宇宙をかける恋:ディスカルの冒険

 なかなか話そうとしなかったディスカルも何回も三十階に招かれているうちに、ポツリポツリと話してくれるようになりました。ジュシュルが不在になった後に急速に勢力を伸ばしたのが、ある種の新興宗教兼政治団体のようなものだそうです。

 リル運動とも呼ばれたそうですが、リルは現代エラン語でも風とか嵐を意味します。この団体のスローガンは、

    『神聖なるエランの復活』
 具体的にはエランが滅亡の危機に瀕したのは、エラン人に地球人の血が混じったからだとし、地球人の血の混じったものをエランから排除すればエランは甦るという代物です。この運動がジュシュルの去った後に大きくなり、各地で地球人の子孫への迫害が起ったそうです。

 地球人の子孫と言っても、二千年前の十人ほどの子孫で、既に広く薄まってしまい区別など出来ないはずですが、

    『アイツは地球人の血を引いてる』

 こう目を付けられるとリンチを喰らうぐらいでしょうか。総統政府でも問題視されたようですが総統代行のザムグ副総統は、

    『信教の自由』

 これを理由に反応が極めて鈍かったとされます。そのためリル運動は燎原の火のようにエランに広がったとされます。既に暴動の域まで広がっていたリル運動に対し、ザムグは鎮圧部隊を送りますが、これが悉く撃退され、鎮圧部隊が敗れたことにより武器を手に入れたリル運動はますます猛威を揮うことになります。

    「後でわかったことですが、ザムグは意識分離を行い神になっていたのです。そして、リル運動を裏から操っていたのです」

 どうして人類滅亡兵器の対抗手段でもある地球人排斥運動など行ったかですか、

    「すべては総統が帰って来た時のためです。総統は持ち帰った地球人の血で人類滅亡兵器の脅威を取り除くとしています。総統に対抗するために、地球人の価値を否定し排斥したのです」

 なんてことを。自分が権力者になるためにエラン再生の可能性さえ捨て去るとは。ザムグはリル運動を公式のものと承認し、エラン全土に地球人排斥の嵐が襲うことになります。ディスカルも口を濁して言いにくそうでしたが、

    『地球人の血を引く者はエラン人にあらず。よって死刑廃止の対象にあらず』
 こうまでしてたようです。リル運動は熱狂的な支持は集めましたが、これに反発する者も多数いました。いや、そちらの方が数としては多かったとしても良さそうです。そこでルガルング将軍を中心としたクーデターが起ります。

 これは成功したのですがザムグ逮捕には失敗し、首都を逃げ延びたザムグは地方で勢力を拡大することになります。ザムグはリル運動の指導者として正体を現します。

    「ザムグは自らをディンギルと名乗り、各地の基地を襲い大勢力となったのです」

 ディンギルとは現代エラン語でも神を現します。もちろん総統府も討伐軍を送りますが、これがなぜか連戦連敗。逆に首都に迫る勢いを示すことになります。総統府も必死になって防戦に勤めますが、ついに首都を明け渡さざるを得なくなります。

    「ザムグに勝てなかったのは、神と人の能力差もありましたが、ザムグは総統府に毒を仕込んでいたのです」
 中枢の参謀府までスパイを置き、討伐軍の情報が筒抜けだったようです。首都からの撤退を強いられた総統府は残る戦力を宇宙基地の防衛に注ぎ込んだようです。目的はジュシュルの帰星。ここまで追い込まれた状況をひっくり返すには、総統府側も神であるジュシュルを待つしかないとの判断です。

 ザムグもジュシュルが帰国する前に宇宙基地を落としてしまおうと大攻勢をかけたようです。そんな大激戦の真っ最中にジュシュルはエランに戻ることになります。着陸中の宇宙船も攻撃を受け、辛うじての着陸だったようです。

 ディスカルは本当に悔しそうな顔をしていました。なんとか着陸した宇宙船ですが、その大きすぎる船体故にザムグ側の格好の攻撃目標になり、せっかく地球から運んできた血液製剤も宇宙船から運び出せずに炎上させられ灰燼と帰してしまったのです。

    「総統は報告を受け、反撃に移ろうとしたのですが・・・」
 しばらくは宇宙基地を支えていたそうですが、多勢に無勢はジュシュルを以てしても覆せずついに宇宙基地からも撤退。以後はゲリラ戦に移行することになります。


 ここでミサキも疑問だったのですが、エランの武器は携帯兵器でも強力なんてものではありません。なにしろクレイエール・ビルでも切り倒し、神戸空港から六甲山を貫くほどの威力があるからです。

