謎のレポート(第8話)御主人様

 ・・・意識が戻ってきたが頭が重い。それにしても、ここはどこだ。いやその前にオレは生きてるのか死んでいるのか。オレは間違いなく絞首刑を生き延びたはずだ。本当だったら釈放の手続きに入ってるはずなんだ、だが変な注射をされて意識を失った。

 手足が動かない。ようやく視界が戻ってきたが、椅子に縛られている。それもだ、素っ裸じゃないか。死んでいるのなら、ここは地獄か。オレが天国に行けるはずもないし、天国で椅子に縛り付けれるはずがない。

「目覚めたかね熊倉君」

 声のする方を見ると男が一人。色の白い、背が高そうな優男だ。見回しても部屋は刑務所内でないのはわかる。優男も刑務官の制服じゃない。部屋の内装は、そうだな高級ホテルの感じだ、

 だが置いてあるものは、目に入るところではベッドとテーブルと椅子だけ。部屋の広さは十二畳ぐらいか、いやもっと広いかな。ベッドの横にテーブルが置かれ、椅子に足を組んで優男が座っている。

「ここはどこだ。お前は誰だ。それよりオレは生きているのか?」

 優男は楽しげに、

「君は生きているぞ」

 生き残ったんだ。それは嬉しいが、この格好はなんだ。生き残ったのなら釈放だろうが。それをこんなところに連れ込まれるとはどういうことだ。刑場から拉致されたとでもいうのか。そんな事が出来るはずが、

「あるから君はここにいる。当然だが拘置所の全面協力を頂いている」

 なんだと。この国の拘置所はそこまで腐っていると言うのか。

「そう怒るな。これでも私は君の命の恩人だぞ」

 信じられない話だが、オレは死刑囚の中でも特に選ばれたから、あの死刑執行が仕組まれたと言うのか。

「そうでなければ、君はここにいない」

 だから命の恩人か。だがこの拘束はなんだ。命こそ助けられたが、オレを自由にする気がないのは丸わかりだ。

「なかなか察しが良くて助かる。君は生命体として生きてはいるが、法律では死んだことになる」
「ならあの死刑でオレは死んだことに」

 そんな事が信じられるかと思ったが、優男はオレに新聞を広げて見せた。そこには、

『大松銀行事件の熊倉吾郎に死刑執行』

 大松銀行とはオレが襲った銀行だ。死刑が執行され、オレが法律上は死んだことになったのはわかるが、一体なんのために、そこまで手の込んだことを、

「知りたいだろうな・・・」

 優男の話は長かったが、奇想天外も良いところだ。犯罪が起これば被害者が出る。だから罪を犯して捕まれば、罪に相当する刑が与えられる。それぐらいはオレにもわかる。オレもあれだけやらかしたから死刑になっている。

 だが被害者側から見れば犯罪者が刑を受けても満足しない者がいる。いるだろうな。オレがやった銀行強盗でも、殺された連中の遺族からすれば、

『殺しても飽き足りない』

 そうなるぐらいはわからないでもない。復讐の鬼になっても不思議無いだろう。大昔の刑罰はそうだったこともあったらしいが、

「その通りだ。日本では個人の復讐は許されず、刑を決めるのも、刑を執行するのも国家だ。さらにたとえ罪人であっても残虐な刑は禁じられている」

 死刑も残虐だとして廃止運動があるぐらいだからな。だから刑と言っても、刑務所に閉じ込められての懲役労働の長短になっているはずだ。

「よく勉強してくれていて助かる」

 ウルサイわい。死刑が決まってから嫌でも勉強したからな。だが、それがすべてじゃないか、

「そう、すべてだ。だが犯した罪に対して行われた刑による罰が軽すぎると考える意見もある」

 そりゃ、あるだろうな。無い方が不思議だろう。たとえばだが、オレが猟銃を奪った家だが、娘を犯したのは両親の目の前でやった。あの時は四人まとめて撃ち殺したが、娘だけ殺して両親が生き残っていたら怒り狂うだろ。それぐらいはオレにもわかる。

 だがな死刑は極刑だぞ。それでも足らんと思うのは勝手だが、それ以上、差し出すものがないじゃないか。あるとしたら殺し方で、火炙りとか、八つ裂きとかだろうが・・・待てよ、まさか、これからオレにするとでもいうのか。

