小説を書いてみて

一年やっていた「小説家になろう」計画ですが、書いてみてわかったのは文庫本1冊って長いってことです。そこそこ長い文章はブログで書いていたので、それなりに自信があったのですが、書き始めると途轍もなく長いのにビックリさせられました。一番苦労したのがやはり処女作。

とにかく初体験だったので歴史部分をまとめるところから入っています。さらに困ったのは何で書くかで、一番大元の原稿はホームページ・ビルダーで書いてました。一の谷の歴史部分をまとめるだけで5日ぐらいかかったのですが、出来上がったのはいつものブログ調。これじゃ小説にならないのだけはわかります。つうか、小説にならないのにようやく気付いたのかもしれません。

どうやったら小説になるか考えて捻くりだしたのが、歴史ムックを二人で会話しながら歴史ムックをやらせるです。よくある手法ですが、二人でやるなら男と女がイイですし、男と女ならロマンスを同時進行させれば話は広がるはずで、なにより小説っぽくなるってところです。ただ書いてみるとえらい会話が平板です。原因は山本が教え役に、コトリが聞き役に固定され過ぎていて単調すぎるってところです。そうなると、もともとは聞き役だったコトリに冴えを見せる場面が必要になり、ここで三度目の書き直しです。

さてオマケだったはずのロマンス部分ですが、こちらも最初のものはあまりにもありきたり過ぎてツマランとしか言いようがありませんでした。そこで起伏をあれこれつけて、これも三度ばかり、書き直しに近い大改訂をやっています。それだけ苦労して書きあがったのですが、この時点で文庫本一冊ってどれぐらいの分量が必要か調べた訳です。十分だろうと思っていたら、これが全然足りません。正直なところ幻暈がしそうでしたが、桶狭間編を書き足したってところです。

処女作の苦労はここで終りじゃなく、書いていたのがホームページ・ビルダーだったので横書き。これを縦書きにしようと思いましたが、そうなってくるとWordを使う必要が出てきます。Wordなんて普段は使うソフトじゃありませんから、これまた大苦戦。とりあえず縦横なんてひっくり返せば済むと思っていたのが甘かった。半角文字がすべてオネンネします。箇条書きも融通の利かないこと、利かないこと、引用部分だって「なんじゃこりゃ」って始末です。Wordって縦書きはあんまり得意じゃないってつくづく感じました。

Word話のついでですが、処女作だけは画像がテンコモリ入っているのですが、これが実に挿入しにくかったのです。画像の周囲に文字が入る形にしたかったのですが、殴っても、蹴っても入ってくれないのです。この問題の解消法がわかったのは実に10か月ぐらい経ってから。あれは画像として挿入するから上手くいかず、テキストボックスに画像を埋め込むと解消するんだと。なんちゅう使いにくいと思った次第です。ただWordにもメリットがあって、そのままPDFに変換してくれる点です。とりあえず1年間Wordに付き合って、かなり使い方は覚えた気がします。


2作目以降はWordの画像処理で懲りて、本文は全部テキストです。内容も純創作のフィクションにしています。書くのも最初から文庫本の列行で設定したテンプレを作っています。これで余計な作業がかなり減ってくれました。書きながらページ数まで見えるのですが、やはり1冊分は長いのに変わりありません。これも時々聞かれるのですが、原稿用紙でどれぐらいかですが、だいたい400枚ぐらいで、一番長いので550枚ぐらいです。

書く時はおおよそのストーリーを思い描いているのですが、なかなか構想通りに展開してくれません。私の流儀としてあるヤマ場というかクライマックスを設定し、そこに向かっての助走部分って構成ですが、ヤマ場が一つじゃ100ページぐらいで話が終わってしまいます。助走部分を無理に引っ張ろうとしても、書いてても、読み直しても「重すぎる」「くどすぎる」になってしまいます。仕方がないので複数のヤマ場を設定するのですが、そんなにホイホイとエピソードが湧いてくるわけじゃなく、呻吟を繰り返すって感じになります。

書いてる時の実感として、ここで一つヤマ場を作っといてラストに雪崩れ込みたいと考えてはいても、そんな適当なヤマ場は出て来ないってところです。もちろんヤマ場を書いているうちに後の構想が変更になるのも日常茶飯事です。逆もまた然りで、迷走を繰り返している作品も少なくありません。


小説を書くのは純趣味なのですが、誰かから小説投稿サイトを利用したらのアドバイスがありました。そこから出版されるケースもあるみたいで、それなりに研究したのですが、今のところ保留です。色々理由はあるのですが、そういうサイトはジャンル別の投稿設定になっています。SFとか、歴史物とか、恋愛物とかの感じです。趣旨はわかるのですが、私の作品はジャンル分けが少々しにくいところがあります。『天使と女神』はラブ・ロマンス、『リンドウ先輩』は野球小説でエエとして、『天使のコトリ』はなんだろうです。作者的にはミステリーなんですが、それでエエんやろかです。

もう一つのネックは連作であること。主要登場人物が同じで、なおかつ前作までのエピソードを説明なしで引用してます。もし投稿サイトを利用するなら、まったく別の作品にした方が良さそうですが、そっちの方の構想はこれからということで。

投稿小説サイトをムックしていた時に現在のトレンドもおぼろげながら知ることが出来ました。ジャンル的にはSFで、それも異界転生物が一強みたいだそうです。プロットはシンプルで、現世界でうだつの上がらない主人公がひょんな事から異世界に転生し不思議な能力を使って大活躍みたいな感じです。主人公が問答無用の不思議な能力を持つ設定は昔からありますし、私も使っていますが、おそらくそういう能力を得る過程、さらに使っても周囲が不思議がらないというか、それこそ警察沙汰にならないプロットとして流行している気がします。異世界ですから、世界の設定の自由度も高いですからね。

そういう小説を書いてみるのも一興ですが、やはり純趣味ですから売れそう、受けそうなものを書くより、書きたいものを書きたいと思っています。そうじゃなければ、あの長丁場は書ききれないところです。ま、トレンドは行き着くところまで行けば飽きられますし、飽きられると新たなトレンドが出来る訳です。私の作品も、そのうちトレンドになるかもしれないぐらいに期待しておきます。


そうそう本は最終的にはPDFで保存し、希望者にのみ送付して(というより強制的に送り付けてます)ますが、紙化もしてみました。自費出版なんてスタイルにすればトンデモ価格になりますし、手作りで作るにも面倒極まりないみたいなので、A5でバンイダーに入れて作っています。ちゃんと表紙も作って、目次まであります。これでも1冊に500〜600円ぐらいは実費で必要なのですが、とにかく時間がかかります。コピー用紙に両面印刷して、ゲージパンチで穴空けるのですが、だいたい付き切りで40分ぐらいです。そこまで手間と暇をかけて紙化したのは、やはり本は紙じゃないと寂しいぐらいです。自己満足の世界ですが、ブログ公開分が終わったものの紙化も進んでいます。

ここで派手やかに表紙絵公開としたいところですが、あははは、著作権にひっかかるので私蔵版としています。誰か表紙絵書いてくれないかなぁ。。。

ブログの引っ越し準備中

13年間愛用していたいたHatena Diaryですが、

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いつかこうなるだろうと思っていましたが、ついに最後通告がいらっしゃいましたのでHatena Blogに移行することにします。同じ会社のブログですから移行はしやすいはずで、とりあえずHatena Blogを作ってみたのですが、

