ネタじゃないと思います

何回か読み直したのですが、とてもネタとは思えません。内容自体はぶっ飛ぶほどのネタ的なものなのですが、語り口の真摯さ、細部の描写の詳しさ、全体を通しての破綻のない論理の一貫性からして実話の可能性が非常に高いと考えます。それでも実話とするのが信じられない内容とすれば良いかと思います。皆様も信憑性について考えて頂きたいところです。これがもしネタであれば半端じゃない創作力が必要と考えます。

見つけたのは天漢日乗様経由ですが、琴子の母氏が書かれている助産院は安全?の産褥熱のエントリーからです。琴子の母氏は前から存じているブロガーで常にと言うわけではありませんが、それなりにROMさせて頂いています。硬派のブロガーであり、医療のこともよく勉強されている方です。元もとはそこに寄せられたコメントなんですが、順次引用して解説してみます。

先日の当ブログ『不潔な器具で新生児破傷風』にちまの母さんがご自身の自宅出産での実体験をお寄せくださいました。

ここに書かれている『不潔な器具で新生児破傷風』も驚くようなお話なんですが、これは天漢日乗様の産科崩壊 兵庫県内の助産院でここ1-2年以内になんと先進国では考えにくい「新生児破傷風」が発生していた 原因は不潔な器具で臍の緒を切ったためを御参照ください。これは完全に実話ですから寒気のするお話です。

2人目を自宅出産したものです。

 助産師からは、陣痛がきて時間があったら、お産のときに使う器具の入った金属製の容器に、水を入れて、ガスにかけて10分程度煮沸消毒するよう指示されました。容器には臍帯切断のためのはさみや会陰裂傷したときに使ったクリップ、せっし等が入っていました。

 身体を貫通するものや粘膜にふれるものは滅菌が必要なはずです。細菌は環境が悪くなると芽胞といって、熱や乾燥に強い構造を作るものがあります。破傷風菌も芽胞を作ります。煮沸消毒では効果がないようです。

 助産院や自宅だからといって、感染管理を怠ってはいけないはずです。

 私の関わった助産師さんは「助産院は化学的なものは使わないで、なるべく自然のものでという方針」だと言っていました。それから、「自宅は妊婦が住んでいるところなので常在菌がいるから安全とか言ってました。だから、消毒類も一切持ってきてなかったです。助産行為するのに。私は産褥熱でひどい思いをしました。

 自然にこだわらないで、母子の安全を一番に考えて欲しいです。助産師さんがその責任をおっているのですから。

話は自宅で助産師による分娩を選択された方のものです。ここでは「そもそも論」は控えたいと思います。少し話が見えないところがあるのですが、

    助産師からは、陣痛がきて時間があったら、お産のときに使う器具の入った金属製の容器に、水を入れて、ガスにかけて10分程度煮沸消毒するよう指示されました。
どうもなんですが、自宅分娩に備えて担当した助産師は必要な医療器具を産婦宅に置いていたようです。置いとくだけでは当然不潔になりますから、産婦の手で消毒するような段取りになっているようです。消毒と言っても一般住宅の中ですから、医療用の滅菌消毒器はなく、家庭用コンロでの煮沸消毒になります。

滅菌消毒の方法として医療機関では、煮沸消毒はほぼ絶滅したと考えています。ひょっとしたらごく一部の医療機関でまだ使われているかもしれませんが、原則として高圧滅菌蒸気(オートクレーブ)かEOGにて消毒されます。煮沸消毒は昭和40年代ぐらいまではポピュラーなものでしたが、消毒法として不完全なためオートクレープに代わったのです。うちもしけた診療所ですが、消毒はオートクレーブにて行ないます。

ではでは、自宅分娩にオートクレーブを運び込むかといえばそうではありません。医療者の常識として、自院で消毒した医療機器を持ち込むのが当然の行いです。方法はさしてのものではなく、通常は必要な医療機器を包布と呼ぶ(呼び名に地域差あり)厚い布でくるんで、それごとオートクレーブで消毒し、包布ごと運んで現場で開くという手法です。オートクレーブで消毒できないようなものはディスポ製品が豊富にありますから、これを用い、可能な限りの滅菌消毒体制を敷きます。