    「あれは強力ですが、エランでは使われることは殆どありません」

 ディスカルの話によると、あの系統の兵器が出現した時には圧倒的な威力を示したそうです。そりゃ、そうでしょうが、それに対する対抗手段もすぐに開発されたようです。

    「ある種の干渉波ぐらいに理解してもらえれば・・・」

 あのレーザー光線のようなものを無効化する防御兵器が普及し、それも超小型化して兵士なら誰でも身に付けているそうです。それだけでなく、レーダーのような探査装置や各種精密誘導装置を無効化する技術も極度に発達したために、

    「エランの地上戦の基本は無誘導兵器が主体です。そういう意味では現在の地球より退化しているかもしれません」

 だからゲリラ戦が行えたのでしょうが、戦場の過酷さは変わりません。幾度かザムグ側に手痛い損害を与えたこともあったようですが、武器食糧の調達がジュシュル側では劣り、次第に追い詰められる事になります。

    「アジトを急襲された時に・・・」
 劣勢になると必ず出るのが裏切り。ゲリラ戦に移行してから築き上げていたアジトの位置を密告され、ザムグ軍の急襲を受けることになります。必死の防戦に努めたそうですが、ゲリラ側が後手に回らされると支えきれなくなったのです。

 ジュシュルたちは見逃されていたルートから決死の脱出を行いましたが、これを援護した部隊は壊滅、それだけではなくなんとか集めていた武器や食糧をすべて失うことになります。ゲリラ側の戦力は大幅に落ちることになります。

 アジトを失った後は野宿で転戦を重ねることになります。それこそ泥水をすすり、草の根をかじっての難戦苦戦の連続に陥ります。ザムグ側の追撃の手は容赦なく、次々とゲリラ側の兵士たちは倒れていくことになります。よほどひどい状態だったようで、

    「夜だって常に襲撃の危険があります。常に追いまくられながら、時に反撃して敵の武器や食糧を奪うのですが、それだけでまた兵士たちは減っていき・・・」
 ディスカルもそれ以上の詳しい内容は口にしませんでしたが、心身とも極限状態のゲリラ戦を夢遊状態で戦い抜いたぐらいで良さそうです。そんなジュシュルのゲリラ部隊が最後に潜んでいたのが古い鉱山の跡だったようです。しかしザムグ側の追撃は厳しく、そこもいつ襲われるかわからない状態だったそうです。


 そんな時にある情報が手に入ります。ザムグは残っていた宇宙船を修理し、これにエラン人戦犯を乗せて地球に星流しにする計画を進めていたのです。これぐらいエランでは死刑廃止は重いとしか言いようがありません。

 これを知ったジュシュルは重大な決断を行います。頽勢挽回の困難さ、たとえ頽勢を挽回しザムグを倒したとしてもエランの再生は無理との判断です。そこで残った戦力で最後の作戦を行うことにしたのです。ジュシュルはこれまで苦難を共にしてきた兵士たちを前に、

    『我々は地球側の満身の好意を受けた。不幸にも希望の綱であった血液製剤は灰燼と帰してしまったが、もう一つの大事な預り者がある。浦島夫妻だ。ここまでエラン再生のために不便を忍んでもらったが、もうエランで活躍できる場所は無くなった。我々に残された使命は、浦島夫妻を地球に送り届けることである』

 作戦は、ザムグが目の仇にして追い回しているジュシュルが囮になってザムグ軍を引き付け、手薄になった隙を狙って宇宙船を奪い、地球に亡命するものでした。最後の作戦の前にジュシュルに呼ばれたディスカルとアダブは、

    『お前たちには別働隊を率いてもらい、宇宙船で浦島夫妻を地球まで送ってもらう』
    『総統、お言葉ですが、それは承服できません。私たちは最後まで総統のお供をします』
    『ならぬ。あの時の乗組員で生き残っているのはもはやここにいる三人のみだ。誰かが行かねば地球とコンタクトさえ取れぬ』
    『それでは総統が行くべきです。そして小山代表と会われるべきです』

 ジュシュルは宥めるように、

    『この作戦は犬死するためのもでない。地球から預かった浦島夫妻をエランの誇りに懸けて送り届けることだ。そのためには如何なる犠牲も惜しんではならない』
    『しかし総統』
    『宇宙船を動かせるのは、今やこの三人しかいない。私は囮に必要だ。宇宙船奪取も容易なものではない。生き残れる保証もない。だから保険を掛けて二人だ。必ずどちらかが地球まで浦島夫妻を送り届けるのだ』

 不承不承だったようですが兵力を二つに分け、ディスカルとアダブが別働隊、ジュシュルが陽動隊を率いて作戦は行われます。最後の出撃の前にディスカルは、

    『総統、なにか小山代表への御伝言があれば預かります』

 じっと空を見上げたジュシュルは、その空の向こうにある地球、そこに住む愛しいユッキー社長のことを思い浮かべていたのではないかと思います。それでも微笑みを浮かべながらこう言ったそうです。

