達の紹介です。ふ〜んてなところもありますが、その手の通達なら医師にも出されています。探し回っても2個しか確認できなかったのですが、勤務実態の調査は、たしかもう1回あったはずなのですが、どうしても見つけられないのが残念です。ただここで重要なのは勤務医に対して通達や調査があった事実であり、さらに重要なのは実質的に「出しただけ」になっている事です。はいじゃ、今回の看護師に出されたものはどうかです。これが情報筋によりますと「本気」であるとされています。

さらに情報筋は「今年は看護師、来年は勤務医で本気で取り組む」ともしています。そうであれば朗報には違いないのですが、どれぐらい情報筋の話を信用できるかになります。厚労省の内輪の本気度なんて外部から察知しようがないのですが、看護師については本気であってもおかしくはないと感じます。

看護業界については御存知の通り、業界団体と医政局看護課は密接なつながりがあります。ウォッチャーによれば、業界団体の新会長の選出にあたり、路線対立が見られるとの観測もありますが、少なくとも医師の業界団体とされる日医と厚労省の関係に較べると雲泥の差です。看護師の業界団体と医政局看護課がタッグを組んでの成果が今回との通達であるとすれば、実効性はかなり確保されてもおかしくありません。


看護師の労働環境の改善が為される事には基本的に異議はございませんし、実効性の成果が得られる様には願っておきますが、問題は情報筋による「来年は勤務医」です。これの実現性、実効性がどれぐらいあるかです。観測筋の情報は今回の看護師に対する通達の背景に厚労省内の旧厚生省、旧労働省の権限争いがあるとしています。

厚生労働省は言うまでもなく旧厚生省と旧労働省の連合体ですが、wikipediaより、

  • 1938年(昭和13年)1月11日:当時の陸軍大臣寺内寿一の提唱に端を発し、主に傷痍軍人や戦死者の遺族に関する行政機関として、内務省から分離される形で、厚生省が設置される。当時は人材を主に内務省内で発掘して厚生省に出向させるかたちをとっていた。
  • 1947年(昭和22年)9月1日:労働行政部門が労働省として分離する。
  • 2001年(平成13年)1月5日:中央省庁再編に伴い、労働省と再統合して厚生労働省となる。

戦前の1938年に旧内務省から分離されて厚生省は発足し、1947年に労働省がさらに分離、これが2001年に再統合の経緯となっています。旧厚生省から旧労働省が分離されていた期間は50年以上あり、2001年に再統合後も旧両省の人事系列は基本的に別建てになっているともされます。旧両省の力関係は予算的に「旧厚生省 > 旧労働省」であるらしく、これが感情的にも微妙な対立要因になっているともされます。

そんな事は省庁再編で統合されたところではどこでもあるのでしょうが、力関係で分が悪い旧労働省側の巻き返しと言うか、反撃が医療業界の労働環境の改善と情報筋はしています。旧労働省の使命は労働者の権利保護です。いろいろ言われてはいますが、労働行政の総元締めです。旧労働省側の大義名分としては、再統合してお膝元になった医療関係の労働環境は改善しておかないとならないぐらいのようです。

かつて医師に出された通達も旧労働省側の意向はあったかもしれませんが、実行段階になると旧厚生省側の抵抗にあって骨抜きされ、その存在さえ勤務医に知られない様に封じ込められていたとしても良いかもしれません。

厚労省側の大義名分は杓子定規に労働法規を医療現場に当てはめれば、日本の医療は崩壊するぐらいであったとしても良いようです。内部事情はトンと存じませんが、たとえ旧労働省側の提案と旧厚生省側の抵抗が大臣レベルに持ち上がっても、平地に乱を起こす事を大臣も、さらには政府与党も好まず、旧労働省側の面子を立てて「通達は出されている」でお茶を濁してきたと考えても、それほど的外れではないと考えています。


では今回が本当に違うかです。今日は「週刊誌風」と銘打っている様に憶測論ばかりですが、「お茶濁し」路線に変化が出ているようです。変化が出ている要因として、かつては勤務医自体が労働環境に極めて無知であり無頓着であるというのがありました。たとえば有名になった平成14年の通達にしても、平成14年時点では、たとえ読んでも鼻で哂ってゴミ箱ポイだったからです。

