教科書レベル

NATROM氏が興味深い記事を掘り起こしてくれています。9/13付西日本新聞夕刊コラム「潮風」に掲載されたもので、Web版にはありません。NATROM氏のエントリーには元記事が写真入で掲載されています。テーマは大野病院事件です。

 この間、医学は進み、書物に癒着胎盤の記載が増えていた。帝王切開が増え癒着胎盤が増えているからである。医学生向けの「標準産科婦人科学」には「帝王切開の既往があり癒着胎盤が疑われる場合は、輸血確保の容易な輸血部がある施設で、麻酔医の管理下で帝王切開を行わなければならない。胎盤剥離で剥がれない場合や止血不能例では直ちに子宮全摘を行う」とある。

 今回の事件では教科書通りには処置されなかったが医師は無罪。判決を読めば妥当な結論とはいえ、生命を預かる医療機関の責任は重い。実地臨床は教科書通りにはいかないといっても、臨床を教科書レベルに上げてもらわねば患者が困る。医療事故を減らす努力を怠ってはならない。

(ゆ)

この記事についての解説はNATROM氏がみっちりされており付け加える事がないのですが、なかなかのコラムです。それでもあえて今日のエントリーにつながるように蛇足をつければ、

    西日本新聞は教科書レベルをかなりハイレベルのものであると認識している。
きっとコラム氏も西日本新聞のレベルも、教科書レベルを目指して創刊以来切磋琢磨されてられると考えられます。それで商売が成立するとは九州も人情が篤い土地柄だと感じます。おもしろそうなので西日本新聞のウェブサイトをのぞいて見ると自殺予防週間 報道も能動的かかわりをなる社説がありました。社説の内容自体はありきたりなものですが、読んでみると少々違和感のある構成です。「報道も能動的かかわりを」なんて具体的なタイトルが付けられているので、マスコミ報道と自殺の関りを中心にするかと思いきや、読んでも読んでも出てきません。

社説の9割以上は九州各地の自殺予防の取組みの紹介です。紹介して悪いとは一言も言いませんが、やはり「報道も能動的かかわりを」とタイトルに書いてあるのですから、西日本新聞社の報道姿勢として自殺にどう対処していくかを普通は期待して読むかと思われます。「能動的」とまで書いているのですから、提言であっても具体的に「こう取り組んでいく」とか「こう取り組むべきだ」ぐらいはあって然るべしのように感じます。ところが社説に辛うじてあるのは、

報道機関も自殺防止の観点で能動的にかかわっていきたい。

思わず失笑してしまいそうになりました。どう能動的に取り組むかと言えば

    自殺防止の観点で
嘘はどこにも書いていませんが、自殺予防週間の社説で新聞社が「能動的」に関るのは「自殺防止の観点」以外にないんじゃないですか。それが「能動的なかかわり」の具体的内容として社説が強調するほどの事でしょうか。正直なところ書くまでもなく「当たり前」であり、読者はどう「自殺防止の観点」から西日本新聞社が「能動的にかかわる」のかを知りたいのではないかと考えます。

社説にはこうもあります。

世界保健機関(WHO)の世界自殺予防デー(10日)からの7日間は「自殺予防週間」である。

読めばわかるように西日本新聞社は自殺予防週間はWHOの提唱である事を知っているわけです。実は書きながらそこまで望むのはハイレベル過ぎると反省もしているのですが、WHO提唱の自殺予防週間であるのなら、WHOが報道機関に望んでいる自殺予防メディア関係者のための手引きぐらいは読んで欲しいところです。この手引きに従う事が「能動的にかかわる」事の第一歩かと思われます。

もちろんそんな事はマスコミの常識として西日本新聞社はとうの昔に遵守しており、WHOの手引きより高次元の「能動的なかかわり」をさらに行なうつもりであると主張している可能性はあります。さすがに最近の西日本新聞社の自殺報道のチェックまで手が回らないので、どうかは分かりませんが、高次元の取りくみが「自殺防止の観点」であるのなら、具体的な説明が乏しすぎる様な気がします。

もっとも社説を書いているのは新聞社の窓際族と言うか、埋め草記事量産担当みたいな論説委員でしょうし、西日本新聞自体が教科書レベルを目指す事を宣言している新聞ですから、教科書レベルを越えると考えられるWHOの手引きなどは「どこの世界の話だ???」であっても何の不思議もないと考えられます。西日本新聞も精進を重ねて、せめてタイトルと内容が一致する教科書レベルに達する社説が書けるように祈っておきます。

それと、そもそもこの程度の社説に目くじらを立てること自体が教科書レベルに達していない証拠とも言えますから、私も教科書レベルに達する事が出来るように努力しなければならないようです。