    『宇宙旅行に招待できなくて申し訳ないと』

 最後の作戦も熾烈なものでした。陽動作戦でザムグ軍主力を引き寄せたと言うものの、宇宙基地の警備も厳重。ディスカルたちは三百人の部隊を率いていたようですが、宇宙船に近づくまでに次々と倒れて行き、

    「乗り込んで飛びたつまでの間を支えるのが・・・」

 もう百人ぐらいに減っていたそうですが、アダブは浦島夫妻とディスカルたちを強引に宇宙船に押し込んだそうです。アダブは、

    『地上に残って離陸まで支える』
    『私も残る』
    『どちらかが宇宙船に乗らないと離陸できない。お前の方が宇宙船にも操縦にも詳しい。だからお前が乗らなければならない』
    『しかし、それでは・・・』

 アダブは怒鳴りつけたそうです。

    『総統の命に代えての作戦を無にするつもりか!』

 その後に二カッと笑って、

    『先に行って総統と待ってるぞ。あははは、地球で死んだらもう会えないかもしれないがな』

 目の前でアダブたちが次々と倒れて行くのを見ながらなんとか離陸。しかし攻撃目標になり、この時だけでも相当な被害を受けたとの事です。この時に宇宙船に乗り込めたのは二十人足らずであったそうです。

    「地球への航海中も緊急事態の連続でした」
 宇宙船と言っても老朽船の上、既に二度の離着陸を行っています。修理も流刑目的あったためか十分とは言えず、さらに離陸時に少なからぬ損害を受けています。船には自動応急修理装置もありましたが、その機能を越えるトラブルが次々に発生したそうです。

 決死の修理が何度も行われ、そのたびに乗組員の犠牲者も出たようです。難所の時空トンネルも大変だったようで。

    「総統との地球往復の時は平穏でしたが・・・」

 条件は大損害を出した時に近かったのではないかとしています。自動操縦で切り抜けるのは無理と判断したディスカルは半自動操縦に切り替えたそうですが、

    「私も素人みたいなものですから・・・」

 遭難こそしなかったものの、船体にさらにダメージを負ったそうです。それがあの彗星の尾であったとして良さそうです。船内も多くのところが損傷のために閉鎖状態となり、残された区画を維持するのに懸命の状態であったとしています。通信設備のダメージも大きく、

    「小山代表につながった時はホッとしました」
 ここまで疲労困憊状態の乗組員たちでしたが、地球との連絡が取れたことでわずかな希望が出て士気はあがったそうです。そして最後の難関が神戸空港への着陸。着陸態勢に入ったものの、しばらくして船の中央コンピューターがついにダウン。いや、とっくの昔にバックアップ用の緊急システムで凌いでいたようですが、これも止まってしまったのです。

 この時には大気圏突入の衝撃でさらに船の損傷は大きくなり、生き残っていた乗組員たちは出口に近い緊急事態用の副制御室に立て籠もっていたそうです。船内には火災まで発生し、覚悟を決めたそうですが、

    「でも信じられないことが起ったのです。コントロール不能のはずの船体が、なぜか最後の瞬間まで保ち続けたのです」
 ここから先は、あの時に見た光景になります。これで浦島夫妻が話したがらなかった理由がよくわかりました。浦島夫妻はディスカルが潜り抜けた修羅場をすべて体験されているからです。

宇宙をかけた恋:傷心

 宇宙船には地球人である浦島夫妻も乗っていたのですが、ミサキもあの場で浦島夫妻の存在を伏せました。あの時は社長も副社長も倒れてしまい、少々慌てたのですが、なんとか伏せ切ることが出来ました。

 浦島夫妻のエラン経験は相当過酷であったようで、何を聞いても首を左右に振るばかり。それでもなんとか聞きだせたのは、

    「千七百年待ちつづけたエランに行かせてもらえた事は、感謝していると小山社長に伝えて欲しい。あれこれ聞きたいであろうが、わらわも浦島も当分は話す気になれぬ」
    「どうされますか?」
    「竜宮島に送って頂けるか」
    「かしこまりました」

 もうヘリはコリゴリなのと、竜宮島までの日本の風景を見て行きたいとのことで、電車と船で送る手配をさせて頂きました。

    「おそらく、この身で二度と竜宮島を出ることはないであろう」
 これが最後の言葉になっております。


 ディスカルの憔悴も目を覆うばかりでした。意識を取り戻してからもボンヤリしている日が多く、時折つぶやくのは、

    「生き残ってしまった・・・」

 反応があったのは浦島夫妻が無事竜宮島に戻った話を聞いた時で、

    「総統、ディスカルはなんとか使命を果たしました」

 ミサキはその時が来たと感じました。こういう人を癒す事こそ、癒しの女神の本領だと。時間の許す限りディスカルに癒しの力を送り込みました。その甲斐あってか、段々と元気を取り戻してくれてきているようです。

