財務省が最後の救世主?

長崎当直料課税事件からの余話みたいなものです。あの時のコメントで財務省陰謀説がドロッポ小児科様から出され、話としては興味深かったので少し膨らませてみたいと思います。

医療危機の原因を一つだけ挙げろといわれたら医療費削減政策と答えます。医療危機の原因は多種多様な原因が重層的、複層的に絡み合っていますが、問題の根源を辿り、解決法を摸索すれば、殆んどの問題は「予算が無いから出来ない」で後は進まなくなるからです。では医療費削減政策が推進されている原因は何かと言うと、国家財政が800兆円以上の赤字を抱え、この解消が国家的な課題としてあるからです。

財政赤字の解消のためには歳入増加と歳出削減となりますが、医療費も歳出削減の俎上に常に載せられて削り取られている状態です。現場にいる者は悲鳴をあげている状態ですが、ある程度まではなんとか耐えていました。しかし耐えると言っても限界があります。医療費は無限に削減できるものではないからです。そんなギリギリの均衡状態が2〜3年前の状態であったかと思います。

2〜3年前の状態がギリギリと書きましたが、ギリギリとは現在の医療体制を維持するのに極限状態のギリギリと表現すればより相応しいかと思います。ところがそれでもなお医療費の削減は続けられています。策源地は2つで

二つのタイプを目指す二大勢力がさらなる医療費削減政策をミックスしながら次々と打ち出しています。二つの勢力の狙いは明瞭で、
  • イギリス型なら厚生労働省の権益が温存される
  • アメリカ型なら財界に医療利権が転がり込む
この争いが招く結末の予想はイギリス型とアメリカ型の中間ぐらいの医療崩壊になるのではないかと多くの識者は指摘しています。そうなれば両者は痛み分けになると考えます。厚生労働省はそれなりに既得権益を維持し、財界は美味しいところをつまみ食いして腹をそれなりに膨らませる構図です。ネット医師の意識は、そういう医療崩壊後に医師はどう対処するかの問題に抑鬱状態に追い込まれていると見ています。

厚生労働省と財界は痛み分けと書きましたが、それで話は終わるのでしょうか。ここで被害の当事者である医師や患者の話は置いておきます。それ以外に大きな被害を蒙るところはないかと言う事です。そもそも医療費削減が国民の健康を無視してまで厳しく行なわれている原因は国家財政の負担の軽減のためです。おそらく二大勢力の主張は

  • イギリス型に移行する事により、さらなる医療費削減を行ないながら公的保険による医療を維持する
  • アメリカ型に移行する事により、自己責任、自己負担の原則を確立し、公的負担分をさらに削減できる
これぐらいの主張が錦の御旗ではないかと考えていますが、そうはならない事はモデル国が立証しています。とくにアメリカ型はこれを導入したニュージーランドやオーストラリアでも医療崩壊を起しているのは周知の事実です。医療崩壊を起せばどうなるかですが、いずれの国でも医療費が増大しています。アメリカなどは日本と制度が違うとは言え、私的保険に加入できない6000万人の国民のための公的保険の支出だけで50兆円になると言われています。

そうなれば一番困るのは財務省です。財政負担軽減のための医療費削減を進めすぎると医療が崩壊し、その結果、意図とは逆の財政負担の増大を招いてしまうパラドクスです。まさに「過ぎたるは及ばざるが如し」で、何をやっているか分からなくなります。医療が崩壊したら一番困るのは医療費削減の発信源である財務省であると言う皮肉です。

その事をどれぐらい財務省が気がついているかです。財務省の官僚は優秀です。最近では官僚叩きに嫌気が差して、文系のトップが外資に流れる傾向が出てきているようですが、少なくとも現在中堅以上の人材は文系の最高峰の人材が官庁に結集しています。さらにその中でも最優秀とされる人間が財務省に集められている事も周知の事実です。

彼らは優秀であるだけではなく、「自分が国家を支えている」の気概も高いと聞いています。そういう優秀な官僚集団がこんな簡単な事実にいつまでも気がつかないとは思えません。医療を崩壊に追いやる事による財政的デメリットにもう気がついても良い頃です。アメリカ型よりもイギリス型よりも実は日本型が一番安上がりな医療体制であることにです。

もっとも財務省がこれに気がついてももう手遅れかもしれません。日本型の安価な医療体制を維持していた詐欺まがいのトリックは洗脳から解けた医師に悟られています。ほんの1年ばかりのことなんですが、飛躍的に洗脳から解けた医師の数は増大しています。それでも今すぐなら希望はあります。あくまでも希望的観測ですけどね。

それにしても国税庁に当直業務の不正な医療慣行の改善を期待したり、医療崩壊の阻止の最後の希望を財務省に託したりしているようじゃ、先行きは真っ暗に等しい気はします。なんと言っても財務省管理下の医療再建なんてよく考えればゾッとしませんし、なんか漠然と夕張を思い出して寒気がします。