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しばらくは移行できないみたいです。Hatena Blogは作っただけで何にも書いていないのですが、今は使い方の研究中です。とりあえず目についたのは有料化誘導がなかなかってところです。TwtterやFBの台頭でブログ自体のマーケットは小さくなってるはずで、運営会社も霞食べて生きてるわけじゃありませんから仕方ないでしょうが、Diary時代の2倍近くなっているのはチト痛いかな。広告は消したいので使う予定ですが、年間8000円近いのは悩ましいところです。

画面デザインも現在に近い形にしようと思いましたが、無料じゃ(有料は見てないからわかりません)ダブル・カラム・スタイルにしか出来ないようです。つまり左右に空白があって、真ん中に文章が入るデザインです。別に構わないのですが、試してみると縦にかなり長くなります。もう少し小分割してエントリーにした方が良いかもしれません。

書き心地なんですが、標準仕様はまるでFBみたいな感じです。今どきならそっちの方がエエのだろうとは思いますが、Diary仕様に慣れ親しんだ私にはチト不都合。あれこれ探してみるとDiary仕様で書ける設定があったので助かりました。これ以上は実際に書いてみないとわかりません。


それにしても13年です。色々ありましたが、時代はだいぶ変わったと思っています。書き始めたのは2005年からですが、wikipediaより、

実際にはサービスツールの日本語化などによって2002年(平成14年)頃から急速に普及し、2005年(平成17年)3月末の時点においては日本国内での閲覧者数(少なくとも月に1度はブログを閲覧している)が約1,651万人いると総務省から発表された。また、2004年(平成17年)9月から翌年9月にかけての利用者数の増加が特に顕著であり、この間に約2倍に増加したことによって2,000万人を超えたという調査報道もなされた

こうやって見ると、ちょうどブログが急拡大した頃に始めた事になります。ブームに乗ったってところでしょうか。ブームといえば医療問題にクビを突っ込んで、アクセスにしろコメントにしろ大変な状態になった時期もありました。あの頃は荒らしや粘着もしばしば現われ、その対応に往生してました。それなりに貢献した部分もあると勝手に自負していますが、今はかなり距離を置いてボンヤリ眺めています。もう一度あんな時代を過ごしたいかと言えば、後進に道を譲りたいと思っています。

それとあの頃のブログで続いているのは減りました。先日med様から久しぶりにコメント頂きましたが、なんとなく「残党」みたいな言葉が頭をよぎって一人で笑ってました。たかが13年、されど13年、人も変わり、社会も変わり、私も変わり、ブログも変わっています。このブログもいつまで続くかわかりませんが、とりあえずもう少し続けるつもりです。そういえば、

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明日からどうしようかな。それは明日考えることにします。

女神伝説第4部:あとがき

 今回のテーマは女神の宿主代わり。コトリが人としての寿命を悟り、新たな宿主に移るお話です。これをどういう味付けにするかみたいな内容です。とりあえず小島知江の死をドラマチックかつミステリアスにするから入っています。ここは書きやすかったのですが、問題は再登場シーン。

 これもプロットだけは決まってまして、あわやの時にヒョッコリ顔を出すパターンにしたかったのです。たとえて言うならウルトラセブンのモロボシ・ダンの登場シーンみたいな感じです。ところがこれをやると、後の話の展開に困るのです。ダンみたいにウルトラ警備隊にスンナリ入る設定は無理があり過ぎるってところです。

 やっても良かったのですが、そうなればコトリを発見したシノブやミサキがコトリをクレイエールに入社させる運動をしないといけませんし、これを綾瀬社長以下が納得する過程も必要になります。さらにクレイエールに戻ってからのポジションも問題になります。やはりバランス上、シノブやミサキの上に来ないと収まりが悪いってところです。

 それと書いてみて困ったのはコトリが宿主にした人の扱いです。人格が融合するパターンも考えたのですが、それはそれで書きにくいし、コトリの人格になってしまえば、純粋に乗っ取りです。結局のところ乗っ取りにしたのですが、そうなれば陽気なドタバタ劇に持って行けなくなります。そのために情緒不安定の設定が必要になり、話のトーンが重くなってしまいました。

 それと女神伝説も第四部でとりあえず終了の予定です。実質的には『天使のコトリ』からの続編ですから、堂々の文庫本五冊分の大作になります。もっとも長編と言うより、連作とした方がよいのですが、さすがに新味のある話を展開しにくくなっています。そうそう目新しい事件を起こすのが難しくなったぐらいでしょうか。

 それとコマメに年齢合わせを続けた結果として、シノブも四十六歳、ミサキも四十一歳になってしまいました。処女作の『恋する歴女』から出ずっぱりの山本やシオリに至っては五十六歳です。第五部を展開させると山本やシオリは還暦になっちゃいます。さすがにちょっとってところです。

 思えば去年のお盆休みに小説を書いてみようと思い立ってから、これで八作目です。よく書いたものだと思っています。これだけ書けば立派に「自称」小説家は名乗れるのではないかと思っています。誰か挿絵を描いてくれる人がいないか募集中です。

女神伝説第4部:エレギオン

 エレギオンは遠かった。飛行機を乗り継ぎ、乗り継ぎ、汽車とバスと、さらに支援拠点を置いているズオン村に到着した頃には日本を出て四十時間はラクに経っていました。そりゃもうヘロヘロでした。でもまだエレギオンではないのです。翌日は疲れも取れない体をランクルに乗せられて百キロメートル、三時間。途中から道なきところを走破してようやく現地本部に到着です。現地本部と言ってもテント村なんですが、一際大きいのが本部テントです。相本准教授に言わせれば、

    「前回の時にはプレハブだった」
 前回の発掘特番はボクも見ましたが、こうやって実際に来てみると、こんなところにプレハブまで建てた事に驚かされます。どれだけクレイエールの支援が大きかったかと実感しました。港都大発掘調査隊の隊長は驚いたことに天城教授ではなく立花名誉教授。そう、あのクレイエールの専務さんです。ボクにしたらいくらなんでもと思いましたが、天城教授も相本准教授も不満どころか心からの歓迎でした。前回の発掘調査に参加した隊員も同じです。現地本部に着くとささやかながら歓迎式が行われました。カレーを食べただけですが、天城教授は、
    「縁起物だからね」
 どうも前回の歓迎式でもカレーだったようで験を担いだようです。歓迎式に参加していたのは先発部隊と本隊、それに同行のテレビ・クルーです。このテレビ・クルーがなんとナショナル・ジオグラフィック。今回の有力スポンサーの一つです。放映されれば再び世界的な話題になると思います。

 ナショナル・ジオグラフィックのクルーも立花隊長の余りの若さに驚いていましたが、立花隊長は秘書さんまで同行していました。小山恵さんというのですが、この人もビックリするぐらい可愛い人です。この二人ですが現地本部に着く前のズオン村でもう一仕事されています。

 ズオン村は港都大の発掘以来、各国の調査隊が支援拠点を置くようになりましたが、とにかく他に現地作業員を募集するところがなく、手間賃がやたらと高騰していました。先発隊もこの交渉で暗礁に乗り上げていたのですが、立花隊長と小山秘書はあっと言う間に解決してしまいました。