    『コ~ン』

 今日は三十階にディスカルを招いています。

    「また、ここに来る日があるなんて・・・」

 ユッキー社長も、コトリ副社長も精一杯の歓迎をしてくれています。ディスカルは部下たちに地球順応教育を行ってくれることに感謝の言葉を述べ、これからも力になって欲しいとユッキー社長に何度も地球式に頭を下げていました。

    『カンパ~イ』

 どんな展開になるかと思っていたのですが、口火を切ったのはコトリ副社長でした。

    「ディスカルも食い物に苦労したんちゃうか」
    「でしょ、でしょ、特別食をあれだけたらふく食べて、舌肥やしちゃったら、エランで飢え死にしないかと心配してたのよ」

 ディスカルは思わぬ話題に驚きながら、

    「あれは麻薬みたいなものですね。せめて統一食に、もう少し味付けしようと思っても、エランには何もなくて困りました」
    「ジャムとかバターとかもあらへんの」
    「ええ、なんにもないのです」

 食文化もそこまで退化すると厳し過ぎるな。

    「お土産にもらっていたジャムが無くなった時に、天は我を見放したかと思ったものです」

 そうなのよね。エランには果物さえ無くなっているって話だもの。

    「そしたらアダブが一瓶隠し持ってて、歓声をあげて襲いかかったら床に落としてしまい・・・」

 アダブが悔しがって暴れ回ったとか。

    「今の施設の食事はどう」
    「部下たちは狂喜してましたよ。私が地球にはもっと美味しいものがあるって言うと。『美味しい』とはなんだで大変でした」
    「どう、地球には馴染めそう」
    「なんとかなると思っています。いや、そうさせます」

 後は地球の服の話、全自動でない人の手による散髪の話、日本式の大浴場の話・・・

    「シノブちゃんじゃなかった、夢前の評判はどう」
    「そりゃ、もう。女神と言うあだ名が付いてますよ」
    「独身だからチャンスはあるよ」
    「そんな事を部下に言わないで下さい。決闘をやりかねませんよ」

 ひたすら他愛無い話ばかりをユッキー社長も、コトリ副社長も持ちだします。ミサキにも狙いがわかります。浦島夫妻の話からして、口に出すのも辛い体験をしているのは間違いありません。だから様子を見てるんだって。そしたらディスカルが、

    「聞かないのですか。そのために呼ばれたと思ってましたが」
    「聞かないよ。聞いても、聞かなくても変わらないもの。ディスカルには前を向いて欲しいと思ってるだけ」
    「そやで。まだ人生長いんや。ディスカルが話したくなったら聞いたげるけど、そんなもん今日明日に聞かんとアカン理由もないし」

 なんかホッとした表情のディスカルが印象的でした。

    「そんな辛気臭い話より、もっと大事な話があるんや」
    「なんでしょうか」
    「ミサキちゃんはずっと待ってるで」
    「ちょっと待ってください。こんなところで、持ちださなくとも・・・」

 まったくコトリ副社長ときたら、そしたらユッキー社長まで、

    「こっちに来てからしたの?」
    「してる訳ないじゃありませんか。あんなところでどうやって・・・」
    「そんなもの、ソファが一つあれば十分でしょ。床だって出来るわよ」
    「やってません」

 さらにコトリ副社長が追い打ちを、

    「その気さえあったらトイレでも出来るで」

 そしたらディスカルまでが、

    「地球人はトイレでもやるのか・・・」
    「ミサキはやりません。トイレでもやりかねないのはコトリ副社長です」

 この日はさんざんで、シノブ専務までもが、

    「ミサキちゃんは激しいって聞くけど」
    「ミサキはそんなに激しくありません。ユッキー社長やコトリ副社長の足元にも及びません」
    「いや相当やで。見た目とのギャップが凄すぎるんや。ああいうのを人が変わるって言うんちゃうやろか」
    「見てたのですか!」

 そしたら二人で、

    「夏は隣までガンガン聞こえてた」

 いつの時代の話なのよ。そしたらディスカルがポツリと、

    「地球人ってこんな感じかと思ってたが、ミサキが特別なのか・・・」
    「ちがいます!」
    「あら、どう違うの。ミサキちゃんが特別じゃなかったら、あれが地球人の普通になっちゃうじゃない」
    「そやそや、エラン人に妙な誤解を与えてまうで」

 もう、

    「ミサキの普通は女神としての普通です。仕方ないじゃありませんか、四千年の蓄積が出来ちゃってるのですから。シノブ専務だって激しいでしょ」
    「私は大人しいわよ。ミサキちゃんには遠く及ばないもの」
    「うん。シノブちゃんはそんな感じかな」
    「ミサキちゃんとは全然違うもの」

 裏切り者めが、

    「だから素直に認めたら。これはエランとの友好問題だもの」
    「そうや、性教育も大事だし」
    「だから、どうしてミサキを引き合いに出すのですか。単に個人差が大きいだけで済む話でしょうが」

