今こそ戦うべし

看護婦内診問題を考えています。現状で分かっている事をまず整理します。

  1. 助産師の業務は保健師助産師看護師法に基づくとされている。すなわち、
    • 第30条
        助産師でない者は、第3条に規定する業をしてはならない。ただし、医師法(昭和23年法律第201号)の規定に基づいて行う場合は、この限りでない。
    • 第3条
        この法律において「助産師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、助産又は妊婦、褥婦若しくは新生児の保健指導を行うことを業とする女子をいう。
  2. この第3条に規定する助産行為については明文化された法律は無く、ある産婦人科のひとりごとさんによると
      日本産婦人科医会は、お産の進行度などを診断する「内診」を「単なる計測であり、看護師にもできる『診療の補助』に当たる」と解釈して会員を指導してきました。同医会は1960年代から「産科看護研修学院」という講座を各地で開催して、看護師や准看護師らに研修を受けさせて、「産科看護師」を認定し、産科医の診療補助として内診をさせてきました。
  3. これに対し厚生労働省は第3条の助産行為の解釈として2002年と2004年に、産婦の分娩進行を確認する行為も助産行為に当たるという通達を出しています。
  4. これに対し2005年に日本産婦人科医会は「産科における看護師等の業務について」として、現状に適合していないためこの通達の撤回を求めています。厚生労働省の回答は拒否です。
  5. 今回横浜の産婦人科にて、看護婦の内診行為が法律違反であるとして、病院に50人の捜査員が動員され、同時に24ヶ所の家宅捜査が行なわれています。
問題点はマスコミが無条件に「法律違反である」と断じている厚生労働省通達の重みです。医療者の監督官庁である厚生労働省の通達ですからそれなりに重いことは認めなければなりません。重いのは重いですが、法律違反の根拠となるほど重いかに疑問があります。この通達は保健士助産師看護師法の第3条の助産行為の厚生労働省の解釈を伝えたものです。立法府の承認を受けた法改正ではありません。もちろん司法の判断を受けた法解釈でもありません。あくまでも行政府の厚生労働省の解釈を伝えたものです。

つまりこの通達は正式の法ではないのです。単に厚生労働省はこう考えているに過ぎないものです。正式の法では助産行為がどこまでに該当するかを明示しておりません。厚生労働省が考え、通達しただけで直ちに法律違反とはならないはずです。ましてや50人もの捜査員が動員される強制捜査が行なわれる法律違反とは思いにくいと考えます。通達より法のほうが重い事は論議を待ちません。一行政機関の通達が法を超える事はありえないと言うことです。

ある法文の解釈で監督官庁の解釈とそれに従事する者の解釈が異なり、これが重大な影響をもたらすときには協議が必要です。そのため日本産婦人科医会は正式に抗議を申し入れています。まず協議をしようという姿勢です。これに対し厚生労働省は拒否回答を返しています。協議の余地無しという事です。協議の余地が無くなりなおかつ見解の相違の溝が埋められないときはどうすればいか。そうなれば通達の基になった、保健師助産師看護師法の第3条の助産行為の範囲についての公式の解釈を第3者に求めるのが筋だと考えます。

公式の解釈が出来る第3者とは司法府です。事態がここに至れば徹底的に法解釈について争うべしだと考えます。一片の通達が法を超える事を安易に許してはならないということです。この訴訟で医師側がこれ以上失うものはありません。訴訟をしなくとも、敗訴しても現状は同じです。であるならここは訴訟に活路を見出して断固戦うべしだと考えます。

現状ではマスコミや世論、行政府を敵に回しての苦しい戦いになることが予想されます。一点だけ医療側に有利な点は、純粋の医療行為について争うことです。滅亡の淵に足を踏み入れつつある産科ですから、ここは出来うる限り団結して徹底抗戦すべしです。もちろんこの問題は産科に限定したものではなく、医療全体に少なからぬ影響をもたらすことは必至ですから、他の診療科の医師もこれに協力する者は少なくないかと考えます。

福島、横浜と警察権力は一線を越えました。このまま座視していても、次々と既成事実を積み重ねられるだけです。今回は医者側が断固争う好機だと考えます。黙ってみていても状況は悪化するばかりです。失うものが無くなった今こそ、戦うときだと私は考えます。