 なにがあったかは教えてくれませんでしたが、これまで高飛車の態度がすっかり改まり、むしろ深く反省して積極的な協力を申し出てくれたのです。村人の言葉はわかりませんが、ボクの感じた印象では、大きな罪を犯しこれへの許しを乞うてるようにさえ見えてなりません。

 歓迎式が終わった後に、立花隊長と小山秘書は神殿の丘に向かって立ち尽くしていました。その姿は、それを遮るものを許さない雰囲気がヒシヒシと感じ、スタッフ全員が息をつめて見守る感じです。テレビ・クルーもまたそうです。どれぐらい時間が経ったのでしょうか、小山秘書が歌いだしました。これに立花専務が唱和します。

 この歌はボクにはわかります。あの女神賛歌です。それも女神の合唱部分です。この歌は学会の懇親会で前に聴かせてもらってますが、エレギオンで聴くとまったく別物になるのが良くわかります。それこそ、大地に響き渡り、天空を舞い踊り、人の心を震わします。ボクも自然に跪いていました。ボクだけじゃなく、その場にいる全員がです。歌が終わった後に小山秘書が宣言されます。これはシュメール語で良いと思います。おおよその意味で、

    「首座の女神より告す。
    次座の女神を伴い聖なるエレギオンの地に来たれり、
    我らを思い出すべし、
    我ら、ただ恵みのみ与え給うものなり。
    聖地を去った我らを恨むべからず、
    我らもまた故地を追われた者ならば。
    栄えの夢は遥かなり、
    これまた我らも同じ。
    ただ記憶の中にのみ伝えられるべし」
 振り返ったお二人は見まごうものなき女神です。かつてエレギオンの地に君臨した首座と次座の女神であることに疑う余地はありません。そうなんです。ボクにもやっとわかったのです。エレギオン学の神髄が。あのエレギオンの女神は現在もおられることを。

 そこから明日からの発掘調査のために現場の下見に向かいました。まずは大神殿。その基礎の全貌は各国調査隊により明らかにされていますが、その壮大さに驚かされます。そして前回調査で見つかった地下室の立派さにもです。発掘調査が進められている大神殿周辺の中心街を見て回り、続いて神殿の丘の本神殿にも登りました。

 本神殿から現地本部に戻っていくのですが、その姿は調査隊の一行と言うより、女神とその随員にしか見えませんでした。どう見たって付き従ってるようにしか思えません。二人の女神は時々立ち止まり、跪き祈りを捧げられます。もちろんボクたちも同様です。そうせざるを得ないというか、そうするのが自然だとしか思えないのです。二人の女神はある地点に立ち止り探査棒を求められました。ある隊員が持って行ったのですが、あれは持って行ったというより捧げたとしか見えません。受け取った女神は地面に線を引いて行きます。引き終ると、

    「明日はここを掘ります」
 そして本部に戻られました。本部での夕食後に二人の女神の話が耳に入りました。
    「あそこ以外はどうするの」
    「泉の宮を考えてる」
    「なるほど。あそこなら残っているかもね」
    「つうか残ってたらヤバイし」
 そこで悪いと思いながら割り込んで聞いてみたのですが、
    「柴川君ね。よく覚えてるわよ。泉の宮は女神たちの別宅みたいなところなの。真ん中に噴水プールみたいなのがあって、夏は泳いだりもしてたのよ。一種のプライベート・ゾーンみたいなところ」
    「それだけじゃないの、あそこには女神の私物も収められていたの。あそこにも地下室があって、滅亡時に少し隠しているものがあるの」
    「金銀財宝ですか」
    「そうねぇ、運が良ければ女神のアクセサリー程度は見つかるかもしれない」
    「他にもあるのですか」
    「ガラクタ」
 後は掘ってのお楽しみと二人で笑ってらっしゃいました。


 発掘地点はまさにピンポイントでした。現在の移民管理局兼翻訳局みたいなところとされていましたが、石板や粘土板の破片がそれこそザクザクと。そしてここでボクは相本分類の神髄を見せつけられる事になります。立ち会っていた立花専務と小山秘書は出土品が出るたびに、

    「これはエレギオン語初級講座の五章二節」
    「これはギリシャ語辞書、三訂版の十ページ」
    「違うよコトリ、四訂版だよ。ここにさぁ・・・」
    「ホントだ。ゴメン、三訂版から四訂版にする時に・・・」
 ザッとした分類じゃなくて、そのレベルの分類なのです。相本准教授が相本分類を決して疑ってはならないとした理由が良くわかりました。お二人は知っている物を分類されているのです。それも知っているどころか、
    「見て見てユッキー。ここのところ」
    「やだコトリ、私が間違ったところじゃない。こんなものまで残ってたんだ。廃棄処分にしろって言ったはずなのに」
 どうもお二人で書かれたってことで良さそうです。これもエレギオン学の謎の一つなのですが、石板・粘土板の文字の多くの部分がおおよそ二つの筆跡と考えられているのです。これについては流派の違いぐらいの見解が多いのですが、ボクには今わかった気がしました。お二人がほとんど書かれているから筆跡も二つではないのかと。思い切って聞いてみたのですが、
    「柴川君、惜しい。たしかにオリジナルはコトリとユッキーで書いてたけど、筆写はたくさんの人がやってた。つまりは流派の違いの方が正しいよ。ちなみにこっちがユッキー流で、こっちがコトリ流」
 発掘は十日間に及びましたが、前回の図書館には量こそ劣るとはいえ、エレギオン文字の解読のカギになるラテン語辞書や、ギリシャ語辞書の断片がかなり見つかったのは大成果と呼べます。ナショナル・ジオグラフィックのテレビ・クルーも興奮してました。


 立花専務と小山秘書いうか、二人のエレギオンの女神にはなぜか可愛がってもらっています。可愛がってもらってるというか、なにかあれば、

    「柴川君、手伝って」
    「柴川君、悪いけどお願い」
 小間使いにも感じない事もありませんが、とにかくお二人は女性としても魅力に溢れすぎてる方ですから、それこそイソイソと手伝ってるってところです。ボクから見ればあの美貌だけでも高嶺の花、そのうえエレギオンの女神ですから最初は緊張しまくりでしたが、日が経つにつれて打ち解けてきています。

 そういう訳でいつしかお二人の行くところにはボクも付いて行く状態になったのですが、これじゃ従者みたいなものです。口の悪い連中は『女神のポチ』なんて呼ぶのもいますが、あれこれ質問しても嫌がりもせずに答えてくれます。そんな話の中で、

