尼崎の事件の産経報道ですが、まず1/8付第一報
尼崎医療生協病院、医療過誤で女性死亡
兵庫県尼崎市の尼崎医療生協病院で昨年12月、肝硬変で入院していた同市内の女性患者=当時(35)=が、腹水を抜く際に誤って針で血管を傷つけられたことが原因で亡くなっていたことが7日、分かった。病院側は「血管を刺したことで出血が止まらず亡くなった」とミスを認め、遺族に謝罪した。同病院によると、女性は昨年11月27日に入院。12月4日午前10時ごろ、主治医が立ち会い、男性研修医が腹部にたまった水を抜き出すため、針(直径約1・2ミリ)を左下腹部に刺した。1度目では水が出ず、2度針を刺したという。
女性は同日夜から針を刺された下腹部が皮下出血で赤くなり、出血が止まらなくなるなど容体が急変。6日から病院側は輸血を開始したが、16日に女性は亡くなった。死因は出血性ショック死だった。
病院側は「1度目に針を刺したときは出血は確認できなかった」としているが、この際に血管を傷つけた可能性が考えられるという。
島田真院長は「主治医も立ち会っており、態勢に問題はなかったが、肝臓が悪いため出血しやすい状態だったなど危険性をしっかりと説明するべきだった。このようなことが2度とないよう取り組みたい」としている。
女性の母親(62)は病院側の謝罪にも「家に戻ってきた娘の背中は赤紫色だった。どんなに苦しかったのだろう。もっと生きたかったはず。あの病院にさえ行かなければ」と怒りを抑えきれない様子で話している。
この記事の特徴は、
- 2/8の01:50のタイムスタンプであり、
2/71/7以前の取材で記事が書かれている。
- 産経以外は、おそらく1/8に行なわれた病院側の記者会見を踏まえて報道しているが、産経は時間的に不可能。
- 産経のみ遺族取材を行なっている。
- 産経のみ、見出しに「医療過誤」、記事中に「ミスを認め」と明記している。
■「病院はミスを認めていた」遺族の悲痛な訴え
「一度はミスと認めたはず」遺族が病院の対応に不信感を募らせています。兵庫県尼崎市の病院で、女性が腹部に溜まった水を針で抜く治療を受けた後死亡した問題で、遺族が思いを語りました。
「血の海の中で寝てました、血の海。だから止血もちゃんとしないで帰されて、かわいそうに…」(亡くなった女性の母親)
事故は先月4日、尼崎医療生協病院で起きました。
患者は重度の肝硬変で入院していた35歳の女性で、腹部に大量に溜まった水を針を刺して抜く治療を受けました。
治療したのは20代の研修医。
1度目は失敗し、2度目でおよそ1.5リットルの水を抜きましたが、その後女性が腹痛を訴え、皮下出血を起こしていたことがわかりました。
しかし病院はすぐに血を止める治療を行なわず、数日後、輸血をしましたが、女性は先月16日、出血性ショックで死亡しました。
「娘が『失敗された、痛かった』と言ったから。『失敗したんでしょ』と言ったら『はい』って」(亡くなった女性の母親)
不審に思った家族は病院に説明を求めます。
そのとき病院側は結果的に病状を悪化させたと謝罪しました。
「出血に対して十分な対応を結果的にしていなかった。甘く見ていたんだと思う」(女性の主治医〜病院の説明の記録)
「腹水を抜くのに失敗したのが原因?」(女性の母親〜病院の説明の記録)
「それが大きなきっかけ」(女性の主治医〜病院の説明の記録)
しかし8日開かれた会見では…。
「(Q.ミスといえるのか?)ミスという言葉を使っていいかについては、今のところこちらで判断しかねている」(尼崎医療生協病院・島田真院長)
「私らの前で言っていることと娘にも謝罪しているのにあの会見は何?とすごく腹立つ」(女性の母親)
病院側は会見で「針を刺したとき偶発的に血管を傷つけたが、治療法に問題はなかった」と主張しています。
一度は謝罪しながら、なぜミスを認めないのか、遺族は病院の対応に不信感を募らせています。
読めばそのままなんですが、病院側が遺族側に行なった説明の中に
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病院がミスを認めた
不幸にもお亡くなりになられました患者様、ご遺族の皆様に心よりお悔やみ申し上げます。
まず遺憾としてのお悔やみを申し上げた上で、
現時点では今回の処置に明らかな過ちがあったとの認識はしておりませんが、今回の診断と治療が適切であったか、インフォームドコンセントが十分なされたかなど、今後第三者の専門家を含めた検討の場を持つことにしております。
現時点では医療過誤とは考えておらず、検討委員会に調査を委ねるの姿勢を明らかにしています。経過を単純にまとめると、
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遺族側:病院側はミスを認め謝罪した
