ツーリング日和25(第12話)愛媛へ

 今の時刻は草木も眠る丑三つ時。

「それちゃうで。丑三つ時って今やったら三時ぐらいや」

 コータローに教えてもらったのだけど、昔の人は夜明け前と言うか、東の空が白みかける寸前を一番夜が深い時にしたそうなんだ。それより早いけど真っ暗な夜道だ。

「これぐらいは辛抱せい」

 向かっているのは三宮フェリーターミナル。モンキーで夜道は嫌だけどこれぐらいなら許容できるかな。目指すはジャンボフェリーの一便の一時発だ。さすがにこの時刻だから道も空いてるけど、昼間とは印象が随分変わるな。

 ジャンボフェリーも三度目だから慣れては来たけど、あそこだな。フェリーに乗り込んで、やることは、

「ちょっとでも寝とこ」

 コータローの南港案を却下したら持ち出してきたのは、またもやのジャンボフェリーだったのよね。このプランのネックはどこで寝るかになる。だって一時発だから零時に三宮フェリーターミナルに行かないとならないじゃない。

 それまでに寝たりなんかしたら寝過ごしそうだから、起きたままフェリーに乗ったけど、このまま徹夜じゃ明日が走れなくなる。だから雑魚寝部屋で寝るプランだけど、これだって高松に着くのが五時なんだよ。出発の時って一番気分が高揚するじゃない。そんな状態で眠れるかの不安もあったのだけど、

「ぐぅ、ぐぅ、ぐぅ」

 あちゃ、もうコータローは寝てやがる。コータローにはこの必殺技があるんだよね。唖然とするぐらい寝つきが良いと言うか、どこでも眠れるんだよ。この野郎っと思ってたら千草も眠りに落ちて行った。

「千草、そろそろ起きろ」

 うぅ~ん、まだ暗いじゃない。でも四時半か。そろそろ下船の準備をしないとね。洗面所で顔を洗って眠気を覚まし、車両甲板に下りて行ってスタンバイだ。高松のフェリーターミナルに下りて、

「金毘羅さんの時の道で行くで」

 高松から西に行くには徳島の時に使った国道十一号もあるけど、コータローは国道三十二号を選んだのか。金毘羅参りの時は琴平往復だったけど、今回はそのまま西に走るで良さそうだ。ちなみに琴平からは国道三七七号になる。国道三七七号は観音寺で国道十一号になるけど、迂回路ってなかったの。

「地図上やったら国道四三九号があるけんど、これはヨサクやからパスや」

 なんだ、なんだヨサクって。木でも切るのか?

「有名な酷道やねん」

 そんなものパスだパス。高松から観音寺まで一時間半ぐらいになったかな。コンビニでコーヒー休憩。ついでにサンドイッチで腹ごしらえ。この辺にコメダもジョイフルもなさそうなのよね。

「ガストもなさそうや」

 まだまだ先も長いからしっかり休んだけど、ジャンボフェリーの一便が五時に高松に着くのもあれこれネックだったようなんだ。時刻が早いから高松市内も空いてるのだけど、とにかく店が開いてない。

「店だけやのうて・・・」

 千草も愛媛に行くなら別子銅山跡を見たいとは思ったのだけど、これが八時ぐらいに着いちゃうのよ。けどさ、開くのは九時からみたいだから無念のパスだ。その代わりじゃないけど、

「だいぶ寄り道やけど、ここまで来たら走らんとウソや」

 こうやって走って見ると四国も広いな。

「そらそうや。高松が岡山ぐらいで石鎚神社は尾道ぐらいになるからな」

 実感ないけど遠そうなのだけはわかる。観音寺から四国中央市に入るとそこは愛媛だ。千草のモンキーも愛媛に轍を刻めたぞ。それにしてどうしてここが四国の中央なんだ。

「名乗ったもん勝ちやろ」

 ぎゃふん。途中でコンビニ休憩を挟みながら新居浜を過ぎ、西条に入ったけど、

「加茂川橋を渡ったとこで左に行くで」

 国道一九四号、高知、いのって書いてあるな。橋を渡ったところに信号があって石鎚登山口ってあるところみたいだ。

「寒風山トンネルの方に行くからな」

 ここからは山道のワインディングコースになるらしい。いやなった。手強いって程じゃないけど、モンキーが好きじゃない登りだ。やたらと長い寒風山トンネルを抜けたら、

「あそこの寒風山の方に入るで」

 わかったけど、なんだよこれ。ヘアピンみたいになってるじゃないの。というかさ、道だって狭くなってるし、路面だって、

「行きたいやろ」

 当たり前だ。この道を走らずして愛媛にツーリングに行ったなんて言えないじゃない。

「それとやけどあのトンネル抜けたたらここは高知県や」

 えっ、そうなの。だったら、だったら、これで四国四県制覇じゃないの。でも甘くない道だ。まさにクネクネ道だ。

「つづら折りと言わんかい」

 そこをなんとか走り抜けたら駐車場があるぞ。寒風山の登山基地みたいなところみたいだけど、目指すのは寒風山じゃない。バイクもたくさん停まってるな。ここで一服して、

「ほな行こか」

 相変わらず狭いクネクネ道だし、岩山を掘り抜きましたみたいなトンネルもあったけど、あれだ、きっと、あれだ、あれこそが、

「UFOラインの本番や」

 それを言いたかったのに! 死ぬまで恨んでやるぞ。これって日本の風景なの。絶景って事になるのだろうけど、四国の屋根の上がったみたいな大パノラマだ。それより、なによりこの道の存在が奇跡じゃないかな。

 山の頂上付近を縫うように走っているのだけど、道のちょっと下ぐらいから草原みたいになってるのよ。草原と言っても背の低い笹原だけどね。そこを道が通っているのだけど、なんかアルプスの、

「ハイジの世界か?」

 斜面がきついからハイジの世界じゃないだろうけど、これこそ、

「天空の道やろ」

 だから先に言うな。離婚するぞ。でも感動だ。ユーチューブで見てはいたけど、実際に見ると感動は十倍、いや百倍だよ。写真もばっちり撮って、林の中に入って行ったら、あれっ、こんなところにこんなオシャレな建物が。

「モンベルの店らしいわ」

 モンベルだから石鎚山登山基地でもあるみたいだ。ここで少し早いけどランチにした。ここからだけど、

「さすがに遠いわ」

 UFOラインに並ぶ四国の名ツーリングコースに四国カルストもあるんだよね。さっきコータローが天空の道って言ったけど、UFOラインより四国カルストに使われるはずなんだ。そりゃ、ここまで来たら行きたいのは行きたいけど、

「ここからやったら石鎚スカイラインを下りて、そこから・・・」

 まだ距離があるってこと。それとだけど、

「時間帯がな」

 これだけの絶景コースだから人気もある。だからバイクだけじゃなくクルマも集まって来るのよね。そうなると混むんだよ。UFOラインなんてあんな狭くてクネクネだったから、

「絶景コースやったけど快走ルートとは言えんな」

 バイク同士ならまだしも、クルマとすれ違うのは気を遣うし、クルマ同士ならなおさらだろ。

「人気と混雑は裏表やもんな」

 こればっかりはどうしようもないものね。だからって訳じゃないけど、ここから西条に折り返すことにしてる。

「お楽しみは残しとかなあかんやろ」

 そうだよ。二度と来れない訳じゃない。往復でUFOラインを楽しむのも贅沢だもの。

「あっちはあっちで行きたいやんか」

 当然だ。