    「女神も恋をされるのですか」
    「当然よ」
    「でも現人神だったんですよね」
    「天皇さんだって結婚してるじゃないの」
 そう言われればそうなんですが、天皇は神と言うより総宮司みたいで、女神とはちょっと違う気もします。
    「女神の男はね、格好良かったんだから」
    「でしょうね、なんてったって女神の旦那様ですものね」
 そこでお二人は目を合わせて、少しだけ悲しそうな目をされて、
    「あれは無駄な格好良さだった。あの時代は、ああせざるを得ない部分があったけど、あんな時代が二度と来てはいけないの」
 それ以上は珍しく答えてくれませんでした。よほど辛い思い出に触れた気がします。少しだけ話題を変えて昔に戻りたいかと聞いてみたのですが、
    「柴川君、今の時代は良いのよ。そりゃ、不況だとか格差だとか、今は今なりに大変なところもあるけど、常に命そのものを懸けなければならない時代に較べれば千倍も万倍もマシなの。それがどれだけ幸せなことか」
 当時も戦争はあったそうです。あったどころでなく、弱肉強食の時代でもあったそうです。戦争は負ければ論外で皆殺しさえ覚悟しないとなりませんが、勝っても戦死者の遺族が悲しみに包まれます。その悲しみを背負い続けるのも政治を司る女神の役割でもあったようです。遺跡を巡りながら時に跪き、祈りを捧げているのは、当時幾つかあった慰霊塔があったところだそうです。女神が通る時には必ず祈りを捧げるのですが、それは雨の日でも傘をささずに、必ず跪いて行うものであったとされます。
    「英霊ですね」
    「違うわ。英霊なんかじゃない、ただの犠牲者よ」
 小山秘書の顔がすっごく怖いものになっていました。このお二人の記憶は驚異的なものがありますが、ヒョットしたら戦死者のすべての顔と名前、下手すれば生い立ちまで覚えているかもしれません。古代エレギオンは三千年の歴史がありますが、そのすべての戦争犠牲者を今でも背負い続けているかと思うと胸が苦しくなってしまいました。


 発掘調査はお二人が泉の宮と呼ばれた地点に取りかかりました。最初に取りかかったのは呼び名の由来の泉です。ボクはなんとなく小さな噴水プールみたいなものを想像していたのですが、直径五十メートルぐらいある円形の巨大なものでした。池の外周部や底面は石造で傷んでいる部分もありましたが、ほぼ原形を保って出てきました。お二人が目指していたのは泉の中央部で、そこには山というか、壇が築かれています。

    「壇の上には女神の像があって、女神が抱える水瓶から水が注がれていました」
 お二人の目的は壇上にあったとされる女神像でした。これは見つかりました。どうやら引き倒されたみたいで、三つの部分に割れていましたが、それ以上の破壊はあまり受けなかったようで、推測で十メートルを越える巨大なものでした。これも大発見です。ここで、
    「あんな高いところから、どうやって水を噴出させていたのですか」
    「噴出させたのじゃないの。水瓶から水が湧いていたの」
 それから建物の調査に入ったのですが、お二人はプールの縁に腰掛けられて、長いこと話をされていました。きっと在りし日の泉の宮がお二人には見えていると思っています。建物は相当な規模のようで、おおよそでいうと三つの部分に別れていたようです。プールを正面にした主神殿と、両翼の建物のようです。ここも、
    「真ん中が主女神用で、ユッキーが向かって右側、コトリが左側だったの」
    「後のお二人の女神は」
    「二人ともコトリの方にいた」
 主神殿には地下室がありましたが、残念ながら中は荒らされたようで何も残っていませんでした。何があったか聞いたのですが、
    「たいしたものはなかったよ。ここはプライベート・ゾーンの色合いが濃かったから、当時の主女神の個人的なガラクタぐらいかな」
 調査は両翼の建物の方に移ったのですが、お二人はボクを連れて地下室に、
    「柴川君、ここの床石持ちあげてくれる」
    「無理ですよ」
    「イイからやってみて」
 地下室の床も調査済みで、どこもかなりの厚みの石で出来ているはずです。
    「あれ、持ちあがる。これは・・・」
 その下には床下収納のような小さな地下室があります。そこには石箱があり、
    「これは残ったみたいね」
    「さすがにここにあるとは思わなかったみたいね」
 お二人が蓋を開けると、立派なティアラやブレスレット、ネックレス、指輪が入っています。ただどれも少し傷んでいます。
    「これはなんですか?」
    「目覚めたる最後の主女神が身に付けていた装飾品よ。眠られた時にここに保管したの。これの発見者は柴川君あなたよ」
    「えっ」
 さらに箱の中には何冊かの本がありました。あれは羊皮紙みたいです。
    「ユッキー残ってたね」
    「無くなってる方が良かったけど」
    「でも大切な物。そうそう柴川君、この本は女神のプライベートの日記みたいなものなの。これだけは他人に読んでほしくないから、このまま回収させてもらうわ。黙っててね」
    「えっ、その、あの・・・何が書いてあるのですか」
    「えへ、男との赤裸々な日々の記録。だから読まれたくないの」
 そこから他の人を呼んで主女神のアクセサリーの発見を報告しました。前回調査では多数の工芸品こそ見つかっていましたが、すべて真鍮製でした。でも今回は数は少ないとはいえ黄金にラピスラズリを豊富に使った豪華なものです。とにかく主女神用のものですから大発見です。

 発掘調査は終盤に入っていました。エレギオン文字解読の重要な手掛かりとなるギリシャ語やラテン語との対訳辞書の多数の断片。第三の神殿である泉の宮の発見と、そこで見つかった巨大な女神像、さらに主女神の数々のアクセサリー。もう何もでないとまで言われていたエレギオンから港都大はまたもや大発見を成し遂げたのです。


 その頃から女神のお二人は大神殿跡にいることが多くなりました。なぜかポチじゃなかったボクも一緒です。そこではお二人の会話に加わることもあれば、横で聞いていることもあります。さらにいくつかの歌も聴かせてもらいました。

    「学校では祭祀に必要だから女神賛歌ばかり教えていたけど、たくさんの歌があったのよ。楽しい歌、悲しい歌、それに恋の歌もね」
    「ヒット曲とかあったのですか」
    「あったわよ。でもレコードもCDも無い時代だからね」
 そんな日を何日か過ごしていたのですが、
    「あのう、ボクがいてもお邪魔ではないですか」
    「そんなことないよ」
    「でも、ボクでは話し相手にならないですし」
    「あのね、女同士より男がいる方が楽しいの。そうだ、そうだ・・・」
 そう言って二人はボク前に立たれてポーズを取られて、
    「柴川君はどっちがお好み」
    「えっ、えっ・・・」
    「柴川君はなかなかイイ男だよ。それにコトリもユッキーも独身だし彼氏もいないよ。いつ口説いてくれるかと思ってワクワクしてたのに。それとも彼女がいるの」
    「彼女はいませんが・・・」
    「だったらどう。コトリとユッキー、彼女にするならどっちがイイ」
いきなりそんなことを言われても・・・
    「ちょっとした賭けをユッキーとしてるんだ。もちろん悪いようには絶対にしないよ。だから答えてくれたら嬉しいな」
 なんの賭けだろう。それはともかく、どちらかを選べと言われれば、正直なところ悩みます。それぐらいお二人は飛び抜けた美しさ、素敵さをお持ちだからです。飛び抜け過ぎて縁のない女性にしか見えなかったのですが、
    「お二人とも素敵すぎて選びにくいのですが」
 ここでお二人から同時に、
    「それで、それで」
 それだけでドギマギしてしまいます。『両方』と言いたいのはヤマヤマですが、そういうレベルじゃなくて、どちらかと付き合えただけで夢のようなお二人です。立花専務はとにかく一緒にいるだけで微笑んでしまうような楽しさがありますし、小山秘書は凛とした中に可愛さが溢れています。