病院側:病院は遺憾表明を行なったがミスがないとした
米国の謝罪運動における謝罪
- 医療事故が起こったら、真実を説明して、過誤の有無に関わらず、遺憾の意を表明する。
- 過誤が明らかならば、すぐに謝罪する。
- 過誤の可能性があるが不明なときは、迅速な調査を約束して、その結果、過誤が明らかになったら、謝罪する。
- 誤解に関しては、断固とした態度を取る。
ここに明記してありますが、
-
誤解に関しては、断固とした態度を取る。
ここでなんですが、1/24付産経新聞(Yahoo版)に続報があります。
尼崎医療生協病院の女性患者死亡 「ミス」覆した病院に遺族ら怒りの会見
尼崎医療生協病院(尼崎市)で昨年12月、肝硬変で入院していた同市内の女性=当時(35)=が針で腹水を抜く際、血管を傷つけられ、死亡した事故の遺族が14日、同市役所で会見を開いた。事故発覚後、病院側が「医療過誤とは判断しない」とコメントしたことに対し、遺族らは「ミスがあったと謝罪したではないか。どうしてそんなことを言うのか」と痛烈に批判した。
遺族らによると、病院側はこれまでに2度、遺族宅を訪問し、ミスを認めて謝罪。しかし、事故発覚後の今月8日に行った会見では「ミスではない」と従来の説明を覆した。
女性の姉(41)は「主治医と研修医は誤って血管を傷つけ、出血が止まらず死亡したと認めていた。病院は『誠意をもって対応する』といっていたが、誠意の形がこんな形だとは」と語気を強めた。
また、母親(65)も「入院中も主治医は娘をほとんど診ていなかったし、病院に対しての不信感は募るばかり。病院はこの無念さを受け止めて、しっかりとミスを認め、謝罪してほしい」と訴えた。
事故は昨年12月4日に発生。研修医が針(直径1.7ミリ)を女性の腹部に刺し、腹水を抜く治療を行った後、出血が止まらなくなるなど女性の容体が急変。同16日に出血性ショックで亡くなった。
この記事の構成は遺族側の主張として、
遺族らは「ミスがあったと謝罪したではないか。どうしてそんなことを言うのか」と痛烈に批判した。
遺族側は病院側の説明をそういう風に理解していたので当然主張するかと思います。この事件自体は限られた報道情報から様々な分析が加えられていますが、真相は詳細情報が無いため不明です。また遺族側は病院側の説明を「ミスを認め謝罪した」と受け取っているのはわかりますが、病院側も正式の記者会見を開き、さらに病院HPにも「ミスはなかった」と表明しています。
ここに争いごとが生じているわけですが、病院側が「全体」としてどんな説明を遺族側に行なったかも不明です。話し言葉である説明の断片を取り上げて「謝罪した」と主張する自由は遺族側にありますが、第3者であるマスコミは病院側がどんな真意でこれを説明したか、本当に説明時には真意として謝罪していたのを記者会見で覆したのかを客観的に取材する必要があります。
言葉での説明には誤解が生じる事はあります。文章であっても生じますし、話し言葉であっても同様です。言葉の説明で誤解が生じていたのであれば病院側は誤解を訂正する必要があります。もし誤解であれば記者会見で明瞭に訂正しています。もちろん遺族側にとっては不快極まりないでしょうが、誤解を訂正するのは非難される行為ではありません。病院側サイドに立てば遺憾の説明を行い、その説明にある程度の了承を得ていたはずであったと考えていたかもしれません。それが記者会見で誤解が表面化し遺族サイドが不快な感情になってしまったのは、それこそ「遺憾」であるかもしれないのです。
ここで産経報道の問題点と言うか、前提にしなければならない事として、
- 病院側が真意として「ミスを認める」説明を遺族側に行なっていたのを記者会見で覆した
- 病院側は説明時からミスを認めず遺憾として説明していたのを遺族側が誤解していた
確たる検証もなしに争いごとの一方の当事者の主張のみを掲載し、なおかつごく素直に読めば病院側に一方的に非があるような印象記事を報道するのが大手と言われる新聞社の仕事と言えるでしょうか。産経の第一報が1/8、続報が1/24ですから、この間に16日間の時間があります。取材時間が無かったと言うわけではありません。もちろん病院側の取材に対するガードは固いでしょうから、時間があっても真相を確認する事が出来なかったはありえるかと思います。
ここで真相が確認できなかったのなら、確認できなかった前提の上で記事を書くのが報道機関の責務のはずです。もちろんこういう不確かな情報の下で煽情記事を書き連ねるのを売りにしている新聞社はあります。ただそういう新聞社にはクオリティ・ペーパーとしての信用はありません。イエローペーパーともタブロイド紙ともされ、信用性もその程度のものと認識されます。大手と言われる新聞社でもタブロイド紙に自らなり下がった会社もありますが、産経はイエローペーパーにどうやらなりたいようです。