読売私案

こういのもある種の強弁技法に思えます。一つ二つトンデモ提案を行なうのなら丁寧に反論できますが、マシンガンを乱射するように打ち出されたら反論しようと言うよりあきれて物が言えなくなります。ただマスコミの特性は反論が無ければ無条件に「受け入れられた」と解釈する手前勝手な言論機関ですから、メンドクサイですがやらなければならないようです。早く事件の事実取材はまだ信用できるが、考えとか主張とかは亡者の戯言であるの常識がもっと広まってくれないかと思います。本当にウンザリ仕事です。

他にも記事があるのですがあえて社説にします。だって私案本体はデカすぎて、手の施しようがないからです。そういう訳で10/16付読売社説より、

医療改革読売案 国民の不安を払拭する時だ

 医療と介護の現場から大きな悲鳴が聞こえている。現状を早急に改善しなければならない。

 読売新聞は4月に公表した年金改革案に続き、医療・介護の包括的な改革プランを提言する。

 衆院解散が遠くないと見られる今、これを世に問うのは、与野党が総選挙で社会保障改革を真っ向から争点に掲げ、内容を競い合うべきだと考えるからだ。

 この提言をたたき台の一つとして、各党がそれぞれ医療・介護に関する公約を深化させ、年金を含む社会保障改革について国民的議論が広がるように願う。

 ◆若手医師を計画配置◆

 読売新聞は日本の医療・介護が直面する現状を俯瞰(ふかん)し、問題点をあぶり出した上で、「ただちに実行すべき緊急対策」と「着実に取り組むべき構造改革」の二段構えで処方箋(せん)を書いた。

 最重要かつ最優先の課題は、医師不足の解消である。

 医師の数はできるだけ早く、大幅に増やすべきだ。だが、医学部の定員をいくら拡充しても、一人前の医師が育つまでには10年近くかかる。それを待てる状況にない。

 ならば、医師不足がより深刻な地域や分野に、集中的に人材を送り込まねばならない。

 即効性ある方策として、卒業後2年間の義務研修(初期研修)を終えた若手医師のうち、さらに専門医を目指して3〜5年の後期研修に臨む人を、大学病院など全国の基幹病院に偏りなく、計画的に配置する。

 研修中とはいえ、この段階の医師は一人前だ。その“配属先”を国が決定する。地域・診療科ごとに人数枠を定め、本人の希望ともすり合わせて配置を行う。

 そして、人材に余裕が生じる基幹病院から、医師不足が深刻な地域へ中堅・ベテラン医師を派遣する。その計画を立て、調整する公的な医師配置機関を都道府県ごとに創設する。

 新機関は自治体や大学、基幹病院、医師会などで構成する。現在でも同様の顔ぶれで各県に「地域医療対策協議会」があり、これが母体となろう。

 直面する医師不足は、言い換えれば病院勤務医の不足だ。

 次回2010年度の診療報酬改定を待たずに、勤務医の報酬アップにつながる緊急改定を行う。地域の開業医に、中核病院の救急診療に参加してもらうことで、勤務医の過重労働を改善する。

 ◆医療と介護を連携◆

 中長期的には若手のみならず、医師全体の人材配置を計画的に行わなければならない。

 現状は医師免許さえあれば、何科を名乗ろうと、どこで開業しようと、ほとんど制約がない。医師の偏在を招く、過度な自由は改めるべきだろう。

 各地域で診療科別の必要医師数を定め、救急、産科、小児科といった緊急性の高い不足分野からまず増員されるよう、医師配置機関が権限をもって調整する。

 24時間型救急「ER」を全国400か所に整備することや、技量の高い真の専門医、患者を総合的に診られる家庭医の育成も盛り込んだ。さまざまなレベルの医療機関と医師を過不足なく配置し、連携させることが重要だ。