 そしたら三人が口をそろえて、

    「だってわかりやすいじゃない」
 こいつら、いつか復讐してやる。でもディスカルも楽しそうでした。ミサキが笑い者にされても、ディスカルが楽しんでくれたらミサキは幸せです。早く元気になって、そして燃えましょ、灰になるまで。

宇宙をかけた恋:後始末

 さっそく陣頭指揮に立ったユッキー社長は、まず中田首相を呼んで密談です。

    「総理は今後のエラン人の処置をどうお考えですか」
    「それはもちろん星際親善の観点から、手厚くもてなす方針だ」
    「具体的には?」
    「エラン人のための居住施設を作り・・・」
    「収容所で買い殺しですか」

 これは前例があります。四十年前の時のエラン宇宙船乗組員は、一般人との接触が禁じられ、隔離収容施設で終生を過ごすことになりました。可哀想でしたが、さすがに市民として遇するほどの度量が政府にも、当時の下山元首相にもありませんでした。

    「可哀想だが、結果としてそうせざるを得ない」

 ここから見る見るユッキー社長の顔が怖くなります。

    「わたしは反対です」
    「と言われても・・・」
    「わたしは地球側全権大使であるだけではなく、エレギオンHDの社長であることもお忘れなく」
 中田首相の顔に冷汗が出てるように見えます。エレギオンHDは与党の有力スポンサーでもあります。表と裏の献金量を合せると、他の日本の財界すべてに匹敵するほどのものがあります。

 中田首相の党内権力基盤は決して盤石とは言い難く、エレギオンHDが中田首相を見放したとなれば、党内権力闘争の嵐が吹き荒れるのは必至です。こういう手法は普段はあまり用いないのですが、エラン問題のためなら止むを得ないかもしれません。

    「小山代表は、どういうお考えですが」
    「地球人になってもらいます」
    「そんな無茶な」
    「エラン人と地球人は種として酷似しており、子どもも生まれます。星際親善を目指すなら当然のことです」

 ここからユッキー社長のプランを聞いて首相は蒼白を越えて土気色になっています。

    「そんな事は許されない」
    「法は国民の上に立ちますが、為政者は法を越えます。実にたやすいことです」
    「もし、この事が世間に知れれば・・・」
    「あなたもわたしも破滅です」

 ユッキー社長は強烈な睨みも入って来ています。こんな時に首相になった不幸に同情します。でもこうなったユッキー社長相手に異論や反論できる人間はまずいません。神でさえ、平気でぶぅ垂れることが出来るのはコトリ副社長ぐらいです。

    「実行はECOが行います。首相は戸籍で便宜を図って頂ければ結構です」

 中田首相の手がブルブル震えています。

    「そんな陰謀に加担する訳には・・・」
    「どうしても拒否されるのなら、総理の椅子に座りたい人間はいくらでもおります」

 うわぁ、強烈。これって脅しじゃないものね。ユッキー社長は口にしたことは必ず実行することで有名であり、怖れられているのです。かつて、ユッキー社長の言葉を鼻で嗤った者の末路もまたよく知られています。

    「わ、わかった。ECOの方針に従う」
    「御協力に感謝します」

 ユッキー社長は、

    「ミサキちゃん、次の仕事に行くよ」

 そうやって部屋から出て行きましたが、首相は一時間ぐらいは腰が抜けて立てないだろうな。でも忙しいのは確かで、空港のエラン宇宙船の撤去問題、宇宙船爆発被害の補償問題、マスコミ攻勢への対応・・・日本だけでなく、諸外国からの干渉もあって、分刻みで問題を処理していきます。

    「ミサキちゃん、三年ぐらいは待ってね。ディスカルたちを地球人に仕上げるのにそれぐらいは時間がかかると思うの」
    「十年でも、二十年でも待ちます」
    「そんなにかからないわよ」

 エラン宇宙船の処理は思いの外に簡単でした。ユッキー社長はあっさり諸外国に、

    「欲しい国があれば進呈する。ただし早い者勝ち」

 そりゃ、世界中から押し寄せてきて、ネジ一つまで綺麗サッパリ、あっと言う間になくなりました。

    「燃えちゃった宇宙船に価値はないよ。日本には完品が一つあるから十分」
 ドライですが、これで宇宙船の所有権問題でもめずに済みそうです。三ヶ月もする頃に空港は再開、他の諸問題もおおかた片付いて行きました。神戸のECO臨時本部も縮小されクレイエール・ビルの一角に入っています。残るはエラン人問題だけになっています。


 エラン人たちは、回復した者から順に収容施設に移っています。これもECO管理になっています。さすがに一般人との接触は厳重に管理されています。もっとも、相変わらず言葉の壁がありますから、現状では仕方がないところですが、他にも狙いがあります。これはユッキー社長がエラン人たちに話したのですが、

