訂正とお詫びともう一題

今日まず訂正とお詫びです。

長崎当直料課税事件で大きな誤解があったことを謹んでお詫び申し上げます。これは某勤務医様より冷静な指摘があったにも関わらず事の本質を見抜けなかった私の不明によるものです。私の認識の誤りを御指摘頂いたtaisho様のコメントを紹介します。

>税法上「勤務」だが労働法上「当直」なんて二枚舌はまさか許されないですよね

 いや、別に問題ないんじゃないかと・・。当直料が所得税法上の「給与所得」に当たると認定しただけで、税法上この労働時間が「当直」に当たるかどうかを認定する権限は国税庁にはありませんから。逆にそんな権限よこせと国税庁が言い出したら、厚生労働省財務省で最終戦争になりますです。

 某勤務医先生がおっしゃっていた通り、日直料の非課税扱いが認められるのは出張中の「日当」のように、まあ食事して色々使うこともあるでしょうからという金額だけが認められるんです。その限界額は、その人間の職位、職種、権限など諸事情を総合考慮して決められます。うちの近所だと、税務署は理事クラスで1日1.5万円から2万円までは認めています。それ以上になると恐らく源泉徴収の問題が生じるでしょう。

医師の当直には法的な概念として医師法によるもの、労働基準法によるもの、税法によるものの3つのとらえ方があります。私は税法上で当直が勤務と認定されれば労働法上でも勤務となるんじゃないかの考えていましたが、そうではないとの御指摘です。つまり医師の当直を考える上の3つの法律の関係は、

  • 医師法で病院には当直を置かなければならない。
  • 医師法の当直の中に労働基準法の当直に該当する当直とそうでないものがある。
  • さらに労働基準法で当直と認められたもののうちでも、税法上の当直と認められるものとそうでないものがある。
税法上は勤務であり、労働基準法では当直である法運用は別におかしくもなんとも無いとの事です。私の法律知識の浅薄さゆえの過ちであり、もう一度深くお詫びをし、私の過ちを粘り強く御指摘頂いた某勤務医様ならびに的確な御指摘を頂いたtaisho様に感謝の言葉を贈り、謹んで訂正させて頂きます。申し訳ありませんでした。




今日のもう一題は選挙を巡る医療政策の迷走を書いておきたいと思います。

医療危機はなぜか4月以来、妙に静かな状態です。静かと言うのはマスコミが妙に静かと言う意味合いです。マスコミが妙に静かと言うのは、医療をどの方向に煽ったら部数を稼げるか迷いが出ている状態とも考えています。その結果がかの読売の特集のようにある程度まで医療よりの記事を載せながら、最後に医師叩きに揺れ戻った行動にも表れています。

では医療危機が鎮静に向かっているかですが、明らかにそうではありません。医師から言わせれば好転する材料はゼロに等しく、悪化する材料が山積する状態で鎮静に向かう道理が無いという見解です。去年から断続的に打ち上げられている医療危機対策で唯一有効と考えられるのは医学部定員の増員策だけであり、これも手放しで評価というより、規模およびその内容から基本的に低い評価です。医師が高く評価したのはただ一点、内容は全く物足りませんが「医師を増やす」政策であるところだけです。これも確実に行なわれるのではなく、現時点では丹羽総務会長のお話レベルです。

昨日から今日にかけてもドタバタがあったようです。昨日のネット医師界で大きな話題になった5/18付日経新聞の記事です。

開業医の初診と再診料引き下げ・厚労省方針

 厚生労働省は病院の勤務医に比べて高く設定されている開業医の初診・再診料などを2008年度から引き下げる方針を固めた。あわせて開業医の時間外診療や往診などの報酬引き上げを検討。開業医の収益源を見直して夜間診療などへの取り組みを促し、医療現場や医療サービスでの担い手不足解消につなげる。勤務医に集中する負担を軽減し、待遇差の縮小で医師の開業医シフトにも歯止めをかける。

 7月から中央社会保険医療協議会で引き下げの検討を始め、来年初めまでに下げ幅を決める。

開業医が昼間に働いても収益が上がらないように診察料を削減し、食うためには時間外診察や往診をしなくてはならないようにする政策の決定を報じています。これにより開業医の労働条件を勤務医の労働条件に近づけ、勤務医が開業しないようにさせる政策です。簡単に言えば開業医を地獄の待遇にすれば勤務医は開業に逃散しないだろうの方式です。

この件についてはしばらく前から観測気球が一杯上がっていましたから、「ついにきたか」の見方は確実にあり、開業医さえ擁護できなくなった日医の無能さや、高齢開業医の大量引退による地方医療の壊滅を憂慮する声が多数上がっていました。私もこういう話が本格化するのはやはり参議院選挙が終わってからだろうと考えていましたから、このタイミングで行なうとはかなり驚きでした。

