日医自ら医師「確保」策とするあたりにいきなり違和感を感じますが、定例記者会見には15カ国における産科医確保に関する調査結果についてとして掲載されています。まず背景と目的として、
- わが国の周産期医療を取り巻く環境は極めて厳しく、産科医不足や偏在に対する解決策が急務となっている。さまざまな対応が始められつつあるが、長期的な視点からの検討が必要とされている。
- 産科医の確保の問題が諸外国でも生じているのか、安定的な確保のためにどのような対応を行っているかは必ずしも知られていない。医療保険制度や提供体制、分娩に関わる文化や歴史的背景などの違いはあるものの、産科医の需給の現況や確保のための方策を調べ、日本の実情にふさわしい確保策を検討するための資料とする。
諸外国の事情は私も知りたいところですから、参考にしたいと思います。なお諸外国の事情は私も殆んど知りませんので、あくまでも日医の資料に基づいてのもであることをお断りしておきます。それで「調査の概要」ですが、
調査の概要
【対象】
世界医師会加盟国17カ国に日本医師会(国際課)より配布した。うち14カ国(フランス、ドイツ、イギリス、アメリカ、カナダ、韓国、台湾、シンガポール、タイ、フィンランド、デンマーク、ニュージーランド、イスラエル、アイスランド)から回答を得た。日本を含めた15カ国で集計を実施した。
【調査時期】
2008年1〜8月
この15ヶ国が選ばれた理由はわかりませんが、こういう国々での調査が行われ、データとしては昨年のものである事がわかります。それにしても日医も大がかりな調査をしたもんだと感心していたら、
本調査は平成20年度厚生労働省・子ども家庭総合研究事業「分娩拠点病院の創設と産科2次医療圏の設定による産科医師の集中化モデル事業」の一環として実施した。
厚労省の研究事業の分析のようです。「調査結果」のまとめとして、
- 15ヵ国中11ヵ国が「産科医の不足や偏在がある」と回答し、産科医の不足や偏在は諸外国でも課題となっていた。女性医師の増加、訴訟の増加、若い医師の勤務意識の変化などは共通の現象であった。
- 確保策として、研修医数の管理、地方勤務のための財政支援、産科医の総数管理、外国人医師の採用が用いられていた。外国人医師の活用ができない日本においては、医師確保はより切迫した問題である。
- フランスでは、関連機関の代表者による委員会で地域別の研修医数を検討していた。ただし、研修終了後の地方における医師定着の問題を抱えていた。
- 調査の対象国のなかで、日本は平均勤務時間が74時間(週)と最長であった。
この4点について資料とともにまとめられているのですが、順番に解説資料を見てみます。
■1. 15ヵ国中11ヵ国が「産科医の不足や偏在がある」と回答し、産科医の不足や偏在は諸外国でも課題となっていた。女性医師の増加、訴訟の増加、若い医師の勤務意識の変化などは共通の現象であった。
ここは
- 諸外国でも産科医不足が起こっている
- 産科医が不足する現象の理由は共通である
15カ国中11カ国が「現在の産科医数に不足あるいは偏在がある」と回答した。将来に不足や偏在が起きると予測している国も13カ国中10カ国にのぼった。
こうされ、図表として、
諸外国においても、女性医師の割合の増加や、訴訟の増加、勤務意識の変化など、産科医の不足・偏在の事情は、日本と似通っている。
主な理由をまとめたものとして、
■2. 確保策として、研修医数の管理、地方勤務のための財政支援、産科医の総数管理、外国人医師の採用が用いられていた。外国人医師の活用ができない日本においては、医師確保はより切迫した問題である。
この諸外国の「確保」策をまとめたものとして、
- 研修医数の管理
- 産科医の総数管理
最も多い対応策は、「研修医の定員数の管理」(7カ国)。「地方部や過疎地での勤務のための補助金などの財政援助」は6カ国、「国内の総産科医数の管理・制限」は5カ国で行われている。
気にはなりますが次に進みます。