こういう事は現代の医療では常識以前のお話かと思うのですが、この自宅分娩を担当した助産師はあえて産婦の手による煮沸消毒を選択指示した事になります。この部分だけでも医療者としてはネタではないかと疑うほど荒唐無稽の話なんですが、こういう行為を指示した助産師の弁明と言うか説明があります。

  • 助産院は化学的なものは使わないで、なるべく自然のものでという方針」
  • 「自宅は妊婦が住んでいるところなので常在菌がいるから安全」

助産院が自然分娩志向である事は説明も不要ですが、私の理解するところは陣痛促進剤などの医薬品を用いず、経腟分娩を最優先させるぐらいと考えていました。ところが「自然」と言う意味はそんなレベルではなく、「化学的」なものも排除するものらしい事がわかります。分娩に関しても必要な部分には消毒が必要であり、消毒液の多くは「化学的」に合成されます。

化学的に合成される消毒薬無しでどうするのかと思いたいところですが、

    だから、消毒類も一切持ってきてなかったです
どうにも江戸時代の焼酎消毒以前の状態である事がわかります。さらにになりますが「常在菌がいるから安全」となると、どう理解すれば良いか不明です。ぬか漬けじゃあるまいに。

私の場合は、特に希望したわけではなかったのですが、自宅のお風呂で水中出産してしまいました。
和痛のために入浴するよう言われて、お風呂に入っていたら陣痛が強くなりそのまま動けなくなってしまい、赤ちゃんの頭がでました。

水中出産なるものがある事は知っていましたが、これを自宅の風呂で行なうとは恥ずかしながら初めて知りました。

 入浴前に助産師さんによる浴槽の洗浄・消毒もなく、さらに、助産師さんのすすめで事前に貸し出しされていたジェットバス(家庭用気泡浴装置)を出産中に使用していました。

 産後は、39℃台の発熱、じっとしていても汗が出るくらいの腹痛で、そんな状態で通院するのも大変でした。

 その装置から水アカが出ていたので、後で聞いてみたのですが、その装置は何年間も妊婦間で洗浄・消毒をせず、使いまわしていたようです。産科で経緯を話したら、水中出産時の感染ではないかということでした。赤ちゃんは幸い、肺炎を起こすことなく、無事でした。

消毒液を持参していないので風呂は当然のように普段の状態です。それも恐ろしい事なんですが、貸し出されたジェットバスが想像を絶する代物で、

    その装置から水アカが出ていたので、後で聞いてみたのですが、その装置は何年間も妊婦間で洗浄・消毒をせず、使いまわしていたようです。
どうも水垢が出ようが、洗浄せずに使い回ししようが「常在菌がいるから安全」説でチョンと理解しなければならないようです。それでも幸い赤ちゃんは感染を起さなかったようですが、母親はしっかり感染しています。この時期の発熱なら産褥熱を疑わなければならないのですが、Feddback Note od Medecineに簡潔にまとめてあるので紹介しておきます。

■概念

  • 分娩時に生じた創傷から細菌感染が生じ発熱を呈する病態
  • 分娩後24時間以降、産褥10日以内に2日以上にわたり38℃以上の発熱をきたすもの
  • 性器以外に原発する感染症は除外する
  • 帝王切開術では経腟分娩に比べ発生率が高い
  • 前期破水・早期破水で分娩までに時間を要した場合は発生率が高い
■症状
  • 発熱
  • 腹痛
  • 悪臭を伴う膿性悪露
  • 膀胱に感染が及ぶと尿意頻数や残尿など

症状の記載が少ないですが、経過からして産褥熱である可能性が非常に高いと考えられます。それも十分に予防して防ぎきれなかったというより、起こっても不思議ない状態であったとしても差し支えないと感じます。

 それから、なぜ、妊婦に煮沸消毒させたかということですが、簡単な作業だから任せてよいと思ったんですかね。助産師さん自身でしっかりと管理するべきだと思います。

 それから、赤ちゃんの臍の消毒は、臍セットに入っていたアルコールを使っていました。

 それ以外、消毒薬はもってきてなかったのですが、助産師さんが用意してくれた入浴剤に松の油が入っているから、そこに抗菌効果を期待していたみたいです。

 出産時の入浴や、導尿のときに会陰を拭くのに使っていました。

先に「化学的なものは使わない」としていましたが、臍セットの酒精綿はOKのようです。無水エタノールが化学的かどうかは判断は微妙ですが、化学的でない消毒薬として使われていたのが