 高齢者の介護と医療は、切れ目なく整備しなければならない。

 介護職員の人材難は、医師不足と同様に深刻だ。介護職員の給与が確実に上がるように、介護報酬を改定する。

 本来は在宅で暮らすことのできる高齢者が社会的入院をせずにすむよう、ケア付き住宅を増やし、開業医の往診と訪問看護・介護を連携、充実させる。

 ◆財源は社会保障税で◆

 提言を実現するために必要な財源の額は、当面1兆6000億円と試算した。だが、医療・介護で改善すべき点は多岐にわたり、改革の進め方によってはさらに必要となるだろう。

 財源の手当ては、先に公表した年金改革提言で示してある。消費税を「社会保障税」に替え、目的税化した上で税率を10%にする。食料品などの生活必需品は5%に据え置く。全体で実質4%分、新たな恒久財源が確保される。

 読売新聞は年金改革案を検討する際に、医療と介護の充実に要する費用を視野に入れ、消費税率にして2%強の財源で収まるように設計した。このため、今回の提言を実現する余力は残っており、年金・医療・介護の同時一体改革は財源面からも十分可能である。

 政府はこれまで、年金・医療・介護の各制度を、つぎはぎするように手直ししてきた。一方で、社会保障費を機械的に抑制する無理を重ね、新たなほころびを次々と生じさせている。

 国民が抱いている不安を払拭(ふっしょく)するためには、社会保障費の抑制路線とは明確に決別し、必要な医療や介護に手厚く予算をつけて、大胆な改革を断行するべきだ。

 全世代が広く薄く、財源を負担し合うことで、安心できる長寿社会に向けた改革は可能になる。

とりあえず

医療改革読売案

私企業による私的な提案である事が明記されています。私企業だって提案してはならない事はありませんが、

読売新聞は4月に公表した年金改革案に続き

はて?、そんなものありましたっけ??。今は10月ですから半年もすれば誰も覚えていない程度のものかもしれません。社説では3つの段落で私案を提示解説していますが、最初は「若手医師を計画配置」だそうです。基本スタンスは、

    ならば、医師不足がより深刻な地域や分野に、集中的に人材を送り込まねばならない。
以下にいかに強制的に医師を送り込むかの方策を書き連ねています。足らなければ強制的に送り込んだら解消とはさすがに読売が熟慮しただけの事はあります。医師不足が深刻な地域は看護師も助産師もほぼ同様に不足しています。これも足らなければ当然のことですが「送り込まねばならない」になります。さらに言えばそういう地域では少子高齢化により若年人口が減少し、地域の存続に関る状態にもなっているところも少なくありません。当然これも「送り込まねばならない」になります。

日本国憲法22条

 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

ここに書いてある「公共の福祉」は、少なくとも医師の「居住、移転及び職業選択の自由」を剥奪するという解釈を読売は取っているようです。私の知る限りそういう扱いで構わないとの憲法解釈はなかったかと思いますから、これからそういう解釈を取得する、もしくは改憲して可能にするのどちらかだと考えます。いやはや気宇壮大な提案で驚かされます。後の具体的な方法論は、この憲法解釈がどうにかならない限りただの思いつきですから解説は省略したいと思います。

え〜と、次は「医療と介護を連携」です。連携と言うからどんな主張かと思えば、何の事はない医師の強制配置の話の続きです。省略するつもりだったのですが少しだけき合います。

現状は医師免許さえあれば、何科を名乗ろうと、どこで開業しようと、ほとんど制約がない。医師の偏在を招く、過度な自由は改めるべきだろう。

これってもともと、医師会がギルド的な統制をして開業医の医師配置を行なっていましたが、それは横暴だの批判で押し潰した歴史的経緯があります。まあ、勤務医の医局制度を押し潰したのと似たような経緯です。潰す時には一生懸命「医師の人権」とか「職業選択の自由」の綺麗な謳い文句を掲げていましたが、寄って多寡って潰したら今度は「過度の自由」だそうです。いつもながらですが「社会の羅針盤」の針はグルグルと御都合主義で回るのが特徴みたいです。