 お二人とも女性としての魅力の究極を濃縮されたような方でまさに女神です。というか本物の女神なんですけど。どんな男だって選り取り見取りなのにボクなんかじゃ話になりません。ボクだって将来はもっと立派な男になる予定ですが、まだ大学院の修士コースのヒヨッコで『女神のポチ』です。

 ・・・そっか、そっか、このお二人がボクに交際なんて申し込むはずがないじゃありませんか。からかっているとまで言いませんが、ある種の美人コンテストみたいなものです。ボクは審査員と思えばイイんだ。どう見たって座興ですから気楽に答えよう。それなら答えは決まっています。

    「ボクは立花専務の方が好みです」
 それを聞いた小山秘書が踊りだしました。
    「コトリ、あきらめなさい。そういう運命ってこと」
    「氷の女神じゃないからユッキーと思ったんだけどなぁ」
    「わたしは長期戦が得意なの。短期決戦ならコトリが勝つと思ってたわ」
 そうしたら立花専務がボクの手を取って、
    「柴川君、よろしくお願いします。これからはコトリって呼んでね」
    「ど、どういうことですか」
    「やだ、今いったじゃない。彼女にコトリを選ぶって。あれはウソなの」
    「あの、その、えっと、ウソじゃありませんけど」
    「柴川君。これも他人行儀だな。ユウタ君、いやユウタって呼んでもイイ」
    「え、その、イイですけど」
    「ほんじゃ、ユッキー。ユウタとデートして来るから、また後でね」
 思わぬ急展開にボクはどうしたら良いかわからなくなりました。だって突然できた彼女は、エレギオンの次座の女神にして、クレイエールの代表取締役専務、さらに港都大名誉教授です。そんな肩書より何より飛び切り過ぎるほどの美人です。
    「ユウタ、コトリを選んでくれてありがとう。どうか可愛がって下さい」
    「も、も、もちろんです」
    「日本に帰ったら、いっぱい、いっぱい、ラブラブしようね。とりあえずコトリって呼んでみて」
    「えっ、あの、その・・・コ、コトリさん」
    「もうったら、『さん』はいらない」
    「はい、では、その、えの・・・・コ ト リ」
    「そう、良く出来ました。そう呼んでくれて嬉しい」
 夢としか思えませんが、しっかり握りしめている手は現実です。歩きながら、
    「ボクで本当に良いですか?」
    「コトリじゃ不満なの」
    「そうじゃなくて、釣り合いが・・・」
    「男と女だから釣り合いは完璧じゃない」
    「その釣り合いじゃなくて」
    「コトリはユウタが好き、ユウタはコトリが嫌いなの」
    「大好きです」
    「じゃあ、釣り合いは完璧」
 そのまま神殿の丘を登り岩に腰掛けました。立花専務はボクの手を両手で握ったまま、じっとボクの目を見つけられます。
    「コトリの男を見る目は完璧なの。ユウタは間違いなくイイ男よ。だからコトリを幸せにしてくれる。コトリも絶対にユウタを幸せにしてみせる。でもまた生き残っちゃったな」
    「どういう意味ですか?」
    「生き甲斐が出来たってこと」
    「ボクが生きがいですか?」
    「そうよ、素晴らしすぎる生きがいよ」
 立花専務は、
    「ユウタはコトリを救ってくれたのよ。命の恩人の彼女になれるなんて夢みたい」
    「ボクが命の恩人ですか?」
    「そうよ。コトリのすべてはユウタのもの。もう、信じてないんだから、コトリは本気だよ」
 ボクの胸に立花専務が顔を埋めてきます。そっと抱きしめさせて頂きました。
    「女の子にこれ以上、言わせないで。お願いだから、しばらくこのままにして」
 二人の間を静かに時間が流れて行きました。

女神伝説第4部:追憶のコトリ

 毎度の事やけど宿主代わりの時は情緒不安定になるのよね。今回に限って言えばクソエロ魔王が出てきたくれたお蔭でだいぶ気がまぎれたけど、まだアカンな。四百年ぶりは結構キツイわ。やっぱり記憶の封印はそのままにしといたら良かった。それだったら今頃コトリは可愛い小学生だったのに。

 記憶の封印が解けるって厄介なもので、封印されていた四百年分の記憶も甦っちゃうんだよね。つまりは四百年分の子ども時代から死ぬまでの記憶。だいたい十回分。そのうち三回も聖ルチア女学院に進学して、そのたびにルチアの天使になってクレイエールに入社しているのは悪い冗談みたい。

 コトリも進歩がないな。でも記憶が甦ってしまうとこれも懐かしい。その時、その時は楽しかったもの。そりゃ女神が宿ってるんだから可愛いコトリになってるし、勉強だって、スポーツだって思いのままに楽しめたものね。仕事だってバリバリ。でもお互い知らなかったとはいえユッキーともずっと近かったのは驚き。

 ユッキーもクレイエールに入社してたんだものね。それも互い違いだなんて後から見たら笑っちゃう。えっへん、クレイエールがここまで大きくなったのは首座と次座の女神のお力添えがあったことを感謝しなさい、なんちゃって。ということで四回目のクレイエールでございです。

 ユッキーと一緒と言えば最後の時は高校まで一緒だったんだよね。あの氷姫がユッキーだとはさすがに後で知って仰天したもんね。あの時のユッキーの生い立ちが悲惨だったのはシノブちゃんと佐竹君が丹念に調べ上げてくれてたけど、コトリから見ればエレギオンの氷の女神そのままってところかな。もっとも高校時代は、そんな事を知らんかったから怖かった。

 もちろんコトリだけでなく誰からも怖れられたんだけど、なぜか親近感はあったな。いくら記憶が封印されてても四千六百年も付き合いあるからね。そうだ、そうだ、思い出した。三年の夏休みの時には図書館で一緒に勉強したんだよね。というか教えてもらってた。あれも今から思えば不思議な取り合わせで、シオリちゃんもいたし、カズ君もいた。まさかカズ君を巡って、この三人が争奪戦をやることになるとは夢にも思わへんかった。

 そんなユッキーの高校時代だけど、なんと言ってもユッキー・カズ坊の夫婦漫才。あれだけは毎度毎度不思議で仕方がないのだけど、あれだけ怖い氷の女神やってても、必ずユッキーの本当の姿を見抜く男は必ず出てくるのよね。その男を絶対に見逃さないのがユッキーでもある。

 ユッキーが優等生なのは昔から一緒。それでもってあんな怖い顔するけど、本当はごく普通に男が大好き。でもってユッキーの恋愛テクニックはひたすらツンデレ一本やり。ツンといっても氷の女神のツンだから半端じゃないけど、デレになったときの落差はナイアガラの滝も真っ青ってところかな。

 ツンしながらでも好きな男のためならなんでも出来ちゃうの。高校時代はあの氷姫がユッキー様をやるのにコトリも信じられなかったけど、あれも思い出せば毎回やってた。あれだけ一途に尽くされればどんな男だって落ちると思うよ。そこにトドメの超デレが見舞われたらメロメロになっちゃうものね。


 コトリのスタートは性欲処理係だったから、男なんて突っ込みたがる種族としか見えてなかったのよ。次席女官から女神になってもトラウマがバリバリで、長い間『男嫌い』で通ってた。そりゃ、そうなるよね。トラウマに関しては未だに完全に消えていないと思う。薄れるのに千年ぐらいかかったかな。とにかく時間だけはテンコモリあるのがコトリの人生。

