民主党議員もお勉強してください

10/24付CBニュースより、

救急隊の過半数が「利用してない」−救急医療情報システム

 民主党の厚生労働部門会議が10月24日に開かれ、東京都内で妊娠中に脳内出血を起こした女性が7医療機関から受け入れを断られた後に死亡したとされる問題で、23日に引き続いて厚生労働省消防庁からヒアリングを行った。

 消防庁は、「救急医療情報システム」に関するアンケート調査について説明した。全国の救急隊のうち、約53%が同システムを「ほとんど利用していない」または「全く利用していない」と回答。利用しない理由については、27.4%が「リアルタイムの情報ではない・情報の信ぴょう性が低い」、25.8%が「当番制、輪番制が確立されているから今の体制で十分」、13.2%が「独自で情報収集している」と答えた。今年2月の医療機関を対象にした情報更新の頻度調査では、一日の更新回数が「2回」と答えた医療機関が25%、「1回」が29%で、「リアルタイムで更新している」と答えた医療機関は11%にとどまった。

 同党の議員らは「情報の信ぴょう性が低く、リアルタイムの情報ではないから利用していないという救急隊が27%もいるとは信じ難い」と驚きを隠さなかった。

 厚労省は、今年4月時点での総合周産期母子医療センターに関する調査について説明した。同調査によると、都立墨東病院産婦人科の常勤医師は3人だった。

 この数字について、同党の議員らは「(常勤が)3人だったら二十四時間体制を取ることができないことぐらい分かるだろう」「なぜこの数字を見て指定施設から外さなかったのか」「他の都道府県(の総合周産期母子医療センター)と比べても明らかに少ない」などと厳しく批判した。

 同調査によると、全国73の総合周産期母子医療センターのうち、50施設が常勤医10人以下、15施設が5人以下だった。

 厚労省は今後の対応として、▽全国の周産期医療センターへの緊急アンケート調査▽必要な施策の検討と予算の確保▽周産期救急情報システムの利用検討▽救急医療と産科・周産期医療の連携▽産科医の確保−などを検討中と説明した。
 また、今回の問題で機能しなかった「救急医療情報システム」の改善と、妊婦の受け入れができなかった医療機関への事実関係の調査も始めるという。

 会議の最後に、山田正彦衆院議員は「ベッドが空いてない、医師がいないなどの理由で安易に受け入れを断らないでほしい。緊急対応策をぜひ考えてほしい」と訴えた。

あちこちで取り上げられているニュースですが、私も二番煎じ、三番煎じで続いてみます。話のキモは、

全国の救急隊のうち、約53%が同システムを「ほとんど利用していない」または「全く利用していない」と回答

どうもこの程度の事が驚愕の新事実と受け取られたようです。医療関係者の間では常識以前のお話なんですが、そうでない方が多いという事かと考えます。その証拠に臨席した民主党議員から、

議員らは「情報の信ぴょう性が低く、リアルタイムの情報ではないから利用していないという救急隊が27%もいるとは信じ難い」と驚きを隠さなかった。

まあ利用しているところも参考情報程度にしか思っていないのは確かでしょう。前にも空床情報と空室情報の違いは解説した事があるので簡略にしますが、たとえば「1床」と空床情報は1人の患者の受け入れ可能を意味していますが、どんな患者であっても可能かと言えばそうでないという大前提があります。それは空床情報利用者の常識です。

どんな喩えが一番相応しいかと思うのですが、今日はレストランにしてみます。レストランにも席には限りがあります。また厨房が提供できる食材には限界があります。席が空いていて客を受け入れる時に、食材が一人前しか残っていないとします。ここで受け入れられるのは一人前の食材で満足できる客1人だけです。一人で数人前を食べてしまう気である大食いチャンピオンと最初からわかっていれば受け入れません。

空床情報も同様で、物理的なベッドだけではなく、スタッフとして受け入れられる患者の質に限りがあります。ある水準までは受け入れても治療は可能ですが、ある水準を越えると治療が不可能になるということです。当然ですが空床情報で「アリ」となっていても患者の質によっては受け入れ不可能になります。さらに言えば、受け入れ水準は時々刻々と変化します。入院中の患者の容体が急に悪化すれば水準は下がります。ごく単純に手が回らないという理由からで、そういう事情も救急隊も良く知っていると言うだけの事です。

空床情報にはそういう周辺情報は皆無です。わかっているのはどの水準か不明だが、受け入れが可能な病床があるというだけです。リアルタイムでの更新がうるさく言われているようですが、とくに夜間は人手は手薄です。暇な時はリアルタイムに更新する余裕があっても更新する必要が無く、多忙な時は今度は更新する余裕がなくなります。空床情報のリアルタイムの更新に費やす人手など失われるという事です。

東京の妊婦脳出血死亡で空床があるにも関らず受け入れなかった医療機関を非難する声があります。搬送元と搬送先の情報伝達の不備を指摘する声もあるようですが、出産間近い妊婦の脳出血超弩級の重症患者です。またその治療には産科単独では対処不能で、脳外科、麻酔科、新生児科も必要とされる水準の非常に高いものが要求されます。それほどの医療体制を提供する空床情報ではなかったと言うだけのことです。

では「空床」と表示したからには、そういう医療体制を右から左に提供する事を義務づけるとすればどうなるかです。たしかに空床と表示した病院はいかなる状態の患者でも受け入れは可能になるかもしれませんが、それが提供できない医療機関は満床となり受け入れ不可となります。当然以前の話ですが、それだけの医療体制を夜間休日であっても提供できる医療機関は東京であってもどれほどあるかになります。

言い出したらキリがなくなる部分はありますが、せめてこれぐらいの初歩的な現場の常識を知ってから議論してもらいたいものです。こんな初歩的な事で「驚きを隠さなかった」と言っているようでは失望感しか出てきません。もう一つ、二番煎じ、三番煎じの辛さで同じような論評になるのですが、

山田正彦衆院議員は「ベッドが空いてない、医師がいないなどの理由で安易に受け入れを断らないでほしい。緊急対応策をぜひ考えてほしい」と訴えた。

医療にとって「ベッドが空いていない」は治療する医師やスタッフがいないという事であり、「医師がいない」と言うのはそのものズバリで治療にあたる医師がそのものが存在しない事です。患者は病院の建物に入ったから病気が良くなるわけではありません。建物に入って医療スタッフの人力の治療を受けて初めて良くなる可能性が出てきます。「ベッドが空いていない」「医師がいない」で受け入れるという事は、患者に病院の建物に入ってもらうだけの事を意味します。

どうもこの議員は病院の建物にさえ入れば、医療スタッフにも見向きもされず、ましてや医師の診察治療も受けなくとも病気が治ってしまう特技をお持ちのようです。珍しい特技ですが、そういう特異体質の方を基準に医療を考える事はやめられた方が賢明かと存じます。