各地域で診療科別の必要医師数を定め、救急、産科、小児科といった緊急性の高い不足分野からまず増員されるよう、医師配置機関が権限をもって調整する。

本当に楽しい提案で、通常は何故不足したかの原因を分析するところから解決策を考えるのですが、不足したところに強制配置で解決させるという考え方が読売は大好きなようです。不足分野で意欲を持って働く医師は今でも多数残っています。残ってはいますが程度の差こそあれ将来展望に明るいものを持っていません。不足分野に強制的に配置しても、明るい展望が無い職場で続くかの観点が見事に落ちています。

逆に言えば不足分野に明るい展望が見えるなら「来るな」と言っても人は集まります。これは医療だけの問題ではなく、他の業種でもあてはまる話かと考えます。伝統芸能や伝統工芸で後継者不足に悩む分野がありますが、そこに強制配置で人を送り込んでも通常は解決しません。私も不足しているからと言って、読売新聞に強制配置されて記事を書かされても長く続かないのと同様です。

それとこの強制配置の前提は医師が人気のある職業でなり手に困らないとしているかと思います。読売私案を実現させた時、医学部定員に欠員が出ないかどうかは誰の保証もないかと思っています。高を括って思う存分締め上げた介護福祉士はものの見事に不人気分野になっているのは象徴的です。医療全体の魅力が低下すればそうなります。今だってまだ人気があるのが現場の人間にはある意味不思議ですし、悪いですが日本にマスコミが妄想する「赤ひげ」は年間1万人もいないかと考えます。

最後は「財源は社会保障税で」となっています。財源問題まで考えてくれているようです。とりあえずどれほどの財源を試算しているかといえば、

提言を実現するために必要な財源の額は、当面1兆6000億円と試算した

笑った。私は財源問題を論議するのは基本的に避けています。ですから消費税で云々と言う話はあえて回避します。それでも財源規模が医療と介護を合わせて「1兆6000億円」とは畏れ入りました。この辺はいろんな試算があるのですが、ある計算では医療費抑制政策で失われた医療費は「1兆6000億円」かそれ以上であるとも聞いた事があります。

失われた分は医療分野だけですから、これを介護部門にも分配して「1兆6000億円」とは実に御立派な計算です。まさかと思いますが、

24時間型救急「ER」を全国400か所に整備すること

これのハコモノ代の試算でしょうか。現在の救命救急センターは205ヶ所ですから、これを400ヶ所にすると考えるともう195ヶ所必要です。「1兆6000億円」を195ヶ所で割ると1ヵ所あたり約82億円になります。1ヶ所が82億円は豪華過ぎるという考え方もありますが、

さまざまなレベルの医療機関と医師を過不足なく配置

どうもそれ以外にも読売私案のERを中心にハコモノ整備する提案みたいですから、1ヶ所の診療圏に80億円と考えればそう不思議な額とは思いにくいところがあります。もっとも1年だけのことではないはずですが、400ヶ所の「ER」を医療圏の単位と考えると40億円づつで、なおかつ医療と介護の合計です。さぞ綿密な計算が行なわれているかと想像します。


批判ばかりしては悪いですから評価もしておきます。

 政府はこれまで、年金・医療・介護の各制度を、つぎはぎするように手直ししてきた。一方で、社会保障費を機械的に抑制する無理を重ね、新たなほころびを次々と生じさせている。

 国民が抱いている不安を払拭(ふっしょく)するためには、社会保障費の抑制路線とは明確に決別し、必要な医療や介護に手厚く予算をつけて、大胆な改革を断行するべきだ。

その政策を煽りまくっていた事はともかく、猫の目でもこう書いている事は評価しないといけないでしょう。ただ表現として「改革」はやめて欲しいところです。「改革」と言う文字は前々々首相が手垢がベッタリつくぐらい使いまくり、非常に印象の悪い文字になっています。あくまでも個人的にですが、見ただけで「ロクな事をやらない」の強烈なイメージがあります。考えればそこまで一つの日本語のイメージを変えたのですから、前々々首相は怪物であったのかもしれません。

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