 そんなコトリの癒しになったのがユッキーの恋。男にウンザリしてた当時のコトリから見れば、何やってるかわからないものだった。まあ、男に恋するって感覚自体を理解するのも大変だったのもあるけどね。なんで突っ込むしか能がない男を好きになるんだろうってところ。

 男を好きになるのは無理やり理解したとして、好きになればトットとベッドに行って突っ込まれりゃイイのに思ってたんだけど、ユッキーの場合はそこまでがとにかく長いのよね。やれ目が合った、やれ話をしたとか、なにかの弾みで手を握ったとかで、そのたびに大騒ぎ。目をランランと輝かせてコトリに逐一報告するのよね。

 男だって人間だから話ぐらいするとは思うんだけど、その時の表情がどうだとか、どう呼んでくれたとかで延々と、下手すりゃ何時間もコトリに話すのよね。ユッキーがあんまり楽しそうに話すもんだから、無碍にしたら悪いと思うから付き合うんだけど、コトリにすれば何がそんなに嬉しいのかわからなかったの。

 そんな日々が『これでもか』って続いた後に、血相変えてユッキーが飛び込んでくるの。コトリにすれば、また主女神がヒスを起したのか、どっかから攻め寄せて来たのがいるのかと身構える訳よ。そりゃ、沈着冷静なユッキーが血相変えるっていえば、そっちを考えるじゃないの、そしたらね、

    「キスしたの」
 腰が砕けそうだった。そこからは、もう大変。半日はコトリを解放してくれなかったの。たかがキスだよ。コトリにとってキスなんて、突っ込まれる時に、
    『そんなことをする奴もいる』
 ぐらいの行為だったのよ。というか、最初の頃はもっと違うのを考えてた。口を使うのなら、口に突っ込まれた方をすぐに連想しちゃった。これはさすがに『いきなり』ってコトリでさえ思ったけど、聞いてると話が違うのよ。どうもにも噛みあわない話が続いた後に、
    「ところでどこにキスされたの」
 そしたらね、誇らしげに胸を張って、
    「オデコやホッペじゃないよ、ここよ、ここ」
 そう言って唇を指すのよね。とにかく有頂天のユッキーに話を合わせてあげないと可哀想だから、ずっと聞いてた。コトリにすれば、なんでキスだけで帰って来たのかさっぱり理解できなかった。そこまでいきゃ、突っ込まれるしかないだろうって。思えば殺伐としてた。

 それでもキスすると言うのは『たぶん』だけど重大行為みたいだから、すぐと思ってたの。だけどね、そこからはまたまたキスの話ばっかり。何してるんだろうって思ってたのは白状しとく。まさかキスが終点みたいに誤解したこともあったわ。でもね、でもね、キスの話をするユッキーの幸せそうな顔を見るのは楽しかった。どれだけ経ったかわかんないぐらいしてから、この世の幸せを全部背中に背負ったぐらい嬉しそうな顔でコトリに報告に来るのよね。

    「一番大事なものを捧げた」
 これもなに言ってるかわかんなかった。ユッキーが持っているもので、一番大事にしてそうな物を真剣にあれこれ考えたものね。そうよ、プレゼントでもしたのかと思ったの。これも噛みあわない話が延々と続いた後にやっとわかった。なんのことはないロスト・バージンだって。

 でもさすがに同情したわ。あれって痛くて辛いものだから。まあ、ついにユッキーも突っ込まれて酷い目に遭ったんだろうから、慰めなきゃとしかぐらいしか思えないのよ。コトリの記憶で最初のロスト・バージンは・・・あまりにも痛くて、悲惨だったから今日は思い出したくないわ。そんな感じで、ここも話がかみ合わなかったんだけどユッキがーがいうのよね。

    「うん、痛みはあったけど、それより一つになった瞬間が最高だったの。もう、夢中になってた」
 このユッキーの恋騒動だけど、ユッキーだって定期的に宿主が変わるわけなんよ。そのたびにロスト・バージンがあるんだけど、毎回この騒ぎを繰り返すのよね。千五百年ぐらいそうだったはず。千五百年だよ、よくあれだけ舞い上がれるもんだと呆れたし、感心した。

 今のユッキーは男にさすがに慣れたから、コトリと男遊びだって平気で出来るようになったけど、そこまで千五百年だよ。それとあの頃は一人落としたら、絶対に浮気なんてしなかった。宿主の寿命が早めに終わってしまったら、乗り換えた後まで追っかけてた。だから同じ男に二度目のバージンを捧げたこともあったぐらい。

 でもね、本当癒された。癒されただけじゃないの、ユッキーがやってる恋がコトリの憧れになっちゃったの。きっと突っ込むだけが能みたいな男と別人種が世の中にいて、そういう男とはユッキーみたいに付き合わないといけないんだって。ここもツンデレはコトリの好みに合わないから純愛路線てところかな。


 それでね、千年ぶりに男に恋したのよ。いや、あれは千年ぶりやなくてまさに初恋。で、純愛出来たかって、出来なかったのよね、それが。ほとんど一直線にベッドに直行になってもた。話を聞いたユッキーがあまりの早さにあきれてた。でもね、でもね、その男はコトリを救ってくれたと思ってる。だからコトリは純愛の一つと思ってる。

 コトリにはとにかく恋愛経験がないのよね。知ってるのはユッキーの話だけ。とにかく男を喜ばさなあかんのだけは女の勘でわかるんやけど、やれ手をつないだ、やれキスしたでユッキーみたいに騒ぐ気になれなかったの。そんなコトリが思いつく、男が一番喜びそうな行為はアレしかなかったのが本音のところ。

 アレに関しては記憶の経験回数は数えきれんぐらいあるから、どうってことはないだろうぐらいに高を括ってたのよねぇ。ちょっと不安だったのはブランクが千年ぐらいあった事だけ。でも、いざとなると物凄いトラウマに襲われたの。いざって、男と部屋に入った瞬間からだったんだ。それでもなんとかベッドまで行ったけど、服を脱ぐのさえ手が震えてどうしようもなかったの。そりゃ、男とベッドに入って楽しかった思い出なんて一度もないものね。コトリはひたすら、

    『またアレせなあかんのか』
 こればっかり考えてた。だったら行かなきゃイイようなものだけど・・・出来心で、弾みで、勢いで、つい・・・失敗したと思った。相手はそんな複雑な背景を知らないわけやん、教えてもなかったし。たぶんたけど、まだバージンのコトリが怖がってるんだろうぐらいに勘違いしてたと思う。ここは話がややこしくなるけど、体はバージンやったけど。

 それでも始まってもてん。そりゃ、男はそうするわな。でもコトリには悲惨すぎる経験がひたすら頭の中でフラッシュバックしてた。なんでベッドに来ちゃったのだろうとひたすら後悔してた。だって次は問答無用で突っ込まれて、男が満足するまで耐える時間が来るしかないやんか。

 それでもやらせなきゃって、頑張っててんけど、あてがわれた時に限界が来てもてん。どうしてもダメだった。もちろん、コトリがどう思うおうが男は無理やり突っ込んでくるはずと絶望感に浸っていたら、男はひたすら優しいのよね。決して焦らないし、急がないの。コトリがちょっとでも嫌がったり、痛がったりしたら、