    「ようこそ地球に。我々はエラン人を歓迎します。地球人の血の中にもエラン人の血は入っています。そう一万五千年前のエラム基地の血です。不幸にも交流は時空トンネルの変動もあり途絶えてしまいましたが、またこうやってお迎えできるのは喜ばしいことです」

 ここまでは儀礼的なものなのですが、

    「ただせっかく地球に来て頂きましたが、残念ながら皆さまをエランに送り返す力は地球にはありません。また、エランからの救援船の来る目途もないのは良くご存知かと思います」

 エラン人たちが寂しげな目になります。

    「そこで皆さまには地球人になってもらいます。かつてエランに行った地球人がエランの血に混じって行ったように、皆さまもそうなって頂きます・・・」
 具体的にはこの収容施設は地球の言語、習慣、歴史を学んでもらっています。見ようによっては移民センターみたいなものです。渋る者もいましたが、エランに帰れるアテがないのはわたし達以上に良く知っており、今はユッキー社長の方針に従っています。

 その代わりにユッキー社長とコトリ副社長の負担は大きくなっています。二人はエラン語から地球語への辞書を作成し、テキストを作成しています。講義をするのもミサキを含めても三人だけです。

    「シノブちゃんがエラン語を話せたら任せられたのに」
    「それエエで、やってみよう」

 まあ、荒っぽいというか、なんというかで、いきなり収容施設長を命じてエラン語を習得させています。さすがはシノブ専務と思ったのですが、一ヶ月もするうちにエラン語を習得と言うより、思い出してくれたようで、ほぼ完璧にマスターしています。

    「シノブちゃん、後は任せたで」
    「エエ男も選び放題やで」

 生徒はエランの最精鋭部隊のエリートのはずですから、資質は優秀で、半年もすれば、まだまだカタコトですが、かなり会話も出来るようになっています。シノブ専務は、

    「社長、どうして日本語なのですか」
    「だって、文法が近いから一番覚えやすいじゃない。英語までは手が回ら無いから、それは自力で宜しくよ」

宇宙をかけた恋:四度目の神戸

 クレイエール・ビルから神戸空港に向かいましたが、警察・自衛隊が物々しい警備についています。神戸スカイブリッジの入口で、

    「これは小山代表、空港への立ち入りは禁じられています」
    「それは誰の指示なの」
    「はい警備本部です」
    「警備本部に指示したのは」
    「ECOです」
    「では通ります」

 空港の中も緊張感が高まっています。窓ガラスにはすべてテープが張られ、宇宙船が爆発した時に備えているようです。

    「屋上に上がります」
    「あそこは危険です」
    「ECOの要請です」

 屋上にも迷彩服にヘルメット姿の自衛隊員が詰めています。その中にスーツ姿の三人は異様と言えば異様です。

    「ミサキちゃんはウェディング・ドレスにするべきだったかも」
    「そうですね。目立ちますものね」

 自衛隊員の顔にも緊張感が強いのがわかりますが、どこ吹く風で三人はおしゃべり。

    「そういえば、無事着陸した後の会見はしないのですか」
    「するよ。でも空港ビルではやらない。クレイエール・ビルでする。その後はランチ・タイムよ」
    「今日のメニューは」
    「洋風のオードブルの予定」

 横で聞いていた自衛隊員が変な顔をしています。ここで小山社長が、

    「警備隊長を呼んでくれる」

 すぐさまやってきたのですが、

    「屋上は三人だけにしてくれる」
    「そ、それは」
    「要請じゃなくて、地球全権代表でありECO代表の命令よ」

 すぐさま自衛隊員は撤収。一時間ぐらいしてから、

    「来たわ」

 空に黒い一点が見えたかと思ったら、見る見る降下してきます。見間違い様がありません。エランの宇宙船です。でもどうもフラフラしているような、

    「かなりダメージがあるみたいね」

 やがて逆噴射なのですが、バランスが・・・

    「コトリ!」
    「もうやってる」

 二人の顔が真っ赤です。女神の力を以てしてもさすがにエランの宇宙船は巨大です。

    「ユッキー、重すぎるで」
    「わかってる」

 ぐらぐら揺れる宇宙船ですが、地表までもう少しです。ミサキの手にも汗がビッショリ。

    「コトリ、もうひと踏ん張り」
    「キツイ・・・」

 後十メートル、後五メートル、もう少し、もう少しで着陸です。その時に、

    「うわぁ」

 二人がひっくり返りました。途端に宇宙船はバランスを崩します。そのまま落下、

    『ドッスーン』

 不時着です。着陸するや否や、宇宙船の扉が開きます。扉が開くと煙が吹き出します。その煙の中から人が飛びだして来ます。その数は十人ほど。ひたすら空港ビルを目指し走っています。立ち上がったユッキー社長は、

