コトリ専務に連れられて来たのは龍すし。グルメ雑誌とかでは見たことがありますが、予約を取るのも困難とされている名店です。
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「コトリ専務は来たことがあるのですか」
「うんにゃ、コトリも初めて」
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「冬月さまのお連れ様ですね・・・」
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「どうかされましたか」
「いえ、なんでもありません。失礼しました」
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「お待たせしました」
「ボクも来たばっかりだよ」
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「あははは、水橋におんぶに抱っこで連れて行ってもらっただけだよ」
「そりゃ、言い過ぎだよ。冬月はトップバッターで名ショートやったんや」
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「ところで冬月、そこの方なんやけど、どうみても天使の小島の若いころにソックリやねん」
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「出迎えに出てビックリした、ビックリした。ひょっとして小島知江さんの娘さんではありませんか」
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「いやですわ水橋先輩、リンドウ先輩。お世辞も過ぎると嫌味ですよ。私はコトリです」
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「水橋とリンドウ君を驚かすために連れて来たんだけど。その前にボクがビックリしたんだよ。クレイエールが病院でチャリティをやりたいから協力してくれと小島君から連絡があって、打ち合わせのために会ったんだけど、名乗られても信じられなかったんだ」
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「小島は専務か。凄いもんだな。隣の方は秘書さんかい」
「水橋先輩、こちらは香坂岬さん、ジュエリー事業部副本部長兼総務部長です」
「ふぇぇぇ」
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「カオルも歳より若く見えるのがワシの自慢やが、香坂さんや小島となると桁が違うわ」
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「小島さんや香坂さんと較べんといて」
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「音楽をやってきて今日ほど驚いたことはなかった。小島君の歌の伴奏が出来なくなってしまったんだ」
「へぇ、冬月でも弾きにくい曲やったんか」
「そうじゃないんだ。どう聴いてもボクの伴奏がノイズにしかなってないんだ。あれ以上は弾くのは無理だった」
「そんなに凄いんか・・・譜面あるか」
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「そんなに難しないな」
「そうなんだよ。見たときは楽勝と思ったし、アドリブ混ぜてもイイぐらいに思ってた」
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「小島、聴かせてくれへんか」
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「ウチも聴いてみたいわ」
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「母校の英雄の水橋先輩とリンドウ先輩に頼まれるなんて光栄です」
「悪いな無理言うて。ピアノ出すのは大層やから、ギターで伴奏してエエかな。オレも試してみたい」
「どうぞ。水橋先輩に伴奏してもらえるなんて夢のようです」
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「小島、いつでもエエで」
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「冬月、なるほどや。こりゃ楽器が邪魔や」
「わかってくれたかい」
「それにしても凄い歌や。オレでもああは歌えん」
「水橋でもか」
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「小島、そういえばだいぶ前やけど加納も来たことがあるんや」
「山本君と一緒にですか」
「そうや、加納も歳取らんのに驚いたけど、小島はそれ以上やな。やっぱり、女神様と天使は別格や。天下無敵のカオルでも勝てそうにないわ」
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「あそこで歌われたのは意外でした」
「あれ、あの頃の明文館を知ってる人間ならね。水橋先輩とリンドウ先輩がどれほど偉大な人か、どれほど尊敬と憧れを集められていたことか」
「それほどだったのですか」
「大げさじゃなく全女子生徒が水橋先輩に憧れ、全男子生徒がリンドウ先輩に恋してたよ。コトリだって、シオリちゃんだって例外やないのよ。お二人が校内を歩かれるだけで大騒ぎなんてものじゃなかったのよ」
「そんなに・・・」
「文字通りの母校の英雄、お顔を見るのはお二人が卒業されて以来だけど、コトリも感動しまくりやった。あのお二人に頼まれたら歌ぐらい喜んで歌うわ」
「でも、コトリ専務も加納さんも、そうだ、そうだ、ユッキーさんもおられたんでしょ。当時の加納さんには女神がいなかったにしろ、首座と次座の女神を宿す二人より女将さんがもっと素敵なんて・・・」
「ミサキちゃん。神を宿すことで宿主である人としての能力は上がるし、女なら魅力も手に入るわ。でもね、歴史に名を残すほどの活躍したのは殆どないのよ。もしイエスが神であれば、イエスだけかもしれない」
「どういうことですか」
「コトリも良くわからないけど、たぶん能力が極端に偏って出過ぎるからだと思ってる。人の世界で成功するには何かが欠けてるのよね。それと人は偉大だよ。神を宿さなくとも神以上の能力を発揮するんだ。たとえば水橋先輩とリンドウ先輩のように」
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「シオリちゃんが野球部の仲間が集まった日に行ったのは羨ましかったなぁ。だって冬月先輩もそうだけど、春川先輩、夏海先輩、秋葉先輩、それに古城君や乾君、里見君、さらに監督まで来てたって言うじゃない。次はコトリも参加したい」
「コトリ専務は試合を見てたのですか」
「準々決勝からチア・リーダーやってた。真ん中がリンドウ先輩で左右がコトリとシオリちゃんだったんだ。それと、あの準決勝・決勝は伝説なんだ。あの暑い熱い日はコトリの青春でもあるの」