医師ブロガーの本が出ています。ジャンルとすればブログ本になってしまうのでしょうが、そういうジャンル分けを超越した内容の本だと思います。書かれたのは『ERのはしくれ(なんちゃって救急医)』先生です。HNが少々長いのが難点の先生ですが、光栄な事に当ブログにもコメントを頂いたことがあります。本が出版されて実名も出ているので詳しく書けませんが、ある大事件の決定的な証拠を発掘された功績は個人的に忘れられない先生です。
それと実はになりますが、リアルでもお会いした事があるのです。印象はERという激務に就かれているにも関らず理知的かつ温厚な雰囲気を自然に与えられる人柄です。ただこういうタイプの先生は、いざ実戦に臨めばしばしば鬼軍曹と化す事があるので油断ならないのですが、1分どころか1秒を争う判断の場でお仕事をされているので、単なるお人よしでは勤まらないのは確かですし、優しさの中にも厳しさを秘めた指導医の下でこそ優秀な後輩が育ちます。
冒頭でジャンルとしてはブログ本としましたが、これは嘘ではなく日々是よろずER診療という人気ブログを運営されています。ただ内容は私のように医療や医療政策に対する愚痴一辺倒みたいな後ろ向きなスタイルではなく、そういう内容も時に無いとは言えませんが、実戦で培われた臨床のピットフォールを詳しく解説されています。もちろん本の内容もそれについてのものになっています。(ゴメン、まだ読んでません)
本の表紙と目次は、
表紙 | 目次 |
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もう少しだけ本の内容に触れますと、先生が実戦で経験された「あっ」と思う経験例が集積されており、ブログではまずその症例の病歴や症状や検査所見が提示され「これ、なんだ」と問いかける形になっています。それに対しコメンテーターがあれこれ推測を巡らせて症例の実像を探る形式です。もちろん一筋縄ではない言う前提がありますから、「通常ならこう取るが、時にこうなる・・・」的な議論展開になります。
正直なところ設定問題の水準は相当高く、私のような町医者では推測のコメントさえ浮かばず、「なんじゃろか?」と頭を捻るばかりで、後日の解説を読んで「な〜るほど!」と感嘆させられるばかりです。もちろん先生は現場で遭遇し、瞬時の判断でその実相を見抜かれて診療に当られているわけですから、医師としての技量の違いに悔しいというより茫然とばかりにさせられます。
本をまだ読んでいないので言い切りませんが、前線で救急医療に従事されている先生にはお勧めだと思います。一般の方々は基礎知識無しに読まれるとやや難解な部分もあるかもしれませんが、解説は丁寧ですから、医療の難しさ、奥深さを味あうのに興味深い内容かと思います。そうそう文章自体は私のように硬めでよみづらい代物ではなく、非常に読みやすいものですからお勧めしておきます。
それとこれも解説しておいた方が良いと思いますが、先生の職場は救急医療ですが、テレビのERみたいな格好の良いというか、人手も器材も充実したところではありません。どちらかというとごく普通の救急医療の現場です。もしドラマチックな救急医療の最前線の読み物を期待されるならチョット路線が違います。むしろごく普通であってもこれだけの隠された内実と言うか、医師の脳内で駆け巡らされる思考のドラマがあると思われたほうが適切の様な気がします。
興味のある方はお近くの本屋(これはなかなか置いてないかな?)または、アマゾンでお買い求めください。
最後に私は秘めたる作家志望があるので、こうやって本を出版された先生は無条件に「ウラヤマシイ」。決して「ウラメシイ」ではありませんがひたすら「ウラヤマシイ」と思いながら今朝のエントリーを書いてました。うちのブログは本にはなりにくいですからね・・・。