    「行くよ」

 階段で空港ビルの一階に駆けつけます。その時です宇宙船の方から、

    『ボン』

 こんな音が響きます。続いて、

    『ドカン』

 爆発音が鳴り響きます。一階まで駆け下りて宇宙船を見ると炎に包まれています。ミサキは夢中になってディスカルの姿を探します。その時に、

    「私はエラン代表大使のディスカル。小山代表はおられるか」

 生きてたんだ。ディスカルは生きてたんだ。服は煤だらけでしたが、

    「ディスカル、ミサキよ」
    「おぅ、ミサキか、小山代表も。エラン政府の命を受け、浦島夫妻をお届けしました・・・」

 それだけ言うと崩れ降り、気を失ってしまいました。すぐさまバイタルを確認したユッキー社長は、

    「救急隊、急いで。命には別条はなさそうだ」

 待機していた救急車で次々にエラン人たちは病院に搬送されます。ふと見るとユッキー社長も、コトリ副社長も顔が土気色。

    「ミサキちゃん悪かった。最後のところは二人でも・・・」

 そこまで言ったところで、二人もまた崩れ落ちます。ミサキは、

    「救急隊、小山代表と月夜野副代表も急いで」

 後始末を警備隊長に任せ、ミサキは記者会見に臨みます。

    「エラン宇宙船は着陸したものの爆発炎上。空港に降り立てたエラン人は病院に搬送され治療に当たっています。なお、これに巻き込まれ小山代表も負傷入院。地球全権代表並びにECOの指揮は副代表である霜鳥が当面代行します」

 記者からは詳細を求める質問が相次ぎましたが、

    「現時点で答えられるのは以上です。続報が入り次第、逐次報告します」

 なんとか三時間ぐらいで記者会見を打ち切り病院に、

    「ユッキー社長、意識が戻られたのですね」
    「だいじょうぶだよ。三日もすれば元通り。それにしても重かった。もうちょっとだったのにゴメンナサイ」

 ミサキは感謝しています。ここまでフル・パワーで宇宙船を支えてくれてから、なんとか着陸出来たようなものです。コトリ副社長のところにもお見舞いに行ったのですが、

    「どうも着陸装置も傷んでたみたいで、途中から二人で支えなアカンかってん。最後のところはホンマにゴメン」

 二人とも入院になり、ミサキはECO代表代行、エラン語通訳でフル回転状態になりました。それでも三日後にはお二人とも元気で退院。その夜からビール飲んでました。

    「ミサキちゃん、ご苦労様。大変だったでしょ」
    「もうイイのですか」
    「そんなに休んでられないし」
    「そや、そや、これぐらいやったら、ユッキーとやった時や、クソエロ魔王戦に較べりゃ軽いもんやで」

 う~ん、女神はタフでなければ生き残れないのかも。

    「ディスカルたちは」
    「まだ面会謝絶です」
    「浦島夫妻は?」
    「一番重傷のようです。それと残念ながらジュシュルもアダブもいませんでした」

 二人は顔を見合わせて、

    「どうして、わたしたちって、いつも売れ残るのかな」
    「一緒にせんといてくれるか」
    「じゃあ、一度ぐらい結婚して見せなさいよ」
    「なにを」
    「やるか」

 たくなにを今さら、

    「シャラップ、永久女神懲罰官の目の前で喧嘩をするとはイイ度胸です」
    「喧嘩ちゃうで」
    「そうよ、じゃれてるだけ」

 たしかにエランの宇宙船を支えるのに比べたら、女神の喧嘩はじゃれあってるだけの気がしてきました。

    「明日から後始末で大忙しや」
    「そうね、ミサキちゃんの式の準備もしなくちゃいけないし」

 式の準備って、まだ地球に来たばっかり。

    「こういう時にすぐに赤くなるのは昔から変わらへんわ」

宇宙をかけた恋:宇宙船からの連絡

 三本の尾を曳いた宇宙船は昼間でもクッキリ見えるようになりました。今のところ尾はそれ以上増える様子はありません。コースは今までと同じ、真っ直ぐに地球に向ってきます。途中微調整もあったようですが、それが出来ると言うことは、エラン船が生きている証拠と言えます。

 今日も四人で夕食を摂っていましたが、突然ユッキー社長のスマホが鳴ります。かけてきた相手を確認した時のユッキー社長の表情が微かに動きました。

    「そうだ・・・今回もわたしが全権代表になってる・・・わかった。出来るだけの手配を進めておく・・・えっ、聞こえにくいぞ・・・・わかった」
    「ユッキー社長、今の電話は!」
    「ついにだよ。予定では来週になるそうだ。歓迎式典の準備を始めよう」