ところが東京日和さんのところを読むと昨日の午後には厚生労働省が異例の緊急会見を行なったようです。2007/05/18付薬事ニュースより、

 厚生労働省武見敬三副大臣、水田邦雄保険局長は5月18日、緊急会見を開き、同日付の日本経済新聞1面に掲載された「開業医の初診・再診料下げ」に対する記事に対し、「厚生労働省においては、開業医の初診・再診料を引き下げる方針を固めたという事実は全くない。まだ検討もしていない」「そういうことを決める保険局職員に対する事前取材は全くなかったのに、厚生労働省が方針を固めたなどと報じている」などと厳しく非難。同新聞社に対し、口頭で厳重に抗議したことを明らかにした。


 報道記事に対して厚労省が会見を開いてまで抗議を行うのは異例。その理由について武見副大臣は、急きょ会見をセットしたのは柳澤伯夫厚生労働相の指示があったことを挙げた。また、今回の日経新聞に限らず、最近立て続けに事実と反するような「目に余る」記事が報道されていることも指摘。水田局長は、記者の質問に応じる形で、同省が事実無根と受け止めている最近の記事の1つに、読売新聞が4月22日付1面で報じた「後発薬を優先使用」を挙げた。

記事は明瞭なのですがピックアップすると、

  • 柳澤伯夫厚生労働相の指示により武見敬三副大臣、水田邦雄保険局長が緊急会見を行なった。
  • 厚生労働省においては、開業医の初診・再診料を引き下げる方針を固めたという事実は全くない。まだ検討もしていない」と公言。
  • 読売新聞が4月22日付1面で報じた「後発薬を優先使用」も事実無根と公言。
これを額面通りに取れば、「厚生労働省よく言った」なのですが、東京日和さんがエントリーに書かれているように、

そしたら午後に、こんな会見がありました。選挙前だしまずいよね>本当に考えていることかかれちゃ・・・

私もこの意見に賛成です。記事のポイントをよく読むと「検討はしていない」と公言していますが、「やらない」とは一言も書かれていません。あまりにも露骨に「今は言ってもらったら困る」が出ています。よく考えればわかるのですが、いかにマスコミとは言え全くの捏造記事を一面に掲載したりはしません。マスコミが捏造すると言っても事実を捻じ曲げるだけで、基本的に無から有を作ったりはさすがにしないのです。そこまでやればマスコミは死にます。

だから記者会見で武見副大臣が吠えた内容の本当の意味合いは、

  • この時期に記事として出してもらったら困る
  • 記事にしたら医師の反発が強いので現時点では「無かった事」にしたい
可能性としては後者が非常に強いと考えています。後者の中で重要な点は「医師の反発」であり医師も開業医である事は明確です。開業医が反発して困る人は、この記者会見に関与した、柳澤伯夫厚生労働相武見敬三副大臣、水田邦雄保険局長のうちの誰かは言うまでもありません。今夏の選挙の当事者である武見敬三副大臣だけです。もっと言えば政府、官庁全体で困るのも武見敬三副大臣だけかもしれません。

どう見ても武見敬三副大臣参議院選挙が終わるまでこの既定の方針は無かった事にし、選挙で基盤である医師会の票を集め、当選後はまるで選挙後に急浮上した問題であるかのようにバタバタと日経記事の政策を行う腹積もりのようです。だから「検討もしていないし」「事実無根」であるが、「やらない」とは一言も言っていないと言う事です。

まあ武見敬三副大臣が当選しようが落選しようが医療政策に影響があるわけで無し、武見敬三副大臣が支持の恩義を感じて医師の希望を実現する窓口になるわけでもなさそうです。東京日和さんの北のCOSMOSさんのコメントを一つ紹介しておきます。

武見参議院議員は、武見元日医会長の息子さんと言うだけです。また、医学とか医療には縁の遠い人だと思います。

前回の選挙の時、医師会に対して「金も人も出しもらったが、足りないのは『票』だ!!」とがなり立てられたのを覚えています。

医政では、「自民党でなく武見選挙だ」と言っていますが、いったん当選すると、「国政のあらゆる分野」で安倍靖国派内閣の政策を支持してしまうことになりかねません。

小泉郵政選挙で彼らの「手の内」を経験・学習しました、二度目の失敗はいやです。

敢えて、選挙運動するなら医師議員・医系議員全員にアクセスするほうが医師の力を発揮できると思います。

武見敬三副大臣のお父様は今や伝説の人である武見太郎元日医会長です。武見元会長の業績には賛否両論がありますが、その政治的手腕の物凄さは語り草です。息子であるからにはそのDNAを受け継いでいても悪くはないのですが、遺伝情報は確実に伝わらない一つの見本でしょうね。伝わらないと言うより、武見元会長が突然変異の一代限りのものであったと考える方がより正確かもしれません。