■3. フランスでは、関連機関の代表者による委員会で地域別の研修医数を検討していた。ただし、研修終了後の地方における医師定着の問題を抱えていた。
理由はよく分かりませんが、フランスモデルを日医は注目したようです。資料ではアメリカモデルも注目したようですが、検討課題にしているのはフランスモデルと考えて良さそうです。両方のモデルの聞き取り調査の結果が掲載されています。
【フランス】
【アメリカ】
- 地域に設置されている委員会(保健省と文部省の出先機関、大学医学部長、医師会などがメンバー)からの報告と全国席次試験に基づいて研修医数を地域別診療科別に振り分ける枠を定めている。
- 産科は2007年に150ポストから5ポスト増員。
- 研修後、国は強制的な地理的・専門科の配分や配置を行うことはできない。現在、研修後の定着のための方策を検討している。
フランスモデルは研修医の振り分け地域、診療科別研修医数を決定して、研修医の入口で「数の管理」を行なう政策のようです。
■4. 調査の対象国のなかで、日本は平均勤務時間が74時間(週)と最長であった
まとめた表ですが、
こういう検討を行なった末に「検討課題」として、
- フランスと同様、日本においても、地域の医師数を検討する委員会の強化によって研修医の地方部への誘導を促進できるであろう。そのうえで、研修後の勤務地定着を図るため、人数枠、地方部の勤務環境の整備、医師のキャリア上の優遇措置など多面的な対応が今後の検討課題のひとつである。
- 調査からは産科医の勤務環境がよいと回答した国では、学生間で産科の人気が高い傾向がみられた。日本の医師の体制や医療スタッフの体制の再検討による勤務環境の改善が問題解決のポイントと思われる。
研修病院の定員数を減らして強制的に地方に前期研修医を勤務させる政策が行われるのは、今年からでしたっけ。日医は以前からこれに大乗り気でしたが、絶賛に近い評価をしているように思います。とくに医学生や研修医にはあまり評判が良くなかったとは思うのですが、昨日触れた「医師の団結云々」では、学生や研修医にも日医への理解を深める施策が書いてありましたから、なかなかのものです。
フランスで問題になっているとされる研修終了後の、地域定着については、お題目のように産科医の勤務環境の改善をあげていますが、これも恒例の通り「どうするか」は一切触れていません。穿って考えれば総合医育成の前期研修で地域割りを強制した後、後期研修も制度化してフランス式の診療科の強制の導入を唱えているようにも見えます。
それと地域医療の充実手法として、地域医療を整備充実することによって魅力を高め医師を呼び集める方法と、たとえ研修医であってもとにかく頭数をそろえる事を最優先させる手法がありますが、どうも日医は強制的でも頭数をそろえる事を主張しているように私は読めます。どう読んでも強制配置策は具体的ですし、整備充実策は空想的にしか読めないからです。
それと補足資料で興味深いものを2つばかり、まず「産科医の現状」として、
産科医のうち女性医師が占める割合が3割未満の国は日本、韓国、台湾の3ヵ国で、欧米諸国では女性医師の割合が高い傾向がみられた。フィンランドでは女性産科医数が男性産科医数を上回っていた。
これをまとめたグラフが、
男性産科医の平均年齢が50代前半、女性産科医の平均年齢が40代半ばの国が多い。対象国のなかでは日本の産科医の年齢は特に高齢であるという結果ではなかった。
これについてのグラフが、
最後にこの報告の末尾にあったものです。
本調査は平成20年度厚生労働省・子ども家庭総合研究事業「分娩拠点病院の創設と産科2次医療圏の設定による産科医師の集中化モデル事業」(主任研究者岡村州博東北大学教授)の分担研究「産科医を恒常的に確保するための各国の施策についての調査」(日本医師会(木下勝之常任理事)・日医総研)に基づき、日医総研ワーキングペーパーNo.185「医師確保策−15ヵ国における産科医調査」にまとめたものである。
この分担研究「産科医を恒常的に確保するための各国の施策についての調査」の担当は、木下勝之常任理事であった事が確認できます。