 生きてる。

    「ミサキちゃん、ディスカルだったよ」
    「ユッキー、アダブは?」
    「まだ遠いせいか、通信が不安定でね。でもディスカルが電話に出たということは、ジュシュルは一緒じゃない可能性が高いわね」
    「ユッキー社長、まだ決まってませんよ。ジュシュルも一緒かもしれません」
 翌日に記者会見を開き、エランの宇宙船は一週間後に神戸空港に着陸すると発表。ただちに準備に取りかかります。政府はポートピア・ホテルを借り上げ、各国要人も次々にやって来ます。

 ECOも神戸に出張本部を設けたのですが、今回はさすがにクレイエール・ビルを提供する訳に行かず、クレイエール・記念ホールに設置しました。各国代表団との国際会議でユッキー社長は、

    「エラン問題の全権はECOに委ねられております。宜しくご協力お願いします」

 言葉だけならこれだけですが、あれほど威厳に満ちたユッキー社長を初めて見る気がします。別に怖い顔も睨みも使っていないのですが、会場は完全に静まり返り。物音一つ立てるのも憚られる感じです。なんの異論もなく、やがて万雷の拍手で賛意を示されたユッキー社長は、

    「今回は不時着状態になる危険性もあり、エラン船着陸時にはポートアイランドから住民は退避とします。中田首相宜しいですね」

 前回の時の岡川首相から中田首相に交代しています。ちなみにロシアのメンデルスキー大統領、中国の劉主席は健在ですが、アメリカのジョーカー大統領は再選できずにシェパード大統領になっています。

    「かしこまりました。市街への墜落の可能性は」
    「そこまでエランの技術は落ちていません。そういう事態に陥れば海に向かいます」
 エラン船との交信ですが、どうも調子が悪いようです。これはエラン船の通信機能になんらかのトラブルが発生しているとしか考えられません。つながっても短時間で切れてしまい。かなりの雑音が混じります。ですから今回の着陸には救急隊も加わっています。もちろん消防隊も待機しています。

 今回は政府も強権を発動してポートアイランド住民の退避を命じました。これは神戸空港に着陸できたとしても、爆発炎上の可能性が危惧されたためです。着陸予定日前日にはすべての住民は退避し、各国要人も神戸市内や大阪などのホテルに移ります。ポートアイランドに残るのは政府関係者と警察、救助にあたる自衛隊になります。

 エレギオンHDも、これまた最近の定番ですが既にシノブ専務は東京支社に動いています。もっとも、

    「留守を任せて頂くのは光栄ですが、イイ男に巡り合うチャンスも潰されるのはちょっと困ります」
    「悪い、悪い、次の時はミサキちゃんに留守番頼むわ」

 シノブ専務も出番が減ってるものね。さて、

    「ユッキー社長、明日はどこで待ちます」

 そしたら不思議そうな顔をされて、

    「空港に来るんだから空港でお出迎えする以外はないじゃない」
    「そうや、それが礼儀ってもんや。今回はコトリも行くで」

 二人とも、さも当然としてます。もちろん、ミサキもその気です。もし二人が行かないと言っても行く気でした。

    「さて、何着て行こうかしら」
    「思い切って、ウエディング・ドレスにするか」
    「それ、イイかもね。三人の花嫁が出迎えるって絵になるものね」

 あちゃ、考えてる事は一緒か。でもさすがにね、

    「誰かが来てなかったら、ちょっと」
    「じゃあ、ミサキちゃんだけにする?」

 そう、ディスカルは乗ってる事だけは確実だけど、

    「やってもエエけど、雅の天使モデルやったら白無垢やで」

 それもそうだ、

    「かなりの修羅場もあり得るから、スーツにしとこ。動きにくいと不測の事態への対応が遅れてまうし」
    「そうだね、ウェディング・ドレスはやっぱり本番で着るものだし」

 そう、一世一代の晴れ姿。

    「ご飯はどうする」
    「ここでのあり合わせでも喜んでくれるよ」
    「あははは、あの三人もエランで辛かったんじゃない。統一食以外の味を覚えてもたし」

 明日は生死をかけるぐらいの出来事が待っているというのに、話題はなんとも平和な。いや、この余裕が持てるから、この二人は五千年生き抜いて来れたんだ。ミサキもちょっとは近づけたかな。

    「明日は必要とあらば、女神の全能力を使うよ」
    「コトリとユッキーが力を合わせて無理やったら、世界中の誰が頑張っても無駄やで」

 そしてお二人はミサキに振り向き、

    「全力を尽くすわ。ディスカルは助けてみせる。そして、ウェディングよ」
    「祝辞考えとかないと」
    「新居もな。ここで新婚さんが同居じゃ、ミサキちゃんが燃えられへんし」
    「そうなのよね、毎晩燃えられたら、こっちがたまんないし」

 そんなに燃えません。でも、定番の展開になりました。

    「ミサキちゃんは、こんなお淑やかそうな顔をして激しいからね」
    「そりゃ、三十階に響き渡るぐらい」

 それぐらい燃えるのは否定しませんが、

    「いえお二人には遠く及びません」