「それは心配しなくともよい。せっかく絞首台から生還させたんだからな」

 とりあえず殺されないとして良さそうだ。だったらどうしようと言うのだ、死刑以上に厳しい罰などこの世にないだろうが、

「無ければ作ればよい」
「そ、それって死刑以上の刑を喰らうって事か」
「君は本当に察しが良くて嬉しいぞ」

 具体的に何をされるかわからないにしろ、今の格好にさせられているだけで、それがどんなものかが怖くなる。

「それって強制労働とかか?」
「そんなものじゃ満足してくれない。タダの釈放無しの無期懲役に過ぎん」

 強制労働を超える罰となると、

「手足をもぎ取るとか、目を潰すとかか」
「君も残酷だねぇ」

 目を潰したり、舌を抜いたりの拷問系ではないということか。じゃあ、なんだと言うのだ、

「それは今から君が経験するから楽しみにしておいてくれ」

 それにしてもだ。これは誘拐拉致監禁になるはず。

「国の非公式の内諾を得ている。だからこそ刑場から君をここに連れてこれた。こんなことは正式に法制化できるはずもないからな」

 加えて、オレは法律上死んだことになり、国民でも市民でもなくなったそうだ。だったらオレの身分は、

「ああ、私が買った」

 優男の説明ではこの館はある種の治外法権となっており、警察も手が出せない仕組みになっているそうだ。オレは日本から売り飛ばされてここで暮らすぐらいの身分で良いのかもしれない。

 あまりにもぶっ飛んだ話だが、そのために籍を抜かれただけでなく、この館に閉じ込められるぐらいの理解になりそうだ。

「オレはお前の所有物か」
「そうだ。煮て食おうが、焼いて食おうが、私の心一つで決まる。ただし、私にも制約があり、君に死刑以上の罰を与えなければならない」

 それさえ守れば、こいつはオレに何をしても良いって事か。それって、

「わかりやすく言えば奴隷で良い」
「そんなものになってたまるか」
「誰でも最初はそう言うものだ。せいぜい頑張る事だ」

 こいつは変態だ。変態なだけではなくサディストに違いない。これから奴隷としてサディストに苛め抜かれて生きていくのが死刑以上の刑なのか、

「君の想像力なら、その辺が限界だろう。だが大筋だけは正しいと思えば良い」

 これはなんとかして脱出しないといけない。何をされるかはわからんが、なんと言っても生きながら死刑以上の苦痛を味わい続けるのはまっぴらごめんだ。それにここは館とかいっていたが、要は普通の家だ。

 拘置所や刑務所から脱獄するのと比べれば、遥かに容易のはずだ。それに逃げ出してしまえばサツに追われる心配もない。サツが追うのは生きている人間で、オレは死んでることになってるからな。戸籍はなくなってるからまともな職業に就けないだろうが、そんなことはオレには関係ない。

 隙は必ず見つかるはず。ガードマンみたいな連中もいるかもしれないが、警官や刑務官に比べたら弱いはず。殴り倒して逃げれる自信はある。とはいえ、この状態のままでは、どうしようもない。

 隙を見つけるには、相手を油断させるのが重要だ。そのためには大人しく従うふりをしないとならない。そうしておいて脱走に必要な情報を集めて行くんだ。館の構造、警備体制・・・これを知らずに闇雲に逃げようとしても失敗するだけだ。銀行襲撃のオレとは違うぞ。綿密に計画して必ず逃げ出してやる。

「とりあえず何をされる」
「そう気張るな。今日は君の歓迎のために最後の晩餐を用意した。最近の死刑囚には出ないそうだからな」

 最後の晩餐と言うぐらいだから、メシが食えるってことだろう。久しぶりの娑婆のメシは楽しみだが、最後って言葉に引っかかるな。このメシの後には犬の餌に変わるとか。

「そんなものは出さないぞ。食事自体は今後も期待してもらって結構だ。きっとお気に召して頂けると思っている。最後の意味が気になっているのだろうが、そのうち身を以て経験する」

 ここは最初の脱出のチャンスかもしれない。豪華な食事であれば手足の拘束はなくなるはずだ。まさか口で食べろとは言わないはずだ。

「そうだ最初の質問に答えてもらってないぞ」
「私のことか。君には御主人様と思ってもらえれば良いし、呼ぶ時もそうだ」

 なにが御主人様だ。この変態野郎が。後で必ず吠え面をかかせてやる。そこにメイド服の女が一人入ってきた。こりゃ、美人だ。久しぶりに見る本物の女だぞ。やりてえな。

「マリが君の教育係になる。任せたぞ」
「承知しました、御主人様」

 ここの使用人ならそう呼ぶか。でも、これはますますチャンスだ。女なら倒すのは簡単だし、人質にするのもありだ。案外脱出は簡単かもしれないぞ。まだ何がどうなっているのかわからんが、とにかくオレは死刑から生き延びた。

 だが釈放になっていないのも嫌でもわかる。さらにオレに死刑以上の刑とか言うのを与えようとしてるのも確実だ。この館が新しい刑務所みたいなものだろうが、誰がそんなもの受けるものか。オレを舐めるなよな。

謎のレポート(第7話)死刑

 死刑囚が死刑執行を告げられるのは当日のようだ。かつては前日に告げられて最後の晩餐みたいなものもあったそうだが、トチ狂って自殺したのがいたそうで、それから当日告知に変わったそうだ。自殺でも、死刑でも死ぬことに変わりはないと思うが、判決通りに死んでもらわないと困るってご苦労さんの話だよ。

