とりあえず特命課の次の課題はコトリ先輩がなぜに天使になれたか、二代目天使となぜコトリ先輩があれだけ似てられるかです。ミツルと二人で作戦会議です。とびついてキスしちゃいたいのですが、これは仕事だから我慢、我慢。今日は先代天使とユッキーさんのおさらいです。
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「ところでさぁ、大聖歓喜天院家のこと良く知ってたね」
「社内名簿を調べていた時から気になってたんだ。あれだけ目立つ苗字だからね」
「たしかに目立つもんね。氏名欄が二行になってるもの」
「それだけじゃ、ないんだ」
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「どんな教義なの、カルトじゃないの」
「明治からの新興宗教だけどカルト的なところはないと思うよ。教義は浄土宗系に近くて、阿弥陀様の代わりに観音様がいるって感じかな。浄土宗系に比べると、死後の救いに加えて、現世利益的な面も濃いぐらいかな」
「だから分かれたんだ」
「さすがに歴女、理解が早いね。極楽教はあの世に行った観音様である教祖が、来世の救済を確実にするのを重点に置いたのに対して、恵みの教えは生身の観音様による現世利益にこだわったぐらいかな」
「教祖の人はうちの会社の天使の先祖みたいな人物だろうから、本当に現世利益もあったんでしょうねぇ」
「そうだったらしいよ」
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「ミツル、恵みの教えの方は大聖歓喜天院家の能力者を失ったことをなんて言ってるの」
「うん、そこはなかなか教えくれなかったんだ。教団でも教主の家に能力者が伝えられていないのは最高機密扱いらしいんだ」
「そりゃ、そうかも。生身の観音様と崇めてる人が、そうでないとバレたら事だもんね」
「そうなんだ。でも、叔母さんはある事件に関わったんで知っていたんだよ。固く口止めされてたから、聞きだすのは大変だったんだ」
「だからなかなか帰って来なかったんだ」
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「で、どうしたの」
「能力者を教主の家に取り戻そうとしたんだ」
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「でもさぁ、モノじゃないんだから、養女にするっていっても、そんなに右から左に話が進むと思えないんだけど」
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「でもさぁ、でもさぁ、結婚っていっても由紀子さんに気に入ってもらわないといけないし、由紀子さんだって天使なんだから、いったん結婚してしまったら、相手の男性もメロメロになっちゃうんじゃない。それに経緯から教祖の三女の家と、教団の仲も悪いんだし」
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「なんなの、木村一族って」
「大聖歓喜天院家は女系で、能力者しか家名を継げないルールなんだ」
「それは聞いた」
「当たり前だが家名を継げない娘や息子は入り婿なり、嫁に出されるんだが、そういう受け皿的な一族もいるんだ。平たくいえば親戚だけどね」
「それって、影の大聖歓喜天院家みたいな感じ?」
「そう言っても良いかもしれない。ボクの聞いた感じでは、分家筆頭みたいにも思ったけど、見方を変えれば男系の大聖歓喜天院家とも言えるかもしれない」
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「でもさぁ、でもさぁ、でもさぁ、木村の一族って聞いたら由紀子さんも警戒するんじゃない」
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「で、どうなったの」
「二人は結婚されて、娘も生まれた」
「由紀恵さんね」
ただ由紀子さんの体は華奢で弱かったそうで、由紀恵さんを産んだ時にも大変だったそうです。そして悲劇が起こります。二人目を身ごもった由紀子さんは出産を待たずに母子ともに亡くなってしまったのです。
由紀子さんは失った男は悲嘆に暮れた余り、精神までおかしくなってしまったのです。おかしくなって迎え入れたのが後妻です。これがハズレも良いところの女なんですが、精神に変調を来してしまった男にとっては唯一無二みたいな存在になってしまいました。
そうなると由紀恵さんの扱いは酷いものに変わります。継母からの定番のイジメに加えて、実父からも邪魔者扱いみたいにされたぐらいでしょうか。寒風吹きすさぶ中で育った由紀恵さんは氷姫になられてしまったのです。
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「でもさぁ、でもさぁ、でもさぁ、でもさぁ、由紀恵さんって一人娘だから能力者確定みたいなものじゃない。教団が養女として引き取ったら良かったんじゃない」
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「どれぐらい続いたの」
「由紀子さんは由紀恵さんが四歳の時に亡くなって、小学校卒業までそんな環境に置かれ続けてる」
天使の能力は、それが微笑む時には恵みを与えますが、そうではない時には災厄さえもたらします。天使が氷姫になってしまったのですから、由紀恵さんの能力が発達するにつれ、大変なことが起こっていくことになります。