    「だいじょうぶ?」
 いくらでも待ってくれるの。信じられなかった。男なんて問答無用に突っ込むだけだって信じ切っていたから。なんかコトリの方が申し訳ない気分になっちゃって、
    「だいじょうぶだから・・・」
 こういうんだけど、絶対に無理しないの。それで、コトリをそっと抱き寄せてキスした後に、これこそ何言ってるか理解できないぐらい驚いたんだけど、
    「今日はこれぐらいにしとこうね」
 これがね、その次も、その次も、その次もそうだったの。いくら千年前で知られてないとはいえ性欲処理係の女にだよ。ひたすら感動してた。五回目の時はコトリも覚悟を決めた。もうどうなってもイイから、絶対に受け入れるって。どうしても入る時に過去のトラウマがフラッシュバックしてしまうのだけど、必死になって耐えた。これまでも抱かれた時はいっぱい耐えて来たけど、初めて違った意味で耐えた。ちょっとで嫌がったら入れてくれないから、歯を食いしばって耐えた。でもバレてて、
    「やっぱり辛そうだね」
 またやめられそうになった。この時に生まれて初めて、いや記憶が始まってから初めて欲しいと思ったの。そして言っちゃった。
    「なにが起っても構わないから、今日こそ最後までお願い」
    「次座の女神様のご命令ですか」
    「違うわ、コトリの心からのお願い」
    「かしこまりました」
 そしたら五回目で初めてゆっくり、ゆっくり入ってきた。コトリが少しでも反応したら、必ず止まって待ってくれた。それもたっぷりと。十分にコトリが馴染んだのを確認したら、またそっと進んできたの。何度も何度も声掛けして気遣ってくれて、ほんとうに、ゆっくり、ゆっくりと。信じてもらえないかもしれないけど、三十分以上はかかっていた。

 男が進むたびに過去のトラウマが薄れていくのがわかった。フラッシュバックは当然あったけど、これは違うって、心が、体が感じてた。深くなるほどフラッシュバックは消えていき、ひたすら受け入れるのに集中してた。ここでまたイヤがったり、痛がったりしたら、やめられちゃうから本当に懸命だった。いやもう夢中だった。この体では初めてだったから、少しは痛かったけど、全然気にならなかった。そしてついにすべてを受け入れた。ユッキーの、

    『一つになった瞬間が最高』
 これが全身でわかった。そしてもう一つわかったこと。突っ込まれると結ばれるは違うものだって、もちろん犯されると抱かれるも全然違うって。コトリは犯されて突っ込まれた経験は山ほどあったけど、抱かれて結ばれるのは初めてだったんだ。これこそコトリの本当の初体験で、やっと本当の男を知ることが出来たと心の底から感じてた。

 これならコトリだってウエルカムだし、ユッキーが男に熱中するのも全部わかった。やがて男が動き出した。コトリを痛がらせないように、怖がらせないようにするのが体の奥から伝わってきた。コトリの頭の中は嬉しい以外に何も思い浮かばなかった。好きな男に抱かれるって最高。そう感じた瞬間にコトリの体がエライことになってもてん。あれは違う意味で恥しかった。いや、恥しすぎた。もう身の置き所もないぐらいやった。

 コトリは記憶を女神として記憶を受け継ぐだけでなく、身に付けた技能も受け継げてた。前の宿主で覚えた技能は、ほぼ次の宿主に引き継げたの。それは良く知ってたけど、アレの時の感度まで引き継いでたのよ。アラッタ時代には無理やりやったけど悶絶どころか、悶絶の先まで経験させられていたけど、これが一遍に甦ってしもてんよ。

 これがロスト・バージンかってぐらいコトリは感じて乱れてしまったの。終わった後に恥しくて顔も見られへんかった。ユッキーに聞いた限りでは、こういう時にはちょっと泣いたりしてシミジミした雰囲気にするものらしいけど、コトリはハァハァいうて、いかにも一仕事終りました状態だもの。たぶん、そうしか見えへんかったと思う。

 絶対に嫌われたと思った。あんだけ痛がったり、嫌がったのはカマトトぶってたと考える以外にあらへんやんか。ホンマにあの時ばっかりは自分の体を恨んだわ。千年かかって知ることの出来た本当の男なのに、もう捨てられると観念しきっていたの。そしたらね、男はそんなコトリを力強く抱き寄せながら、

    「あんまり痛そうでなくて、ボクもホッとした。初めての時は辛いって聞くから。そのうえコトリも喜んでくれて、こんな幸せなことはないよ」
 コトリは泣いたよ。もちろん嬉し泣き。この後も何度か抱いてもらったけど、抱いてもらうたびに過去のトラウマが消えていくのがよくわかった。イイ男だったよ。コトリを癒すために遣わされたかのような男だった。あの男には叶うものなら、もっと、もっと、もっと、抱いて欲しかった。でもエレギオンを巡る攻防戦で死んじゃった。


 戦死の報告が来た時に崩れ落ちそうになったんだ。もう殆ど崩れ落ちてた。そしたら、ユッキーがいつの間にか後ろに回って支えてくれた。

    「コトリ、泣きたいと思うけど、もう少しだけ我慢して。私たちはここで泣けないお仕事なの」
 エレギオンでは女神の男になるのは特別の意味があったの。ここまでコトリには男がいなかったから、ユッキーの男たちが作り上げてきた伝統なんだ。これはユッキーが望んだものじゃないよ、ユッキーを愛した男たちが作り上げたものなんだ。ユッキーの男たちはユッキーに愛されたことを異常なぐらい誇りに思い、ユッキーに相応しい男になろうとしてたんだ。

 ユッキーの男たちが目指したのは、女神に愛されるからには男の中の漢でなければならないだった。彼らが追い求めたのは、高潔で、エレガントで、礼儀正しく優しさがあって、教養が自然に滲み出るなんて無理難題。中でも勇敢さは絶対だった。この辺は時代背景と置かれた環境もあるけどね。

 ここで誤解して欲しくないのは、ユッキーはそんな男を選んだわけじゃないのよ。ユッキーが愛したのは、ユッキーの本当の姿を見抜いて恋してくれる男。だからそんな条件がそろってない男の方がほとんどだった。つまり、ユッキーに選ばれてから努力に努力を重ねてそうなろうとしたってこと。

 他の条件を満たすのも大変だったと思うけど、絶対とされた勇敢さはとくに問題だった。当時のことで勇敢さとは戦場で示すものだったから。これだって、もともと強い男であればまだしも、そんなに強くない、いや弱い男だって勇敢さを示さなければならなかったんだ。こんなもの、少々努力したってすぐにはどうにもなるものじゃないやんか。

 エレギオン軍は弱いから、勇敢さを戦場で示す機会は多いけど、どうしたって劣勢の局面で多く求められちゃうの。ううん、そういう局面で勇敢さを示すことが最高とされていた。優勢の局面での勇敢さは評価が低いのよ。低いというか、ユッキーの男たちはそう思い込んでた。