 この呼び出しは死刑囚にとっても恐怖のようで、これが怖くて気が狂ったのもいるそうだ。気持ちはわからんでもない。死刑になるだけの犯罪をやらかして、死刑判決を受け、出る望みの無い死刑囚になっても死にたくないの願望は残るものだ。オレだってそういう部分は確実にある。

 脱獄も真剣に考えた。でもオレだけじゃ無理だ。少なくとも外部に協力者がいないと話も始まらない。それにだ、外部に協力者がいると言うことは、オレを助け出せば巨大な利益があるのがセットになる。無一文のオレを助け出す理由なんてどこにもない。

 それにたとえ、脱獄できても日本のサツはアホラシイぐらい優秀だ。脱獄囚が逃げおおせたケースなんて殆どない。脱獄しても逮捕される確率が異常に高いし、捕まれば刑期は当たり前だが長くなる。それだったら真面目にお勤めした方が近道なのが日本の刑務所だ。

 死刑囚はたとえ脱獄しても刑期が増える事はないだろう。まさか懲役労働が加わるはないはず。せいぜい死刑執行が早まるぐらいだから、チャレンジしても損はないが、チャレンジのしようもないのが死刑囚の拘置所としか言いようがない。そしてついに来た。刑務官がいつもの違う時間に緊張した声で、

「出ろ」

 ああ来たか。三か月の早期組にオレはやっぱりなったらしい。

「いよいよですか」
「黙ってろ」

 刑務官も色々で、死刑囚にあれこれ気を遣ってくれるのもいたが、逆に冷たく扱うのもいる。まあ、どうせ死ぬか、ここで飼い殺しの二択の御身分だから、外聞を気にする必要はないものな。

 それでも早かったな。死神の法務大臣が嬉々としてサインしやがったのが目に浮かぶようだ。これで在庫が一人減って、税金の節約になるぐらいだろう。


 刑務官に連れて行かれたのは仏壇がある部屋。そこに袈裟を着た坊主がいた。この部屋は教誨室と呼ぶらしく、坊主は教誨師になるらしい。死ぬ前に悔い改めよって事だろうな。それにしてもキリスト教徒とか、イスラム教徒ならどうする気だろう。まあ、仏壇の扉を閉めるぐらいか。文句を言っても、それこそ死人に口なしだ。

 まず聞かれたのが遺品の処理だった。そんなものがオレにあったかと思ったが、逮捕された時の血まみれの服とか、腕時計とかスマホの類のようだ。もっとも服は証拠として押収されたようだが、

「そうだな天皇陛下にプレゼントしてくれ」

 坊主は苦笑したようだが、

「こちらで処分で宜しいですね」

 こんなものまで書類にサインかよ。お役所だねえ。そこから、お説教みたいなものが始まったが、

「最後に聞かされる話がこんなものじゃツマラン」
「では、どんな話がご希望ですか」
「猥談」

 坊主も適当に話を切り上げてくれた。その次に遺書はどうするかと聞かれたが、

「書く相手がいないから、いらないよ」

 これは本音だ。そこから坊主は態度を改め直し、

「最後に何か希望はありますか」
「せめて女と最後に一発」

 ここも聞くと、最後の希望と言っても、せいぜい駄菓子の類ぐらいらしい。この辺で坊主もサジを投げ、

「御仏の導くままに」

 坊主と問答しながら思ったのは、何年も死刑囚として過ごせば、たぶんだぞ、あくまでもたぶんだが、それなりにあきらめるんだろうって。もちろん、あきらめ切れるものじゃないだろうが、最後に坊主の慰めを求めるんだろうなって。オレのように三か月じゃ、娑婆っ気が強すぎて坊主も仕事がやりにくいんだろ。

 そこに刑務官が入ってきて、さらに別の部屋に連行された。次に行くのは死刑場だ。さすがに足に震えが来た。いくら強がりを言っても殺されるのは怖い。部屋に入ると何人かの刑務官が待ち受けていて、

「死刑を執行する」

 他にもグジャグジャ言っていたが、最後通告ってことのようだ。この部屋で死刑を受けるのじゃなく、どうもカーテンの向こうの部屋らしい。自分が死ぬ部屋ぐらい見たいと思ったが目隠しをされ、後ろ手錠をかけれた。この格好で死ぬってことだ。

 カーテンをくぐる感触があって、さらに首にロープがかけれれた。話に聞く十三階段ではないらしい。死にたくないと思ったよ。しばらくして、

『カタン』

 足元の感触が急になくなりオレは落下していくのがわかった。次に来るのは首のロープが締まるはず。だがオレは落ちただけだった。それだけじゃなく、誰かに受け止められた。こ、これは死んでないぞ、オレは絶対に生きてるぞ。

 目まぐるしく頭の中に色んな考えが浮かんだが、死刑囚が生きて娑婆に戻れる最後の可能性がこれだ。死刑とは厳密には殺されることではなく、死刑という刑を受ける事になるそうだ。

 具体的には、オレが受けたような手続きをあれこれ受けた末に、首にロープを懸けれて突き落とされることになる。そういう一連の行為が死刑になる。普通はそれで死ぬのだが、なんらかもトラブル、たとえばロープが切れたりして助かっても死刑を受けたことになるのだそうだ。