ところが現在はかなり様相が変わって来ています。勤務医が自らの医師で労基署に労働環境の劣悪さを訴える様になってきています。それも椿事のレベルではなく頻々とになっています。頻々は言い過ぎかもしれませんが、新聞沙汰として紙面を飾る程度には増えています。実際に労基署に駆け込まなくとも、いつでも駆け込んで対応を迫るという知識が勤務医に広がったのは間違いありません。

同時に駆け込む知識が出来たと言う事は、勤務医が自らの労働環境の「極度の違法性」を広く認識していると言う事です。むしろこっちの方が大きいかもしれません。最高裁まで争うかどうかは存じませんが、注目を集めた奈良産婦人科時間が訴訟の行方も気にはなっていると思っています。

労働訴訟は不思議なもので、一旦訴訟になれば労働者側が有利な事が多い印象をもっています。つうのは労働法規自体は条文上も通達上も、かなり労働者に有利と感じられるからです。そんなに多くの判例を知りませんが、条文や通達の裁判所の解釈も使用者側にかなり辛く出る印象があります。ココロは医療訴訟とは逆の構図で「労働者は弱者」が根底にありそうな気がしています。

労働省側としては、労働訴訟の頻発は避けたいの意向が強く出ていると考えています。労働訴訟が増え、労働者側が勝ち続けると、今度は労働行政の総元締めの旧労働省に対し「何をやっているんだ」の批判が向けられる懸念です。なんと言っても旧労働省は、訴訟にならない様に労働環境を改善させる役割も担っていると言えるからです。


ただし問題は同じところをグルグル回ります。労働環境の改善はほぼイコールとして「カネがかかる」がついて回ります。つうかカネがかからずに労働環境が改善できるのであれば、全国の経営者がわざわざ労働法規に違反する必要性がないからです。勤務医の労働環境の改善として、とりあえずとして取り上げられるのは時間外手当の問題です。

医療だけではなく他の業界でも変わらぬ問題として存在する「サービス残業」です。これをまともに支払うだけで、全国の病院経営が傾くとしても大袈裟ではありません。さらにもう一段階進めて、常識的な36協定に基く時間外労働時間の制限(省令だったかな?)なんてやれば、不足する労働時間の穴埋めで医療はパンクします。これはカネだけで済む問題ではなく、逆さに振っても必要な医師数を補充できないというのもあります。


風の噂に聞く次回の診療報酬の改訂は「マイナス」だそうです。これについても様々な意見があるでしょうが、震災対策に莫大な予算が必要ですから、労働環境の改善を補うだけの医療費増額なんて、無い袖は振れない状態ぐらいには理解しておきます。さらに関連して消費税アップなんて話も取り沙汰されていますが、これも行方は現時点では微妙なところです。さらに消費税アップが診療報酬アップにどれだけ直結するかも誠に不透明なお話です。

私が憶測するに、情報筋が言う勤務医の労働環境の改善の「本気」は財源問題から龍頭蛇尾に終る可能性も十分にあると見ています。さらに財源的には悪条件がありまして、今年の看護師の労働環境の改善にも当然の事ながらカネがかかります。今年で看護師にカネを使ったら、来年の勤務医に対する労働環境改善のための原資はさらにやせ細ると推測されます。


もう一つ、私のような開業医はさらに厳しくなるだろうです。マイナス改訂で看護師や勤務医の労働環境改善を行うとなれば、原資は開業医から求めざるを得ません。前回の診療報酬改訂もその路線でしたから、これがもっと強力に打ち出されるであろう事は誰でも予想がつきます。この辺の綱引きをやっさもっさとやった結果は、数年のうちに明らかになるでしょう。

うちも対策を考えないといけないのですが、厳しいな・・・対策と言っても決定が出てこないと基本的に立てようがなく、小児科開業医なんて工夫の余地がそもそも乏しいので、いつもの出たとこ勝負でんな。。。