 劣勢の局面でさして強くもない男が勇敢さを示そうとしたらどうなるか。当たり前だけど戦死率が高くなるのよね。死んだら元も子もないと思っちゃうんだけど、ユッキーの男たちは、そこでユッキーのために勇敢さを示し、女神のために笑って死ねることを最高の美徳としていたの。それぐらいの漢じゃなくちゃ、女神の男に相応しくないってね。ユッキーにどうしてそうなっちゃったのか聞いたことがあるの、ユッキーはすっごい悲しい顔をしてた。

    「うちって軍隊弱いやん。ついウッカリだけど、一回だけベッドで愚痴をこぼしたことがあるの」
 このユッキーのたった一回の愚痴が、ユッキーの男たちの最高の規範として脈々と受け継がれ高められたみたい。男ってなんて単純バカと思ったけど、愛し抜いた女の望みのためには命だって放り投げるほど一途になれるのかと妙に感心した。たぶんだけど、ユッキーが男を愛する一途さがそのまま反映されてる気がしてる。


 でもね、コトリは死んで欲しくなかった。勇敢さはユッキーの男たちの規範であって、コトリの男は関係ないじゃない。だって、だって、記憶が始まって千年、やっと、やっと出来た愛せる男よ。卑怯者と呼ばれようが、後ろ指をさされようが、生きていてこそ愛してもらえるんだと。

 だからコトリは頼んだんだ。そりゃ、もう必死になって頼んだ。すがりついて頼んだ。出撃せずに城内の守備に就いて欲しいって。それぐらいの配置はコトリならどうにでも出来るもの。城内でも会計係とか、兵糧係みたいなできるだけ安全な部署にいて欲しかった。なにがあっても、そうさせるつもりだった。そしたらね、爽やかに笑って、

    「首座の女神様の男が勇敢さを示すのが最高なら、次座の女神の男は至高の勇気を御覧に入れて見せます」
 そういって一度も振り返らずに出陣していったんだ。この日の相手は宿敵ズオン王国。城外での戦いは押され気味だった。その中でコトリの男は常に先頭切って戦い、何度もズオン王国軍を追い散らして見せた。でも、それだけ戦ってもその日の戦況は有利には展開しなかったの。

 これ以上の城外決戦は無理と判断したユッキーは城内への撤収を命じたんだけど、ズオン王国軍はチャンスと見て執拗に追撃してきたの。撤収中の軍隊は特に弱いのよね。そのままじゃ、軍勢は壊滅、そこに付けこまれれば城門を突破されそうな危険な状況になったんだ。城内から援軍を出すにもロクな戦力は残っていなかった。

 コトリの男は殿にいた。襲い来るズオン王国軍に何度も反転突撃を繰り返したわ。そうやって、少し押し返している間にエレギオン軍は城門に向かって撤収するんだけど、ズオン王国軍もすぐに態勢を立て直して迫ってくるの。そしてエレギオン軍は城門近くまでたどり着きながら、窮地に陥っちゃったの。

 この状態で城門を開けば、エレギオン軍だけではなく、ズオン王国軍もなだれ込むのは間違いないし、城門を開かなければエレギオン軍の全滅は必至みたいな状況。これは後から聞いた話だけどコトリの男は戦い続けて疲労困憊の状態なのに、これ以上はない朗らかさでこう言ったの、

    「これはどれほどの勇気があるかを示すために与えられた主女神の恵みだ。次座の女神は至高の勇気を持つ者にのみ真の微笑みを与えられる。次座の女神の男の勇気と競える度胸のある者は付いて来い。ただし何人たりとも次座の女神は譲らん」
 それに応えた二十人ばかりが阿修羅のようにズオン王国軍に突撃していったの。たった二十人なのに押しまくり、蹴散らし、前線を見る見る突破し奥深くまで攻め込んだの。その間にエレギオン軍はなんとか城内に撤収。ただしょせんは多勢に無勢、一人また一人と打ち取られ、コトリの男も含めて誰一人帰って来なかった。


 コトリはユッキーの男が戦死した時の事を知っていた。ユッキーは戦死報告を聞いても、涙一つ見せずに耐えていた。その勇敢さを褒め称えていたのも知っている。同時に握りしめた拳から血を流していたのも知っている。そうやって報告を聞いた後は必ず、

    「コトリ、悪いけど疲れたから少し休ませて。その間、お願い」
 そうやって部屋に戻り、翌日まで帰ってこなかった。だからコトリも必死になって耐えて、部屋に戻ってから泣くだけ泣いた。コトリも次座の女神、エレギオン国民は首座と次座の女神を常に見ているし、頼りにされている。ましてや今は戦争の真っ最中。二人には悲しむ時間さえ限られていた。コトリは微笑んで国民を元気づけなければならなかった。翌日には無理やり笑顔を作って国民の前に出た。心の中は悲しみで張り裂けそうだったけど、コトリは微笑まなければならなかった。それが次座の女神のお仕事。そうしてるコトリの手をユッキーはそっと握りしめて、
    「ゴメン」
 ユッキーの辛さがコトリにもわかった。コトリは初めてだったけど、ユッキーはこれまでに何人も自分の男が死んだ報告に耐えてきたんだと。ユッキーが耐えたものをコトリも耐えなきゃいけないと、辛い日々を必死になって耐え忍んだ。


 コトリの男たちも、ユッキーの男たちも立派だった。本当にイイ男たちだった。ユッキーはともかくコトリにまで至上の愛を貫き、誇らしげに笑いながら死んでいった。悔しかった、悲しかった、どうして死ななきゃならないんだって。だから自分の男には惜しみなく愛を注ぎつくした。持てる愛のすべてを捧げた。こんな身分に生まれなかったら、こんな世界に生きてなかったら、こんな悲しい恋をしなくても良かったのにと今となっては思う。もっと平凡な恋をしたかった、もっと普通にラブラブして、時には喧嘩もして、

    『あのロクデナシが』
 そうやって罵りあうこともある関係。でも遠すぎる夢だった。あの時は他に選べる道が見つからなかった。コトリに勇気を見せるために勇んで出陣する男たちを、ひたすら見送らされた。今でもあの男たちの夢を見ることがある。あの男たちのすべてを覚えてる。顔かたち、喋り方、匂い、コトリを愛する時のすべてを。逢いたい、抱かれたい、コトリのすべてを愛してもらいたい。

 もう逢いに行ってもイイと思ってる。あの男たちが行ってしまった世界に。でも行ったら、行ったで大変かも。一人じゃないからね。それでも無性に行きたい。もっともコトリが行く世界はあの男たちと違うかもしれない。あれだけの男たちを死に追いやったんだものね。あははは、死神とか疫病神みたいなもの。同じ世界に行けるはずないか。

 やっぱり長すぎるよね、五千年。背負って、引きずる物が多すぎるし、重すぎる。いつまでだろう。まだ半分も済んでないとか言われたらゾッとする。コトリはなんのために生きているのか、なんのために生きつづけているかなんて遠の昔にわからなくなってる。本当のコトリが一体何をしたかったのかも忘れちゃった。

 本当のコトリか・・・たぶんだけど、いたずら好きで、男が好きで、ちょっとオツムは軽いけど、それを愛されるぐらいかな。そして歳取ったら完全に人の良いオバチャン化して余計なお世話を焼いてまわるみたいな。これも自信ないけどね。さてエレギオンに行ってくるか。何が待っている事やら。