教団は経理担当者の多額の横領事件があったり、教団幹部のスキャンダル事件が週刊誌を賑わしたりで振り回されます。さらには本殿を始めとする多くの建物を失火で失うまでに至ります。そんな不祥事が続いたため信者が減少を続け、ついには教団存続の危機さえ懸念される状態に追い込まれていきます。
一番被害が大きかったのは木村一族かもしれません。教団幹部には木村一族の者が多かったので、スキャンダルにも巻き込まれますが、それ以外にも次々と不幸が一族の有力者を襲い、とくに由紀子さんから能力者の娘を取り込む計画に関与していたもので、まともに生き残っているものはいなくなったとされます。
実父は精神の変調で仕事が上手くいってないとしましたが、それだけでなく勤めていた会社が倒産してしまいます。失業者になった実父は教団からの養育費にだけ頼る生活になるのですが、やがて酒に溺れ、ギャンブルに溺れ、多額の借金を作って由紀恵さんを置いて夜逃げしてしまいます。
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「その夫婦が夜逃げして由紀恵さんはどうなったの」
唯一駈けつけて来たのは父の兄の伯父夫婦。伯父夫婦も弟夫婦のトラブルに散々手を焼かされていましたが、伯父夫婦は由紀恵さんをとても可愛がっていました。伯父夫婦は弟より一回りぐらい年上なのですが、なかなか子どもに恵まれず、やっと出来た子供も生まれつきの難病で早くに亡くしています。そんなこともあって、
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『うちが引き取ります』
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『こうなってしまったのは弟夫婦の責任だから尻拭いは兄の私が取る』
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『由紀恵がこうなってしまったのは弟夫婦だけの責任ではない。教団の責任でもある。こうなってしまった由紀恵が周囲に災厄しかもたらさないのは、私も木村の一族だから知っている。災厄は私たち夫婦がすべて引きうける。その代り、教団は今後一切関わりを持たないで頂く』
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『恨みがあればすべてこの伯父にぶつけてくれ。な〜に、由紀恵に殺されたって本望だ』
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「それでどうなったの?」
これは伯父夫婦に引き取られ中学生になっても怖く冷たい目は変わらなかったそうですが、表情に変化が起こったそうです。氷の無表情だけだったのが、わずかに不機嫌そうな顔を時にするようになったのです。これを見た伯父夫婦は涙を流して喜び合ったとなっています。
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「不機嫌そうな顔がそんなに嬉しかったの」
「うん、不機嫌な顔になるってことは、それだけ由紀恵さんに感情が戻ってきた証みたいな受け取りようだったみたいだ」
「そこまで・・・」
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「そして高校生になったのね」
由紀恵さんが山本先生を高校時代に好きになった話は、コトリ先輩からも聞いています。そういう人を好きになる、愛せるようになるまで由紀恵さんがなれたのは、引き取った伯父夫婦がどれほどの努力を重ねられたかを考えると気が遠くなる思いさえします。由紀恵さんは山本先生とユッキー・カズ坊の漫才をやられていますが、これを知った伯父夫婦は文字通り狂喜乱舞したそうです。
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「伯父夫婦はどうなったの」
「由紀恵さんは医学部に進学されたのだけど、在学中に相次いで亡くなられている」
「これも由紀恵さんがもたらした災厄?」
「そうでないと信じたい」
「それにしても由紀恵さんの生い立ちって、聞いてるだけで涙が出そうになるね」
「ボクもここまで大変だったとは思わなかったよ」
「コトリ先輩しか天使って知らないから、天使だったらもっとハッピーな人生になると思ってた」
山本先生は交通事故で由紀恵さんの勤務する病院に担ぎ込まれ、患者と主治医として再会したそうです。かなりの重傷だったようで、入院生活は半年にも及んでいます。入院中の二人の関係も興味深いものがありますが、山本先生が退院する頃には恋人同士になっていたようです。
ここまででわかるのは、由紀恵さんの能力は伯父夫婦に引き取られてから、徐々に封印されていったようです。その封印が解き放たれたのが山本先生の恋人になられてからで良さそうです。
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「シノブ、凄いんだよ。由紀恵さんのお墓参りもさせてもらったんだけど、ただのお墓じゃないんだ」
「どんなお墓?」
「立派なお堂になってて、中に由紀恵さんの姿に似せて作られた観世音菩薩像があるんだよ」
「じゃ、最後に由紀恵さんは観音様になったんだ」
「病院じゃ、今でも菩薩様として崇め祀られてるよ。病院の屋上にも由紀恵さんの観音像を納めた小さなお堂があって、たくさんの花が飾られてた。そうだそうだ、写真ももらってきたんだ」
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「可愛い・・・」