    松の油
どんなものかなのですが、調べてみるとトールオイルとして工業製品の原料として、それなりに使われているようです。ハリマ化成株式会社のHPには、

 ハートールは、トールロジン、トール油脂肪酸及びその他のトール油精留製品から成る製品群の総称です。トールロジンは製紙用サイズ剤、塗料・インキ・接着剤用樹脂、そして合成ゴム乳化剤の生産に使用されます。トール油脂肪酸は大豆脂肪酸に類似した組成・特徴を持っており、塗料、界面活性剤、洗剤、そして多くの工業用中間原料として使用されます。

また今回の出来事に用いられたどうかは不明ですが松の油から作られた石鹸と言うのがあり、効能として、

松の油には、もともと静電気防止効果、柔軟効果、除菌効果、消臭効果があります。

除菌効果があるのは確認できますが、

    出産時の入浴や、導尿のときに会陰を拭くのに使っていました。
出産時の入浴(水中分娩の事かな?)も、導尿時の消毒にもどれほどの効果が期待できるかは正直なところ疑問です。実話とは思うのですが、この平成の世に明治・大正期並みの衛生管理で分娩が行なわれている事に素直に驚かされます。結果として産褥熱まで起こったのですから、担当した助産師に抗議を行ったようです。衛生管理の杜撰さは見ただけでわかりますし、ネット時代ですからそこそこの知識は得る事も難しくありません。

交渉の様子もなかなかのものです。まずですが、

 助産師会と交渉を続けていますが、担当だった助産師さんとの連絡を一方的に断たれたり、記録開示に応じなかったり、非を認めなかったりと対応がひどいので精神的に参ります。

さらにですが、

 その助産師さんは40代でした。総合病院で勤めているたこともあるらしいので、感染管理について知っているはずだと思っていましたが、そこの助産院のやり方に染まってしまったのかなと思います。それから、助産院は閉鎖的な環境なので、新しい情報が入ってくることもないのかなと思います。井の中の蛙というか。

 はじめは助産師会も公にされたくないからか下手に出ていましたが、私たちが保健所に苦情を出した頃から態度が一変。交渉の日が近づいてきたある日、金銭的な賠償と助産師の免許証をみせて欲しいとお願いすると、「はー?もぐりだと思ってんの?弁護士に相談してくるわ」と逆切れされ、ドタキャン。私たちが我慢を重ねて、ようやく延期となっていた交渉の日が近づいてきました。

なかなか誠意ある交渉ぶりである事がわかります。ここで注目されるのは、

    助産師会と交渉を続けていますが
交渉は助産師会が相手であるようです。おそらくは最初は担当した助産師個人に対し抗議が行われたと思うのですが、かなり早い段階で助産師会が交渉の前面に立っている事を窺わせます。これもまた「おそらく」になりますが、担当した助産師からの出産後の弁明と言うか釈明は余りなかったと考えられ、助産師会に交渉相手が移っても、一般的な意味での「誠意ある交渉」に必ずしもなっていない様子に思われます。

もちろんこれはいわゆる産婦側だけの言い分であって、状況を正確に判断するためには助産師側の言い分も聞く必要があります。ただ産婦側の主張で事実と確認できる事はあり、

  1. 分娩用の医療器材を産婦に煮沸消毒させた
  2. おそらく「松の油」だけで除菌した自宅の風呂で水中分娩させた
  3. 医学的に有効な消毒薬として用いられたのは、臍セットに附属の酒精綿が臍の消毒に用いられただけのようである
  4. 導尿の消毒も「松の油」だったようだ
  5. 経過からして産褥熱が起こった
ジェットバスの水垢もこれに加えておいても良さそうですが、一応保留にしておきます。どうにも、こうにも、医学的にはネタとしか思えないような信じられないお話ですが、どうもこれは「事実は小説より奇なり」を地で行なわれた事のように感じてなりません。