 つまり失敗してもやり直しもないどころか、これで死刑を受けたことになり、刑を償ったから出所になるんだよ。滅多どころか、日本の死刑執行史上でゼロでないぐらいの、言ってしまえば奇跡のようなものだ。だが。それが起こったのは間違いない。どう考えてもオレは死んでないし、生きてるからだ。

 あははは、オレはまだまだ生きられるぞ。もちろん娑婆にも戻れる。女だって襲い放題だ。悪運が強いと言うなら勝手にぬかせ、生きててなんぼの世界だろうが。ところがだ、オレを抱きとめている刑務官は一人じゃないようだし、放す素振りも見せないぞ。むしろよりガッチリ抑え込まれた末に、

『ブスッ』

 なにかを腕に刺された。これは注射か、すぐに体に力が入らなくなる。ちょっと待て、絞首台で殺せないからと言って毒薬でトドメを刺すのはインチキだぞ。ここは国が管理する拘置所だし、死刑執行は厳格なルールで執行されないといけないはずじゃないか。

 いかん意識が朦朧としてきた。なにがどうなってるんだ、オレが知らないうちに死刑のルールが変わったのか、それともこの拘置所の闇ルールか。いくら死人に口なしでも卑怯すぎるぞ。釈放だ、釈放してくれ・・・

謎のレポート(第6話)囚人ライフ

 これも弁護士が教えてくれたが、死刑判決を受けた者は死刑囚になるが、刑務所に収容されないんだ。死刑以外の判決でポピュラーなのは懲役だが、懲役を意味するのが刑務所に収容されて、そこで働くことぐらいで良さそうだ。

 これに対して死刑囚は刑が死刑であり、刑が執行されるまでの身柄の拘束だから、拘置所に収容される。言われてみて、なるほどと思ったが、罪を償うのが懲役である労働でなく、命だと言う事だろう。さらに死刑囚から逃れる手段として、

「再審が認められるか、恩赦の対象になるとかありますが・・・」

 再審は無理なのはオレでもわかる。恩赦も昔は死刑囚にも及ぶこともあったそうだが、今じゃ無理らしい。可能性がゼロでないぐらいとはっきり言われた。死刑執行時期だが、

「法律では判決が確定してから六か月以内とされていますが、法務大臣の裁量が大きくなります」

 法務大臣も死刑執行に署名したら一人死ぬことになるから、目覚めが悪くなることがあるらしく、

「再審請求中とか、闘病中とか、拘束中に精神異常を来したとかの理由があれば署名しないそうですし、恩赦のタイミングなんかも気にされたりします」

 弁護士は言わなかったが、起こした犯罪の残虐性もあるとは思う。まあ、どう聞いてもオレはトットと死刑にされそうだ。これも弁護士の話だが、今の法務大臣は死刑廃止団体からは死神と呼ばれるぐらい死刑に積極的だとか。

 オレが収容されたのは大阪拘置所。死刑判決の可能性のある者は、多くの場合は最初から刑場のある拘置所に収容されるそうだ。だから死刑囚になったからと言ってどこかに移送されたわけじゃなかった。そう、オレが今見ている殺風景な部屋と死ぬまでお付き合いさせられるわけだ。


 死刑囚の生活だが、朝はは七時に起床、夜は九時に消灯だ。消灯と言っても真っ暗になる訳じゃなく、薄暗い照明が残されてる。メシも他の連中と同じだが、いわゆる臭い飯だ、だが実際のところは臭くないし、ちゃんと食べられるものだ。美味とはいわないが、普通に食えるぐらいは言えると思う。

 服は囚人服じゃなくとも良いのは刑務所と違うところだ。ただしこれは誰かが差し入れしてくれないと手に入らないから、オレは囚人服だ。風呂は週に二回、夏は三回になるそうだが、監視付きで単独浴場で十五分だ。のんびり湯船につかっていたら。すぐに時間切れになる。

 運動時間もあるが、なんか縦長のボックスみたいなところで毎日三十分ぐらい出来る。屋根はないからお日様を仰げるのは嬉しいが、雨になればお休みだ。運動というより、お散歩ぐらいになるが、行ったり来たりしていたら、動物園の熊を思いだした。

 だが拘置所内で動けるのはこれだけだ。独房から毎日運動場に出るのと、浴場に行くだけ。それも常に単独だ。ただし刑務官は除くだがな。誰かと話を出来ないのも死刑囚の暮らしになる。

 そうそう娯楽もある。週一回か二回程度だが、大河ドラマ、バラエティ番組、歌番組、映画をテレビで見れる。ちなみにラジオも流れている。新聞だって読めるし、スポーツ紙だって銭を出せば読める。

 この辺は他の刑務所でも近いのだろうけど、最大の違いは懲役労働がないことだ。初犯でぶち込まれたりしようものなら、あの地獄のような考査訓練がある。あれはオレでもウンザリさせられた。同時に刑務官への絶対服従も叩き込まれる感じだ。

