先週末から医師のネット世論の注目になっている奈良事件のカルテ流出問題。これについての直接のエントリーはもう書きましたので、今日はもう少し一般的な事例に置き換かえての個人情報保護について考えてみます。
個人情報保護法に関わる業種は医療だけではありません。ほとんどすべての業種が関わります。えらそうに書き出していますが、私も個人情報保護法について逐条的に詳しいわけではありませんので、あくまでも大雑把に理解している範囲と思ってください。ですから誤解や思い違いがあれば訂正を入れて頂くと幸いです。
ある業種で顧客と会社にトラブルが起こったとします。顧客は会社の対応に強い怒りを抱いたとします。だから訴訟となればある意味話は簡単なのですが、そうでなくて社会的に告発してやろうと考えたとします。社会的に告発するにはマスコミを通じて告発するのが最も効果的です。そこにたまたまマスコミと伝手があり、協力を得られたとします。
顧客はマスコミに経緯を説明します。あんな事があった、こんな事があった、こんな事も言われた、こういう証拠も手許にあると。被害者である顧客の話ですから、自分に害が及んだ事は極力強調し、そうでない部分は触れないもしくは極力軽く触れるようにします。別におかしな話ではなくおそらく誰でもそうします。私だってしないと言えません。この話を聞いたマスコミがほとんど鵜呑みにして記事を書いたとします。マスコミにすれば当事者の証言という根拠があるわけですから、最低限の正当性はあると判断できるかと思います。そして報道された記事が大反響を読んだとします。
ここでマスコミが記事にする前に告発したい顧客の言い分だけでなく、会社の言い分を取材していない怠慢を思いつきます。しかし会社の取って顧客とのやり取りは個人情報保護法にあたるとも解釈できます。そうなるとマスコミ取材があったとしても「そうでない、事実と異なる」以上の返答は許されない事になります。
大反響に驚いたのは会社の方です。マスコミの取材が殺到するだけでなく、他の顧客から問合せ、苦情が雨霰ののように降り注ぐ事になります。ここで告発した顧客の言い分が100％どこをとっても正当で、会社側が不正の極みを行なっているのなら話は終わりです。ところが顧客の告発が大きな誤解の下に行なわれている事もありえます。人間と人間のコミュニケーションですから、小さな行き違い、思い違いの積み重ねが大きな誤解に発展する事はありえます。
会社にしても放置しておけば会社の存続に関わります。会社としての言い分を反論しなければなりません。ここで告発した顧客が会社とのやり取りの一部を公表しており、その内容が会社にとって著しく不利な内容だったとします。その部分だけを取り上げると会社が悪いとしか解釈のしようがありませんが、顧客が公表していないやり取りの部分を公表し合わせて判断すると、会社側にも十分言い分があるとします。
会社側が反論するには残りの部分を公表しなければなりません。ここでも名誉毀損で訴訟という手段に訴えればこれもまた話は簡単にはなるのですが、顧客側が社会的告発という手段を取っているので、会社側も社会的告発への反論という手段をとりたいとしたと考えます。これは訴訟という手段をとれば年数もかかり、さらには訴訟で勝ってもマスコミで流布されたマイナスイメージの払拭につながらないとの計算もあります。
ところが会社側が公表しようとしたとき、顧客側が「その情報は個人情報保護法に当たるので許可なく公表するな」と主張したとします。個人情報の管理権はすべて顧客側にあり、有利な情報も不利な情報もすべて顧客側にあり、社会告発しマスコミ報道に公開する部分も顧客が有利と判断できた部分だけであるとの考えです。
そうなれば会社側は言われっぱなしになります。反論の根拠になる部分は「言ってはならない」の法的保護にかかる事になります。反論したければすべて訴訟という手続きを経なければなりません。こういう運用が個人情報保護法の正しい解釈なのでしょうか。カルテ流出告訴報道が行われてからずっとそんな事を考えています。モトケンさんのところも目を通しているのですが、どうも歯切れの良い解釈が法律関係者から出てきていないような気がします。私の読解力の不足かもしれませんが、法の解釈から告訴に理があるとの意見に読めます。
マスコミによる報道の影響力は巨大であると私は考えています。またマスコミは間違っても常に無謬ではない事も学習しています。無謬でないぐらいのレベルではなく、しばしば大きな誤報を堂々と報道します。誤報による被害があったとしても、個人情報保護法の下では訴訟手続きを経ない限り言い分は公表できない事になります。
どこかおかしいような気がしてならないのですが、個人情報の扱いの根本はそういう理屈によって管理公表されるという事でしょうか。どうもそこのところの理解がスッキリいかないので悩んでいます。
