誰のための提案

75歳以上の所得のデータぐらい簡単に見つかるかと思ったらかなり苦戦しました。とりあえず最新データで75歳以上の高齢者は1276万人いる事は確認できました。その上での所得分布ですが、公式のものとなると第2回社会保障審議会・後期高齢者医療の在り方に関する特別部会「高齢者の生活に関する資料について」が一番信頼がおけそうです。ここには75歳以上の所得分布が表として出ています。出ているのは良いのですが、なんとデータが平成12年でチト古いところがあります。この資料の元データは国民生活基礎調査の概況なんですが、これの平成18年版の年次別の所得の状況を見てみると、高齢者世帯の1世帯当たりの平均所得金額が、

    平成12年:319万5000円 → 平成17年:301万9000円
こうあるため、平成12年データでも参考になると判断します。資料によると75歳以上の個人所得は


所得 比率(%) 推定実人数(万人)
所得なし 14.4 183.7
100万円未満 37.1 473.4
100〜200万円 22.2 283.3
200〜400万円 20.6 262.9
400〜600万円 3.3 42.1
600〜1000万円 1.4 17.9
1000万円以上 1.2 15.3


この資料で所得に含まれるものとして、
    雇用者所得、事業所得、農耕・畜産所得、家内労働所得、公的年金・恩給、家賃・地代の収入、利子所得等のほか、仕送りなどを含む実質的な収入である。
ここで平均は156万円となっていますが、男女別では、
  • 男性:245万5000円
  • 女性:101万7000円
えらく差があるのですが大きな原因として、公的年金などの社会保障給付金が、
  • 男性:169万7000円
  • 女性:76万7000円
ここが決定的な差になっていると考えられます。男女が同数と仮定して平均123万2000円が社会保障給付金です。またいわゆる就労による所得は
  • 男性:44万6000円
  • 女性:11万8000円
これも男女が同数と仮定して28万2000円です。こういう状況で所得の分布は、
  1. 100万円未満が51.5%
  2. 200万円未満が73.7%
  3. 400万円以上が5.9%
社会保障給付金から考えて100万円未満には女性が、100〜200万円には男性の多くが含まれそうな気がします。ここまでを基礎知識として、5/31付毎日新聞より

日本経団連:75歳以上の給与「非課税に」…提言検討

 日本経団連は、消費税率の引き上げに合わせて所得税の減免措置も講じる税制改革案を提示する。子育て世代への税負担軽減に加え、75歳以上の高齢者の給与所得などを非課税とすることを検討し、7月にも提言をまとめる。75歳以上を対象にスタートした後期高齢者医療制度に対して「姥(うば)捨て山」との批判が高まる中での提案は、与野党の税制論議にも大きな影響を与えそうだ。

 75歳以上の高齢者が、給与や事業から得た所得を非課税にするよう要望する。一律的な優遇措置の導入には「富裕層を過度に優遇する」との批判が予想されるため、株式の売買や配当など投資収益については、税制優遇の提言は行わないとみられる。

 5月28日の定時総会で2期目を迎えた経団連御手洗冨士夫会長は「消費税の引き上げを財源に安定した社会保障制度の確立」を最優先課題に掲げている。ただ、消費税引き上げには国民の反発もあり、御手洗会長は「経済へのインパクトを最小限に抑えるため、減税も同時に検討すべきだ」との考えを示していた。

 子育て世代や高齢者らの生活支援を検討するのは消費税引き上げに向けた地ならしとも言え、経団連関係者は「日本経済の発展を支えてきた高齢者の不安感をなくすことがすべての前提。高齢者の就労促進のためにも、政府は税制面で思い切った対策を講じるべきだ」と指摘している。【谷川貴史】

経団連の提言は、

    75歳以上の高齢者が、給与や事業から得た所得を非課税にするよう要望
給与や事業となると就労している必要があります。高齢者の自立した生活に対する支援(仮称)に関する監視・影響調査なるものがあり、75歳以上の就労率は、
  • 男性:17.7%
  • 女性:6.5%
これも男女同数と仮定すれば12.1%が就労している事になります。ここで就労者の給与所得の概算をしてみると、
  1. 75歳以上の高齢者が1276万人で就労率が12.1%だから154.4万人
  2. 給与所得の総額は平均が28.2万円ですから人口をかけると3億5983万円3兆5983億円
  3. 一人当たりの平均は233万円
この平均の233万円ですが、年間所得1000万円以上の方が15.3万人おられます。この1000万以上の中には社会保障給付費も含まれますが、仮に給与所得がすべて1000万とすれば、この層だけで1億5300万円1兆5300億円と半分近くを占める事になります。そうなると残りの1000万円未満の139.1万人(11.0%)の就労者の平均給与は148万7000円となります。給与所得者の場合、これは詳しくないのですが、おおよそ給与所得100万円未満なら課税されなかったはずです。

概算なので細かい点では疎漏はありますが、経団連の提案で恩恵を受けるのは75歳以上の高齢者の中でもほんの数パーセントである可能性が出てきます。経団連関係者の言う

    「日本経済の発展を支えてきた高齢者の不安感をなくすことがすべての前提。高齢者の就労促進のためにも、政府は税制面で思い切った対策を講じるべきだ」
どんな対象の高齢者の不安感を除く提案であるかがよくわからなくなります。