 その分はラクだし、刑務所なら懲役労働をやらされてる時間は自由時間だが、部屋に閉じ込められているだけだから、とにかくやることが無い。メシ食って、寝転がるぐらいしかないんだよな。人間って何かをやってないと、本当に時間が長く感じるのは良く分かったぐらいだ。ついでだが時計もない。

 さらに言えばオレには面会もない。いや二度ほどあった。一度は担当した弁護士で、義理堅く最後の挨拶に来たぐらいだ、もう一度は、死刑廃止の人権団体。あいつらは主張ばかり垂れ流して帰っていきやがった。でもそれだけ。弁護士が情状酌量のためにお袋を探しあてて頼んだようだが、あっさり断られたそうだ。

 他にも違いがある。未決の拘置者の時は、取り調べと部屋の往復だし、裁判になっても裁判所と部屋の往復だけだ。これが死刑囚になると、

・請願作業・・・本人が希望する場合、軽作業を七時間程度行わせる事ができ、それによって収入を得ることもできる
・教誨・・・死刑囚に単独の宗教教誨を受けさせる
・礼拝用具等の使用・・・宗教的用具を所持使用させる
・教科指導・・・俳句や書道などを学習させる
・情操教育物の使用・・・書道の道具などを所持使用させる
・ビデオ視聴・・・映画等のビデオ鑑賞を独房内で行う

 辛気臭いものばかりだが、あくまでも死刑囚を悔い改めさせるのが目的だからしょうがないか。まあこんなところで、エロビデオの鑑賞を求めたって無理だものな。でも結構熱心にやっている死刑囚もいるのはいる。

 その中には本気で悔い改めようとしているのもいるし、オレに言わせるとそういう姿勢を見せる事によって死刑執行の延期を狙っているのもいるのだろう。それより、なにより多いのは暇つぶしの気がする。


 死刑囚は独房生活だし、原則として他の死刑囚と顔を合わせる事が無い。まあ、お隣さん同士で住んでるから、チラッとぐらいは見えるし、物音や気配もわかる。運動している時も壁を隔てても青天井だから、声ぐらいは聞こえる。だが死刑囚同士で話は出来ない。

 話し相手は刑務官ぐらいになるが、刑務官だって死刑囚との私語は禁止だ。せいぜい挨拶とプラス・アルファになってしまう。そのせいか古株連中は宗教教誨を受けている者も多そうだ。坊主だって、牧師だって娑婆の人間だし、刑務官よりは雑談が出来るからだと思っている。

 オレが思うだけだが、こんなところに放り込まれて何年もすれば気がおかしくなるだろう。気がおかしくなれば、死刑延期の理由になるから死ぬまで独房暮らしになるのはあると感じたよ。

 これも刑務所との違いだが、何年も、何十年も拘置所にいても、そこでは罪を償う罰を受けていないことになるんだよな。この辺はオレも勉強した。六法全書の死刑のところを読んだからな。もっとも漢字が多すぎてウンザリしたが、国語辞典片手に読んだよ。時間は腐るほどあるから一通りは理解したつもりだ。

 刑務所はたとえ無期懲役でも、刑務所にいる限り懲役労働の罰を受け続けるから、無期と言いながら出所できることはある。だが死刑囚はなんの罰も受けてないから出れる望みはないし、罰を受けたら死ぬことになる。そう出口が無いのが死刑囚で良さそうだ。

 拘束されているだけでも罰を受けているように思ったが、それ以上はオレにはわからなかった。わかったところで出られない現実は変わらないから、それぐらい理解出来たら十分だろう。


 死刑だが反対運動はあるし、死刑が廃止されている国もある。日本の死刑が廃止になりそうにはないが、死刑囚は百人以上はいるそうだ。この辺は判決確定から死刑執行までの平均が八年以上もあるからだろうが弁護士は、

「最近は流れが変わっていまして・・・」

 死神法相のためだろうと思ったが、それだけはないらしい。とにかく今までからすると異常に早い死刑執行が目立つらしい。それも死刑囚ならば一律と言う訳でないらしく、

「なんらかの基準によって選ばれてるのじゃないかと言われています」

 その基準ってなんだと聞いたんだが、比較的若い死刑囚が多い気がするとしてた。それが何を意味するかも聞いたが、とにかく死刑執行は法務大臣の胸先三寸で決まるからはっきりしたことはわからないとしてた。その辺は、そいつをあえて選んだ理由を説明する義理はないからだそうだ。

 異常に早いって一か月とかもあるのかと聞いたが、これもどうやらレベルらしいが、三か月になってるのじゃないかとしてた。三か月に理由があるのかと聞いてはみたけど、わかるはずないか。

「これはあくまでも噂に過ぎませんが・・・」

 早期の死刑執行に大きな圧力がかけられてるのじゃないかとしてた。あんまり嬉しい話じゃなかったが、どの道、オレに出来る事は何もない。わかったのは三か月で死刑になる可能性が出てきたことぐらいだ。

 とりあえずオレはまだ若いとして良いだろう。それに折り紙付きの凶悪犯だ。その異常に早い死刑執行に当てはまりそうな気がする。この辺の話は、もうちょっと詳しく知りたかったが、弁護士でもこれぐらいしか知らないし、拘置所の中では新たな情報なんて手に入るはずもない。面会もそうだ。


 死刑判決は仕方がないと思うが、オレだって死にたくはないし、出来れば脱獄して娑婆で好き勝手をやりたい。死刑囚の生活は刑務所よりマシな部分はあるが、しょせんは監獄だ。酒もタバコも女もいるわけがない。ついでに言えばオナニーも禁止だ。

 女か。数えきれないぐらいやりまくったつもりだが、最後に何が欲しいかと言われれば女だな。猟銃を奪った時にも、銀行の人質相手にもレイプしまくったが、あれでやり納めって気には到底なれねえぞ。

 刑務所の中での性処理は刑務官の目を盗んでのオナニーだが、本番はあるかどうかだ。かつては刑務官と女性受刑者が関係をもったなんて話も残されているが、異性相手はまず無理だ。

 囚人同士、つまり同性ならどうかだが、あったという話こそ聞くが、実際のところは難しい。オナニーでさえばれるケースが多いのに本番となると至難の業としか思えない。オレは見たことも聞いたことも無い。

 死刑囚になるとなおさらで、独房に一人じゃ同性すら相手にいない。刑務官がカマを掘らせてくれればあるかもしれんが、無いだろうな。これも死刑囚の性欲処理のリアルだな。

謎レポート(第5話)襲撃

 夜が明けた。このまま銀行をやるぜ。近所に銀行があったからそこで良いだろう。九時に家を出て、その足で乗り込んで行った。

「大人しくしろ。カネを出せ」

 銀行襲撃は適当過ぎた。頭の中は銀行に行きさえすればカネが手に入るしかなかったぐらいだ。昨夜からハジキが手に入り、久しぶりに女とやって、試し撃ちで家族を撃ち殺して頭に血が昇り過ぎてたのはあるだろうな。だが銀行の方も対策があった。あれこれやり取りしているうちに、

「ボス、サツですぜ」

 気が付いたら包囲されていた。そこからお決まりの、

「君たちは完全に包囲されている。大人しく武器を捨てて出て来なさい」

 サツの言う完全に包囲はダテじゃないだろうが、笑わせるな誰が大人しくするものか。

「こいつら人質にする。女は部屋に閉じ込めろ。男は縛り上げとけ」

 その時に支店長だと思うが、

「お客さんと女性は解放してくれないか」

 なるほどと思ったぜ。人質も多すぎると見張るだけでも手間がかかる。だったら減らせば良いじゃないか。

「男とババアは不要だ。タマがもったいないからナイフで始末しろ」

 オレがまず支店長を刺し殺してやった。なんとか逃げようとする者がいたが撃ち殺してやった。始末が終わると残った女を呼び出した。すごい悲鳴があがったが、威嚇射撃で静かになった。

「裸になれ」

 オレも観念はしていた。こうなったら逃げられない。ならばやりたい事をやるだけだ。仲間と交代で外の様子を見張りながら、やりまくってやった。サツの定番の、

「大人しく出て来なさい。家族も悲しんでるぞ」

 あのお袋が悲しむものか。だから言い返してやった。

「今すぐ包囲を解け、さもないと人質を順番に殺していく」

 やったよ。女もブスは不要だ。素っ裸のまま玄関から押し出し背後から撃ち殺してやった。効果はあったな。サツどもは見える範囲から後退しやがった。だが包囲を解くはずなんかない。こっちから見えないところにいるだけだ。

 女どもは震えあがって股を開いた。そりゃそうするよな。ちょっとでもオレたちの機嫌を損ねたら、殺されるのを目の前で見せられているからな。オレも仲間も見張りを交代したら、ひたすらやりまくっていた。

 サツが動くまでには時間があった。どうするかの最終決定に時間がかかったのだろう。その時間を目いっぱい有効活用させてもらったよ。だがついに来やがった。窓をぶち破って催涙弾を撃ち込んで来やがったんだ。それと同時に乗り込んできた。

 サツの野郎どもは射殺許可も下りてたようだ、仲間たちも猟銃で応戦したが、多勢に無勢だ。こっちは催涙ガスでゲホゲホ状態だし、あいつらガスマスクにヘルメット、防弾チョッキまで着込んでやがる。次々に仲間は射殺され、オレもタマを喰らって意識が無くなった。


 警察と言うか、国は不思議なものだと思ったぜ。瀕死の重傷だったのに、なんとだよ治療して助けてしまったんだよな。医者どもも、ご苦労さんだ。あいつらの言い分は生きてちゃんと刑を受けてもらうのだそうだ。メンドクサイ連中だよ。

 六か月の治療で退院できたオレは即収監された。そう監視付きの病室から拘置所に直行だ。オレのような者にも弁護士が付いたが、とりあえずの罪状は強盗殺人、婦女暴行がメインで、後は多すぎて忘れた。いわゆる余罪ってやつだ。

 言うまでもないが前科もある。こういう状況で裁判になると死刑になるかならないかだろうが、殺人でも死刑の基準があるそうだ。三人以上なら死刑になる可能性が高まるらしい。オレは両手を余裕で超えてるから、

「厳しい判断を覚悟してください」

 お手上げってことだろう。取り調べでも適当に出来上がった供述書にもサインした。裁判では生き残った人質の証言もあったが全部認めた。細かいことを言えば、オレじゃなくて仲間が殺した分もあったが、それこそ誤差の内、主犯であるのも誤魔化しようがない。

 弁護士は、ここまで残虐な犯行を行うからには精神の異常をきたしているはずだと主張したんだよな。せめてもの抵抗だったと思うが精神鑑定なるものをされて、

『責任能力あり』

 せめてヤクでもやってれば事態が変わる可能性があったそうだ。あの時の死んだ仲間にはヤクやってる奴もいたが、オレはやってなかったからな。判決は裁判やるまでもなく決まってたようなもので、

「死刑」

 どう思ったかって。そりゃ、そうなると思ったぐらいだ。これだけやって無期懲役なら、誰が死刑になるかぐらいだ。死にたくはなかったが、逃げようにも逃げられない。と言うか逃げれるならとっくに逃げてる。

 まあ、もうちょっと銀行でやっとけば良かったぐらいは頭をかすめたが、あの状況であれ以上は無理か。せめてサツの突入がもう少し遅ければな。まだ死刑になってないが、女はこれで打ち止めだな。

 弁護士はそれでも控訴まではしてくれたが、あえなく却下となった。ゴチゴチの現行犯逮捕だから再審理の余地なしだろう。粘るだけなら特別抗告で最高裁に訴えるのもあるそうだが、これは断った。控訴以上に無駄なのは丸わかりだ。

謎のレポート(第4話)暗転

 とくに大人の半グレ集団のシノギは暴力団と競合する部分が多い。オレオレ詐欺はまだしもスカウトはとくにな。あっちに言わせると縄張り荒らしに見られるぐらいだ。だから場合によってはヤーさん相手に戦争することもあった。

 まともに戦えば暴力団に分がありそうなものだが、例の取締法のために、抗争事件を起こした時に向こう傷が大きいのが暴力団ってのも時代だ。すぐにサツが介入してくるのが暴力団だ。だからあっちも簡単には手を上げられないところがある。

 オレの半グレ集団も暴力団の連中と、時に戦い、時に手を結び、時に手打ちを行ったりしながら距離感を保っていた。これはオレも神経を使ったぜ。あいつらがいなけりゃ、シノギはもっとラクなんだが、いるものはしようがない。

 とにかくメンドクサイ連中だが、こっちから潰すには手強すぎるし、これも考えようだが、あいつらがいるから、サツもこっちばかりを見てられないのもあるのはある。なかなか共存共栄とならないのが暴力団だ。


 オレの夜露死苦は、怒羅美を潰した後も勢力を広げていた。あの頃は向かうところ敵なしって感じで他の半グレ集団を潰しては大きくなってたぜ。だが大きくなればなるほど暴力団との摩擦は増えて行った。ボスとしては頭の痛い問題だった。

 そんな時に暴力団から協定の話し合いをしたいと申し入れがあった。だが出された条件に怒り狂いそうになった。協定と言いながら、暴力団の系列傘下に入り、上納金を納めろだったんだ。上納金の額も、そんなに払わされたら、こっちが干上がるしかないじゃないか。

 交渉は決裂したよ。あんなふざけた条件が受け入れられるものか。そうなると報復を覚悟しないとならないが、あいつらだってサツの目がある。少々はやられるだろうが、高を括っていたんだ。

 だが甘かったのを思い知らされた。これも後から思えばの話だが、あいつらも警察の取り締まりがきついからビジネスを広げたかったで良さそうだ。そう、半グレ集団がやっているテリトリーも資金源化したかったぐらいだ。

 オレの夜露死苦は半グレ集団でも大手だ。その勢力とノウハウを根こそぎ欲しかったんだろう。そうだな、命まで取らねえ代わりに、今まで見たいな稼ぎは許さねえぐらいだ。それで満足しろだろう。


 さすがは本職だと思ったな。本職がガチでやる時はあそこまでやるんだってな。夜露死苦のアジトは気づかないうちに包囲され、いきなり勝ちこんで来やがった。それもハジキを乱射しながらだった。

 ハジキと言っても拳銃だけじゃねえんだよ。マシンガンみたいなものもぶっ放すんだよ。アジトはたちまち血の海になった。そこまであいつらが出来たのは、オレたちのアジトが町の外れの一軒家で周囲になんにもないところだったからだ。

 オレは必死で逃げた。いくら喧嘩に自信があっても鉛弾には勝てねえからな。命からがら逃げられたが、これで夜露死苦は木っ端微塵になったったわけだ。あの調子じゃ、アジトから逃げ出せなかった仲間は全滅だろう。捕まった奴もいるかもしれんが、山に埋められるか、海に沈んで終わりだ。

 それから生き残った奴と連絡を取り合って落ち合ったが七人集まった。とりあえず、この町にいたら命が危ないのはすぐに結論が出た。逃げるしかない。どこに逃げるかで迷ったが関西に逃げる事にした。ちょっとでも遠くにしたいのと大きな町じゃなけりゃシノギが出来ないからな。


 なんとか大阪にはたどり着き、ドヤ街に入り込んでまずは情報集めだ。シノギをするにも地元の半グレ集団がどうなってるかだとか、暴力団もどうだかも知らずに動くのは危険だ。だがすぐに困るようになった。

 アジトを逃げ出す時は命からがらだったし、あそこに置いていた活動資金を持ち出す余裕はなかった。手持ちの現金はあったが、稼がなければ減っていく。このままじゃ、ドヤ街にもいられなくなりホームレス一直線だ。

 切羽詰まったオレたちはどうするかの相談になったが、大人になっても半グレやってる連中は、どこか頭がおかしい連中が多いし、ヤクやっているのもいる。そういう頭のネジが何本も抜けたような連中が出した解決策が、

「カネなら銀行にある」

 正気じゃ誰も賛成しない計画にオレも乗ってしまったぐらいだ。それぐらい追い詰められてたし、切羽詰まっていたって事だ。そこから具体策を考え出したが、銀行を襲うのなら武器がいるのは当然だ。それで脅してカネを出させるのだからな、

 この武器をどうするかも暴走したな。簡単に手に入る物なら包丁とか、ナイフがある。だがこの時はハジキがどうしても必要だって話になっちまった。この辺はアジトをハジキで襲撃された記憶も生々しいし、これから暴力団ともめる可能性があるから絶対必要になるぐらいだ。まあ、オレも賛成したんだが。

 だがハジキを手に入れるのは容易じゃない。コンビニやスーパーで売っているものじゃないからな。この手の入手ルートがあるのはやはり暴力団だ。半グレのましてや流れ者状態のオレたちにはないし、そもそもハジキを買うカネなんてない。

「マッポを襲うのはどうだろ」

 マッポなら拳銃を持っているが、一人襲っても一丁しか手に入らない。さらにマッポは弱くないし、マッポを一人襲えばサツを挙げて追いかけられる。そんなことになれば。銀行を襲うなんて無理になる。

「ハジキなら店でも売ってるぞ」

 銃砲店はある。あそこにいけば猟銃はあるが、ああいう店の警備は固いに決まってる。オレも銃砲店を襲ってハジキを手に入れた話なんか聞いたこともないぐらいだ。襲っても、そこで捕まって終わりになる危険性が高すぎる気がした。

 そりゃ、リスクを言い出したらキリがないし、そもそも銀行を襲おうとするのがリスクの塊だ。だがハジキを手に入れる段階で捕まったら話にならねえ。そしたら仲間の一人が思いついた。

「猟銃を置いてある家を知ってるぜ」

 こいつは居酒屋でハンティングの自慢をやってる客と知り合ったらしい。なんと家まで聞き出していたのは褒めてやった。下見に出かけた時に別の仲間が言ったのだが、

「こういうお屋敷は防犯システムがあるはずだ」

 頭のおかしい連中は、妙に細かいことに気が付く時と、無謀で大雑把な面が極端に出過ぎるところがある。そいつは警備会社に勤めていた時期があり、

「あれだ。あれなら外から解除できるはずだ」

 その夜に決行した。警備システムを仲間が切ったら窓を割って侵入した。家には夫婦と娘二人がいたが縛り上げ、

「銃はどこだ」

 素直に話そうとしないから娘の首にナイフを当てたら観念したのか教えたよ。銃庫に行くと猟銃が五丁あり、弾も手に入れた。使い方は仲間にモデルガン・マニアがいたから、だいたいわかったな。

 銃庫で猟銃の確認をしたら、四人を縛り上げた部屋から悲鳴が聞こえた。それも女の悲鳴だ。駆けつけると、やっぱりな、やってやがった。アジトを襲撃されてから女とは無縁だったから、そりゃやるだろう。

 オレも参加した。しないわけがないだろうが。両親の前で七人で思う存分やってやった。久しぶりだから三発ぶちこんでやったぜ。やっと落ち着いた時に仲間が、

「試し撃ちをしておこうぜ」

 良い案だと思ったぜ。こんなものは実際に使っておかないと上手くならねえよ。ちょうど標的もいるじゃないか。四人とも撃ち殺してやった。生かしておいてもウルサイだけだ。これでハジキの準備も十分だ。

「腹減ったな」

 冷蔵庫から適当に引っ張り出して食った。良いもの食ってるぜ。死んだら食えねえだろうから代わりに食べてやるぜ。感謝しろよ。